第743話◆価値のない金

 ランドタートルは荒野に棲息する巨大陸亀の魔物で、その巨体を使った物理攻撃の他に土属性の魔法攻撃を得意とし体の表面は硬い鉱石に覆われている魔物だ。

 岩石を主食としており、その食べた岩石が表皮及び甲羅に反映されるという性質の魔物だ。

 元より魔法の効きづらい上に物理攻撃にも強いランドタートルだが、鉱石の性質によってはさらに魔法への耐性が高く、固さも増してしまう。

 つまりまともに戦うと面倒くさい。


 以前アベルと二人で戦ったランドタートルは現在目の前にいる個体よりは小さかったが、アダマンタイトの鉱石混じりでアベルのチート魔法頼りでの討伐となった。

 今回もそれでいきたいところだが、前回と違い今回はランドタートルがアベルの存在を認知してしまって、放火魔として完全にロックターゲットをしている。

 この状態でアベルがあの時のような大規模な魔法を使うのは厳しいだろう。


 前回はランドタートルの周囲を空間魔法で囲い込み、その中の空気を転移させて真空にするいう方法をとった。

 しかしアベル曰く、あの戦法は二種の空間魔法を使うことになりどちらも高い技術と多くの魔力を必要とする魔法でアベルですら発動までに時間がかかり、そのうえ使える範囲が狭く動き回る相手を仕切られた空間の中に閉じ込め続けるのは難しく、空気という目に見えないものの転移も目に見えるもののように簡単にできるものではないらしい。


 つまり今回は前回の戦法は使えず、魔法耐性の高いランドタートル相手ではアベルの魔法はほぼ効果はない。

 アベルが嫌そうな顔をしていそうだなぁとチラッと見ると、意外と明るい顔をしていた。

「ランドタートルだよ! ランドタートル!! ランドタートル料理が現れたよ!! それにランドタートルの血もお金のにおいがするよ!!」

 ものすごく食と金に釣られていた。というかまだ料理じゃないんだよなぁ。

「ああ、前にアベルが自慢してたランドタートルフルコース料理か。いいな、今回は俺も混ぜてくれよ」

 あ、カリュオンまですごくやる気になっている。


 魔法ゴリラと防御ゴリラがやる気になっていて頼もしいのだが、魔物はランドタートルだけだとしても周囲は大炎上中。

 このまま荒野火災を放置していると、俺達も火に飲み込まれてしまう危険がある。

 荒野の大火事とランドタートル、同時に対処しなければならない状況だ。


「ランドタートルは魔法が効きにくいから、俺は火を消すのに専念するよ」

 だよな、ランドタートルは魔法が効きづらいからアベルは消火係だよな。

「どちらかを先にさっさと片付けちまうのがいいだろう。やっぱ自然災害はやべーから、火事が先だな。ぱぱっとアベルを手伝って火事を片付けて、ランドタートルの方を手伝いにいくぜ」

 どちらかを先にさっさと片付けるのは賛成だが、この火事は自然災害じゃなくてお前らの放火だ。

 って、お前ら二人ともが消火活動にいったら、このデカカメの相手は俺がしないといけないじゃないか!!


「グランは魔法が使えないから消火活動より、ランドタートルの注意を引く役割の方がいいよね!」

 グサーッ!!

 一人でデカカメの相手はきついかもと言い返そうとしたら、それより早くアベルの言葉のナイフが俺のガラスのハートに刺さった。

 そりゃ、消火活動はやることなくてさっきから応援しかしてなかったけど、言っていいことと悪いことがあるだろ!!


「グランは亀は好きだもんな!」

 違う、俺が好きなのはカメ君みたいな可愛くてキュートな亀であって、こんなゴツゴツしてる上に怒り頂点な亀はちょっと……。

 げええええええ! 何もしていないのに、俺の方に岩が飛んできたーーーー!!


