第868話◆スライムが現れた!!
”薬草に釣られて一回休み”
「おのれ、人を馬鹿にした看板を立てやがって……」
思わず薬草に釣られて採取に没頭してしまい、ハッと我に返って後ろを振り返るといつの間にかこんな看板が立てられていてイラッとした。
しかも収納スキルが使えないことをすっかり忘れていて、採取した薬草を仕舞う場所がない。
ポケットに詰め込めば潰れて傷んでしまう、しかしせっかく採取したものを置いて帰るのはもったいない。
「ちくしょうめぇ!」
俺に残された手段はこれしかない!
着ていたシャツを脱いで、摘み取った後とりあえず地面に置いていた薬草を、脱いだシャツで包んで小脇に抱えた。
どうせ薄手の半袖に防御性能なんてないし、お前は今日から風呂敷だ!
これならこの後何か拾ってももう少し持つことができるし、俺が作ったスゴロクを元にしているなら進んでいるうちに装備も手に入るはずだ。
運が良ければ鞄も手に入るかもしれない。
長袖のシャツなら腰に括りつけられたのに……くそ、自宅ですらもしものことを警戒した服で眠らないといけないというのか!?
……イライラしても仕方ないので、とりあえず先に進もう。
だがイライラするし武器は欲しいから、そのむかつく看板を引き抜いていこう。
そう思ってむかつく看板に手をかけると――。
パァンッ!
「ふお!?」
突然看板が弾けるように光の粒になって形を失い、その光の粒が空中で小さな立方体に形を変えて地面に転がった。
「サイコロ?」
ポカーンとなって無意識に声が漏れた。
そう、サイコロ。
看板が弾けて光の粒となり、その光の粒がサイコロに変化し地面で三という数字を上に向けて転がった。
不思議な光景ではあるが、ここが妖精の地図のような場所であり、おそらくスゴロクを元にした空間であるなら納得ができなくもない。
ならば次はサイコロが示した”三”という数だけ進むことになるのだが、地面にはスゴロクのマスのようなものは見えない。
その代わりなのだろうか、地面に転がったサイコロは三という数字を示した後、パンッと弾けて道しるべのように少し先まで暗い夜の道を照らす光となり、それは森の中へと向かっていた。
元から薄着のうえに今はシャツさえ失い半裸となった状態で森の中に入りたくないのだが、スゴロクの仕様を考えると矢印通りに進むしかない。
進めばきっと装備が手に入ると信じて今は前に進もう。
引き返すのも試してみたい気がするけれど、早くお家に帰りたいからさっさと先に進むんだ。
先に進みながら敵を倒して装備を調えていくリアルスゴロクが楽しそうだから、早く先に進みたいわけでないんだ。
というわけで進むぞおおおおお!!
うおおおおお!! 装備をくれえええええ!! 何か珍しいアイテムをくれええええええ!!
そして魔改造されたスゴロクでは通貨が宝石だったので、ぜひぜひその通貨を手に入れてお金持ちになりたい!!
やるぞ! 俺はやるぞ!! スゴロクを絶対にクリアしてお金持ちになってやるぞ!!
サイコロの光が示した道を進めば、俺の背後では光が少しずつ弱くなっていき、距離の離れた場所から暗闇に飲み込まれていた。
試しに引き返してみたが光は戻ることなく真っ暗なままだったので、無理をすることなく前に進むことにした。
手堅くて真面目な俺は、ゲームの初見プレイはまずルール通りに進めて様子を見るのだ。
そして光に従い進んだ先、光が途切れている場所に近付いた時、生きものの気配を感じて即座に身構えた。
直後に道の真ん中に飛びだしてきたのは――。
ス、スライムだーーーー!! 子供の頭ほどの大きさの奴が三匹!!
うおおおおお、なんだかゲームの序盤っぽくてワクワクしてきたぞーー!!
しかし熟練冒険者の俺にとってスライムなんてチョロチョロチョロロ~な相手――ん?
あ……武器がない。道具系もさっぱりない。
やだ、このスライム達めちゃくちゃ濁った汚い緑色の毒スライムだから素手で攻撃したくない。
きっとスライムだからスリッパで叩く攻撃もあまり通用しないつか、スリッパでスライムを潰してもノーダメージでゼリーにスリッパが取り込まれて溶かされてしまいそう。
森の中で裸足はいやなので、ここはスリッパ攻撃は封印だ。
ならばどうする?
