第757話◆アイツ再び
俺のうっかりミス、それがあまりにうっかりすぎて恥ずかしいのでお家に帰りにくく、そのまま少しだけ冒険者ギルドで仕事して帰ることにした。
せっかくピエモンから遠く離れたフォールカルテまで来たんだ、アベルの転移魔法を無駄にしないためにも何か仕事をやってから帰るのだ。
「で、結局ルチャルトラまで来てるじゃん。こんなことなら一回戻ってジュストも誘えば良かったじゃん。ていうかここに来たらチビカメもいそうじゃん。チビカメに会ったらグランがフォールカルテで仕事してないことがバレるじゃん」
「カ、カメ君はカメしか話さないから、カメ君にバレてもジュストにバレないからセーフなんだよぉ!」
「まぁ、もう来ちまったんだから今度こそ依頼を受けようぜ」
ここはルチャルトラの冒険者ギルド。
家庭教師の日をうっかり一日間違えてしまい落ち込みながらリリーさん所有の宿屋から撤退し、フォールカルテの冒険者ギルドへ。
いいんだ、少しだけ仕事して帰るんだ。その報酬で何か美味しいものでも買って帰って元気出そ。
と、フォールカルテの冒険者ギルドで依頼を探すことにしたら、アベルがいつものように空間魔法で他の冒険者が取ろうとした依頼を横取りして危うくケンカになりそうになり、俺が仲裁に入ったら貧弱そうなスーツ姿なもんだから舐められて他の冒険者まで巻き込んで絡まれて、このままでは冒険者ギルドのロビーで乱闘になりそうでやべーって思ってアベルが奪った依頼用紙を渡し、放っておくと相手を煽り出しそうなアベルを引きずって撤退。
ギルドのロビーで乱闘とかちょっと楽しそうではあるが、そんなことをしたら俺の綺麗な冒険者カードに傷が付いてしまう。
それにことの発端はアベルだし、素直に撤退撤退。というか空間魔法で他の人が見ている依頼を横取りするのはやめろ。
というわけで、フォールカルテの冒険者ギルドにすぐ戻るとまたトラブルになりそうなので、ルチャルトラの冒険者ギルドにピューッとやってきて掲示板に貼り出された依頼の物色を始めたところだった。
しかしスーツのままだと、頭がいいだけのインテリ系で弱そうに見えてしまうので、また他の冒険者に舐められて絡まれるかもしれない。
冒険者は荒くれ者も多いからな。やはり見た目の威圧感は大事なのだ。とくにリザードマンは強く逞しい者が好きで、外部の者でもガッチリとした脳筋系にはかなり友好的に接してくれる。
アベル達に依頼を選ぶのを任せて、俺はいつもの服に着替えてこようかな。
「スーツのままだとまた舐められて絡まれるのはいやだから、ちょっと更衣室を借りて着替えてくるよ。その間に依頼を選んでおいて……」
「カーーーーーーッ!?」
と思ったら後ろからなんだか聞き覚えのあるでかい声が聞こえて、そちらを振り返った。
「うっわ……」
「おっとぉ? 久しぶりなのかそうでもないのか」
その声の主を見たアベルとカリュオンの反応がこれ。
「うおぉ!? 何で赤毛一味がこんなところにいるんだ!?」
「それはこっちのセリフだ! 何で変な海エルフがこんなところに!?」
振り返った場所には海のように真っ青な髪の三白眼海エルフ。
名前は知らないけれど、その意味不明で珍妙で尊大な態度とカリュオンに負けず劣らずうるさくて、一度会ったら忘れようのない男。
そしてすごく怪しい。
そんな奴がどうしてルチャルトラに!?
