第767話◆扉があったら開けたくなるもの

 壁が一瞬光ったと思ったら、その光はすぐに消えその後には――扉!?


 パッ!


 スゥッ!


 思わず棚の上に置いた箱庭を持ち上げてみた。


「消えた」


 何となく気になって、もう一度箱庭をいつもの場所に置いてみた。


 ペカーッ!


「出てきた」


 壁が光って再び扉が現れた。


 パッ! スゥッ! ペカーッ! パッ! スゥッ! ペカーッ!


「ちょっと、グラン!! 怪しい箱庭と扉で遊ばないで!! 箱庭に関係ありそうな扉だけど、どういうこと!?」

 あまりに予想通りの挙動に楽しくなって、置いたり持ち上げたりしていたらアベルに怒られた。

 だって楽しかったんだもん。

 いやいや、箱庭と関係がある扉なのか検証していただけだ。決して遊んでいたわけではない。


「どういうことって、俺に言われても……どういうこと?」

 箱庭を置いたら出てきて、持ち上げると消える怪しい扉、何だこれ? どういうこと?

 明らかにジュストが箱庭の中でキノコ君のお願いを聞いた結果なのだろうが、どういうこと?


「ふむ、おそらくいつものようにキノコからの報酬だろう。扉ならばとりあえず開けてみてはどうか?」

 え? いきなり開けるのはさすがに怖くない? でもやっぱ扉といったら開けるものか?

 まぁラトが言うなら大丈夫かな? アベルとカリュオンもいるし、カメ君と苔玉ちゃんもいる。

 罠が仕掛けられている気配もないし、開けても大丈夫な気がしてきた。


「ちょっと、ラト!? そんなことを言ったら本当に開けるのがグランだよ!! って、もうガチャガチャやってるうううう!!」

 アベルが騒いでいるけれど気にしない。ラトのゴーサインが出たならきっとたぶんおそらくいける。


「グランはラトが言うなら大丈夫って思ってそうね」

「その根拠のない信頼はやめた方がいいと思いますよぉ」

「今日のラトも昼間からお酒を飲んでいましたから、あまり信用できませんわ」

 日頃の行いが悪すぎて散々な言われようのラトである。


 ラトが言うならとドアノブを回してみたのだが、たしかにラトだからと信じてしまったのはまずかったかもしれない。

 しかし今回は大丈夫だ。


「鍵がかかっていて開かないみたいだな」

 ガチャガチャとドアノブを回してみるが動くことはなく、扉も開く様子がない。

 ふむ、こういう時は素直に鑑定だ!!


【妖精の箱庭:Lv2】

レアリティ:SSS

品質:マスターグレード

素材:???

属性:聖/光/土/水/風/他

状態:良好

扉開放準備期間:鍵(0/7)

耐久:13/15

用途:ままごと

アミダモゼニデヒカル


 ん? 扉開放準備期間? 鍵? 横に見える数値は扉を開けるのに必要な鍵の数ってことか?

 まぁ、鍵がかかっているのなら開けるのには何らかの鍵が必要なのは当たり前だよなぁ。

 耐久が少し減っているのは弄くり回しているからだろうか?

 修理の仕方はキノコ君に聞いたら教えてくれるかな?

 ただし普通の物は修理を重ねると、どんどん耐久値の上限が下がっていき、最終的に修理できなくなる。

 形ある物はいつかは壊れるということである。


 この箱庭も物であることには変わりないので、そう思うといつかは壊れるものだとしても仕方ない。

 しかしキノコ君が住み着いてしまって、しかも中には環境が整ってきてキノコ君以外の生物もいて箱庭の中で生活していると思うと、これが壊れるということは小さいけれど世界が壊れてしまうような気分になって、できれば壊れることなく長く続かせたいと思ってしまう。


「扉は箱庭が原因――ジュストが箱庭の中でキノコの依頼を達成したから出現したものだと思って間違いなさそうだね。それで、箱庭を弄っていない時にいつも置いている場所に戻すと扉が出現すると。もしかしてこの箱庭、そこが自分のポジションだと認識してるわけ!? 箱庭のくせに生意気だね!! それから、鍵? 鍵って何? 扉を開けるための鍵かな? 数字も見えるってことはその数集めろってことかな?」

