第784話◆みんなで作る箱庭ガーディアン

 いくかぁ……王都のダンジョン。


 と言ったのは俺なのだが、王都のダンジョンに行く前にとても大事なことをやらなければならない。

 そのやらなければならない大事なことというのは――。



「でっきたーーーー!! カニ型ゴーレムスーパーシオマネキ君・ネオ!!」

 俺が誇らしげに掲げたのは、以前作ったカニの殻ゴーレムのスーパーシオマネキ君二号を改造したもの。

 スーパーシオマネキ君二号は、元々卓上クリーナーとして俺の部屋の机の上で大活躍をしていたものだ。

 ちなみに一号は、床掃除機として試運転中に足元を見ていなかったアベルに踏み潰されて砕け散った。


「ちょっと、グラン。明日から王都のダンジョンに行くなら、カニなんか作ってないでちゃんと準備しなよ。とくに今日は海で装備が汚れたんだからちゃんと手入れしないと」

「カニかー、カニ食いてーなー。てか、カニゴーレムって食えるのか?」

「カニィ?」

「明日の準備は寝る前にやる! 装備の手入れも寝る前に絶対やる! スーパーシオマネキ君・ネオはカニの殻で作ったゴーレムだから食べられない! カメ君はカニじゃなくて亀でしょ!!」


 どうしてもやらなければいけない大事なこと――それはカニゴーレム作りこと、キノコ君のお願いである箱庭に設置するガーディアン作りだ。



 夕食と風呂を終えスッキリした後は、酒を飲みながら箱庭に設置するガーディアンを作っていた。

 俺以外の奴らは酒を飲んだり、つまみをつまんだり、キノコ君一家がすでに寝てしまっている夜の箱庭を弄ったり、思い思いに過ごしている。

 今日は満月の日が近いこともあって三姉妹もまだ起きて箱庭を弄っており、もう日は落ちて外は真っ暗だというのにうちのリビングは賑やかだ。

 開け放っている大窓から吹き込む夏の夜の風は、前世の記憶にある夏の風と違って涼しくて心地良い。


 急遽明日から王都のダンジョンに一泊二日で行くことになり、明日の準備や装備の手入れをしなければいけないのだが、そんなことよりスーパーシオマネキ君二号を箱庭用に改造するのが先だ!!

 今日完成させて設置しなければ、きっとダンジョンから帰ってくる頃にはラト達によってガーディアンのお願いは達成されているかもしれない。

 俺が弄る分も残しておいてくれと言って今日の仕事に出たのだが、帰ってきたら案の定やばそうなゴーレムが箱庭のいたるところに設置されていた。

 出かける前に俺の分は残しておいてと言ったので残してあったというか、聖と光はラトと三姉妹、風は苔玉ちゃん、土は焦げ茶ちゃんがガーディアンを設置したようだった。


 残りは水と火と闇と沌。

 水はカメ君が対抗意識を燃やして設置しそうだなぁ。カメ君が設置したガーディアンの子分でいいから俺のカニゴーレムも置かせてくれよぉ。カニだから水属性なんだよぉ。

 闇と沌はジュストと毛玉ちゃん、それにフローラちゃんも加わって三姉妹に指導をされながら、昼間にせっせとゴーレムを作ったらしいがいまいち強さが足りないようでキノコ君に首を横に振られたそうだ。

 ジュスト達が作ったゴーレムの強さが足りないというか、他の面子が作ったのがやばすぎてバランスが取れないだけでは……。

 そして火は――。


「ゲッゲッゲッゲッ!!」

「カーーーーッ!!」

「ギッ!?」

「モッ!?」


 やっぱり今日も夕食ができる頃に滑り込みでやってきたサラマ君。

 今日は手土産に南国のフルーツをたくさん持ってきてくれたので、食後にみんなで美味しくいただいた。

 この手土産には甘いものが好きなアベルも三姉妹も、果物好きのカメ君もご機嫌である。


 昨日は何か用事があったのか夕食の後そそくさと帰っていったサラマ君だが、今日は夕食の後も残ってお酒を飲みながら箱庭を弄っている。

 真っ赤な火属性、そのうえ箱庭に火山を生やした実績もあるサラマ君がカメ君達と縄張り争いをしているようだと思ったら、サラマ君が生やした火山にマグマでできた竜のゴーレムだかガーゴイルだかが設置されていた。

 何それ、かっこいい!!


