第778話◆楽しい薬草採取
「こっちが依頼の薬草で、こっちは葉っぱの形が似てるけどただの草。こっちは根っこの形がすごく似てるけど、毒があるもの――ですわ」
「正解、完璧だね。この毒のあるやつは葉っぱは全然似てないから葉っぱを見ればまず間違うことはないんだけど、纏めて掘り起こしたり葉っぱを千切った状態で持ち帰ったりするとすごく間違いやすいんだ。だから、根っこだけの時は使う前、ギルドに提出する前にちゃんと鑑定をする癖を付けようか。こいつだけじゃなくて、間違いやすい植物は全部そう。中には死に至る毒もあるから、間違っていない自信があったとしても使う前に鑑定すること。それに鑑定スキルが上がれば、品質も見ることができるようになるから、同じ素材でも用途に応じてより有効な使い方が選べるからな」
「やった! 勉強をしてきた甲斐がありましたわ。今回は間違えずに採取できましたわ。それに前回より鑑定結果がはっきりとわかるようになってましたわ」
セレちゃんが嬉しそうに微笑んで採取した薬草をポーチ型のマジックバッグに入れる。
先週薬草と毒草に見分けがつかないと言っていたが、アベルに宿題を出されて猛勉強をしたのだろう。
判別に時間はかかっているものの、今のところミスはしていない。
「鑑定結果がはっきりとわかるようになったのは、セレちゃんが失敗しながらでも採取の仕事を続けて、薬草についても勉強をしたからだよ。それから、冒険者活動をしながら鑑定スキルを頻繁に使ったのならそれもありそうだね。個人差はあるけど鑑定スキルの基本は知ってるよね?」
「はい、鑑定は魔力を使って対象の情報を読み取るスキルで、鑑定する対象の用途に関するスキルがあればより精度が上がります。ただし対象の魔力抵抗でその効果は減衰し、魔力の多い対象ほど鑑定の精度が下がりやすい傾向があります。これは使用者の魔力量とも関係しているため、鑑定スキルの精度を上げるためには鑑定スキルだけではなく、他のスキルや魔力も上げ、関係する知識を増やすことにより詳細な結果を得られると習いましたわ」
そう、鑑定スキル使用者の知識が増えたり関係するスキルが成長したりすれば、それが鑑定スキルの精度にも反映されるという性質がある。
鑑定スキル自体は非常に上がりにくいスキルなのだが、鑑定する対象に関する知識があれば鑑定の精度は上がるのだ。
それは鑑定系のスキルならどれも同じ傾向で、アベルの究理眼も例外ではない。
裏返すとそれは、知識やスキルがない分野のものの鑑定に関しては、ふわっとした感じの情報しか読み取ることができないということだ。
「大正解、正しく鑑定スキルの性質をちゃんと理解しているね。セレちゃんの鑑定スキルの性能が上がったのは、セレちゃんの努力の結果なんだよ。そしてこのまま学んで、失敗を恐れず採取の仕事をしていると鑑定スキルの性能はどんどん上がっていくし、知識や経験が増えると鑑定スキルに頼らずとも見た目だけでも判断できるようにもなってくるぞ」
「学べば学ぶほどそれが結果に反映されるのは学び甲斐がありますわね。アベル兄様の出した宿題を頑張った甲斐がありましたわ。ふふ、これからもっと学べばもっと薬草を見分けられるようになるのですね。採取も間違えずに集められると楽しいですわ」
セレちゃんの表情が緩くなり、花が咲くようにパアアッと笑顔になった。
「ふふ、セレは頑張ったみたいだから褒めてあげるよ。今日も宿題を出すから、この調子でもっと薬草や調合について学ぶといいよ。どちらも冒険者の基礎の基礎だからね。それに薬草に詳しくなるってことは、毒草にも詳しくなるってことだからね。そうなると鑑定スキルの精度も上がるから、身近にある毒にも気付きやすくなって身を守りやすくなるからね。そんなことはない方がいいけど、もしもの時のためにちゃんと薬草や毒、それを利用する調合について学んでおくこと」
「アベルお兄様に褒められたわ! 滅多に人を褒めないアベルお兄様に褒めて貰えたわ! ええ、頑張りますわ。調合はまだ基礎の講習を受けただけですから、初歩的なことしかできませんがこちらもやってみますわ。そうですわよね、冒険者の方々はポーションを使われてますものね」
アベルに褒められてセレちゃんの笑顔が更に明るくなる。
また宿題が増えそうな雰囲気だが、アベルの言う通り薬草や調合に詳しくなれば毒にも気付きやすくなる。
