第766話◆一方その頃
「外からだと詳しいことはわからないけど、ジュストは頑張ってるみたいだね。ほら、森の面積が減って、地面が見える土地が増えてきたよ。この後この切り開いた場所は、キノコが畑にするのかな?」
「おっ? 竜巻が起こって一気に森が減ったぞ? ちまちまやるより、大規模魔法で一気に森林破壊をするのが正解だって気付いたか? いいぞ、もっとやれ! 範囲攻撃こそ正義だ! いてっ! この苔玉野郎、何すんだ!」
「キエエエエエエッ!!」
「カメッ!」
「おいカメ、そこで洪水を起こすとジュストが巻き込まれるから、津波で森を押し流すのはやめるんだ。それから海水は森にはよくないので、当然うちの森でも津波は禁止だぞ」
「外からの干渉は、箱庭の中で何が起こるかわかりせんから、ジュストを信じて見守るのが一番ですよぉ」
「大丈夫、大丈夫。マ……マジで可愛いモグラが一緒だから何が起こっても平気よ」
「ですので、グランは安心して夕食の準備をしていてくださいなー」
「ええー、ズルい! 俺もジュストがどうなってるか気になるし、心配だから箱庭見学に混ぜてくれよぉ~!」
箱庭を囲んでみんなでわいわい。ただし俺以外。
箱庭の周りにはでかい男が三人と可愛い幼女が三人。
その隙間から頭を突っ込んで尻尾をピロピロプリプリと振っているカメ君と苔玉ちゃん。
先日レベルアップして少し大きくなった箱庭だが、その人数で囲むと俺の入る隙間なんてない!!
ルチャルトラで一儲けしてご機嫌で戻って来ると、俺が留守の間にうちでは大変なことが起こっていた。
なんとジュストが、妖精の箱庭に引き込まれたというのだ。
えええええ!? それってジュストは大丈夫なのか!? 中で危険な目に遭っていないのか!? 無事に帰って来ることはできるよな!?
その話を聞いた時は、驚きと心配のあまり我を忘れて箱庭の中にダイブしそうになり、三姉妹にまだ青い毬栗を頭の上にたくさん落とされて少し冷静になった。
ジュストが箱庭に吸い込まれた現場にいた三姉妹達と苔玉ちゃんはあまり慌てた様子はなく落ち着いている。
曰く、キノコ君の頼みで箱庭に入っているだけなので心配はなく、頼まれたことを終えれば出てくるだろうとのこと。
箱庭の中はキノコ君が暮らしている場所でキノコ君以外の生き物もいるだろうが、キノコ君が倒せる程度のそこまで強くない生き物ばかりらしい。
もし強い生き物がいたとしても、焦げ茶ちゃんがジュストについているので安心だそうだ。
焦げ茶ちゃん、やっぱり可愛い顔して強いんだね。カメ君達と魔力比べをしていたし、爪もすごく鋭くて何でも引き裂きそうだったしね。
焦げ茶ちゃん、ジュストのことを頼むぞ!!
でもやっぱり心配で箱庭を気にしていると、ジュストが帰って来た時にすぐ食事をして休めるように、食事の準備をしておくよう三姉妹に言われた。
え~、ご飯も作るけれどジュストが気になるぅ~。ていうか、箱庭の中に入れるなんて楽しそう~。もしかしたら入れるかもしれないから、俺も近くで見ていたい~。
などと少しごねてみたのだが、今日のうっかりをばっちり三姉妹の水鏡で覗かれていてしっかりバレており、屋根裏の掃除中で水鏡を見ていなかったジュストには内緒にしておいてあげると言われ、素直に夕食の準備をしていた。
ちくしょう、箱庭の中で森を伐採しているというジュストのために、頑張って懐かしい前世メニューを作ってやるぞ!!
しかし気になるのでちょいちょい様子を見にきている。そして今もこの様子である。
ラト以外には食卓の準備を頼んでいたのだが、それも魔法を使ってさっさと終えて箱庭を覗き込んでいる。魔法ズルい!!
確かに皆が見守っているなら安心な気はするのだが、ズ~ル~い~!! 俺も、ジュストを見守り隊に加わりたいーーーー!!
ポンッ!
箱庭の周囲に人や人以外の者がギュウギュウと集まっているところを後ろから覗き込もうとピョンピョンしていたら、箱庭から空気が弾けるような音がした。
ポンという可愛い音に聞こえたが、箱庭サイズで考えると何かしらが爆発したのではないかと思われる。
その音が聞こえた瞬間、無意識に手の甲で目を擦った。
擦ったせいで少し霞んだ俺の視界に入ったのは、同じく目を擦るアベルとカリュオン。そしてカメ君。
三姉妹は少し眉を寄せた程度で平気そう。ラトと苔玉ちゃんはノーダメージのようだ。
そしてその様子を見ながら感じる鼻のむずむず。
「うわっ! 粉!? 爆発の影響がここまできた! 目に入ったかも、痒い痒い!!」
「ヘックシュッ!! 纏めて吹き飛ばした木から花粉が!? これは吸い込んでもやばいぞ! ヘックシュッ!! 針葉樹の多い森で春先によくあるやつだが、この時期にくらうとは……ヘックシュッ!!」
「カ……カ……カメッシュッ!!」
アベルとカリュオンとカメ君がバタバタと、箱庭から離れた。
そして空いたスペースから箱庭の上に薄い黄色い靄が上がり、広がっているのが見えた。
こ……これは……。
花粉だーーーーーー!! 花粉が部屋に広がっているぞおおおおお!!
やめろおおおおお!! 目が痒くなってきたし、鼻がむずむずし始めたぞおおおおおお!!
あの各種耐性オバケのカリュオンですら、花粉の影響を受けているぞ!! やばい!! 花粉ってマジやばい!!
「窓を開けてカリュオンは風魔法で花粉を家の外に追い出すんだ! アベルとカメ君は部屋中念入りに浄化魔法だ!! 浄化魔法だけでもいけるか!? とにかくコイツは一粒たりとも屋内に残してはいけないやつだ! ふぇっくしょん!!」
魔法の使えない俺は応援するだけだけど、花粉を許すな! 花粉を家から追い出せ!!
「花粉ごときで大袈裟な」
「キキィ」
ラトと苔玉ちゃんが不思議そうな表情で首を傾げている。
つよぉ~い番人様とか植物そのものみたいな生き物は花粉の辛さはわからないかもしれないが、か弱い俺達にとっては大量の花粉はものすごく辛いんだよぉ~!
耐性オバケのカリュオンがくしゃみをしている時点で俺やアベルは確実に無理!!
「確かに花粉がたくさん舞うのは、節操のないドリュアスの男性を思い出してあまり気持ちの良いことではないですわね」
ああ……前にうちの可愛いフローラちゃんにストーカーをしていた変態チックな木の妖精、ドリュアスのイクリプスとか春先に花粉を飛ばしまくっていそうなイメージだ。
「この季節に花粉だなんて、箱庭の中は外とは環境が違うのですかねぇ」
ホントだよ! 真夏に大量の花粉をくらうなんて思わなかったよ!!
「あ、見て見て! 箱庭が光ってるわ! ジュスト達の帰還かしら? ついでに箱庭がパワーアップをしないかしら!?」
マジか!? 見る見る!! ジュストは無事に帰って来たか!?
箱庭が光っている!? これはヴェルのいうようにパワーアップの期待か!?
いや、レベルアップは先日したばかりだな。
ならば、ジュストがキノコ君の依頼をこなした報酬で何かあるのかな?
俺は何もやっていないけれど、すごいものだといいなぁ。すごい地図とかくれたりしないかなぁ。
みんなで行ける地図を貰ったら楽しく夏休みのバカンスをしたいな。前回は海だったので次は夏の高原とかもいいな。
それで素材や食材がたくさんあるところで――。
と俺が取らぬ竜の皮算用をしている間にも、箱庭の光は強くなりその光が形を成し始めた。
そしてその光がはっきりとした形になると、光は弱まっていき光の中からジュストとその肩に乗った焦げ茶ちゃんの姿が現れた。
「ひぇ、やっと帰ってきたぁ……。あ、グランさん達! お帰りなさい!」
「ああ、ただいま。それからジュストもおかえり、無事に戻って来たみたいでよかった。事情はだいたい聞いているから、ゆっくり休んで……って、ジュストと焦げ茶ちゃん、もしかして……ブェックション!!」
「え、何でしょう? あ……ああ……クシュッ。実は僕も結構きついです」
「モックシュッ!」
無事に戻ってきたジュストと焦げ茶ちゃんの姿を見て一安心。
ジュストはいつものようにぽわぽわした雰囲気の笑顔を浮かべているが、焦げ茶ちゃんはなんか毛がバサバサに逆立っているうえに妙に疲れた顔をしてるな。
どちらにせよ無事に戻って来てくれてホッとしたのだが、それも束の間。
ジュストと焦げ茶ちゃんの姿が見えた直後、くしゃみが出た。俺に続きジュストと焦げ茶ちゃんも。
さては、さっきの花粉爆発現場にいたな!? というかどう考えてもその爆発の原因はジュスト達だよな!?
目には見えないが、きっとジュストも焦げ茶ちゃんも花粉まみれに違いない。その証拠に彼らの姿が現れてからすぐに、さらに目が痒くて鼻がむずむずし始めた。
「箱庭での話は食事の時にゆっくり聞かせてもらうから、先にシャワーを浴びて花粉を洗い流してくるんだ! 焦げ茶ちゃんもだぞ! あ、水は嫌いとかいって逃げるのはなしだ! ジュスト、焦げ茶ちゃんも丸洗いをしてくれ。くしゃみの元になる花粉はうちには出入り禁止だ!!」
「はい、じゃあ焦げ茶さんも一緒にお風呂にいきましょう。僕が綺麗に洗ってあげますよー」
「モッ!? モモモモモッ!?」
風呂という単語に反応したのか、こそっと逃げようとする焦げ茶ちゃんを見逃すわけにはいかない。
俺の言葉に即反応したジュストが、肩にいた焦げ茶ちゃんを捕まえて胸のところで抱きかかえて風呂へと向かっていった。
後は部屋に入り込んだ花粉を外に追い出して一件落着。
これは魔法使い組に任せよう。
「ジュストも帰ってきたことだし、今日はもう箱庭弄りはおしまい。箱庭は元の場所に戻してジュストがシャワーから戻ったら夕飯にするぞ。それと花粉が飛び散ってるから部屋に浄化魔法をかけておいてくれ」
リビングのローテーブルの上にあった箱庭を持ち上げ、いつも置いている棚の上へと戻した直後――。
ピカッ!
棚の横の壁が眩しく光った。
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