第854話◆五つ目のお願いが難しい
俺達が王都のダンジョンに出発した時点で残っていたのは闇と沌のガーディアン。
闇はジュストとフローラちゃんと毛玉ちゃんが作ったリュンヌの花をつけたゴーレム。
ただラト達や三姉妹、チビッコ達がやりすぎたせいで、他のガーディアンに比べて力不足だとキノコ君にだめ出しをくらったため、ツンデレアベルが闇の魔力を込めて後は満月の光を当てれば完成の状態にして王都のダンジョンへと旅立った。
その花ゴーレムは、俺達が家を空けている間にフローラちゃんがしっかりと満月の光に当ててくれて、頭の上に大輪のリュンヌの花を咲かせた華やかなゴーレムになり無事キノコ君も納得してくれた。
うんうん、心が安らぐ優しい感じの闇の魔力だね。ラト達のゴーレムが異常なだけで、リュンヌゴーレムもすごく闇の魔力が溢れているよ。
キノコ君もすごく満足そうだし、やりすぎなくてもこういうゴーレムでいいんだよ。
リュンヌゴーレムは森の奥にでも置こうか、そうこの辺りは安らぎの森ということで
そして最後は、ヴェルヴェットに作ってもらった、変顔ヒヨコ人形の沌属性ゴーレム。
ああ~~~~、心癒やされるリュンヌゴーレムで穏やかな笑顔になっていたキノコ君がびっくりして飛び上がったぞおおおおお!!
こ、これね、ヴァンパイアの始祖のお孫さんに作ってもらったんだ……すごいでしょ……こ、これでいいよね? ね?
大丈夫、そんな怖がらないで。ヴェルヴェットは優しくてお世話焼きのロリお婆ちゃんだから。
イテッ!! ヒヨコブラックを起動した瞬間にいきなり突かれたぞ!! 何だこのヒヨコ、やるか!?
イテッ!! イテテテテテッ!!
くそ、さすが太古のロリババア作のヒヨコゴーレムだぜ。ヒヨコのくせに攻撃力が高い。
く……これ以上突かれる前にヒヨコブラックを設置してしまおう。
これ、どこに置く? 湖の真ん中の謎の洞窟に押し込んでおけ?
ああ、すでに謎の黒い靄が出ている洞窟ね。
洞窟の前にいったらヒヨコブラックがシューって洞窟に吸い込まれて黒い靄が更に濃くなっちゃった。
こうやって残っていった闇と沌のガーディアンも終わり四つ目のお願いか完了して、鍵を貰えたのがダンジョンから帰って来た日の夕方前。
そしてその直後、五つ目のお願いを伝えられた。
家に篭もります、そっとしておいてください。
いいって言うまで触らないでください。
絶対に絶対に余計なことをしないでください。
それを聞いた俺達も、キノコ語を通訳してくれたジュストも困惑顔。
その家に篭もる理由は――ああ~、聞く前にさっさと家に入ってドアを閉められガチャンと鍵をかけられてしまった~~~~!!
話しかけて理由くらい聞こうと思ったのだが、いいと言われるまで触るなと言われたので、下手に話しかけるのもアウトかもしれない。
話しかけているのは触っていないからセーフなんていう屁理屈が通じなかったらまずいので、無理に家のドアをノックして話かけるのもやめておこう。
この引き籠もり方の感じ、本当にそっとしておいてほしそうな感じだったしな。
「そんな……せっかくガーディアンが揃ったというのに……グランが留守の間も聖なるガーディアンの強化に勤しんでおりましたのに……」
ウルの言葉に釣られて箱庭にそびえ立つ樹を見ると、樹の幹に現れていた若い女性を連想するような凹凸が、更にはっきりとした人型になっている。
これはラトが箱庭初期に植えた樹を、三姉妹達がガーゴイル化してガーディアンにしたものだったな。
相変わらず顔は見えないけれど、胸回りが少し豊満になった? いいぞ、もっと成長しろ。
「でもどうして急に引き籠もりたくなったのかしら?」
多分それは君達が弄りすぎたからじゃないかな。
ヴェルが頬に手を当て首を傾げているが、箱庭の中ではガーディアンが活発に活動しているようで各種魔力で満たされ、それに影響された箱庭内の自然がどんどん豊かになっていっている。
このままガーディアンや箱庭そのものに力を与え続ければ、箱庭そのものがダンジョンになってしまうのでは?
いや、すでに箱庭型ダンジョンみたいなものなのだが……。
「そうですかぁ、残念ですねぇ。早くまた箱庭で遊べるようになってほしいですねぇ」
しょんぼりとしているクルを見ると可愛そうにも思えてくるのだが、キノコ君からのお願いなので仕方がない。
そうだな、三姉妹達は箱庭がお気に入りだったからな、早く再開できるといいかな。
この感じを見ると、強くなりすぎたガーディアンや、箱庭が爆発するのではないかってくらい箱庭を満たしている魔力が落ち着いたら、キノコ君がいいよって言ってくれるんじゃないかな?
