第864話◆閑話:偉大なお留守番

 私は偉大な古代竜である、名はマグネティモス。

 とくに訳などないのだが、人間の家に居候をしている。


 家主とその友は冒険者という職であるため、今日はその仕事で家を空けている。

 私も暇潰しについていこうと思ったのだが、今日の仕事は人間の貴族の家での仕事なので連れていけないといわれてしまった。


 うむ、少々情報は古いかもしれぬが古代竜一人間社会に詳しいと自負している私は、冒険者の仕事についても人間の身分社会についても知っているから、今日は無理に家主達についていかず家でゴロゴロすることにしよう。

 留守中の守りは私に任せておくがよい、ゴロゴロしながら留守番をしておいてやろう。


 今日のところはこの家の留守を守ることに決めた私に、家主が一つ願いごとをしてきた。

 いいだろう、日頃の宿と飯代と、この家の改装後の場所代としてその願い引き受けてやろう。

 で、その願いとは何だ。


 え……あの珍獣と珍姉妹がキノコが住んでいる箱庭を弄らないように見張っておけ?

 テムペストも含めて皆で仲良くスゴロクというゲームをしているといい?

 とにかく箱庭を弄らないようにスゴロクで遊んでおけ?

 ふ……ふむ……スゴロクというゲームは少しだけ気になるので善処はするかな。


 あの箱庭は皆が容赦なく弄りすぎて、混沌の坩堝みたいになっておるしな……そろそろ色々入り交じって爆発しないか不安になっていたところだしな。

 確かにあの箱庭の安全を考えると今は様子見がよいだろう。

 何とかならないことは何ともならないが、それ以外のことはだいたい何とかなると思うので、安心して私に留守を任せるがよい。


 うむ、では気を付けていってくるがよいぞ。

 そうそう、犬コロ少年はスライム難の相が出ておるから気を付けるがよい――と思ったがこの姿では言葉は通じぬし、身振りで伝える前に転移していったわ。

 ま、スライム如きならそう悲惨なことにはならぬだろう。



 ふむ、家主達も出かけていったしそれでは始めるとするか――古代竜マグネティモス様の偉大なお留守番を。



 といっても、家主が置いていったスゴロクという板で、珍獣と珍姉妹そしてテムペストで遊ぶだけなのだが。

 ははは、偉大な古代竜はこんな板の上での遊びに夢中になるわけがないが、せっかく家主が夜更かしをして作ったものなので少し遊んでやろうじゃないか。

 私が夢中にならなくても、珍獣や珍姉妹やテムペストが夢中になっていたら、仕方ないので留守番をしながら付き合ってやろう。






「あら、テムペストがまたスタート地点に戻るを踏みましたわ」


「キエエエエエエッ!!」


「ちょっと、ラト? グランは好きに弄っていいっていってたけど、空間魔法までかけちゃうの? いいわね、じゃあ私はここに落とし穴を追加するわ!」


「うむ、わざわざマスの移動を手動でするのは手間だろう。その移動が発生するマスを踏めばそのまま空間魔法で自動的に移動するようにすれば楽であろう。む、落とし穴を追加するのなら、ここに樹を生やそう」


「落とし穴はともかく樹は空間魔法と関係ない気がしますけどぉ、一本だけだと寂しいのでたくさん生やして賑やかにしましょう。あらぁ、マグネティモスさんは山を作るのですかぁ? 板がだんだん立体的になってきましたねぇ」


「モモモモモ……」


 やばい、楽しい。

 こんな板の上での遊びなのに無駄に楽しい。

 テムペストの奴がサイコロを三回くらい振る度にスタートに戻るを踏んで、先に進めずムキになっているのも楽しい。

 遊びながら思い付いたことを話ながら、あーだこーだと改造していくのが楽しい。


 く……偉大な古代竜の私がこんな板の上のゲームに夢中になるなど……こ、これは休眠期明けでちょっとした刺激すら楽しく感じているだけなのだ!

 そう、今だけ! 今だけ楽しい! だから今を楽しむのだ!!



 このスゴロクというゲーム、サイコロを転がして出た数字のマスだけコマを進め、そこに書かれている指示に従いながらゴールに進むというゲームである。

 そのマスに書かれている指示というのが、武器や防具や金を手に入れたり、突然敵が出てきてそれと戦って倒したり、たまに敵に負けてスタート地点に戻されたり。

 単純なのだが、楽しもうと思えばまぁまぁ楽しむこともできる。


 これらは家主が作った状態の時は、自分の状況がどうなっているかを紙に書きながら進める感じだった。

 しかし紙に書きながら進めるのは面倒くさいうえにテムペストの奴がすぐズルをしようとするので、皆で協力して紙など使わずとも遊べるように改造をすることにした。

 楽しむついでに、どうせ遊ぶなら快適な方がいいしな。見るがよい、偉大な存在のちょっと本気の遊びを!!


