第750話 ◆おかえり
ジュストの手紙を受け取ったものの、解体場を借りてしまっているのでランドタートルの解体をやらなければならない。
その間にジュストが帰ってくるかもしれないが、うちには……あ、ラトも三姉妹もカリュオンも森に遊びにいって誰もいないかもしれない。
でもきっとフローラちゃんがいるはずだから、俺がいない時に帰ってきてもきっと大丈夫……のはず。
……ジュストは微妙に運が悪いけれど大丈夫だよな? 変なトラブルに巻き込まれていないよな!? 何だか心配になってきたぞ!!
今日帰ってくるとは限らないが、パパパッと解体を終わらせて帰ろう。
ジュストの運の悪さは少し不安だけれど、ジュストが帰ってきたらランドタートル料理にしよう。
よぉし、やる気が出てきたぞー! 久しぶりに会うジュストのためにがんばって料理しちゃうぞー!!
とジュストの不運さを少し心配しながらも、張り切ってランドタートルの解体を終わらせて帰宅した。
アベルにも手伝わせて急いだけれど、やはり大型ランドタートルの解体作業、それなりに時間がかかってしまい、自宅に到着した頃には西に傾いた夏の陽がギラギラと赤みを帯びた色になる頃だった。
集中して気配を探れば獣舎の中の騎獣の数も、家の中に誰がいるのかも把握することはできるのだが、そうはしないで玄関へと向かい扉に手をかけた。
すると、扉の向こうからバタバタと玄関に向かってくる足音が聞こえてくる。
俺は気配を探らなかったが、向こうは違ったようだ。
それとも注意せずとも俺の気配に気付けるほどになったのか。
無意識にニヤニヤと緩みそうな顔を、必死に引き締めながら玄関の扉を開く。
「ただいま。それからおかえり」
「おかえりなさい、そしてただいまです!!」
扉を開くと懐かしい顔。
黒い犬の獣人の姿をした少年、ジュストが玄関で俺を出迎えてくれた。
その表情もわかりやすいのだが、もっとわかりやすいのは尻尾。これは、きっと無意識。
千切れそうなくらいの勢いでブンブンと振りまわすように尻尾が振られていた。
俺に対する好感度がめちゃくちゃ高い証に、自分の表情がいっきに緩むのがわかった。
ブンブンと振りまわされる尻尾に目が行った後は、ジュストの驚くべき変化に気付いてすぐに言葉が出てこなかった。
「うっわ、すごく背が伸びてる。もしかしてグランの身長に追いついちゃうんじゃない?」
「んな……ま、まだ俺の方が高いぞ! それに俺に追いつくってことは、アベルにも追いつくってことだからな!?」
「俺の方がグランより少しだけ背が高いから、ジュストがその間で止まればいいんだよ」
そう、思わず驚いて言葉を失った原因はジュストの身長。
ほんの数か月会っていない間にジュストの身長がグンと伸びていたのだ。
前回、食材ダンジョン帰りに会った時もうちを出た時よりも伸びているなって思っていたが、そこから更に伸びて小柄な日本人にしてはすでに高身長といってもいいくらいになっている。
この勢いで伸びたら俺もアベルもジュストに追い抜かされてもおかしくない。
というかアベルだって出会った頃は俺より背が低くてガリガリの女の子みたいだったのに、いつの間にか俺の身長を抜かしてやがった。
ドリーのパーティーメンバーは、ドリーは当然のこと、カリュオンも俺より背が高い。
これでジュストにまで抜かれてしまったら、仲の良い友人の中で俺が一番背が低いことになってしまう。
いや、名前は忘れてしまったけれどドリーのパーティーで一緒になった橙髪君は俺より背が低いな。
あまり親しくないが、俺が一番ちびっこにならないために橙髪君は勝手に俺の友達だ!!
「えへへ、そうなんですよ。最近急に身長が伸びちゃって、膝の関節が痛くなることが多くてつらいんです。お腹もすごくすいちゃって、寮のご飯をめちゃくちゃおかわりしてます。もっと伸びてドリーさんみたいにでっかくなりたいな」
「ははは、成長期ってやつだな。体を動かしてたくさん食べてるからグングン伸びるのかもしれないなぁ。でも、さすがにドリーサイズはやりすぎじゃないかな?」
可愛いジュストがドリーサイズになるのはちょっとな……ほら、ドリーはでかすぎて屋内で頭をぶつけることもよくあるし、体に合う装備を見つけるのが大変だとよくいっているしほどほどがいいと思うぞ。
ほどほど……そう、ほどほどに俺より少し低いくらいがいいんじゃないかな!?