きっとこの宿題は冒険者の基礎という意味だけではなく、セレちゃんの安全のためにも言っているのだろう。
わかりにくいけれど、そういうところが素直になれないアベルのさりげない優しさなのである。
「じゃあ、他の依頼の薬草も集めようか。時間はあるからわからなければこまめに鑑定をしながら採取するんだ。間違えても、それを次に活かせばいい。次のためになる間違いは良い間違いなんだ」
「はい! 次も勉強をしてきた成果を見せて差し上げますわ! そして兄様にまた褒めてもらうのです!」
「これは目的の薬草と似ていますが毒のある草ですね。大量に食べてしまったり、ポーションに加工したものを摂取したりすると、最悪の場合死に至る可能性もあると」
「正解、よく見分けたね。でもこいつは使い方次第で薬にもなるんだ。そして薬草と呼ばれるものでも摂取しすぎると副作用が出たり、毒と変わらないような症状に陥ることがあったりするんだ。毒も薬も紙一重ってことを忘れてはいけないよ。余裕があるなら、危険な毒を持っていることで有名な植物についても調べてみるといいよ。薬草の知識が増えれば採取の依頼は目的のものを集めながら、依頼品以外にも役に立つ素材を同時に集めることができるんだ。そういうわけで、普通に使えば毒になってしまうこいつは俺が貰っておくよ」
「ちょっとグラン。いいことを言ってると思ったら、そうやって変な草を自分のものにしてる!! さっきから時々、よくわからない草を回収してるのはちゃんと見てるからね! それからさりげなく変な素材を溜め込むことをセレに教えないで! ていうか、そういうわけってどういうわけ!?」
「まぁまぁ、あの草は扱いは難しいけどグランの言う通り薬にもなる素材だからな。ポーション屋はそうでもないが、普通の薬屋がたまにほしがるやつだな。グランなら扱えるのか? ま、グランなら持っていればそのうち何かの役に立ててくれるだろぉ? これは爆発するもんじゃないから問題ないんじゃないかなぁ?」
「カリュオンはそうやってすぐグランを甘やかすんだから! 何でもかんでも持って帰って持ち物が溢れるだけじゃなくて、思いつきで実験していつも禄でもないことになってるでしょ!? 爆発しなけりゃいいってもんじゃないよ!! さっきのスリープ事件を忘れたの!?」
「あぁ……素敵先生ムーブかと思いきやさらりと私欲にまみれた行動に、タイプの違う保護者付き……」
セレちゃんの採取作業はとても順調。
慣れていても油断をすると間違えかねない類いのものを時々間違えることはあるが、ミスはそれほど多くない。
鑑定の精度がある程度上がっているので鑑定すれば結果はわかるのだから、面倒くさがらずに鑑定をすればそう間違えることはない。
その鑑定を怠りやすい場面に、似ているけれど違うものは潜んでいる。
そっくりだけれど実は違う植物が、さも同じ株であるようなくっ付いて生えているとか、群生しているところにさりげなく違うものが混ざっているとか。
これは誰しもうっかりとひっかかってしまうやつだ。採取効率を上げようとすればするほど。
最初は丁寧でいいのだ。そして慣れてきたころが少し怖い。そこを乗り越えれば脱採取初心者だ。
そして採取作業をする時に目的のもの以外にも、後々役に立ちそうなものも一緒に回収しておけば少しお得な気分になれる。
毒草だって薬になるものもある。この世に無駄なものは案外少ないのだ。
だけどこの毒草はセレちゃんにはまだ早いから俺が回収して責任もって正しく使ってあげるね。
後ろでアベルがうるせーけど気にしない。
採取はアベルより俺の方が得意だからと、俺に任せたのはアベルなのだから授業の邪魔をしないでくれないか?
カリュオンは俺を甘やかしてるんじゃなくて、俺を信じてくれているのだ~。そう爆発するようなものじゃなければ大丈夫~。爆発するものでも俺にかかればだいたい大丈夫だ~。
さっきのスリープ事件はすまんかった。
ていうか、リリーさん目の焦点が合っていないけれど大丈夫?
授業参観がもしかして退屈?
もっと賑やかで実践的で刺激的な授業の方がいいかな?
薬草の採取が終わったら、浜辺でシージュエルの採取だからその辺りは魔物も寄ってくるかもしれないから、きっと少し刺激的になると思うぞおおおお!
セレちゃんの冒険者野外授業、今のところすごく平和。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます