第761話◆楽しい竜のねぐら掃除

「すごい! すごいよ、グラン!! 今ならグランが素材を溜め込む気持ちがわかるよ!! これ全部持って帰っていいんだよな!! この仕事またやりたい!!」

 じっとりとした熱気のあるほら穴の中、いつも採取系の仕事は面倒くさいといっているアベルがテンションを爆上げして大はしゃぎをしている。

 ははは、素材集めの楽しさがわかったか?

 いや、違うな。コイツはリュウノコシカケに目が眩んでいるだけだ。


 リュウノコシカケ――一時的に魔力を増強し魔法の威力を上げることができるポーションの材料となるキノコ。

 また乾燥させてお茶として日常的に飲んでいれば、魔力の総量が僅かずつではあるが増え、魔力に対する抵抗力も上昇することもあり、魔法を頻繁に使う者達には大変人気のあるキノコである。

 魔力面以外にも鎮痛効果や胃腸を整える効果、その他多くの効果を持つ優秀キノコで万能薬の元ともいわれている。

 その反面、効果が強烈すぎるため大量に摂取すると腹を下すこともある。

 お茶ならともかく、ポーションは飲み過ぎると腹が痛くなることもあるので要注意である。

 基本的に自分の身体能力以上の力を引き出すポーションには何らかの副作用があるものなのだ。


 リュウノコシカケは上位の竜種もしくは亜竜種の巣、それも洞窟場で日当たりが悪くジメジメした場所限定で生えている。

 洞窟の壁に半分に割れた円盤が刺さっているような形状から、このような名前が付いている。

 よくあるものは手のひらサイズくらいなので実際に竜が座るかどうかは知らないが、大きなものなら人が座れるサイズにもなる。

 手のひらサイズのリュウノコシカケにカメ君が座っている姿を想像するとメチャクチャ可愛いので、次回はぜひカメ君も連れてきてリュウノコシカケに座ってもらいたい。


 このリュウノコシカケ、上位の竜や亜竜の巣にしか生えないため当然のように稀少で高額な素材である。

 そしてリュウノコシカケの産出はダンジョン産が多く、天然ものはなかなか手に入らない。

 効果は然程かわらなくても、やはり数の少ないものの方が稀少価値故に高級品扱いをされるものだ。

 そして今、俺達の目の前に生え散らかしているリュウノコシカケはシュペルノーヴァの魔力をタップリ浴びたもの。文句なしの天然最高級品である。




 俺達が今いるのは今日の目的地であるシュペルノーヴァのねぐら内部。

 ねぐらの入り口前で昼飯の爽やかサックサクトンカツを完食した俺達は、今日の本命であるねぐらの掃除に取りかかっていた。

 俺達が訪れたシュペルノーヴァのねぐらは、アゴニ火山の麓に広がるジャングルの中。木々に囲まれた崖のような場所に、ぽっかりと口を開けたほら穴が入り口となっていた。

 入り口部分の大きさは人が通るには余裕の大きさだが、竜の――古代竜のねぐらというには狭すぎる。

 ベテルギウスギルド長が言っていた、偉大な古代竜は小さくなることもできるという話を思い出し、あの先日見た巨大なシュペルノーヴァが小さくなって、身に纏う炎を引っ込めてちょこちょことここに入っていっている姿を想像すると、圧倒的強者のシュペルノーヴァがなんとなく可愛く思えてきた。


 入り口周辺には植物が生い茂っており中に入る妨げになっていたので、これをサックサクと刈って撤去。

 ここは草刈り鎌に取り憑いたナナシが大活躍。

 多少イヤイヤはされたが、ここ最近のナナシは生き物を斬る以外の俺に優しい使い方で大活躍をしてくれて大助かりだ。

 もちろんこれも掃除の依頼の一部である。

 その植物の中にはドラゴンフロウやリュウノアカネなどの薬草も混ざっているので、不要な植物だけ分解スキルで土に還し薬草はお持ち帰り。

 さっすがシュペルノーヴァのねぐらの目の前、道中のものもかなり品質が良かったのだがここに生えているものは更にその上をいく最上級のものである。

 あまりにたくさん生えているので、途中で面倒くさくなって後で仕分けをすればいいと全部収納につっこんでおいた。


 入り口を覆う植物を撤去して入り口がよく見えるようになったら、いよいよシュペルノーヴァのねぐらにお邪魔をするのだが、入り口を通り抜けた瞬間少しチリッとした感覚があったのはここに侵入者除けの結界が張ってあったのだろう。

 おそらく許可なき者はここに侵入することは限りなく不可能なのだろうが、俺達は掃除役なので入れてもらえたのだと思われる。

 もちろんここに向かう前に、依頼を受けたその足で掃除にいっても大丈夫なのかとベテルギウスギルド長に尋ねたのだが、ベテルギウス長は不敵に笑って偉大なるシュペルノーヴァ様には竜の眼というすごい力があって、縄張り内のことは何でもお見通しなのだそうだ。

 うへー、さすが古代竜!! すっげー!!


