第763話◆閑話:運の悪い少年と巻き込まれ体質の竜――壱
私は偉大な古代竜の一隻である。名はマグネティモスという。
よく爺臭いなどといわれ、赤い奴の次くらいの世代だと思っている奴もいるのだがとんでもない。
私は古代竜でも比較的若い世代――青いのや緑いのとだいたい同じ世代である。緑とはだいたい同じくらいだが青よりは千年ばかし長生きかもしらん。
奴らとは同世代ということもあり仲は悪くなかった。まぁ、仲が良かったわけでもないが、混血の古代竜同士それなりに顔見知りで、少しだけ交流もあった。
奴らと、私達より更に若い金色とその友である赤毛の人間と、人間の真似事をして世界を回った時は楽しかった。その記憶は今でもはっきりと残っている。
眠っていたのを無理矢理起こされ、外に連れ出され、騒がしく充実していた一瞬だけの時。
赤毛がいなくなってからしばらく寝ていたな。
目が覚めて、あの瞬間の楽しさを思い出し出歩いて小さき者の真似事をして新しい縁を繋ぎ、その縁のあった者がこの世を去ればまた眠る。
その繰り返しをして、あの時以上の時に出会えぬままだんだんと眠る時間が長くなっていた。
再び誰かが私を起こし、また騒がしくも楽しい時に誘ってくれる日を待ちながら。
金色ことラグナロックはその青いのよりも更に若く、私の知っている限りで古代竜と呼ばれる者の中では最も若い部類で、私達の次の世代である。
それより若い世代は――うむ、おそらくここ数百年は寝ておったのでよくわからないな。
しかし古代竜と呼ばれる者の数はそう増えてはいないようだ。
純血で血が濃すぎれば力が弱まり命にも限界ができ、混血ならば混ざった相手の特色の方が強く出る。
古代竜とはなかなか難儀な生き物である。
かくいう私も、混血故に竜とはほど遠い姿をしているのだが。
古代竜の血を引く者はこの世にはそれなりにいるだろう。
だが古代竜と呼ばれるほどの力と体、そして終わりの見えぬ寿命を持つ者は、この世の生き物全体から見ればごく僅かである。
その古代竜の中でも特に力を持つ者、特定の属性に最も秀でた者には、誰ともなしに呼び始めた二つ名が付いており、古代竜の中でも最も強い土の魔力を持つ私は地竜王とも呼ばれている。
そんな古代竜の一隻である私が気持ち良く寝ていたところを近くでゴソゴソしている奴がいて少し目が覚めたら、突然眩しい光をぶつけられて思わず寝返りをしてしまった。
変に起こされて眠いがそろそろ起きてもいいかなと地中深くの住み処でゴロゴロしていたら、何だか聞いたことのあるようなカメカメの歌が聞こえてきて聞いているうちにまたウトウトしてきた。
ウトウトしているうちに何か美味いものを食べる夢を見た気がする。美味いものはよかったのだが、めちゃくちゃ強い酒も飲んだ気がして記憶が定かではない。
ただその夢の中で久しぶりに懐かしい奴らに会った気がした。
ああ……夢はいい……懐かしい記憶はいい……。
それらを集めてつなぎ合わせて、懐かしくて楽しくて願望の詰まった夢を見るのだ。
もう逢えぬというのなら、夢で逢えばよい。
古代竜の力が強い故、油断するとその夢や願望や懐かしい記憶が具現化してしまうこともあるが、それはそれで人間がダンジョンとしてありがたがってくれるから結果よし。
ダンジョンとは強い力を持った者の記憶や願望。もしくはその強い力を持った者が死した後、その体に残った魔力が見せるその体の記憶の世界。
そうなると強い力を持った者の周りにはダンジョンが発生しやすいが、力ある故にそれを自らコントロールしている者も少なくない。
南の島に住む赤いおっさんとかがそれである。
美味いものを食べる夢でも見たいと思いつつ寝直して少しウトウトしたところで、頭上が急に騒がしくなった。そして、熱い。
眠いところを起こされるのはあまり気持ちの良いものではないはずだが、私は騒がしく起こされる日を待ち続けていた。
起きよう。そろそろ、起きよう。起きて、新しい縁を探しにいこう。たとえそれが、短い縁だとしても。
そうして起きることを決意してすぐ気付いた。
燃えている! 燃えているぞ! 私の縄張りがあああああああああ!!
