第859話◆小細工VS小細工

「おぉっと? そんな蹴りは効かねーなぁぁぁぁぁ!!」


「は? 金属鎧なしなのに何なんだよその固さ!? 汚い! 垂れ流し系ギフト、汚い!」


「いやー、多少はコントロールはできるんだけど、無意識に垂れ流してるのはどうにもならないかなぁ? 無意識に垂れ流してるだけなんだけど、それがそのチョロい蹴りくらいなら無効化しちゃうなぁ?」


「きええええええええ!! だが俺の身体強化はまだまだちょっとしか使ってないからなあああああ!! ちくしょうおおおおおおおおお!!」


「グランー、スパーリングで本気になって身体強化を使いすぎると、この後の町の外にいく時に疲れちゃうよー。ほらぁ、グランは煽られ耐性が低いんだからカリュオンもグランを煽りすぎないでよー」


「アベル、うるせーぞ! 場外から煽るんじゃねえ!」


「ぎゃっ! 石ころが飛んできた! しゅっ……スキルは使うなって言ったから、開始前にポケットの中に小石を詰め込んでいたの!?」


「小石を指で弾いて牽制に使ってるんですね。なるほど、僕も固そうな小石を集めるようにしよ」


「なるほど、これがグランさんの言っていた”その辺にあるものはだいたい武器になる”ですか……覚えましたわ。他人のスパーリングを見学するというのは、楽しいうえに学ぶことが多くてよろしいですわね」


「ちょっと、セレ! グランから変なことを学ばないで! ジュストも小石を集めるってそのうち岩とかも集め始めるんでしょ!? ていうか君達は魔法が使えるからそんなもの集めないでいいでしょ!!」


「岩はすでにありますね。小石は邪魔にならないので持っててもいいかなぁって?」


「ああ~~~~、ジュストはもう手遅れだよ~~~~!!」


「アベルうるせーぞ! 黙って観戦して――うおっとぉ!」


「スパーリング中に脇見とは余裕あるじゃねーかぁ、だったらもっと本気でいくぞぉー!」


「お? やるか? ならばこれでもくらえ!」


「ああ~、仲良きことは美しきかな~……え? ちょっと、グランさん!? 何ですか、その謎の札は!?」



 楽しい楽しい模擬戦。

 他人の模擬戦を見ているだけでも楽しいけれど、見ているうちに自分もやりたくなって、やり始めると更に楽しくなって、最初は軽くと思っていたのにどんどん本気になっていく。

 俺が打ち込めばカリュオンが受け流し、カリュオンが打ち込んでくれば俺がそれを躱して反撃をする。

 上下左右に注意を揺さぶりながら隙ができれば打ち込む。

 しかしそんな単純な戦法なんて見え透いているのでお互い簡単に対処をするのだが、その予想のできる動きというのがパズルのピースがはまっていくようでとても楽しい。


 カリュオンは全身鎧に鈍器というパワー型の重量系戦士の装いだが、実は小細工やだまし討ちも得意で、カリュオンとのスパーリングは単なる力比べだけではなく読み合いも発生するので気付けばいつも夢中になっている。


 今日もそう。

 お互い決定打はないがテンポの良い運びでスパーリングが展開されていき、だんだんとテンションが上がっていき無意識に口の端が上がっていく。


 ていうかカリュオンの煽りスキルが高すぎなんだよおおおおお!! ついでに絶対挑発スキルを使っているよなああああああ!!

 挑発スキルはコモンスキル――誰もが後天的に習得できる一般的なスキルだから、今日のルールでは使ってもいいやつだけれどカリュオンの挑発って普通の挑発スキルと少し違わないか!?

 一応挑発スキルの仲間だからセーフなのか?

 いや、もうどっちでもいいや、なんかムカつくけど楽しいからとりあえずスーパーグランキーーーーーック!!!



