第785話◆ヴァンパイアという存在
「今回も留守番よろしく。いつも助かっているよ、ありがとう」
「じゃあいってくるね。一泊二日の予定だけど、ダンジョンは何があるかわからないからね。もしかすると一日くらい延びるかもしれないね」
「そうだなー、あのダンジョンはでけーから不測の事態も起こりやすいしなぁ。でも超大物を倒して土産をたくさん持って帰ってくるから楽しみにしてろ!」
「僕は足を引っ張らないように頑張ります! では、いってきます!」
「カッカッカッ!」
「キッキッ!」
「ズモモモモモッ!」
まだ気温が上がる前に爽やかな夏の朝、ラトと三姉妹に見送られながら玄関を出た。
突然決まった王都のダンジョン行き。
昨夜、箱庭弄りで盛り上がった後大急ぎで準備をしてベッドへと入り朝を迎えた。
王都のダンジョンに行く面子は俺とアベルとカリュオンとジュスト。
雑用係に魔法使いにタンクにヒーラーという何となくバランスの良さそうなパーティーだが、物理火力面でやや不安があるかもしれない。
メインアタッカーはアベルだが、魔法が効きにくい相手は俺とカリュオンが頑張るしかない。
それからジュスト。しばらく会えなかった間にどれほど成長したか見せてもらうぞ!
その俺達に加え、俺の肩の上にはカメ君が、カリュオンの肩の上には苔玉ちゃんが、ジュストの肩の上には焦げ茶ちゃんが乗っている。
普段行かないところに行く時はだいたいついてくるカメ君に加え、今回は苔玉ちゃんと焦げ茶ちゃんもついてくるようだ。
サラマ君は昨夜箱庭弄りが解散になったタイミングで、名残惜しそうに帰っていった。
アベルの肩の上が空いているし、せっかくならサラマ君も一緒に行けたらよかったんだけど残念だ。
「あらあら、小さな皆様も一緒に行かれるのですね。気を付けていってらっしゃいませ」
「また遠見の魔法で覗くわね。グラン達のダンジョン探索は、私達の知らない世界ばかりで楽しくて好きよ。帰って来たら、楽しい話をたくさん聞かせてちょうだい」
「お土産もお土産話も楽しみにしてますのでぇ、お家のことは任せてくださぁい」
はぁん、三姉妹は可愛いなぁ。
ロリコンじゃないけど幼女に見送られるとやる気が出ちゃう~。
すっごくたくさん稼いで、お家をばばーんと増築改装するから楽しみにしていてくれよ~。
「うむ、家と箱庭のことなら我々に任せておけば安心だ」
家は安心かもしれないが箱庭に関しては全く安心できないどころか不安しかないんだよなぁ。
「それじゃ、いってきます!」
箱庭の行く末に不安を覚えながらもラト達に手を振った直後、アベルの転移魔法が発動してヒュンと視界が王都の景色に切り替わった。
今日から久しぶりの王都のBランクダンジョン、今回目指すのは前回は行かなかった二十二階層より先。
前回来た時はリヴィダスもいて二十一階層まで行った。最後の最後で嫌なことはあったが、まだ冒険者活動に不慣れなジュストに色々と教えながらの楽しいダンジョン探索だった。
今回は最後の最後まで楽しくいけるといいな。
今回の予定は二十階層のセーフティーエリアまで転移魔法陣で移動して、そこから先の階層へと進む予定だ。
このダンジョンは二十一階層以降で、そこまでの階層よりグンと難度が上がる。
二十一階層は灼熱荒野、過酷な気候に加えワイバーンが群を成して飛び交い空から奇襲を仕掛けてくる。
他にも荒野特有の危険な魔物が多く棲息する階層である。そういえばこの階層ランドタートルもいるんだったな。
ま、こないだバカでかいのを倒したばっかりだから、ランドタートルはしばらくいいかなぁ。
というか今回はこの階層はそれより奥の階層に比べ儲けはいまいちなのでスルーをする予定だ。
今回の目的は二十二階層以降。
できれば最下層の三十階層まで行きたいところだが一泊二日でそこまで辿り着くのは厳しいそうなので、二十五階層のセーフティーエリアまでいって帰還魔法陣で帰ることになると思っている。
行けたら三十階層まで行きたいなぁ、くらいの気分である。
そこまで行かなくても、手軽に稼げる階層が二十二階層――ヴァンパイア達の巣窟となっている階層だ。
二十二階層はヴァンパイア達の住む市街地とそれを囲む広い墓地階層で、墓地にはヴァンパイア以外にもゾンビやスケルトン、ゴーストなどの低級アンデッドも徘徊している。
そしてヴァンパイア達の住む町の外れにはフロアボスのヴァンパイアが住む大きな洋館がある。
この階層は、ランクの高いヴァンパイアからは良質の沌の魔石が手に入ることに加え、他の階層に比べ宝箱から珍しい魔道具や装備品、高価な装飾品が手に入りやすい傾向があり稼ぎのいい階層である。
それからボスを倒すと珍しい宝石や装飾品の入った宝箱が出やすかったな。
しかも今の俺ならナナシの効果で沌属性の魔石を無属性にすることもできて更に稼げそうだ。
だが敵がヴァンパイアということもあって油断ができない階層である。
ヴァンパイアは吸血鬼とも呼ばれるアンデッド系の魔物で、奴らに血を吸われて死んだ者はヴァンパイアとして蘇る。
ヴァンパイアとして蘇れば、ヴァンパイアになった時点の年齢で成長老化は止まるが、日の光や聖属性のものに極端に弱くなり、ヴァンパイアになったばかりの者ならば聖水一発で溶けてしまうし、日の光に触れた瞬間に砂になってしまうほどである。
魔力を含んだ血液を糧とし、吸血を繰り返すことでヴァンパイアとしての格は上がっていくが、自分をヴァンパイアにしたヴァンパイアの命令には逆らえず、もちろんそのヴァンパイアをヴァンパイアにした者にも逆らえない。
つまりに始祖に近いヴァンパイアほど多くのヴァンパイアを操れるということだ。
ただしより始祖に近い者の血を大量に吸えばヴァンパイアとしての格が大きく上がり、吸血したヴァンパイアの格以下であれば自分をヴァンパイアにした者の命令にも逆らえるようになると聞いている。
この同種食いのような行為はヴァンパイアの中では禁忌とされているが、格の低いヴァンパイアが下剋上手段として行うこともあるらしい。
もちろん吸血すれば格が上がるほど高い格のヴァンパイアから吸血する行為は極めて困難で、下剋上を狙った者はほぼ返り討ちにされ禁忌を犯した者として、二度と蘇らないよう血を全て奪われて抹殺されるとかなんとか。
そういう存在だから個体によって強さの幅が大きく、日の光や聖水だけで倒せる最下位の個体は人間のゾンビと変わらぬF~Eランク程度、始祖に近い存在ならばSを超えるとされている。
またヴァンパイアロードと呼ばれるヴァンパイアの真の始祖は、ヴァンパイアに有利な条件下なら古代竜とも互角に渡り合えるほどの力を持ち、未だ健在で世界のどこかにいるという。
ヴァンパイアの中には他者と共存の道を選び人間に対して友好的な者も多く存在するのだが、ダンジョンにより生成されたヴァンパイアはダンジョンが作り出した仮初めの存在故か自我のようなものは薄く、問答無用で人間を獲物と見なし血を吸いにくる危険な存在である。
そしてヴァンパイアに吸血され死した者がヴァンパイアになるということは、うっかりヴァンパイアになってしまう冒険者もいるわけだ。
二十二階層はダンジョンが作り出したヴァンパイアに冒険者のヴァンパイアも混ざっているので、精神的にあまりよろしくない階層である。
中には不死者になりたいからとか、ヴァンパイアに憧れてとかという理由で自らヴァンパイアになりにいく変人もいるが、だいたい自分より上のヴァンパイアに操られ悲惨な結末になる。
また人に対して友好的で人の中に混ざって暮らしているヴァンパイアも少なくなく、そういった者のほとんどはある程度格が高いヴァンパイアで、日の光や聖属性に対しても耐性を身に付けて、日中の町をウロウロしたり神殿に出入りしていたりと、言われなければヴァンパイアだとわからない。
中には冒険者活動をしているヴァンパイアもおり、王都の冒険者ギルドにもヴァンパイアの冒険者が数名いるのを知っている。
ちなみに吸血する対象は血液に魔力を含む生き物なら何でもいいらしいが、やはり自分達と姿形が似ている者がいいのか人型の生物を好む傾向があるようだ。
吸血する側の好みのせいで間違いないと思うけれど、ヴァンパイアって老若男女問わずだいたい美形なんだよね。
ヴァンパイアも子を成して増えることもできるらしいが、こうも整った顔ばかりだとなんとなぁく吸血する側の趣味を垣間見た気分になってしまう。
イケオジヴァンパイアやマッチョヴァンパイアは吸う側の好みということで納得するが、ロリショタヴァンパイアを見ると、彼らをヴァンパイアにした者をとっ捕まえて太陽光線炙りの刑にしてもいいのではと思ってしまう。
ちなみに王都にいるヴァンパイアの一人は語尾のじゃロリババア系ヴァンパイアである。
生物血液を糧とするという理由で無条件に恐れられることもあるヴァンパイアだが、吸血行為はそこまで頻繁に行わなくていいらしく人間の町で暮らす者は人間と変わらぬ食事をしている。
肉の焼き加減でもある程度は誤魔化せると、王都にいるロリババアヴァンパイア冒険者が言っていた。
そのように人に紛れて暮らすヴァンパイアのために、冒険者ギルドや魔法薬店では魔物の血液を加工した栄養補充用ポーションを売っている。
それでもやはり生き物の血は必要なので、人間と共存を望む者は相手の同意の上で死なない程度の吸血行為をしているそうだ。
吸血で死ななければヴァンパイアにはならないからセーフというヴァンパイア的な倫理の下、相手に負担にならない吸血をするらしいが、高い確率で吸血相手に惚れられて相手もヴァンパイアになることを選び、その結果格の高いヴァンパイアはハーレムを作り上げる傾向があるようだ。
何だそれ、羨ましいな!?
そんなヴァンパイア達の階層、ここで徘徊しているような個体は俺達にとってあまり脅威ではない相手ではあるが、時折格の高い個体も混ざっているので油断はできない。
それに吸血されて死ぬとヴァンパイアになるという特性がある以上、自分がヴァンパイアにならないようにするのは元より、ヴァンパイアになってしまった冒険者が徘徊している可能性も留意しなければならない。
身に付けているもので判別するしかないが、元冒険者のヴァンパイアを見つけたとしても対応が難しい。
徘徊しているだけや話が通じるならともかく、自我がなくなっていたりその者をヴァンパイアにした個体の命令で生者を襲うようになっていたりする場合は、自分達や他の冒険者のことを考えて始末をしなければならないという、なにげにメンタルに堪える事案も起こりうる階層である。
その冒険者をヴァンパイアにした親個体を探して始末すれば、命令が解除され意識を取り戻すこともあるが、この階層にたくさんいるヴァンパイアの中から個体を探し出すことも、ヴァンパイアになってしまった者をすぐに町に連れ帰ることも難しい。
何故なら格の高いヴァンパイア以外は太陽の光に極端に弱く、ダンジョンから連れ出したところで社会復帰が非常に困難だからだ。
ヴァンパイアになればその時点で体の時は止まり理論上は永遠を生きる者になるが、本当に永遠を生きることができるのは非常に格の高い一握りの個体だけだ。
なので、この階層ではうっかりヴァンパイアにならないよう細心の注意を払って行動しなければいけない――のだが。
「カーーーーッ!!」
「キエエエエッ!!」
「ズモーーーーッ!!」
ちっこい同行者達が大はりきりでヴァンパイアをなぎ倒しまくっていて、俺達は全くやることがなくせっせとアイテム拾い。
一度王都の冒険者ギルドに立ち寄って依頼を受けて情報を集めてから、やってきた王都近郊のBランクダンジョン。
転移魔法陣を利用した最短ルートで二十二階層まで来たのだが、これまで肩の上で大人しくしていたチビッ子達が二十二階層に入りヴァンパイアやその他のアンデッドの姿が見え始めたところで、何か変なスイッチでも入ってしまったのか競うように現れる敵をなぎ倒し始めた。
「楽ちんなのはいいけど、他の冒険者もいるから迷惑をかけるんじゃねーぞぉ。それからうっかりヴァンパイア苔になるんじゃねーぞぉ」
「俺が魔法を使う前にチビッ子達が全部倒すから、やることがチビッ子達がアンデッドを倒した後の魔石拾いだけじゃない」
「ひえー、チビッ子さん達強いー。のんびりしてたら魔石拾いが間に合わなくなりそう」
「ははは、俺はいつもとやってることは変わらないな! そうだぞー、のんびりしてるとせっかくカメ君達が倒してくれたアンデッドがダンジョンに吸収されちまうぞー! ほらほら、魔石以外にもヴァンパイアが身に着けていた魔法がかかった装飾品も残っているぞ、急いで拾え拾えーー!!」
アベルとカリュオンは退屈そうだが、俺にとっては平常運転。ジュストにとっては急いで回収する練習。
さぁ、たくさん魔石やドロップアイテム集めてうちの増改築資金にするのだー!!
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