第853話◆骨売却計画

 俺の骨コレクションを支払いのために分別する作業で体力を使いまくって腹ぺこ状態になっていたのか、みんなすごい勢いで出した料理を平らげていった。

 その勢いにびっくりしたが、作っている側としては気持ちの良い食べっぷりだった。

 当然足らなかったので簡単な料理を追加したり、追加した端から食べ尽くされるのでもうテーブルの真ん中に大きな鍋を置いて真夏のシャブシャブをしたり。


 はーーーー、めちゃくちゃ食ったーーーー!!

 俺は改装が楽しみすぎてテンションが上がりまくってあまり疲れは感じていたかったのだが、みんながもりもり食べるのでつい釣られて食べまくってしまった。

 レッサーレッドドラゴンの背中の辺りの肉とか腰の肉とかタンとか、ステーキにしてもいい肉をスライスして贅沢ドラゴンシャブジャブだぜ。

 竜種の肉ばかり食べているような気がするが、竜肉は美味いので仕方がない。

 迷ったらドラゴン! これは俺の中の常識中常識!!


 これでもかってくらい食べたというのに夕食の後片付けをしていると、片付けを手伝ってくれていたアベルとカリュオンが、動いたらまた腹が減ったと言うのでガッツリと酒のつまみの準備をした。

 どうせこの後、酒を飲むんだ。飯感覚のガッツリしたおつまみを用意してやる。


 夕食の後はみんな思い思いに過ごすのだが、俺とアベルとラトは夕食後に酒をちょろっと飲むのがすっかり習慣になっていて、カメ君やカリュオンもうちで過ごすようになってからそれに参加している。

 更に現在は苔玉ちゃんにサラマ君、焦げ茶ちゃんも加わり、夏休みで帰省しているジュストも酒の代わりにジュースを飲みながら俺達と過ごしている。



 夏の間は日が長く夕食が終わっても外はまだ明るいため、三姉妹も今の時期はすぐにベッドにはいかず、風呂から出てきた後もよくリビングで寛いでいる。

 風呂上がりで髪の毛を頭の上で纏めている姿もかわいいね。

 そんな風呂上がりの三姉妹のためには、フルーツを添えたミルクアイスを用意しておこう。


 明るさと共に昼間の暑さはまだ残っているが、リビングの掃き出し窓からテラスへと出ると森から吹いてくる風が非常に心地良い。

 こんな気持ちのいい日暮れ前、家に中にいるのはもったいないとテラスに出て炭火焼きセットを広げると、わらわらとみんな外に出てきて思い思いの場所で寛ぎ始めた。


 暑さが落ち着いた夏の夕方、テラスに出てみんなで夕涼み。

 浴衣が欲しい、スイカが欲しい、花火が欲しい、風鈴も欲しいと転生開花が荒ぶっているが、心地のいい記憶なので今日だけは許してやる。


 そうだな、浴衣なら頑張れば作れそうだな。布はシランドルにいってそれっぽいのを買ってこないとな。

 スイカはユーラティアではあまり栽培されていない高級品だが、リリーさんに相談したら種くらいなら手にはいるかもしれない。

 花火は難しそうだけど、爆発ポーションを超超ちょーーーーまろやかにしたらできるかな?

 風鈴はタルバに頼むか俺のスキルを駆使すれば作れるかな?


 そんなことを思っているうちに、炭火焼きセットの網の上ではクラーケンの干物や魚の干物やロック鶏の軟骨がいい感じに焼き上がり、香ばしい香りが周囲に漂い始めた。

 テラスで寛いでいたアベル達の表情が、その美味しそうな香りに釣られて肉食獣の表情になる。


 お前ら夕食の時から食べすぎだから、肉の前に野菜も食え!!


 夏野菜の酒のつまみといえば、よぉく冷やしたキュウリの塩漬け!


 ペッホ族が帰った後から漬けた、しょっぱすぎないキュウリの漬物!! ポリポリ歯ごたえと仄かな塩味で延々と食べてしまうやつ!!


 米が欲しければ米も炊いてあるぞ!!


 さぁ、テラスで涼を取りながら夕食第二ラウンドといこうか。






「いい? 生きものっていうのは、体を動かさなくても頭を使うとお腹が空くわけ。当たり前のようにいつも使ってるけど、俺の究理眼も魔力を使うからあれだけの量の骨を鑑定しまくったらお腹が空いて当然だよ。はー、今日はまだまだ食べられそう。究理眼を使いながら骨の仕分けをするだけでこんなにお腹が減るとは思わなかったよ。ほんとすっごい量だったし、しかも支払いをして残ったのはまた収納の中に戻してるし……あの量だから戻さないとどうにもならないんだけど、近いうちに整理しようね? いらない骨は売っちゃおうね? 纏めて売ると価格崩壊するから色んな冒険者ギルドを回ろうか、遠いところがいいかも? ルチャルトラとか?」


「ゲッ!?」


「そうだなぁ、王都のギルド長は何だかんだで抜け目がないから、王都で大量に売って近郊の町に売りにいこうとするとすでに情報を回してそうだしなぁ。ギルドの情報共有ネットワークってすげーよなぁ。やっぱ王都で売った後はルチャルトラかぁ? あそこなら離島だし情報おせぇだろぉ?」