「ケッ!!」

 マグマでできた竜のゴーレムに心をくすぐられていたら、海の中からザバーッと水柱を上げながら水色の宝石でできた亀が姿を現した。

 これはカメ君が作ったガーディアンに間違いないな。

 水色の宝石はおそらくアクアマリン。以前カメ君に貰ったカメ型の宝石にそっくりで、キラキラと海色に輝く神秘的で美しいガーディアンだ。

「海が宝石になったみたいな亀ですごく綺麗だなぁ。さすがカメ君だぁ」

「カッカッカッ!」

 あまりの綺麗さにため息を漏らすと、カメ君が満足げに頷いた。


「キキッ!」

「モモッ!」

 サラマ君とカメ君に対抗するように、森の中から木でできた鳥のような生き物が風と雷を纏いながら翼を大きく広げ飛び立ち、箱庭の隅っこにある荒野では鮮やかな赤に輝く鉱物がいかにもゴーレムというような人型となり立ち上がった。

 木の鳥は苔玉ちゃんかな? そして鮮やかな赤の鉱物のゴーレムは焦げ茶ちゃんかな?

 何だろうあの金属。深紅とか緋色とかいうような赤なのだが、反射する光が虹色にも見える不思議な鉱石。

 ものすごく手に取って触って何の鉱石か確かめたいな――と、マジマジと見ていたら緋色のゴーレム君と目が合って、照れ屋さんなのかスッと荒野の地面の中に戻っていった。

 ええ~、何の素材かよぉく見せてほしかったんだけどぉ~。

 まぁいいや、箱庭の中にあるものならそのうち詳しく見る機会はあるだろう。


「見て見て、こっちは私達のガーディアンよ。木が聖で白い毛玉が光よ」

「木は以前ラトが植えた木ですけど、聖の魔石を埋め込んでガーゴイル化させましたの。毛玉はラトが自分の毛で作った光属性の何かですわ」

「木は聖なるガーディアンで、毛玉は光のガーディアンですよぉ」

「神獣を連想する獣のガーゴイルを作ろうとしたら、上手く形が作れずただの丸い毛玉ガーゴイルになっただけだ」

 箱庭初期にラトが植えて以来弄くり回しまくって、箱庭の中でスクスクと成長していた立派な御神木の幹に凹凸が現れ女性の体つきのようになっている。

 頭部がありそうなあたりは葉で覆われており顔までは確認できないが、枝で手、そして背中に生えた翼のように見えなくもない。そしてやべー聖属性。

 それからその木の根元にいる謎の毛玉。ただの丸いだけの毛の塊。

 光のガーディアンだとラトは言っているが、抜け落ちた獣の毛を丸めただけの何かのようにしか見えない。

 材料はラトの毛のようだし、その認識で間違っていない気がする。

 しかしラトの力作だと思われるので、形状にツッコミを入れるのはやめておこう。

 ……よく見ると、ぷるぷるぴょんぴょんしていて可愛い気もしないでもない。酒好きのガーディアンにならないか不安だけど。


「こっちは僕と毛玉ちゃんとフローラちゃんで作った闇属性の花のゴーレムなんですけど、やっぱり皆さんほど上手くできなくてキノコさんにやり直しを命じられました」

 ジュストの手の中には、茎が絡み合い人の体のような形となり、頭部には花びらがたくさんある白い大輪の花を付けた植物のゴーレム。

 毛玉ちゃんは森へ、フローラちゃんはいつもの柵へ戻ってこの場にはいないが、この植物のゴーレムからは彼らの魔力をはっきりと感じる。

 その花の形は前世で月下美人と呼ばれた花、今世ではリュンヌと呼ばれる満月の夜に咲く闇と光の二つの属性を持つ花にそっくりである。

「ふぅん……これはリュンヌだね。そうだね、他のガーディアンが強力すぎるからそれに比べると力不足だね。でもジュスト達が作ったにしてはよくできてるじゃない。確か明後日が満月だから、満月の光に晒すと闇と光の魔力がたくさん集まるかもしれないね。でも、やっぱりそれだけだとまだ足りないかもしれないから、これは今夜俺が預かって明日の出発前までにしっかり光と闇の魔力を詰め込んでおいてあげる。ジュストも明日からのダンジョンは一緒に行くから、これはフローラちゃんに任せて満月の光に当ててもらうといいかな」

「じゃあ、アベルさんにお任せします。その後はアベルさんの提案通りフローラちゃんにお願いします」

 昨夜、夜中にこっそり箱庭を弄っていたアベル、箱庭にあまり興味のなさそうな顔をしているがやっぱ弄りたいんだろうなぁ。

 この照れ屋さんめ。


 で、残るは沌なのだが……うちに出入りしている面子に沌属性に特化した者がいない。

 毛玉ちゃんがどちらかというと沌よりではあるが、ジュストとフローラちゃんと一緒にやった闇ですらキノコ君にダメ出しをされたので、沌も足らないだろうなぁ。

 当然俺も沌属性は苦手中の苦手だし、ハイエルフの血を引くカリュオンも沌はあまり得意でない。アベルが俺達よりマシなくらいかなぁ。

 それでもこのピカピカで聖だらけの場所に置くには力不足になりそうだ。

 キノコ君に”過ぎたるは猶及ばざるが如し”とヒントを貰ったというのに、この過ぎたる聖というか全体的に過ぎたる予感しかしないガーディアン達。

 大丈夫か、箱庭!?


「沌かー、沌なぁ……とりあえず明日王都のダンジョンにいってさ、二十二階層目がヴァンパイアだらけの階層だからそこで何かいいものがないか探してみようぜ。そこでめぼしいものが出なかったら、シルエットにボーンゴーレムを依頼すればいいんじゃねーの? 骨のゴーレムとかシルエットの専門分野だし」

「そうだな、沌でゴーレムとかシルエットの得意中の得意だもんな、ダメならシルエットに頼むか」

「く……、属性との相性は訓練じゃどうにもならないからね……くやしっ! シルエットに頼むのは最後の手段だからね!」

 明日行く予定の場所にはヴァンパイアが闊歩する階層もある。カリュオンの言う通りそこならガーディアンの素材になりそうなものを拾えるかもしれない。

 そして沌といえばやはりシルエット。どうしてもダメならば、シルエットにお願いするしかないな。


 というわけで、すぐにどうにもならない闇と沌は後回し!

 それ以外は全て埋まってしまっているが、ガーディアンの子分がいたっていいじゃないか!!

 俺のスーパーシオマネキ君・ネオも箱庭に置きたいーーーー!!

 外側はシオマネキの殻、動力は今日拾ってきたシージュエル。

 実はこっそり殻の裏側にメイルシュライムのゼリーを塗って、水属性を底上げしている。

 カニの殻なので強度は微妙だが、底上げした水属性で物理防御系の付与をたくさんしてあるから少し硬くなってるはずだし、ザバーッと流水攻撃もできるぞ。

 なので、カメ君が置いた亀ガーディアンの子分にしてー!!


 置いていい? 亀ガーディアンの子分にしてくれる? やったー!!

 え? 何々? カリュオンがウンディーネの鱗をくれるって? ああ、ハイエルフは水系の妖精と仲がいいもんな。

 よぉし、カリュオンに貰ったウンディーネの鱗でスーパーシオマネキ君・ネオの強化で、俺とカリュオンの合作みたいだな!

 え? アベルもなんか手伝ってくれるの? レッサーホワイトドラゴンの鱗? ええ……それって氷属性じゃん。ま、氷は水の上位だから問題ないかー!

 アベルに貰ったレッサーホワイトドラゴンの鱗をくっ付けて、スーパーシオマネキ君・ネオが吹雪攻撃もできるようになったぞー!

 スーパーシオマネキ君・ネオは、俺とカリュオンとアベルの合作ガーディアン――の子分だな!


 ガーディアン作りには全員参加になったなー。合作みたいな感じで楽しかったな。

 ガーディアンだけではない、この箱庭が皆で強力して一つの世界を作っているみたいだな。

 ああ、せっかくここまで協力して作ったのだから、キノコ君が住みよい世界に仕上げような。


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