第771話◆四つ目のお願い

「四つ目のお願いは――属性のバランスが取れたから、次はそれらが暴走しないようにそれぞれ属性にあった守護者を置いて欲しい。ということだけど、めちゃくちゃハードルたけーなおい!?」

 朝食を食べながら、三つ目の鍵を貰った後キノコ君からの四つ目のお願いをみんなに伝えた。

 そして頭を抱えた。


 守護者を置くってどうすんだよ。もうそれ人間の力でどうにかなることじゃないだろ!?

 もうこの箱庭はラトや三姉妹に丸投げするか?

 今でもほぼ丸投げではあるのだが、オーナーは俺なので簡単に無理だとは諦めたくない。


「ふむ、属性にあった守護者か……現実でいう古代竜のような存在のことか? さすがに、そういう存在を創るのは神――創世の神の所業になる故、我らには無理だな」

 箱庭を節操なく弄くり回している代表格のラトですら難しい顔をしている。

「そうですわねぇ……四つ目にして突然難しいお願いがきてしまいましたわね」

「ダンジョンのような場所で魔力が具現化して発生する仮初めの存在とは訳が違いそうですねぇ」

 ウルとクルも難しい顔をしながら首を捻っている。

 ラトや三姉妹達ですら難しい顔をするこのお願い、解決できるのか!?

「仮初め……仮初めの命……そうだわ! だったらゴーレムかガーゴイルを置けばいいじゃない」

 と思ったら三姉妹の次女ヴェルがポンッと手を叩いた。


 やや天然系だが思慮深い長女のウル、おっとりしているがしっかり者のクル、その二人に挟まれた次女のヴェルはハキハキとしていて行動的だがやや脳筋である。

 いつもはゴリ押し系の発想が多いヴェルなのだが、これはすごくいい案なのでは!?


 簡単なゴーレムなら三姉妹の指導の下、俺も作ることができるようになっている。

 ガーゴイルもゴーレムも人為的に作られ魔力を動力として動く彫像の一種であるが、単純な命令しかこなせず複雑な動きも苦手で彫像感が残るゴーレムと違い、ガーゴイルは動き出すと本物の生物顔負けなほど滑らかに動き、個体によって動き出すと生き物と見分けのつかない姿になることも。そしてなにより複雑な命令をこなし、高い学習能力を持っており感情すらも学習するものもいる。

 圧倒的にガーゴイルの方がゴーレムの上位ではあるが、作成技術やコストがゴーレムに比べ高いのはもちろんのこと、運用の燃費もガーゴイルの方が圧倒的に悪い。


 俺に作れるのは簡単な命令をこなす小型のゴーレムくらいだが、三姉妹達なら性能のいいガーゴイルを作れるのだろうか?

 ガーゴイルを作るなら、作り方を教えてもらいたいな。俺には作れなくても、作るところを見てみたいな。

 それに守護者ってほどすごいものじゃなくていいから、俺もゴーレムを作って箱庭に置きたいな。

 そうだ! カニ型ゴーレム・スーパーシオマネキ君ネオを作って、池か川の主になってもらう。それくらいなら、俺のゴーレムでもできないかな?


「なるほど、各属性のゴーレムかガーゴイルを作って箱庭内の各地に設置し、環境を管理させるということか。ふむ、それなら可能だな」

「カメェ?」

「キキィ?」

「ズモォ?」

 ヴェルの提案にラトが同意の姿勢を見せると、テーブルの上で並んでリンゴをシャクシャクしていたカメ君と苔玉ちゃんと焦げ茶ちゃん達が顔を見合わせた。

 君達、またやりすぎるとキノコ君が困惑するから、ほどほどにだよ! ほどほどに!!

 過ぎたるは猶及ばざるが如しって言葉をよぉく心に刻んでおいて!

 そしてその提案、俺も興味がすごくあるので俺が仕事にいっている間にサクサク終わらせてしまわないで!

 俺のスーパーシオマネキ君も箱庭の仲間に入れて!


「守護者作りには俺も参加――」

「はいはい、グランは今日は仕事でしょ。のんびりしてると遅刻するから、その話はまた帰ってからね」

 ああ~、今日は本当に家庭教師の日~。

 アベルに促され時計を見ると、そろそろ朝食を切り上げて出発する準備をしなければいけない時間だった。


「おいぃ、苔玉ぁ。箱庭はグランの持ち物だから弄りすぎるんじゃねぇぞぉ」

「キッ!」

 カリュオンに言われ、苔玉ちゃんが元気よく前足を上げて応える。

 ていうかカリュオンはやっぱりついてくるんだ。アベルのお守りかな?