「もー、グランいつまでも玄関で立ち止まって話してないで中に入ってよ。それとさ、ジュストも戻ってきたことだし今日のランドタートルを料理してよ。前みたいに豪勢じゃなくてもいいからさ、今日はランドタートル料理にしようよ」
玄関に入ったところでジュストとの再会を喜んでいたら、アベルが横から俺の肘を突いて急かした。
おっと、話したいことや聞きたいことがたくさんあって、つい玄関で話し込んでしまった。
「そうだな、今日の夕飯はランドタートルに――」
ガチャッ!
「わっ!」
「んな!?」
中に移動しようとした矢先、玄関が開く音がしたとほぼ同時にアベルがよろめいて俺にぶつかった。
「たっだいまーーーー!! おぉっとぉ!?」
直後聞き慣れたスーパーハイテンションな声。
ジュストと話すことに夢中で周囲の気配を全く気にしていなかったぜ。
俺とアベルが玄関に留まってジュストと話しているところに、カリュオンが戻ってきて玄関の扉を開いてすぐに中に踏み込みアベルにぶつかって、それに押されたアベルが俺にぶつかったようだ。
「わりい、俺達も今戻って来たところなんだ。それより、ジュストが戻ってきたんだ。今日はおかえりパーティーだな!」
「お、マジでジュストだ。短い間でずいぶん背が伸びたな。この調子で伸びるとグランとアベルを抜いちまうかもしれないなぁ」
うぐっ!? カリュオンにも言われたぞ!?
お、俺だってまだ十九歳だから伸びる希望はあるんだ!
「お久しぶりです、カリュオンさん。はい、伸びました! このまま、ドリーさんみたいになれるようにがんばります!」
「身長はがんばって伸びるもんじゃなくね? ていうか、ドリーサイズかぁ……」
だから何でドリーサイズなんだ!?
カリュオンが苦笑いしているぞ!! それと身長は努力で伸びるものではないと思うぞ!
「キ?」
ん? カリュオンから変な音が聞こえた気がするぞ?
「キキキッ!」
やっぱなんか鳴き声のような高い音が……アッ!
「森で苔玉に会って軽く殴り合いをしたら、その後ついてきちまった」
「キッキーーー!!」
「モコモコちゃん!?」
「キッ!」
カリュオンの後ろから見覚えのある緑のモコモコが顔を出してその肩の上に乗り、挨拶をするように俺に向かって前足をピョコッと上げた。
「やっぱこの苔玉、俺の知らないとこでグランの飯の味を覚えてたな」
「キィ?」
カリュオンが目を細めモコモコちゃんの方へ視線をやると、すっとぼけるようにモコモコちゃんが短い前足で耳の後ろを掻いた。
まさかカリュオンの話によく出てくる謎の苔玉は、モコモコちゃんだった!?
うーん……苔玉といえば苔玉か? ていうか殴り合い!?
「というわけで、わりぃけど今日の夕食は苔玉の分も頼めるかな? ほら、苔玉からもグランにちゃんとお願いしろ」
「キッ!」
カリュオンに突いて促された苔玉ちゃんが、俺の方にどんぐりのような形をした木の実をポイッと投げた。
鑑定すると元気の出る木の実とか見えるけれど、夕飯代かわりかな?
「ああ、もちろん大歓迎……」
「カメーーーーッ!? カメッ! カメッ! カメッ!」
もちろん大歓迎だよと言いかけたところで、突然左側の肩の上にトンッという軽い重さを感じて、聞き慣れた声が耳のそばで聞こえた。
それは少し驚いた様子。モコモコちゃんこと苔玉ちゃんがカリュオンの肩にいることに驚いたのかな?
「おかえり、カメ君。俺達も今戻ってきたと……」
「ゲ……」
ん? カメ君とは違う声が聞こえたぞ?
その声のした玄関の下の方を見ると、外から遠慮がちに顔半分だけ覗かせてこちらの様子を窺っているちっこい赤いトカゲの姿。
「サラマ君、また来たのかい? もうすぐ夕飯だけど食べていくかい?」
「ゲッ!」
サラマンダーの幼生に似た見覚えのある赤い子トカゲに声をかけるとパッと明るい表情になってチョコチョコと玄関の中に入ってきた。
ん? んんん? んん-----?
「カッ!?」
「キッ!?」
俺がそれに気付くと同時に、カメ君と苔玉ちゃんが驚いたような声をあげた。
「ゲゲェ……」
そしてサラマ君が困った表情をしながら、ポリポリと前足で頭の後ろを掻いた。
そのサラマ君の後ろに隠れるようについて玄関の中に入ってきた、焦げ茶色の毛皮を持つ謎の四足歩行の生き物の姿が見えた。
「モ……」
え……っと、どちらさん!?
というかラトとアベルの結界ちゃんと仕事してる!?
※明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします!!!
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