そう、休息は大事! 何もしないで落ち着く時間は大事!
家の周りがこんなことになっていたら、俺もそっとしておいてって思いそうだ。
キノコ君は俺よりもずっと小さい、そして箱庭を弄っている俺達はキノコ君にとっては大きな存在で、三姉妹やラトは俺よりもずっと力のある存在だ。
そうだね、カメ君達もカメ君と仲良しのチビッ子達もすごいチビッ子達だからね、そんなすごい力で箱庭が急速に弄られたからキノコ君もびっくりしたんだよ。
だからしばらくそっとしておいてあげよう。
良かれと思ってやったことも、小さな存在にとっては過剰すぎることもあるのだ。
「む、よい暇潰しだったのに残念だったな。しかし少しくらいなら触ってもいいのではないだろうか?」
すでに酒臭いラトが箱庭に手を伸ばそうとしたので、慌ててその手を掴んで止めた。
「そっとしといてくれってキノコ君が言ってただろおおおお!! 触るな! 少しでもだめ!! いいって言われるまで大人しくしとけ!! チビッ子達もしばらく箱庭は触らないで我慢だぞ? 触ったらおやつと酒のつまみは抜きだぞおおおお!! 無事にキノコ君のお願いを達成できたら、達成おめでとうパーティーをしような? だから、キノコ君がいいって言うまで大人しくしてるんだ!! いいか、絶対!! 絶対に触るんじゃないぞ!! 許可が出るまでお触り禁止!!」
ラトだけではなくチビッ子達もソワソワしていたので。
禁止! お触り禁止!! そんな悲しい顔をしてもだめなもんはだめ!!
キノコ君が自宅に引き籠もりそんなやりとりをして、箱庭お触り禁止状態になってから一週間以上が過ぎたのだが、相変わらずキノコ君からのいいよ合図はなく、箱庭の中では各種魔力が悶々と落ち着きなく渦巻いている。
毎朝のキノコ君からのお裾分けも停止中。
キノコ君の畑は引き籠もり中でも時々世話をしているのか、作物は成長しすぎることはなく、熟したものはいつの間にか収穫されている。
姿を見ることはないのだが、その様子でキノコ君がちゃんと生活をしているのがわかるので安心している。
早く、引き籠もりを終えて復帰してくれるといいなぁ。
俺は毎朝のキノコ君との物々交換がちょっとした楽しみだったんだ。
俺達が弄らなくなって箱庭内の環境が少し気になっていたのだが、前は俺達が時々やっていた森の水遣りも、今ではカメ君の設置したガーディアンが時々雨を降らせてくれているようで、俺達の手で水をやらなくても箱庭内の植物が萎れることはなくなり、昼間は日当たりと風通しの良い場所に移動して箱庭に光が差し込むようにとか、中の空気が澱まないようにとかしていたけれど、それも今は光と風のガーディアンの魔力によって箱庭内部だけで完結するようになっている。
土のガーディアンがいるなら森が良く育つようにと肥料を入れる必要もなさそうだし、火のガーディアンがいるから夏が終わり寒い季節になっても箱庭が冷えすぎることはないだろう。
箱庭内の環境はもう俺達が手を出さなくてもガーディアン達が回してくれて、時が経てば渦巻いている魔力も落ち着いてくるだろう。
まだまだ箱庭内の魔力は荒ぶっているが、ガーディアンが揃った時に比べれば随分と落ち着いて箱庭の環境に馴染んできている気がする。
全く手がかからなくなったのは楽でもあり、箱庭の進化に感動も覚えるのだが、手がかからなくなりすぎるとなんとなく寂しいような気分にもなった。
少し寂しくなってきたから、そろそろ復帰してくれるといいな。
「少しくらいなら弄っても構わないだろう? この時間ならキノコも寝ている時間だし」
「そうですわねぇ、少しくらいなら……」
「ちょっとだけ、ちょっとだけならいいよね?」
「ちょっとだけですよぉ」
網の上でいい感じに焼き上がっている、ロック鶏の軟骨を小皿の上に移動させていると、大人しく酒を飲んでいたラトが持っていたグラスを空けて立ち上がろうとした。
そしてすでにアイスを食べ終わった三姉妹もそれに続きそうな気配。
「だめ! この時間はキノコ君も寝る時間だからだめ!! いいか? キノコ君が出てくるまでに箱庭を弄った奴は、おやつも酒のつまみも抜きだからな!! 誰か一人でも弄ったら、キノコ君の引き籠もりが終わるまで、毎日ヘビ肉料理にするからな!! 美味しい肉が食べたかったら、キノコ君がいいって言うまで大人しくしていること!! 俺が出かけている間もだぞ!! チビッ子達も釣られてソワソワしない!!」
まったく、油断も隙もない。
キノコ君は今日も家から出てこなかった。
ラト達の我慢もそろそろ限界が近いみたいなので、彼らの興味を引ける何かを作っておくべきだろうか。
キノコ君の世界の平和のために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます