第758話◆海豚に乗った俺
正直すごく悩んだ。
報酬もすごくいい。
しかしシュペルノーヴァの住み処の掃除なんてうっかりミスをしたら一瞬で消し炭にされそうである。
なるほど、確かに信用と実力のあるAランク冒険者の仕事である。
しかも古代竜といえばあのでかさなので三人……いや、海エルフのアムニスを入れて四人でやっても時間がかかりそうでやりがいはありまくるし、頑張れば頑張るほど早く終わる。
そして、草毟りとキノコ毟り。
間違いなくドラゴンフロウやリュウノアカネとリュウノコシカケである。
もしかすると他の珍しい植物やキノコも生えているかもしれない。
やりたい! めっちゃやりたい!! やりたいやりたいやりたい!!
でも冷静に考えると、シュペルノーヴァの住み処だからとてもおっかない。
しかもギルドのある集落はルチャルトラ島の北の端、シュペルノーヴァの住み処のある火山は南の端で、ジャングル内を突っ切って直線で移動したとしても半日はかかる。
時間的に厳しいかなって思ったら、そこで海エルフのアムニスの案内で大幅に短縮して島の南端まで行けるらしい。
しかもシュペルノーヴァの住み処の掃除は、定期的にルチャルトラの冒険者ギルド主導で行われているようで、その草毟りとキノコ毟りの収穫物は引き受けた冒険者とそれを買い取る冒険者ギルドを大変潤わせるそうだ。
なーんだ、シュペルノーヴァの住み処の掃除って、ここのギルドでは定番の仕事だったのか。
やる! すごくやる! 薬草とキノコはたくさん引き取るかもしれないけれど、過剰分はギルドに売ります!!
あ、キノコは魔力大好きアベルがいっぱい欲しがるかも。リュウノコシカケって日常的に摂取していると魔力の成長を促す効果もあるんだよね。
そんなわけでこの仕事引き受けまーす!
変エルフのアムニス君! 案内よろしく!!
ついでに、友達のいなさそうな君にパーティーの楽しさと、冒険者としての常識をAランク冒険者の俺が教えてあげよう。
あ、バケツとかデッキブラシなんかの掃除道具は収……マジックバッグにも入っているので大丈夫です!
Aランク冒険者たる者、掃除道具くらい持ち歩いています。多分、どこかの賊の根城でパクッたものだけど。
あれ? ベテルギウスギルド長、頭の後ろの鱗がなんか黒く汚れていますよ。
さぁ、よくわからないけれどインクっぽいですねぇ。書類かなんかのインクが付いたんですかね。
拭いておきましょうか? ああ、浄化魔法が使えるなら問題ないっすね!
そんな流れで俺達は変な海エルフのアムニス君の案内でシュペルノーヴァの住み処に向かうことになった。
俺さ、前世では
そうイルカの背に乗って大海原を駈けるのが、夢だったんだよね。
そしてこの世界に生まれ変わった俺は今、海豚の背に乗って海を駈けている。
そう海の豚に乗って文字通り海の上を駈けているのだ。
シーピッグ――文字通り海の豚である。
海に棲息する豚系の魔物で、水中を泳ぐことに加え水上を走ることができるファンタジーな豚野郎だ。
ちなみにトンカツにすると美味い。
俺が乗りたかったのは海豚は海豚でもドルフィンの方なの!!
俺達は今、そのシーピッグの背中に乗って海の上を駈け、海の上からシュペルノーヴァの住み処を目指していた。
先頭を走るのは、このシーピッグ達を呼んだ海エルフのアムニス。俺達はその後ろを走っている。
へー、海エルフって海の魔物を使役することもできるんだ。
そいえばエルフって魔物使いの適性が高い種族だったな。その声には動物や魔物を魅了する魔力が宿っているとかなんとか。
海エルフもエルフだからそういう能力があるのかな。
ちなみにハイエルフの血を引くカリュオンの声にももちろんそういう力があり、雄叫びという形でタンクの挑発スキルとして大活躍している。
使役と挑発。使い方としては真逆だが、いわれてみればどちらも相手の精神に干渉するスキルであることにはかわりないから、使い方次第というやつか。
俺達の乗っているシーピッグという種には豆豚サイズのものから、人が乗れる程のサイズのものまで色々な種があり、体の色もベージュや黒、白、茶、青、斑など様々である。
俺達が乗っているのはシーピッグでも大きめで白と青の斑模様の種。
それはそれで可愛くはあるのだが、俺が乗りたいのは豚ではなく海豚……いや、そのまんま海の豚ではなくイルカなんだよおおおお!!
徒歩で行くと半日はかかりそうなルチャルトラ島南部の火山。
そこまでサックリと移動する方法――それはアムニスが呼んだシーピッグに乗って島の南端方面まで海の上を大爆走。
そりゃあ、植物が生い茂るジャングルを徒歩で抜けるより、何もない大海原を豚で駆け抜ける方が速いよなぁ!
ていうか海豚、足速っ!!
「豚だよ! 豚に乗って海の上を走ってるよ!! 小型のシーピッグは王都の近くの海にも棲息してるけど、人が乗れるほど大きなシーピッグは本土周辺には棲息していないから、シーピッグの背中に乗るなんて初めてだよ! ふえぇ……思ったより乗り心地いい!」
「豚は海の生き物だからなぁ、森出身だとあまり馴染みがないんだよなぁ。人間に比べたら長生きだが豚に乗るのは初めてだなー。こいつって、グランがよく作ってたトンカツって料理の材料だよな?」
「ブ、ブヒーッ!?」
アベルは初めて乗る豚の上で大興奮。楽しそうに大はしゃぎしている。
振り落とされるとそのまま海にドボンだから気を付けろよ。あと、男のふえぇは可愛くも何ともないからやめろ。
沿岸部にいる小型のシーピッグは程よく脂が載ってジューシーで柔らかい肉質で、トンカツ以外でも美味しく食べることができるのだが、シーピッグに乗りながらカリュオンがトンカツの材料とかいうから、シーピッグ君が怯えているぞ。
「ははは、シュペルノーヴァの住み処まで案内してくれるシーピッグ君を食べたりはしないさ。君はでっかいから本来は沖合にいるシーピッグだろ? 俺の好みは沿岸部にいる小さいシーピッグだから安心したまえ」
カリュオンの言葉にビクンとした俺のシーピッグ君をポンポンと叩いて落ち着かせる。
こらー、海の上でシーピッグ君を怯えさせて振り落とされたら危ないだろう。
「お前らはしゃぐのはいいけど、海には魔物がいるから気を抜くなよー。ま、超有能で常識海エルフの俺様がいれば安心だけどなー! それと案内料にトンカツという料理を所望する」
「ブッ!? ブヒイイイ!?」
先頭を走るアムニスが俺達の方を振り返る。
確かに口笛一つでシーピッグを呼んで手懐け、シュペルノーヴァの住み処までの移動手段として俺達に提供してくれたのもすごいし、時々海から飛び出してくる魔物を始末する腕前もすごい。
とてもDランクとは思えない実力なのだが、やはりその尊大な態度のせいで素直に褒めたくなくなる。
あと常識海エルフかどうかはちょっと疑問がある。
「じゃあ昼飯はトンカツにするかー。俺達を乗せてくれたシーピッグ君じゃなくて、ストックしているグレートボアの肉で作るから安心しろ」
せっかく宥めたのにアムニスがトンカツを所望とかいうから、シーピッグ君がまた怯えてしまったじゃないか。
そいうことは、本豚の前でいうものじゃないぞ。そう、いうなら気付かれない場所でだ。
ははは、今日はシュペルノーヴァの住み処まで送ってくれた恩があるから、シーピッグ君を美味しく召し上がるなんてことはしないから安心していいぞ。
前方を見ると、赤い山肌を晒す火山。その頂上からは白い噴煙がゆっくりと昇っている。
ルチャルトラの冒険者ギルドを出てシーピッグの背に乗ってかれこれもうすぐ一時間。
冒険者ギルドのある集落からは小さくしか見えなかった火山が、だんだんと大きく見えるようになり威圧感も増している。
前世で住んでいた国は火山の多い島国で、少し足を伸ばせば火山を中心とした観光地がいくつもあった。
そして海も身近な国だった。
そのせいか、この海も前方に見える火山も少し懐かしいような気分にしてくれる。
これからもう少し海の上を走って、火山付近から流れ出している川をシーピッグで上っていく予定だ。
目的のシュペルノーヴァの住み処まではもう少し。
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