第772話◆参観者の多い授業
「おぉー日暮れ直後の夜空みたいで綺麗な紺色だね、ラピスラズリスライムか。しかもいい感じに色と魔力が凝縮されてて、色が綺麗なだけじゃなくて聖属性の魔力も少しだけど含まれてるね。こっちは孔雀石のスライムか、これも孔雀石の属性通り風と闇といった感じだね。孔雀石の方は弱いけど毒性があるから、肌に付着しないように気を付けた方がいいね。スライムが取り込むと素材の効果が濃縮されやすいからね」
「うん、レッド先生に分けてもらった孔雀石を与えて育ててる孔雀スライムの瓶には、ちゃんと毒シールを貼ってあるよ。ラピスラズリは濃い紺色のインクにしたくて、スライムの水分を控え目にして育てたんだ。そしたらラピスラズリの聖属性も濃縮されちゃったみたい。手紙用のインクにって思ったけど、聖属性を含んだインクとしても利用方法がないかなーって考えたんだ」
「付与にも使える程度の魔力を含んだ属性付きのインクは、魔力と相性のいい紙に魔法陣や文言を書けば紙に色々な効果が付与できるな。それ用のインクは魔力をできるだけ込められるように濃縮してある粘度がやや高めで濃い色のもので、紙は魔物の皮で作った魔皮紙が中心だが札やスクロールなんかがその類いのものだなぁ。一回使い切りだとしても紙なのでかさばらないし、使い捨てのものの方がよい状況もあるからな、紙とインクを利用した付与は実用されているものも多いな。日常生活や野外活動の助けになる生活補助用のものから、冒険者や旅人が身を守るために使うもの、女性や子供向けの護身用のもあるな。そんなのが魔道具屋にいくと売られているぞ。インクと紙を付与に使ったものはすで存在しているけど、その内容は発想次第だ。そしてインクも紙もまだまだ改良発展の余地はあるな」
「内容は発想次第かー。聖属性のインクで付与できそうなものは何だろう。魔除けとか? でも強い付与に使えそうなほどの魔力は含んでないなぁ」
「そうだなぁ、このくらいなら軽いお守り程度かな。聖属性は魔除けとか回復が代表的な効果だから、手紙を書くときに相手の安全や幸せ、健康を祈りながら書くと微弱だが浄化効果や回復効果が備わるし、知識を持って付与すれば効果は大きくなるはずだ。言葉や想いというものはそれだけでも力を持っているんだ。それを技術と知識を以て効率的に使っているのが魔法や付与なんだ」
「このくらいでも少しくらいは効果があるかもしれないんだね。じゃあ、相手のことを想いながら書く手紙に使うインクにぴったりだね。ふふ、相手の安全や幸せを祈りながら手紙を書くと効果があるかもしれないインク。手紙好きなご令嬢達にすごく人気が出そうじゃない?」
リオ君のスライム育成は順調のようで、インク用のスライムもスクスクと育って鮮やかな色になってきている。
特にラピスラズリを与えて育てているというスライムは、水分を少なめにして育てたらしくいい感じに濃縮された深みのある紺色になっている。
色が濃いため透き通っているようには見えないのだが、これは色が圧縮された状態――透けている濃い色が幾重にも重なっているいるような状態なだけ。
毒を持てば濁って透明度が下がるスライムだが、これは透明のまま圧縮されている毒性がないスライムだ。
すごい、すごいぞ! リオ君!
ラピスラズリは上品な紺色の鉱石で強い聖属性を持っており、装飾品としても人気がある鉱石だ。
もちろん、お高い。
そんな鉱石をスライムに与えてここまで濃縮してしまうのだから、技術もすごいが経済力もすごい。
さすが、お貴族様! アベルの弟!
しかもリオ君の言うとおり、ちょっとしたまじない効果のあるインクなんて女性が好みそうだし、貴族女性をターゲットにしたものならラピスラズリという高級素材も人気の要因になりそうだ。
ついでかもしれないけれど、俺が勧めた孔雀石でもスライムを育ててくれて嬉しいぞ! 毒シールも貼ってあってばっちりだ!!
孔雀石はもとから微弱な毒性があるからな、やっぱスライムに食わせると濃縮されるよな。
ラピスラズリスライムのように濃縮された濃い色ではなく、透明度の低い緑色のスライムに仕上がっている。
「へぇ、思ったよりちゃんと先生をしてるなぁ。もっと何かが爆発してることを期待してたのになぁ。それにしても早口すぎて何を言ってるかさっぱりだな。それを聞き取って理解できるアベルの弟君はすげぇな」
「変に期待に応えられたら困るから、そんなつまらなさそうな顔をするのはやめてよ。ていうかそのラピスラズリスライムで商品化を目指すなら、専門家にも相談してテストと調整はしないとダメだよ!! グランの指導で作ったものなら、九割いや十割はとんでもないものなんだから!! それと、うちのリオは俺に似て優秀だからね!!」
「あぁ……これは供給過多……いえ、供給はいくらあっても問題ないので栄養過多ってやつですわ……」
カリュオンとアベルはうるせぇぞー。授業参観なら授業の邪魔にならないように静かに参観しろ。
リリーさんは、リオ君の育てているスライムの話かな? 供給過多ってインクのこと? 栄養過多ってスライムのこと?
商売のことは俺にはよくわからないが、インク用のスライムは透明すぎてもダメだとリオ君が言っていたから栄養過多くらいでちょうどいいんじゃないかな?
おっとそんなことより授業に集中集中。
せっかくスライムがいい感じに育ってきたのだから、さっそくそれを使って効果を確認してみるのもいいな。
というか、スライムが育ってくると効果を確認したくてうずうずするもんだよな!!
「じゃあ、育てたスライムのゼリーを少しだけ採取して効果を確認してみようか? ゼリーを採取した後は実際に魔皮紙にゼリーで文字を書いて付与を試してみようか。リオ君は付与はわかるかい? わからなかったら初歩的なやり方を教えよう」
「付与は簡単なのならできるよ! 自分で育てたスライムを使って付与をするなんてドキドキするね!」
「ああ、自分で育てたスライムを実際に使うのは楽しいからな! よっし、じゃあまずスライムゼリーを掬う作業をしようか」
ははは、お楽しみタイムが始まるぞーーーー!!
「俺さ、今すごく嫌な予感がしてるんだけど?」
「マジか? 俺はちょっとワクワクしてるぜ?」
「もー、カリュオンはグランに甘すぎなんだよ。これ絶対やばいことになる流れだよ」
「ははは、まぁでも、今まで致命的にやばいことになったことはギリギリないから大丈夫じゃないか? しかもだいたい結果よしになってるしな。何だっけ、グランが前に言ってたぞ? 怪我の功名? 禍を転じて福となす?」
「またグランのよくわからない言い訳だ! 禍は転じてってレベルじゃなくて、転がりまくって膨れ上がって周りを巻き込んで大惨事になってるよ!!」
「ははは、アベルは心配症だなぁ。おっと、よそ見をしてていいのか? グランのおもしろマジックバッグからやばそうなスライムゼリーが出てきたぞ」
「え? やばそうなスライムゼリー? まだあのメイルシュライムとかいう物騒なスライムのゼリーが残ってたの!?」
後ろでごちゃごちゃ聞こえるけれど気にしない。
今日はスライムゼリーを使った実習なのだ。
実習のある授業は楽しいもんなあああああ!! 楽しい授業は生徒もやる気が出る!!
さぁ、楽しいスライム実習の始まりだあああああ!!
「ああ……保護者ムーブ頂きました……って、やばいスライムゼリー!? メイルシュライム!? って、またあのシュライムゼリーですかああああ!! そのやっべーシュライムゼリーは禁止!! 禁止でございますわああああああああ!!」
後ろからリリーさんの叫び声も聞こえて来た。
授業参観は静粛にお願いしたい。
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