第768話◆その扉を開くには

「スピッチョはきらいだけど、このスピッチョのおひたしってやつはほんのり甘くて、スピッチョの苦みが気にならないから俺の皿にいることを許してあげるんだからね! 君は特別なスピッチョなんだから、光栄に思うといいよ!! でも、肉パタってやつにゴロゴロしてるニンジンは許さないよ!!」

 何言ってんだ、こいつ。

 俺の隣の席でスピッチョのおひたしに話かけながら、モリモリと食べているアベル。

 この反応からしてスピッチョのおひたしは気に入ったのだが、スピッチョだから認めたくないんだな。

 まったく、いい大人が変に負けず嫌いなんだからー。

 それと許さないと宣言したからって、俺の皿に空間魔法でニンジンを移動させていいってわけじゃないぞ。


「この肉とパタ芋の料理、ボリュームがあっても芋が大半なのは俺は気付いているぞぉ。だけどレッサーレッドドラゴンの肉だから、量より質で満足感はすごくあるな。まぁこの後のデザートと酒のつまみのために腹の隙間を残しておこう」

 肉じゃが……肉パタは芋とニンジンがゴロゴロしているもので、芋に味が染みこんで煮崩れするかしないかギリギリのゴロゴロ感がいいんだよ。

 それにいつもの夜のちょい飲みタイムがあるから、少し腹に隙間を空けておけ。その方が我が家のエンゲル係数にも優しい。

 って、エンゲル係数ってなんだっけ!? 料理を作るのにたくさん使ってやったのだから、飯の時くらい大人しくしていろ、転生開花!!


「肉じゃが! おひたし! 海苔巻き卵焼き! 豚汁! 日本食だぁ~! 家にいる時はよく出てくるメニューだからあまり好きじゃなかったのに……おひたしなんて毎日夕飯にはいってるし、卵焼きには何も入っていない方がいいっていつも言ってるのに、お弁当の卵焼きにはホウレンソウや海苔や納豆が入ってるんですよ。それに豚汁は冬になると一週間に二回くらい出てくるし……どれも食べ飽きてたと思ってたのに……ぐすっ……。あ、それにしても扉はびっくりしましたね。箱庭から出る時にキノコさんに、お礼は帰ってからのお楽しみって言われたのですがまさか扉だとは思いませんでした。え? 僕なんかまずいことやっちゃいました?」

 うおおおおい! 零しすぎ! めちゃくちゃポロポロしすぎ!! でも早口すぎて、みんな聞き流していてよかったな!!

 それとしんみりしたかと思ったら、すぐに元の天然系に戻っているよ!! 切り替えはやすぎ!!

 和食系メニュー、子供の頃は飽き飽きしていたけれど、家を出ると何故だかわからないけれど好きなメニューになっていたなぁ。

 セルフ式でメニューが選べる定食屋に行くと、おひたしとか具の入った卵焼きをいつも選んでいたなぁ。

 で、扉は間違いなくキノコ君の仕業と思っていたが、まさか家の壁に扉が出てくるとは俺も思っていなかったよ。


「カメーッ!」

「肉々しい料理に慣れていたが、野菜が中心で肉がアクセントになる料理も悪くないな。しかも味の濃さ故に酒も進みそうだ」

「キッ!」

「キノコさんのお願いに応えると報酬が頂けるといった具合ですか。そういえばこれまでも、弄れば弄るほど毎朝の報酬が増えてましたわね。今回の扉もそれと同じで、ジュストがキノコさんのお願いに応えた結果ということみたいですわね」

「モッ!?」

「なんか、ちっこい奴らがいつの間にか増えてる気がするけど、私の数え間違いかしら?」

「ゲ……」

「肉パタおかわりですぅ!」


 ああ~、みんな好き勝手話して会話が繋がっているようで繋がっていないやつだ~~!!

 そして気付けば、ちっこいのが一色増えている。


 夕食の準備が終わる頃フラッとやってきたサラマ君。もしかしたらまたくるかなとは思っていたからお皿もカトラリーも用意してあるよ。

 手土産にちっこい海豚をくれるなんてタイムリーだなぁ。

 今日の昼ご飯を三姉妹達に見られていて、近いうちにトンカツパーティーをすることになりそうだったんだ。だからその時はサラマ君も来てね。

 そうそう、これくらいのサイズの小ぶりな海豚が美味しいんだよね。

 ところで海豚って海の生き物だけれど、火属性のサラマ君は海に近寄って大丈夫だったの?


 賑やかすぎの食卓で、今日もご飯が美味しい。


 そしてあの謎の扉。

 シャワーから戻って来たジュストが、夕食の開始前にキノコ君に話を聞いてくれた。

 そういえばジュストって自動翻訳とかいうすげースキルの持ち主だったな。

 まさかキノコ語がわかるとは……もしかしてカメ語とかクサ語とかサラマ語とかモグラッぽい語とかもわかるの?

 え? あれは言葉ではなくてただの鳴き声? まじで!?

 って、なんで心外そうな顔をしているの? もしかして言葉のつもりだった? 


 それで突然現れた扉なのだが、やはりあの数字は必要な鍵の数で、鍵を七つ集めたら開くらしい。

 その鍵というのはキノコ君のお願いを叶えるとキノコ君がくれるという。つまりキノコ君のお願いを七つ叶えれば扉が開くことになる。

 扉が開けばどうなるんだ? どこに続いているんだ? 危険はないのか?

 という質問にキノコ君はニコニコ笑うだけで詳しくは教えてくれなかったそうだ。

 しかし、持ち主の俺が喜ぶことは間違いないと言っていたという。


 え? 俺が喜ぶこと? 何だろう? やっぱ、素材かな!? お金かな!? 美味しいものかな!?

 そうだなぁ……でも俺が貰って一番嬉しいのは、みんなで過ごす楽しい時かな。

 こないだの海の地図もトラブルはあったけれどすごく楽しかったな。またああいう、金や物に代えられない価値のものが欲しいな。


 それで最初の鍵のお願いは何だ?

 箱庭の中に火属性が足りないから、火属性のものが欲しい? 具体的には火山に関連するもの?

 え? 箱庭の中に火山が欲しいの? 火山があると災害も増えない?

 大噴火があれば周囲の環境が壊滅的なことになりそうだし、小規模でも火山灰問題が出てくる。

 だけれど、属性のバランスが取れていてこそ良い環境なのかもしれない?

 え? 火山があれば温泉が湧くかも?


 しょうがないにゃあ……明日はフォールカルテで仕事があるから、仕事の後ルチャルトラに寄って火山に関係するものを手に入れてくるよ。

 え? ききききき今日もルチャルトラで仕事だったけれど、あああああああああ明日もフォールカルテで仕事なのさ。

 あ~、冒険者って忙しい。

 え? 今日はルチャルトラではなくてフォールカルテで仕事ではなかったのかって? ははははは、そうだフォールカルテ! フォールカルテで仕事だったんだ~~~~!!


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