 訓練次第で誰でも習得できるスキルは一般スキルもしくはコモンスキルと呼ばれ、武器系や生産系、無属性以外の魔法系、その他技術的なスキルはほぼコモンスキルである。

 誰でも習得できるが、技術面のスキル故にそれが伸びるかどうか本人の才能と努力次第だ。


 一方、コモンスキルと違い訓練しても習得できないスキルはレアスキルと呼ばれている。

 これらは先天的に持って生まれるか、もしくは何かの切っ掛けで芽生えることでしか使えるようにならないスキルである。

 俺の収納や検索がこのレアスキルにあたる。

 魔法だと空間魔法や時間魔法などの無属性の魔法がレアスキルになる。

 アベルがいつも当たり前のように使っているが、空間魔法も時間魔法も人間で使える者は非常に少ないのだ。

 そーだよ、俺の収納スキルもレアスキルなんだよ! ていうか俺の持っている数少ないレアスキルなんだよ!


 そしてもう一つ、レアスキルに含まれるのだがレアスキルよりも更に珍しく特殊なスキル――他に同一のスキルが確認されていない所有者特有のスキルをユニークスキルという。

 レアスキルの所有者はちょいちょい存在するが、ユニークスキルは本当に珍しく、そのほとんどがギフトに関係するものである。

 つまりユニークスキル所有者はギフトの所有者であることが多い。

 アベルの究理眼もそうだし、カリュオンの因果応砲もそう、ドリーのやっべー身体強化もユニークスキルである。


 冒険者の高ランクにはギフトやユニークスキルを活かして上り詰めた者がゴロゴロおり、ランクの高い冒険者が身近に多くいるとギフトやユニークスキル所有率の感覚が麻痺してくる。

 ドリーパーティーは当たり前のようにみんなギフトもユニークスキルも持っているけれど、それは普通じゃないからな! というか普通じゃないからAランクパーティーなんだよな!!

 俺はギフトはいっぱいあるけれどユニークスキルはなし! そう、ユニークスキルゼロ! つまり普通の人!!

 ちくしょう!! 俺もユニークスキルの一つくらい欲しかったぜ!!



 俺とカリュオンの突発スパーリングのルールは、エキサイトしすぎないためにギフト及びレアスキルとユニークスキルの使用を禁止してやっている。

 それ以外にも周囲の安全を考えて、攻撃魔法と物量攻撃と爆発物も禁止。つまりほぼただの殴り合いである。

 お貴族様のプライベート訓練場で津波とか土砂崩れはさすがにまずいから出すつもりはなかったが、まろやか爆弾もニトロラゴラもアベルがダメというので、だったらカリュオンの攻撃魔法もなしにしないと不公平だとこのルールになった。


 ついでにカリュオンがあのチートくさい全身鎧は着ないで、中身のレザーアーマーだけになっているのだが、ギフトが常時垂れ流し型なので鎧を着ていなくてもクソ固くてズルい!!

 垂れ流し型なので燃費が悪いとカリュオンがいつも言っているが、無意識に垂れ流しているギフトですでに一般人のプレートアーマー以上の固さがあるんだよ!! なんなの、そのチートギフト!!

 スーパーグランキックをした、俺の足の方がめちゃくちゃ痛かったよ!! マジもんのアダマンタイトでも蹴飛ばしたのかってレベル!!

 しかもなんか煽られたしムキーッ!! 次はもっと本気で蹴飛ばしてやるからなー!!


 というか外野うるせーぞ!! アベルが野次を飛ばすなら俺は小石を飛ばすぜ!!

 模擬戦開始後の収納スキルは使用禁止だけど、開始前にポケットにジャラジャラ小石を詰め込んどくのはありだもんねー!!


 っと、アベルに気を取られていたらカリュオンが身体強化スキルを発動させてすごい勢いで突進してきた!

 あの勢いが乗った攻撃に当たってしまうと、か弱い俺なんか場外まで吹き飛ばされてしまいそうだ。

 サッと避けてしまえばいいのだが、鎧を着ていない時のカリュオンは猿のように素速いため、避けたところで間違いなく追尾してくる。

 よってただ避けるだけではなく、追尾対策もしないとならない。

 

 そこで俺が取り出したのはー、メイルシュトロックを餌に育てたメイルシュライム君のゼリーで作ったインクで、チョロチョロッと神代文字を書き込んで適当な付与をしたメモ用紙サイズの魔皮紙。

 この魔皮紙は海に住む牛、海牛の皮で作られたものなので水属性の付与にピッタリ!!

 当然メイルシュライム君のインクも水属性!!

 水×水しかも海×海で小さな紙でも不意打ちに使えるくらいの効果の付与はできる。


 リリーさんの声が聞こえた気がするが気にしない。

 アベルも何か言っている気がするけれど、後でもう一回小石を投げておこう。


 大丈夫、大丈夫。

 爆発もしないし、小さな札サイズなので物量攻撃物ではない。衝撃と共に紙が溶けてベチャッと海水が少し飛び散るくらいだ。

 そのベチャッと飛び散る札をカリュオンの突進を避けつつ顔面を狙って――。


「お? 奇遇だな、グランは紙か、俺は葉っぱなんだよなぁ。苔玉に貰ったやつだけど」

「へ?」


 俺が紙をカリュオンに向かって投げるのとほぼ同じタイミングで、カリュオンが懐から黄色い葉っぱを出してこちらに向かって投げるのが見え、カリュオンの言葉にものすごーーーーく嫌な予感を覚えて紙を投げるのをやめようと思ったのだが、人は急には止まれない。

 ああー、カメ君に貰ったメイルシュトロックで育ったスライムのインクで付与した紙と、カリュオンが苔玉ちゃんに貰ったという葉っぱがぶつかるー!!

 すごく嫌な予感がするー!! カリュオンも諦めた表情で苦笑いをしてんじゃねーーーー!!


 そしてそれらは俺とカリュオンの中間地点でぶつかって――。


 バシャッ!!

 バチンッ!!


 海水と小さな雷が俺達の間で弾けた。


 弾けた海水と雷が周囲に飛び散り、それが目に入らないように思わず顔を背けると、視界の端っこに海水と雷が地面へと落下していくのが見えた。

 その中でまだ僅かに残っていた紙が地面にぶつかると同時に完全に海水となって消え、俺とカリュオンの足元を水浸しにした。

 そしてその中にはバリバリと雷になりながら消えていく黄色い葉っぱが。


 逃げなければと思った時には、消える瞬間に最も激しく弾けた黄色い葉っぱの破片と、それから発せられた黄色い雷光が見えた。


 バリッ! バリバリバリバリバリッ!!


「ギエエエエエエエッ!!」

「ぬお!? 苔玉の野郎、何がちょっとピリッとするだけの葉っぱだ!!」


 そして二人仲良くこんがり感電して、地面に仰向けに転がった。


 カリュオンは元々魔力耐性がアホみたいに高い。

 俺も魔力耐性は高めで、尚且つニーズヘッグの鱗をお守り代わりに防具に仕込んでいるので雷に対しての耐性は高めである。

 それでも俺もカリュオンも痺れたあああ!!

 雷撃のダメージよりも、相打ち状態になったことで集中が途切れて二人して地面にコロリ。



「いいかい、セレにジュスト。変なアイテムを使う時は先にちゃんと威力を確認してから使うんだよ。あれは悪い大人達だから真似したらダメだよ。そもそも爆発物じゃないから海水や雷はセーフっていう屁理屈がダメ」


 バリバリという音の隙間をすり抜けて、場外で話しているアベルの声が聞こえる。


 うるせー、スパーリングはこういう予想外の相打ちが楽しいし、爆発物でも物量攻撃でもないからセーフなんだよおおおお!!

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