「ゲゲッ!?」


「んー、王都とピエモンとルチャルトラのギルド長は仲が良さそうだしなぁ……ほら、ペトレ・レオン・ハマダの時も一緒に行動してたし、俺もあのパーティーに混ざって調査にいったけどすごく気心知れた雰囲気だったぞ。戦闘の時も息がピッタリだったし、情報共有はクソ速い気がするな。だから突っ込むなら王都かルチャルトラのどっちかか、もしくは俺とアベルとカリュオンで王都とピエモンとルチャルトラに別れて、時間を決めて同時に突っ込むかだよなぁ。バレたら怒られそうだけど、やったもん勝ちだな! ジュストを巻き込めば四箇所だ、よっし!」


「ゲッゲッゲ! ゲッ!? ゲーーーーッ!?」



 夕涼みをしながらの夕食第二ラウンドの話題は俺の骨コレクション。

 骨の仕分けでそうとう疲れたのか、アベルがポリポリとキュウリの塩漬けを囓りながらプチプチと文句を言っている。いや、文句というより夕食ワンモアの言い訳だな。

 しかも時々「別にキュウリが好きなわけじゃないんだからね」などとキュウリ向かって話しかけながら、キュウリの漬物を次々と口に運んでいる。

 野菜嫌いのアベルにしては珍しい光景なのだが、そんなに食べると後で喉が渇くぞ?


 骨なー、さすが俺の冒険者歴の証だけあって結構な量があったよなぁ。

 好きで貯めているわけで……いや、好きでは貯めている面もあるのだが、買い取り価格に納得できなくて貯めているうちに貯まったものだからな。

 全部は手放したくないけれど、少し量は減らしたさはある。


 あの量を纏めて売ると途中で買い取りを拒否されるか、値段を下げられそうのは確かである。

 ならばアベルの転移魔法を使ってあちこちの冒険者ギルドに売り歩くという手もあるのだが、冒険者ギルドには情報共有用のすっごい魔導システムがあって、大きな売買記録はわりとすぐ共有されてしまう。


 王都や大きな町は物価が高く買い取りのキャパも多いのでそこで売りたいところなのだが、大きな町ほどギルドのシステムは最新で情報の共有も速い。

 しかも王都のギルド長は気持ち悪いくらいに勘が鋭く、抜け目もない。

 王都にいた頃、アベルと一緒にやらかしてしっかり隠蔽したはずなのに、何故かバレていた数なんて数え切れない。

 そのことを考えるとカリュオンのいう通り王都からスタートするとすぐに情報を共有されて、他の町にいっても買い取り拒否もしくは買い取り価格の値下げということになりそうだ。


 アベルとカリュオンはルチャルトラを推しているのだが、ペトレ・レオン・ハマダでギルド長達と一緒に行動した感じ、王都のギルド長とルチャルトラのギルド長は随分仲が良さそうだった。

 あの雰囲気だと遠く離れているが情報共有が速い可能性もある。

 三か箇所、しかもバレたら何かいわれそうなのだが、やった者勝ちということでアベルの転移魔法に頑張ってもらって、三人で三箇所の町に分かれて売るかー?

 ジュストも巻き込めば四箇所だなー?


 この話をしている間に、サラマ君が何か訴えるようにゲーゲーと言っている。

 ん? パリッと焼いたクラーケンの干物が欲しいのかな?

 体の部分はこうやって割いてマヨネーズを付けて食べると美味しいぞぉ。ゲソも美味しいからゲソも取ってあげよう。

 熱いから気を付けて食べるんだぞぉ。


 あ、カメ君達もいるよね。

 うんうん、カメ君の手土産のクラーケンだね。いつもありがとう。


「骨を売る方法はグランの案でいいか。いざとなったらシランドルの冒険者ギルドに突っ込めばいいしー、なんなら西の方のうちとあんまり仲の良くない国でぶち込むのいいかもねー。うふふふふふ……それはそれですごく楽しそう」

「ゲ……」

 なんかアベルがめちゃくちゃ悪い顔になっているぞ?

 ほぉら、アベルが変な笑い声を出すからサラマ君が呆れたようにため息をついているぞぉ。

 でも西方諸国はユーラティア人に対して感じが悪い国もあるから、そこらの国で骨だけじゃなくて骨以外のいらないものを大量売却するのもありだなぁ。

 骨同様に貯まり続けている、獣系魔物の毛皮とか。



「それより、箱庭はどうなってますの?」

「そろそろじゃないの?」

「もう、そろそろ五つ目も達成じゃないですかぁ?」


 アベル達と骨売却計画を立てていると、テラスに出した横長のベンチに腰をかけてアイスを食べていた三姉妹達が、お強請りするような表情で俺に言った。


 あー……箱庭……箱庭な……ヒヨコブラックを設置して四つ目のお願いは達成したんだよなぁ。

 五つ目のお願い……五つ目のお願い……めちゃくちゃ簡単なのだけれど、何故かめちゃくちゃ難度が高い気がするんだよなぁ。

 そんな顔でこちらを見られても、あのお願いは俺にはどうしようもできないんだよなぁ。





 家に篭もります、そっとして置いてください。


 いいって言うまで触らないでください。


 絶対に絶対に余計なことをしないでください。






 それがキノコ君からの五つ目のお願いだった。



 ……うん、今まで弄りすぎたもんね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る