第十章
第749話◆突然の手紙
「うっひょー、ちっこい町の冒険者ギルドなのに設備はしっかりしてんだよなぁ。ああ、新しくしたって言ってたっけか? あんま儲かっているようには見えないし、こんな大型の機材を使うような魔物は近くにいないはずなのに、よくそんな予算があったなー。ま、俺にはギルドの内情のことはわかんねーけど、近所にこんな豪華施設があるなら金を払ってでも使わせてもらうよなぁ」
大型クレーンの魔道具で吊し上げられたランドタートルの死体を見上げながら、つい思ったことが口から漏れまくった。
ペトレ・レオン・ハマダ大炎上事件の翌々日、ピエモンの冒険者ギルドで解体場を借りて、あの時のベリアライトランドタートル君の解体作業を始めようとしていた。
本当は昨日のうちやっておきたかったのだが、ランドタートルを倒した後少し横になるつもりがそのままぐっすり寝てしまって、俺が倒れたと思ったアベルがめちゃくちゃ心配症モードに入ってしまい、一昨日の帰宅後から昨日一日ベッドに押し込まれることになった。
ランドタートルとの戦闘でナナシを使ってガンガン魔力を吸われたのと、ソウル・オブ・クリムゾンの火属性の強い魔力に晒されて、魔力欠乏と魔力酔いが同時にきて強い睡魔に襲われたのだと思われる。
やはりナナシもソウル・オブ・クリムゾンも強力な装備、使えば自分の体にも負担がかかる。
強い装備だが頼りすぎてはいけない。
いや、少しでも使いこなせるように自分を鍛えなければならない。
アベルとカリュオンは昨日から仕事復帰だったので、代わりにカメ君が見張り役になってしまい、ベッドから抜け出そうとするとめちゃくちゃ威嚇をされてベッドに戻ることになった。
三姉妹やラト、それにフローラちゃんと毛玉ちゃんまでちょいちょい様子を見に来るので、観念してゆっくりと休むことにした。
今日は毎週恒例のパッセロ商店へ行く日だったので、昨日はランドタートルの解体以外にもパッセロ商店に納品する商品も作りたかったのだが、なんか皆に心配されていてベッドから出られそうにないので今週の納品分はストックしているものを持っていくことにした。
もしものことを考えてストックの用意をしているんだけど、ストックが減ると不安になるので、不安にならないように日々ストックは増やしていかないといけないな。
そんな感じで昨日一日しっかり休んだので今日は元気。
それでも心配症のアベルは、急遽仕事を休んでパッセロ商店に向かう俺についてきた。
アベルが王都に行かなかったためカリュオンも自動的に休みになったので、今日は森を探検するらしい。
そんな休んでいいのか? アベルもカリュオンも王都で人気の冒険者だから、指名依頼とかあるんじゃないのか?
え? 一昨日のペトレ・レオン・ハマダ大炎上がすでにドリー達の耳に入っていて、ドリー達はその調査に向かった?
やっべ、俺は何もしていないけれど、お前達が放火したのはバレるんじゃね?
ああ、ベリアライトのランドタートル君が火を吹いて火事になったことにしたんだ。
なるほど、死亀に口なし。
午前中はいつものようにパッセロ商店で直販コーナーをやって、お昼ご飯をご馳走になった後、午後は冒険者ギルドへ。
いつもなら依頼を受けて小金稼ぎをするところなのだが、今日はランドタートルを解体しなければならない。
ランドタートルを解体して、みんなで美味しく召し上がるのだー!!
「ホント、小さな町の冒険者ギルドとは思えないほどいい設備だね。前回、ランドタートルを解体した時はもっと古い機材ばっかりだったよね?」
ピエモンの冒険者ギルドは少し前に解体場が改装され設備も新しいものに入れ替わった。
その時に以前あった機材のいくつかを安く売ってもらって、俺の日頃の解体作業で大活躍している。
冒険者ギルド的には型落ちをした古い機材でも俺が使うには十分すぎるもので、おかげさまで俺の解体作業がより速くなった。
「儲かってなさそうなギルドで悪かったなー。去年お前らが倒したランドタートルがアダマンタイトだったから結構稼ぎがでかかったんだよ。ついでにグランがランクの高い依頼を消化してくれっから、他所の町のギルドに依頼を出さなくてよくなった分もでかいな。それから、最近はちょいちょい他所の町から冒険者がきて、滞ってる依頼をやってくれてるし、それからやたら運のいいお嬢ちゃんが微妙にレアな素材を時々持ち込んでくるからな……おっと、そんなことよりお前さん宛てに手紙が届いてるぜ」
アベルと話しながらランドタートルの解体作業に取りかかろうとしたら、バルダーナが白い封筒をピラピラとさせながら解体場に入ってきた。
そのやたら運のいいお嬢ちゃんってめちゃくちゃ心当たりがあるな。
それよりギルド長が何でただの冒険者宛ての手紙を、わざわざ解体場まで届けにきた?
そうか、俺が大型の解体場を借りたことを知って、何か高級素材でも出てこないか見に来たな?
手紙はきっとそのついでだろう。
それにしても俺に手紙を送るような人っていたっけか?
冒険者ギルドにはギルド留めで手紙の郵送サービスがあるのだが、俺には手紙をやりとりするような知り合いはいない。
「手紙? あっ、ジュストからだ!」
バルダーナから封筒を受け取ると表にはピエモンの冒険者ギルド留めで俺の宛名、裏返すとオルタ・クルイローの冒険者ギルドの印と発送された日付のハンコが押されており、そのわきにはジュストの名前が書かれていた。
「ホントだ、ジュストからだ。食材ダンジョンの帰りに会って以来かな? 元気にしてるのかな? ねね、早く開けてみて」
「今開けるから、そう急かすなって」
俺にとってジュストは懐かしい世界の話題を話せる特別な友人であり、弟みたいな存在でもあり、冒険者としては可愛い後輩でもある。
素直でまっすぐなジュストを気に入っているのは俺だけではなく、好き嫌いの激しいアベルもジュストは気に入っているようで、何だかんだで先輩面をしてあれこれ教えている。
そしてこの反応である。
すぐ開けるから落ち着けってば
手袋を外して封筒を開け、中の手紙を取り出してそこに書かれていることに目を通す。
まだまだ書き慣れないユーラティアの文字を、一生懸命書いているジュストの姿が思い浮かぶ字面に頬が緩む。
オルタ・クルイローの職業訓練校での生活の話、友達の話、冒険者としても活動している話、ジュストがこちらの世界で前向きに暮らしていることがわかる内容の手紙にほっこりとした気分になる。
学校は大変みたいだけれど、楽しくやっているみたいだな。
それで、何だって?
え?
マジか!?
「ジュストが夏休みだから帰ってくるって。しかも今日か明日到着っぽい」
発送日の印は七日前。
オルタ・クルイローとピエモンの距離を考えれば、馬車を使った通常便到着までの日数はそんなもんだろう。
そしてジュストがオルタ・クルイローを出ると書いてあるのが四日前で到着は早ければ昨日、遅くても今日か明日と書かれている。
馬だとオルタ・クルイローまで早くて四日。のんびりだと六日、七日くらいか。
ジュストは足の速い騎獣オストミムスを飼っているので、おそらくそれで爆走してくるだろうから当然馬車や馬よりも早い。
おそらくジュストは日本の手紙の感覚で出したのだろう。
ジュストーーーーーー!!
こちらの世界は、日本の手紙みたいに爆速で遠方に届くなんてことはないんだよおおおおお!!
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