「じゃ、デカカメはグランに任せたよ!」

「役割分担よろしくぅっ!」

 俺が岩を避けるために大きく跳んでアベルとカリュオンと離れたため、彼らが提案した役割分担で立ち位置が別れることになった。

「ちくしょー、デカカメはなんとか引きつけておくから、さっさと火を消して助けてくれよー」

 しょうがねぇなぁ、可愛くないカメちゃんは俺がなんとか引きつけておいて、アベル達には消火活動に集中してもらうか。


 実際、魔法が使えるアベルとカリュオンにさっさと火を消してもらって、その後ランドタートルに集中攻撃をするのが安全で効率がいいことには違いない。

 でも俺にこのデカカメの相手ができるか?

 アベルと二人がかりで倒した奴よりもでかいぞ?

 いや、あの時も俺が引きつけてアベルは攻撃に集中していた。今日もあの時とそう状況は変わらない。

 そしてランドタートルの強さは大きさではなく、その材質で決まる。

 いけるか?


 ランドタートルは荒野の眩しい光を反射して、キラキラと金色に輝いて見える。

 一瞬、金を含んだ鉱石ではないかと錯覚するが、おそらくは違う。それに、金だったらこいつが現れた時にアベルがもっとはしゃいでいただろう。

 ランドタートルの体は金色にも見える黄色系――といっても白みの強い黄色。

 パッと見は金にも見えるが、その輝きはやや薄く鈍く金にはほど遠い。

 つい昨日、本物の黄金を見ていなければ、もしやとぬか喜びしていただろう。


 価値のない金、偽の金、愚か者の金などと禄でもない二つ名ばかりを付けられたのは、金だと思って持ち帰り金ではないと落胆した者達の八つ当たりだろうか。

 金よりも薄く金色に輝くその鉱石はベリアライトという、俺達冒険者もダンジョンで見つけてぬか喜びさせられる鉱石の代表格である。


 とまぁ不人気の代名詞のような金属だけれど、俺はわりとベリアライトは好きである。

 もちろん金も好きなのだけれど、白みの強い落ち着いた光沢のある黄色は派手すぎずかなり俺の好みの色だ。

 湿気で脆くなるが、そうでなければ鉄よりも硬く、実は火属性と光属性を持った鉱石で、耐呪効果もありお守りにも向いた鉱石である。


 おそらくこのランドタートルはそのベリアライトを餌にして成長した個体である。

 湿気があれば脆くなるのだが、ここはカラッカラに乾いた荒野。ベリアライトを主成分とするランドタートル君は、コンディション最高のカッチカチだと思われる。

 しかもベリアライトは火属性も持っているということはこのランドタートル君、もしかしたら火属性の魔法を使う可能性もあるということだ。

 そして周囲は大火災進行形。その炎から立ちのぼる魔力がベリアライトで形成された体を強化していそうである。

 ちょっと!? その火事、早く消してくれないとまずい気がするんだけど!?


 アベル達と立ち位置が離れ、孤立した状態になっている俺の方へランドタートル君が地響きをさせながら向きを変える。

 なんだ、わざわざ気を引かなくてもそっちから来てくれるなら楽だな。

 いいぜ、かかってこいよ。遊んでやるよ。


 腰のナナシに右手をかけながら、ランドタートルの方へ左手を突き出して人差し指をちょいちょいと曲げて煽ってみると、ランドタートル君の顔が歪みグワッと口を大きく開いた。

 口を開き空気を吸い込んでいるのか、周囲で燃えさかっている炎がその口の中に吸い込まれていく。燃え上がる炎と一緒に立ちのぼる火の魔力と共に。


 あ、これ火属性の竜種が炎のブレスを吐き出す時の前触れに似てる。

 ランドタートルって土属性だから火なんか吹かないよね?


 口の中で火属性の魔力が渦巻いて、吸い込んだ炎と一緒になって大きな炎の玉が口の中に作り出されているのが見えるな。

 うん、レッドドラゴンやサラマンダーのブレスの前兆にそっくり!


 もしかして、火吹いちゃいますかーーーー!?

 ですよねぇえええええ!! ベリアライトって火属性ですもんねええええええ!!


 ランドタートルの口の中で渦を巻くようにして生成された炎の球体が、その口からはみ出る程大きくなった後、俺の方へ向けて勢いよく吐き出された。


 おいいいいいいい!! ここにもいたよ、大荒野の放火魔!!!


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