昼間に見たセレちゃんの光る拳攻撃が今こそ輝く時だなと羨ましく思いながら、ないものねだりをしても仕方ないので自分にできることを模索する。
その間にもスライム達の注意が俺に向いており、目などないというのに視線のような気配を肌にビシビシと感じていた。
それは獲物を見定める捕食者の視線。すぐにでもこちらに飛びかかってきそうな気配。
ピョーンッ! ピョーンッ!! ピョーン!!!
ぬおおおおおお、スライムが三匹で流れるような連続攻撃をしてきやがった!! スライムのくせに生意気な!!
くそ、収納が使えないせいでポーション類も使えなくて、素手で毒スライムを触るにはリスクが高すぎから避けるしかできないぞ。
まさか熟練冒険者の俺が、スライム相手に避けることしかできないなんて!!
なんて悔しがるとでも思ったか!!
連続で突っ込んできたスライム達を躱しながら小脇に抱えたシャツ風呂敷を地面に投げ出して、近くにあったやや長めの木の枝に手をかけポキッと折った。
俺に攻撃を躱されたスライム達が再びこちらに跳ねてくるのを躱しながら、折った枝の葉を毟り取った。
木の枝を折っただけの簡易的な武器ができあがる頃には、スライム達の三回目の飛びかかり攻撃が俺に迫っていた。
「一つ!」
まずは一匹目のスライムの核に狙いを定め正面から狙って突く。
俺が正面から突く勢い、スライムが俺に突っ込んでくる勢いの相乗効果で、スライムの核を正確に捉えた木の枝がそれをスライムゼリーの外へと押し出した。
折って葉を毟っただけの木の枝。先端がさほど尖っていないためスライムの核である魔石は傷つかず地面へと転がる。
体内から魔石が抜けたスライムは、ただの汚いゼリーとなってベチャリと地面に落ちた。
「二つ!」
そしてすぐに二匹目。
突き刺す体勢からすぐに枝を戻し、二匹目のスライムがこちらに向かう軌道に合わせ横に薙ぐ。
もちろんスライムの命の源である核を狙って。
スラムの体を横に切り裂くように出した攻撃は、スライムゼリーを引き裂きながら核を捉えそのまま核を体外に押し出すように振り抜いた。
「三つ! 逃がすかよ!」
二匹目の核がゼリーから勢いよく押し出され、ピーンと弧を描いて宙を舞うのを左手でキャッチしながら、三匹目のスライムに狙いを定める。
先の二匹がやられたことに臆すだけの知能はあったのか、三匹目のスライムが向きを変えて草むらの中に逃げ込もうとしたのが見えた。
だが逃がさない。
手に持っていた枝を三匹目のスライムめがけて投げると、枝は狙い通りスライムの中心を貫きその核をゼリーから押し出して終了。
ふはははははは、冒険者たるもの武器がなくともスライムくらいチョロいのだ。
でも素手で木を折ったり葉っぱを毟ったりしたので、手のひらが少し痛かったな。
倒したスライムの魔石を回収してズボンのポケットへ突っ込み、先ほど投げ出したシャツ風呂敷の中から擦り傷に効く薬草を手のひらにすり込みながら周囲を確認すると、いつの間にか小さな看板が立っていた。
”スライムが三匹現れた!!”
「もう倒した後だっつーの」
独り言を漏らしながらその看板に触れると、先ほどと同じように看板は弾けて光となりサイコロが転がった。
そのサイコロが示すのは”一”。
俺がそれを確認したことを察知でもしているように、一という数字を理解した直後にサイコロは光となり進むべき道を示した。
「ま、一だしすぐ目の前かー。で、次は何だ? できればスケルトンみたいな武器を持った敵が出てきて欲しいな……ん?」
スケルトンなら殴り殺せるうえに、ボロくても武器や盾を持っている可能性もあるから。
誰もいない森で独り言を口にして気を紛らわしながら一歩前に出る俺。
一なので光が指し示すのは目の前。
そこに踏み込む俺。
ペカーーーーーッ!!
足元が急に光って、空間魔法が発動した感覚に気付いた。
だがその時にはすでに景色が切り替わり、切り替わる直前に”ふりだしに戻る”という看板がはっきりと見えた。
キエエエエエエエ!! むかつく!!
誰だよ、こんなむかつくスゴロクを作った奴は!!
俺だよ、オレオレ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます