第844話◆やっぱり手放せない
「小さい牙は?」
「小さいのはアクセサリーに加工しやすいから残しとく。大きいのは武器に加工しやすいからもちろん残す」
「じゃあ角は?」
「角は装備品にもなるし、調合にもなるから残しとくかなぁ」
「角も残すんだ、それじゃあ鱗は? 鱗はピエモンの冒険者ギルドで売ったけどまだまだ残ってるよね? これは王都で売っちゃおうか?」
「ああ、ピエモンで換金したのはこの間分配した分だけで、他はまるっと残ってる。うーん……鱗は防具になるし、小さくて買い取り価格が安そうなのは付与して使い捨ての爆発物にでもできるから、俺の分は売らずに残しておきたい」
「鱗も残すの!? 鱗はめちゃくちゃ量があるよ!? って、変な爆発物は自重して!! 鱗も売らないなら内臓の類いは?」
「んあー……内臓はエクストラポーションになるよなぁ。心臓なんかエリクサーの材料だし……うーんうーんうーんうーん……ぶっちゃけ俺が買い取りたいくらい」
「ちょっと!? これじゃあ、グランの取り分は結局ほとんど残すことになって現金化できないよ!! しかも内臓を全部買い取るなんていくら出すつもりなの!? 改装費用が溜まるどころか貯金が減るんじゃないの!?」
「だってぇ~、ブラックドラゴンの素材なんて滅多に手に入るものじゃないじゃん~。それを売るなんてとんでもない」
「確かにブラックドラゴンなんてなかなか手に入らない素材だけど、だからってお金にかえなきゃダンジョンに行った意味がないでしょ! 家の改装費用を作りにダンジョンにいったんでしょ!? もしかしてエレメントクリスタルとエレメタルを売るつもり? ブラックドラゴン素材を残したとしても、こっちを売れば改装費用になりそう」
「ダメだ! それこそ、なかなか手に入らない四属性のバランスのいいマルチプルなエレメントクリスタルとエレメタルじゃないか! それを売るなんて……」
「もー! グランはいつもそう! 高級素材が手に入ると換金できなくてどんどん溜め込んで、溜め込んだら今度は使うのがもったいないってなかなか使わない!! 売る気のあるものも、アクセサリーや装備品に加工して売ればそのまま売るより儲かるって貯めて、結局時間が足りないって先延ばしにして結局収納の中で忘れられてる! 肉の類いも食べられるからってどんどん貯めて……いいよ! これはどんどん貯めて!!」
夕食の後テラスに出て星空の下で酒を嗜みながら、先日ダンジョンで手に入れた素材の換金計画を立てていたのだが、いざ換金しようと思うと、やっぱり残しておきたくなってアベルに呆れた顔をされまくっている。
でも肉は残しておくのは賛成なんだ。というかどんどん貯めろって言うんだ。
アベルだけではない、ラトやカリュオン、カメ君に苔玉ちゃんに焦げ茶ちゃん、そして夕食の時にフラリとやってきたサラマ君まで、揃って目を細めてこちらを見ている。
君ら、なんでそんな似たような表情になっているの?
唯一ジュストだけは、キョトンとした表情で首を傾げている。
ジュスト、君だけは俺のことをわかってくれるよな!? 日本にいた頃にゲームでアイテムを貯めまくって楽しかった経験はあるだろ!?
いつまでも整理できない倉庫から溢れる素材!! だがそれがいい!! そして倉庫整理は面倒くさいので、とりあえず貯めるのだ!!
そんな目でこっちを見なくてもわかってる、わかっているんだ!
換金しないと改装費用にならないことも、内臓が欲しくて買い取ってしまうと、相場から考えて今回の俺の取り分が全て吹き飛ぶどころかマイナスになりそうなことも!
でも欲しい! やっぱり欲しい! どうしても欲しい!
いつか加工して売れば、素材のままより高く売れるはずなのだ~!
今まで手に入れた素材もいつか加工しようとどんどん貯まっていっているのも、スローライフが思ったより忙しくて、作りたいものが渋滞してなかなか取りかかれないだけなんだ!
素材も残しておいてそれを加工したいし、家の改装もしたいし、風呂とトイレも増やしたいし、どさくさで倉庫も拡張して冷蔵室や冷凍室も更に広げたいし、作業場はもっとかっこよくしたいし、倉庫の地下のスライム部屋も大きくして最新のスライム設備を揃えたい。
ついでにかっこいい仕掛けの隠し部屋や隠し収納も付けたいし、テラスもお洒落なカフェ風にしたい!!
もちろん貯金をはたいたとしてもそんな金はないのだが、我が家の改造と拡張は男の浪漫なのだ。
そりゃ、今回手に入れたブラックドラゴンの素材やエレメントクリスタルやエレメタルを売れば、我が家の大改装資金には十分足りるのだが……だがっ! 金と稀少素材だとどちらが手に入りにくいかと考えると、次いつ手に入るかわからない稀少素材を手放せなくなってしまうのだ。
我が家の改造も浪漫なのだが、稀少素材弄りもまた浪漫なのだ。
そうして俺の中で改装資金が欲しい現実と、素材を残しておきたい浪漫がグルグルとループを続けている。
「うぉーい、グラン。使う予定のないものは売らねーと、いつまで経っても改装ができねーぞぉ。俺達も世話になってるから改装費用は出すからさ、とりあえず取り分の半分くらいを残して残り半分は売ればいいんじゃないのかな? ブラックドラゴンの素材もエレメントクリスタルもエレメタルも。それから改装費用は苔玉もヘソクリを出してくれるぞ~」
「キッ!?」
「ははは、ヘソクリを出しておけば、改装の時に口も出せるぞ。苔玉専用の植木鉢も置いてもらえるかもしれないぞ」
「キエーッ!!」
ぐぬぬぬぬぬぬ……カリュオンにはすでに家賃や食費という名目で肉を貰いまくっているので、俺の家の改装費用まで援助してもらうのはなんか申し訳ない。
と思っていたら、目の前にバラバラと見たことのない薬草が降ってきた。
う……この薬草は貰っていいの? もったいなくて売れないけれど、改装費用の手助けだと思ってありがたく貰っておくよ。
うん、苔玉ちゃん専用の植木鉢は明日にでもカリュオンの部屋に置いて……いてっ! 木の実が頭の上に降って来た! 植木鉢が欲しいんじゃないの!?
「そーだよ、俺も改装費用を少し出すから、今回の素材だけじゃなくて今まで溜め込んでて使ってないものも、どれだけ貯めてるか知らないけど、この際だから整理してお金にかえちゃお?」
「えっ!?」
えっ!? 今回のだけじゃなくて以前から溜め込んでいるのまで!?
アベルの提案に驚いて声が出てしまった。
それからアベルの少しは桁が違いそうで恐いので、援助は現金ではなくていつものように肉と素材でいいよ。
「グランの収納スキルって、自己鑑定のスキルの派生で中身もわかるって言ってたよね? えっ、とか言ってないで爆発物とか危険物とか土砂とか海水とかも整理して、それと家の改装に使える素材もリスト化して、改装業者の人に掛け合えるようにしよ? あー……改装業者……改装業者の問題もあるよね。うっわ、お金よりこっちの方が問題じゃん。この混沌を詰め込んだような家の改装を任せられる改装業者なんて……兄上の関連は信用はできても別の意味で信用できないし、それ以外だと義母上の伝手か……それともリリーさんの伝手か……いや、ダメだこんな場所に来られる業者のが少ない……うーん、うーん」
え? 俺の溜め込んでいる素材をリスト化しろって!?
そりゃ、収納の中身はスキルで自分だけにはリスト化して見えるけどさ、色々貯めすぎてリスト化してもそれを全部見るのが気が遠くなるんだ。
時々こっそりリストを開いて中身を確認して、その種類と量にニコニコしているけれど、それを実際にリストに書き出せというのは面倒くさすぎる。
と思っていたらアベルが改装業者のことで悩み始めて、ブツブツと独り言モードに入ってしまったぞ。
しかし確かにうちにはラトや三姉妹といった人に見えるが人でない存在がいる。門番兼畑のお世話係はフローラちゃんだし、謎の小動物は住み着いているし、たまにモールのタルバもやってくるし、変態ドリュアスのイクリプスもうちの近くを相変わらずチョロチョロしている。
明らかに怪しい家だし、変態みたいな恰好のイクリプスが俺の友達と思われて、俺まで変態疑惑を掛けられるのはいやだし、それがうっかりどこかで噂になるのも困る。
もちろん業者には顧客の秘密を守る義務はあるのだが、それが守られるとは限らない。
うーん……確かに一般的な改装業者に頼んでも大丈夫かなぁ。
しかも町から距離があり、魔物も出没する地域なので追加料金待ったなしだ。
金銭的な面をクリアしても、業者選びで苦労しそうだなぁ。
アベルの感じを見ると、アベルもすぐに改装業者を見つけるのは難しそうだ。
となると、今回のダンジョンでの戦利品は換金しないで俺の収納にナイナイして――。
「む? 屋敷の改装か……確かにここは人間が出入りするのは少々難しい場所かもしれぬな。ふむ……森の民に建物弄りが好きな者もいるな。私からそちらを当たってみようか?」
え? 森の民?
確かにめちゃくちゃ広い森だから、色々棲んでいそうだよね!!
ラト達の正体を知っている者なら、うちで変なことをしようとしないだろうし安心だな。
森の民なら変態イクリプスがうちの近くをウロウロしていても、ドリュアスだからで済ませてもらえるだろう。
いいな、ラトの伝手でお願いするのは、ありありのありだな。
その話、詳しく聞かせてくれないか?
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