 だから俺達がここに来るのもすでにお見通しで、俺達はあっさりと中に入れてもらえたということだ。

 悪いことをしたらきっと燃やされるんだろうなぁ。真面目に掃除をして帰ろう。

 あ、やっぱさっき食事中になんか見られているような気がしたのは気のせいじゃなかったのかなぁ?

 ……掃除が終わったら、先日のお礼も兼ねてお供えを置いて帰ろうかな。 


 入り口に見えない壁があったかのように、シュペルノーヴァのねぐらだという穴に一歩踏み込めばそこは火の魔力で満たされており明らかに体感温度が上がった。

 入り口の辺りは外の光が差し込むため、じっとりとした場所を好むリュウノアカネが生えていたのでこれも回収。

 草毟りも仕事のうちでねぐらの中に生えている草は毟るように言われているからな。

 リュウノアカネは薬の草だから草である。回収回収。

 一方日当たりのいい場所を好むドラゴンフロウは、ねぐらの内部には生えていないようだ。

 

 入り口を入るとあまり広くない洞窟状の通路がしばらく続いており、少し奥に踏み込むと外の光が差し込まなくなりリュウノアカネの姿も見えなくなる。

 日が差し込まない洞窟の内部なので真っ暗かと思いきや、シュペルノーヴァの火の魔力から生成されたと思われる火の魔石が洞窟の壁にいくつも張り付いており、それが放つほんのりと赤い光が周囲を照らしていた。

 そしてそれは俺達が奥へと進むために前を通りすぎるタイミングで明るさを増し、シュペルノーヴァが俺達の存在を把握していることを思わせる。

 シュペルノーヴァの存在を意識して気圧されそうになりながらも、洞窟の中に光る赤い魔石の光は幻想的で思わず見入ってしまった。


 その幻想的な洞窟の中を奥へと進むとすぐにそれの姿が目に付き始め、俺もアベルもカリュオンもテンションが爆上がりした。

 シュペルノーヴァのねぐらの中にみっちりと生えるそれ――高級素材リュウノコシカケである。


「俺もギフトのせいで魔力消費が激しいから、リュウノコシカケ茶はできれば日常的に飲みたいところなんだよなぁ。でも値段がたっけーから、茶でちょっとだけ魔力を伸ばすのに金をかけるより、大量に飯を食う方が安あがりなんだよなぁ。ま、グランの飯なら自然と食う量も増えるしな。やっぱリュウノコシカケはアベルいきかな」


「やっぱ魔力はあればあるだけーだよなぁ。最近はナナシにかなりチューチューされてるし、毎朝リュウノコシカケ茶が飲めるようなリッチな生活がしたいな。それにしてもこのリュウノコシカケは火属性に偏ってる感じか。冬に飲んだら体の芯からポカポカになりそうだ」


「魔力が増えるだけじゃなくて、寒さにも強くなれそうなすごいリュウノコシカケだね! 仕事だから全部採取していいんだよね!! 今日はこれを全部採り終えるまで帰らないよ!!」


 俺達三人、高級素材を前にめっちゃハイテンション!

 シュペルノーヴァの魔力をタップリ浴びたリュウノコシカケは、通常のものより赤みが強く、見るからに火属性に偏っている。

 つまり、魔力増強効果も火属性に特に効果が出そうな感じだ。そしてお茶と相性が良さそうで、寒い季節に飲むと体の芯から温まって気持ち良くなれそうな気がしてしまう。


 今日の仕事はこのねぐらの掃除!

 ねぐらに生えている草やキノコの除去作業!!

 つまりこのリュウノコシカケはいくら持って帰ってもよし!!


 はぁ~~~~ん!! テンション上がってきた~~~~!!


「当たり前だ、根こそぎ持って帰るぞ!!」


 張り切って採取しちゃうぞおおおお!!


「ケッ! 蒸し暑ぃ場所だなぁ。ここがねぐらだぁ? よくこんな、汗だくになりそうな蒸し暑い場所で寝られるよな。苔生すどころかキノコ生してるじゃねーか」


 掃除という名のリュウノコシカケの採取作業に取りかかった俺達の背後で、アムニスがブツブツ言っているのが聞こえた。

 案内役かもしれないけれどお前も手伝えー!

 自分で採ったやつは自分の分にしていいんだぞー!

 リュウノコシカケはDランク冒険者の稼ぎの何倍もいい値段になるんだぞー!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る