 というわけで、弄りまくったらめちゃくちゃ楽しくなってきて夢中になってしまったのだ。


 快適にそして楽しくなるために、まずは出された命令通り動くようにコマをゴーレム化をした。

 その命令というのが振ったサイコロの数と止まったマスに書かれた内容。

 ま、このくらいなら基礎的な付与の知識とゴーレム作成の知識があれば簡単にできることだ。


 それからマスの中の指示で起こるコマの変化をいちいちメモしながら進めなくてもいいように、コマに起こったことを可視化することにした。

 どのゴーレムが誰のゴーレムかわかりやすいようにそれぞれの好みの形に改造し、スゴロク内で手に入れた装備やアイテムは幻影魔法で可視化してゴーレムに持たせることにした。


 そしてもう一つ。面倒くさいうえに油断するとテムペストの奴がすぐズルをしようとするスゴロク内の通貨。

 これは私の秘密のポケットにたくさん入っている小さな宝石を使うことにした。人間の通貨でいう銅貨がアメジスト、銀貨がルビー、金貨がダイヤモンドといった感じだ。

 うむうむ、これで誰がいくら持っているかも、スゴロク内での取引もやりやすくなったぞ。


 マスを踏んだ時に時々出てくる敵も、幻影魔法で可視化してわかりやすくしてやったぞ。

 ついでにゴーレムと幻影魔法で作った敵を動かしてやれば、実際に戦っているようにも見えてきたな。


 そうだ、マスに書かれていることは踏むまで見えない方が面白いから隠してしまおう。

 しかし古代竜は非常に賢いので、赤毛がマスに書いていたことは場所も含めて全て覚えてしまった。

 それだと先がわかって面白みがないので、マスの指示を増やしたうえでマスの指示を見えなくして、ついでに内容は用意されたものの中からランダムに変わるようにしておこう。

 よし、これでマスを踏むまでは何が起こるかわからなくなって面白さが増したぞ!

 ついでに赤毛が書いていたマスに分岐も増やして、ゴールまでの間に色々なルートを選べるようにしてやろう! 


 おっと、手を加えているうちにマスがどんどん増えて板からはみ出しそうになってきたぞ。

 そこは樹の女神達が上質の板を出してきて広げるのだな。

 その樹が何の樹なのはあえてつっこまないが、赤毛がこのスゴロクの土台に使っているエルダーエンシェントトレントのものより段違いに上質のものだよな?

 あえてつっこまないが……。


 しかしコマとマスに手を入れて土台のサイズを広げたのはいいが、マスの外が何もなくて味気ないな。

 いいだろう、そこに私が土魔法を使って大地で覆ってやるから、テムペストと珍獣と珍女神で緑を増やすがよい。

 これでスゴロク板が緑溢れる森になって、森の中を探索しているような気分で更に楽しく遊べそうだ。

 あとは遊びながら気付いたところをどんどん改造していけば、家主が帰ってくる頃にはきっともっと楽しくなっているはずだ。


 家主よ! 楽しみにしているがよい!!

 お前の作ったスゴロクは偉大な力により超絶進化を遂げたぞ!!


 しかし森の規模のわりにやや水属性が不足気味のようなので、箱庭の森に比べてややボリュームが足りないな。

 クーランマランの奴が戻ってきたら少し水の加護を付けてもらうか。ついでに湖も作ってもらうか。

 うむ、水に関してはやはりアイツが優秀すぎるからな。

 火竜のおっさんも夜飯の時間にやってきそうだが、火属性は加齢臭がするからいらないかな。


 火竜のおっさんといえば何故か家主のことを妙に気に入っているみたいだし、家主が付けている耳飾りからは火属性の加齢臭がプンプンする、

 しかも先日大きなダンジョンに行った時に、ダンジョンが作り出したアルコイーリスにまで気に入られたようで光の加齢臭も追加されていた。

 その後も知っているような知らないような謎の火属性の加齢な臭が追加されていたし、ここの家主はどうやら気難しい年寄りに好かれる傾向があるらしい。

 珍獣と珍姉妹も、ヴァンパイアの婆さんも皆気難しい年寄り――アーーーーッ!! 私の止まったマスに落とし穴がーーーーッ!!

 アーーーーッ!! 






 こうして皆でスゴロクに……スゴロクの改造に夢中になっており、気付けば窓から差し込む光がギラギラと鋭さを増した頃、クーランマランが戻って来てスゴロク改造に参加し森が繁り湖も増えた。

 ついでに火竜おっさんも南国フルーツを手土産にやってきて、スゴロク仲間に入れてほしそうだったので仕方なく仲間に入れてやった。

 別にフルーツに釣られたわけではないのが、スゴロクに温泉を設置するというのなら火属性もあっても悪くないなと思っただけだ。


 家主達の帰りが遅いなと思いつつもスゴロクを改造しながら遊んでいるうちに、何だか妙に汗臭くなっている家主達が帰ってきた。


 その頃にはスゴロクのサイズは家主が作ったものよりも遥かに大きくそして立体的になり、マスを進んで起こることもよりリアルに感じるものに仕上がっていた。


 さすが偉大な我ら。


 さぁ、家主よ。我らを敬うがよい!





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