これは! この炎は! この加齢臭は! シュペルノーヴァの炎だあああああああ!!
炎に巻き込まれそうになっている小さき者もいるぞ!? いや、この小さき者が炎の発生源か?
シュペルノーヴァめ……小さき者に過ぎたるものを与えおったな。奴は小さき者にデレデレに甘いからな。
……まぁ、小さき者を構いたくなるのはわかるからな。私も今そんな気分だし。
炎に巻き込まれている小さき者を助けてやるかと思った矢先、その炎は小さき者とそれに力を貸した者により収まった。
ああ、くすんだ赤毛の人間が付けているあの耳飾りの一つはなんか見覚えがあるな。
もう一つは知らないが、その磯臭い魔力はよく知っているな。
なんだこの人間? クソ仲が悪いことで有名だった赤いのと青いのの両方が力を貸しているのか?
思い出すな……昔を。賑やかだったあの頃を。
よし、目が覚めた! もうはっきりと目が覚めた!
なので会いにいこう。まずは私の縄張りが燃え上がる原因となったものを、小さき放火魔に与えた赤い奴からだ。
おっさん、年配者のくせにもう少し後先を考えて行動しろと一言二言文句をいいにいった後は、次は放火魔でも見にいくか。
と、ゴソゴソとねぐらを出ておっさんの住む南の島へいってみたら、おっさんが小さき者として生活をしていると思われる場所で何故か緑の奴――テムペストと鉢合わせをした。
しかも近くに青い奴――クーランマランの気配まである。おっさんとクーランマランが一緒にいることには驚いたが、とりあえずおっさんに文句をいうついでに緑のと青いのと共にゆっくりと話をしよう。
……と、小さき者の案内でおっさんのとこにいったら逃げられた。何故かクーランマランも一緒に逃げた。
逃げるものを見たら追いたくなる。これは生き物としての本能だ。まぁいい、寝起きの運動だ。
こうして南の島のジャングルを四隻で走り回って満足した後は、おっさん達に私が寝ていた間の世界の様子を聞いた。
なんか知らんがクーランマランがやたら楽しそうに仲良くなった人間の話をしていた。
愚痴のようにも聞こえるが、これは完全に友達自慢。
コイツ変わったなぁ。
いや、口も態度も悪くて少しひねくれてはいるが、意外とまともな面は昔からあったな。
いい奴ではないが、変にいい奴ぶる奴よりよっぽどか付き合いやすい奴だった。ただ少しやさぐれすぎて面倒くさい奴だったが。
そんな奴があまりに楽しそうに人間との話をするので、自分も小さき者と関わりたくなった。
そんなわけで、私の縄張りが燃えることになった原因であるシュペルノーヴァに詫びとして、クーランマランが夢中になっている人間を紹介してもらうことにした。
どうやらそいつが、私の縄張りで火遊びをした放火魔らしい。
赤いのも青いのも緑いのもその放火魔達がお気に入りのようで、ますます興味が湧いた。
奴らはその人間にはクーランマラン達が古代竜であることは内緒にして、小型化した姿で傍にいるらしいので私もそれに倣うことにした。
ふむ、その人間は可愛い動物に弱いと。なるほど、賢い私は知っているぞ、人間はモフモフしてつぶらな瞳の生き物が好きなのだろ?
それっぽいものに化けてやったぞ。まぁ護身用の爪が長いのはチャームポイントだ。
そしておっさんの案内で、クーランマランがすっかり住み着いてしまっているという人間の家を訪ねたのだが……。
なんだここは!? 何故、あの樹を守る珍獣……神獣と女神三姉妹がいるのだ!?
ああ、あの樹の近所だな。なるほど、だからテムペストまでいるのか。
ていうか、赤毛! めっちゃ赤毛! くすんでいるが赤毛!!
はて……どこかで逢ったような逢ったことないような……。
ていうか、あの銀髪の奴もなんか初対面ではない気がするんだよなぁ……。
喧しい気配の半エルフは初対面だが、なんか草まみれの竜の香りがプンプンするな。
それから……なんだアレは? 人間のようだが姿は犬の獣人コボルト?
ああ、人間が呪いというか変身系のギフトで姿を変えているのか。呪いのように見えるが、本人に利もあるタイプのやつだな。
しかし不思議な気配のする犬コロだな。それと、めちゃくちゃ運の悪そうな人相……いや犬相をしておる。
それが私とジュストという、とんでもなく運の悪い犬コロ少年の出会いだった。
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