「カ、カメッ!」

 そうだね、カメ君はカレンダーにカメマークがあったからお出かけの日だね。

 カメ君も弄りたいみたいだから、守護者の件は今日帰ってからだな。


「箱庭は俺やカメ君が弄る分も残しておいてくれたら好きに弄ってもいいから、でもケンカはしないようにな。じゃあ、俺達は仕事にいってくるから留守を頼むよ。ジュストも変なことに巻き込まれないような。焦げ茶ちゃん、今日もうちにいるなら棚の中のおやつは好きに食べていいからジュストをよろしく頼むよ」

「今日は、家で夏休みの宿題をやる予定なので、もう変なことに巻き込まれないと思います!!」

「モ……」

 家にいれば安心かと思いきや、箱庭に吸い込まれて大冒険をしてしまうジュストだ。留守番だといっても安心できない。

 不安そうな顔の焦げ茶ちゃんは、すでにジュストのついてなさを理解していそうだな。


 さぁ、今日は正真正銘家庭教師の日。

 もううっかりはしないぞ!!




 箱庭の守護者の話がものすごくきになりつつも、今日も家庭教師レッド先生スタイルでフォールカルテへ。

 と思ったら、何故かアベルとカリュオンまで俺に合わせてスーツ姿だった。

 カリュオン、マジックバッグがパンパンなのならいつも通りバケツでもいいんだぞ?

 というか、午後からはセレちゃんのための冒険者講習だから、どっちみち午後になったら着替えるのに。


「いつもの恰好でもいいかなぁって思ったけど、せっかくだしぃ?」

「よくよく考えたら、他所様のお屋敷にフル武装でいくのはまずいかなって?」


 アベルの理由は完全に野次馬なのだが、カリュオンの言い分は一理あるな。

 入り口でバケツヘルムを外して顔を確認されるのは当たり前だろうが、鎧の中も確認されることになるはずなので、確かに鎧を着込んでいるといちいち面倒なことになりそうだ。

 外から全身纏めて鑑定する魔道具でピッとされるだけなのだが、カリュオンの鎧はものすごく魔法耐性が高いのでその魔道具を弾いてしまうと鎧を脱がないといけなくなってしまう。

 というわけで、今日はスーツトリオでフォールカルテの例の宿屋を訪れた。


「ようこそ、お待ちしておりました。昨日は一日間違えて来られたと伺って……ホッ!?」

「あ、すみません。一人多いんですけどよかったかな? 俺の連れというかアベルの連れというか……」

 やっぱ予定より一人多いと驚くよなぁ。昨日来た時にカリュオンも一緒に来るかもって伝えておけばよかったな。

 宿屋に入ると受付にいたリリーさんが俺達に気付き、これでもかっというくらい驚いた表情になった。

 高位貴族のお屋敷を訪れるのに予定外で一人増えるのはまずかったかなぁ? いや、ここはアベルの護衛ということで一つ!


「そうそう、カリュオンは俺の護衛役みたいなもんね。Aランクの冒険者だから身元は冒険者ギルドでも確認できるよ。っていうか、ハンブルクギルド長に色んな意味でめちゃくちゃお世話になってるから」

「あの人、マジなんなんだろうなぁ。俺の鉄壁防御の上から普通にダメージをくらったというか、ランクアップ試験の時にギフト貫通するくらいの攻撃をくらって、魔力消し飛んで負けたんだよなぁ。そういえばハンブルクギルド長は、プルミリエ侯爵家の人だったなぁ。おっと自己紹介がまだだった、王都で冒険者をやっているカリュオンだ、よろしくぅ! 野次馬だけどだいたいアベルとグランのお守り役だ! この二人のストッパーなら俺に任せろ!」

 カリュオンの自己紹介は色々と突っ込みたいことだらけなんだけど、とりあえずお前はストッパー役ではなく火に油を注ぐタイプだろ!? というかだいたい野次馬だろ!


「もちろんですもちろんです。カリュオン様のことは噂……えぇと、叔父からも聞いたことがありますので。ええ……昨日のうっかりの件も聞いておりますので、もしやと思っておりましたので問題ございません」

 少々動揺しているようにも見えるが、さすがリリーさん。昨日の俺のうっかりで察してくれていたようだ。

 ていうか、うっかりがバレてる!! でも俺のうっかりが役にたった!!


「いきなりで申し訳ない。じゃあ、今日もよろしく頼む」

 いきなり人数が増えてしまい迷惑を掛けてしまったかもしれないので、渾身の営業スマイルで誤魔化しておこう。


 でも迷惑を掛けた分は、スライムの授業で挽回するから安心してくれ!!



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