 アベルも箱庭を鑑定したようだ。そして箱庭については俺とほぼ同じことを思っていたようだ。

「その扉、何があんのか面白そうだなぁ。しかし、鍵かぁ……鍵はどうやって集めるんだぁ? やっぱ箱庭の住人のキノコ経由か? どうなんだ、キノコ? ま、キノコ語はわかんないな。博識な苔玉様ならキノコ語はわかるのかー? キノコも植物みたいなもんだし?」

「キッ! キキキキキッ! キーーーーーッ!!」

「キノコ語なんかわかるわけないクサ。キノコと植物の違いもわからぬ愚か者は、森の中を一時間全力で走ってくるクサァ~、だってさ。そうだよ、キノコは動物だから植物じゃないよ」

「カメカメ……」

 キノコ君に聞けばわかるかもしれないが、俺もカリュオン同様キノコ語はわからないので、いつも身振り手振りでの意思疎通では細かい情報は伝わってこない。

 苔玉ちゃんもキノコ語はわからないようだ。カメ君も首を左右に振っているのでダメっぽいな。

 それとキノコは植物でも動物でもなく菌類だ。この世界のキノコは動き回るやつが多くて動物っぽさはあるだが、菌類で間違いないと思う。


「ま、ジュスト達がシャワーから戻ってきて、話を聞いてみてからだな」

 ジュストも無事戻って来たことだし、扉の件は後回しにして夕食だ夕食。

 箱庭の中で奮闘していたと思われるジュストのために、今日は転生開花に頑張ってもらって作った料理だぞおおお!!



 メインは肉じゃが……いや使っている芋はジャガイモではなく、ジャガイモに似たパタ芋というやつだから肉パタだな。

 肉は贅沢にレッサーレッドドラゴンのロース。キラッと鮮やかな赤味に白い脂身がふりふりと入っていて、見るからに脂がノリノリ。

 これは煮物にするととろけるやつ。そしてとろける肉には醤油をベースにした甘辛い味付け。これぞ日本のおかず!!

 野菜は玉ねぎにニンジン。コンニャクはないので諦めたが、代わりに後載せでサヤごと食べられる豆を載せておいた。


 こちらの世界に慣れてきたといっても、やはり日本に残してきたものにたくさんの未練があるだろうし、それを思って寂しくなったり懐かしくなったり恋しくなったりするだろう。

 こちらの食事もずっと食べていれば慣れるかもしれないが、やはり日本の食事は気軽に食べられて当たり前のレベルが非常に高かった。

 こちらの一般的な食事もどん底にまずいというほどではないが、香辛料や調味料が豊富だった日本の食事を知っていたらやはりもの足りない。

 日本を思い出せば寂しい気持ちも湧いてくるかもしれないが、それでもやっぱりうちに来た時は懐かしい料理を食べてもらいたい。  

 

 肉パタの他には、ノリを一緒に巻いた出汁巻き卵。ノリは以前米を買いに行った時に、道中で偶然手に入ったからなぁ。

 また東の方へ食材と素材を探しに行きたい。

 それからホウレンソウに似た野菜スピッチョは、ほんのりした甘さのあるおひたしに。

 アベルが見た目で嫌な顔をしそうだが、これは絶対アベルの好きな系統の味だと思う。

 汁物は、大きな猪の魔物グレートボアの肉やトレントの根が入った味噌汁。海豚の肉なら豚汁だったのだが、今日は在庫のあるボア肉でボア汁だ!

 そして当然のように白いご飯。


 この茶色ベースに野菜の赤と緑、卵の黄色がアクセント、そして輝く白いご飯という色彩がなんとも懐かしく思える。

 ジュストは気に入ってくれるかなぁ?


 食卓に料理を並べ終わる頃には、脱衣所の方からバタバタと音が聞こえ始め、そろそろジュストが戻ってくる気配。


 懐かしい献立の夕食を食べながら、俺の知らないジュストの大冒険の話を聞かせてもらおうかな。



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