「そりゃ、海エルフだから海の近くにいるのは常識的に考えて当たり前だろ?」
はっ!! 言われてみると確かにそうだな。
しかしこの珍妙な海エルフにドヤ顔で常識的に考えてとか言われると、めちゃくちゃ悔しいな。
「それよりお前らこそ今日……」
「む? アムニス、来たか」
海エルフ君が続けて何か言いかけた時、ギルドの奥から真っ赤なリザードマン――ベテルギウスギルド長がロビーに出てきて海エルフ君に声をかけた。
アムニスとはこの海エルフの名前だろうか。ガラの悪い顔つきと服装からはイメージしにくいエルフらしい響きの名前である。
「おう、おっさん、来てやったぜ。今日は何をすればいい?」
ベテルギウスギルド長に声をかけられた海エルフ君ことアムニスが、ものすごく気安い感じで応えた。
この変てこエルフ、ベテルギウスギルド長と仲がいいのか?
相変わらずやばい威圧感のベテルギウスギルド長。
だけど先日ペトレ・レオン・ハマダで一緒に泊まりがけで調査をした時にたくさん話したので以前ほど苦手意識はなくなった。
それでもとてもではないがため口で気安く話すほどの勇気はないけれど。
そんなベテルギウスギルド長とため口で気安く話しているアムニスという海エルフ、怖いもの知らずだな!?
「そうだな、今日は何を頼むか……む? そこにいるのは赤毛じゃないか。今日は――なんとなく今日は来ないと思っていたが俺の勘が外れたな」
ベテルギウスギルド長が俺達に気付き軽く手を上げた。
先日のペトレ・レオン・ハマダの調査で少しだけ仲良くなったからか、その表情は以前ほど怖く感じなかった。
でもやっぱため口を叩く勇気はないな。
「はい、今日はルチャルトラで何か仕事しようかと思って。できれば半日くらいで終わる仕事がいいかなぁなんて思って探していたところっす。Aランク三人なんですけど、日帰りできるなら少々難しくてもいけると思います」
でもせっかく親睦を深めたのだから、そのコネで割りのいい仕事を回してもらえないかなぁなんて思ってAランクパーティーであることをアピールしまくる。
「そうか今日はルチャルトラで仕事をするか。赤毛達はAランク三人か……ふむ、アムニスはいつものメンバー以外とパーティーを組んでギルドの仕事をすることがなかったな。よし、アムニスと赤毛達に共に仕事をしてもらおう。Aランク三人でもやりがいがあって、頑張れば頑張るほど早く終わる仕事だ。といってもアムニスはD、赤毛達はAでランク差があるからな。アムニスの仕事は案内人だ。赤毛達を現場まで案内して補佐してやってほしい」
あったらいいなぁで聞いてみたのだが、DランクのアムニスとAランクの俺達が一緒に仕事!? アムニスが案内役!?
どんな仕事を紹介するつもりなんだ!?
「えー? Aランク三人とDランクが一緒にできる仕事なんてあるの? やりがいがあるってAランク三人でやっても? そんな場所にDランクの人を連れていって大丈夫? 実力はあるみたいだけど、なんかちょっと言動が不安だよ」
アベルがキュッと眉を寄せて疑うような視線をベテルギウスギルド長に向ける。
「うむ、アムニスは実力的には問題ないし、仕事も割りには合うと思うぞ。とくに赤毛が好きそうな仕事のはずだ」
うんうんと一人で納得するように頷くベテルギウスギルド長。
俺が好きそうな仕事は素材がたくさん持って帰られる仕事だぞー。
「グランが好きそうな仕事でAランク三人と案内役でやらないと行けない仕事かぁ? シュペルノーヴァの住み処の近くで素材集めの依頼かな?」
とカリュオン。
あ、そういう仕事好き好き。シュペルノーヴァはやっぱおっかないけれど、巣の近くまでいけば質のいいドラゴンフロウがたくさんありそうだし、やりたいやりたい。
「惜しいな。住み処の近くではなく住み処だな」
は?
今、なんっつった? 住み処?
「お前達にはシュペルノーヴァの住み処の掃除を依頼しよう。住み処に生えている植物やキノコは好きに採って帰っていいというか、掃除だから草毟りもしっかり頼むぞ。住み処内に生えている草やキノコも草毟りの対象だ」
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