第742話◆荒野の放火魔

「ヒッ! 地面から火柱が上がった! めちゃくちゃ燃え上がった! これはさすがにやばいから雨を降らせて消そう……ああああ~、火の勢いが強すぎてすぐには消えそうにない~~」


「や~、これ火の勢いというよりシュペルノーヴァのくれた武器由来の炎だから、もしかして簡単に消えない可能性があるのでは? 焼け野原に水だけど俺も雨を降らせておくか。今日はカメッ子が一緒じゃないから、俺達でなんとかしないといけないなぁ」


「そういう考察は着火する前にやるべきだったよな。カメ君のありがたみが身に染みるなぁ~」


「キッ! 俺だってもっと強い雨を降らすことができるんだからね!! うわああああああああ、炎の勢いが強すぎて雨が蒸発しちゃって全然効いてない!!」


「それにしても、燃え上がってるわりには炎の熱さはないな。シュペルノーヴァの武器を持っているからか? グランはどうだ?」


「ああ、俺も全然平気。普通なら目の前でこれだけ燃えてたら近寄れないくらいチリチリするもんだけどな。アッ! でも火の粉が髪の毛についてチリッていった! 熱くないけど髪の毛の先がチリチリしてる!! どうせなら髪の毛も守ってくれーー!!」



 熱く乾燥した荒野ペトレ・レオン・ハマダで燃え上がる真っ赤な炎。

 アベルとカリュオンの試し撃ちの炎が、長期間雨が降っておらずカラカラになっている植物や転がってきたタンブルウィードを巻き込んで大炎上。

 そしてそれがどんどんと広がっている。

 アベルとカリュオンが二人がかりで水魔法の雨を降らせているが、炎の勢いは全く衰える様子はない。


 魔法の使えない俺はどうすることもできず、アベルとカリュオンが必死で魔法で雨を降らせているのをボーッと眺めているだけ。

 収納に入っている水の大半は海水なので、塩分の含まれている水をここに流すのまずいから、やることがないんだよなぁ。

 メイルシュトロックもまだあるけれどあれも海水だし、メイルシュトロックは稀少なものなので火消しに使うなんてもったいない!!

 よって、がんばれ、アベルとカリュオン!! この惨事を引き起こした二人でなんとかしたまえ!

 ははは、いつもカメ君ばかりを頼りにしてはダメだぞー!!


 それにしてもこれだけ大炎上しているのに全く熱くない。これは明らかにこのソウル・オブ・クリムゾンという名のイヤーカフスのおかげだろう。

 アベルとカリュオンがシュペルノーヴァに貰った武器から発生させた炎から発する真っ赤な光を見つめながら、左耳に手をやるとイヤーカフスが少し熱を持ち始めていることに気付いた。

 そのことが少し気になったが、それより今はこの大炎上だ。

 これをどうにかしないと、乾燥した荒野にどんどん燃え広がっていく。


「ヒッ、このまま放置して転移で帰ったらダメかな? 荒野の真ん中だからバレないよね?」

「といっても、近くにこないだ調査にいったBランクダンジョンがあるからなぁ。ほっといたらそこまで燃え広がりそうだなぁ。こんだけ大規模だと魔力の痕跡を調べられたら犯人はバレちまうな」

 俺は何もしていないので怒られることはいけど、この規模の大火災の原因を作ったとなるとアベルとカリュオンは下手したらランクダウンレベルの罰を受けそうだ。

 ちゃんと消してから帰ったほうがいいんじゃないかなぁ?

「がんばれー! 魔法を使えない俺にはどうにもできないから、アベルとカリュオンがんばれー!」

 しかし俺にできることは応援するだけである。

 がんばれっ♪ がんばれっ♪


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


「うお!? なんか地面が揺れてる!? 土の魔力!? 魔法による地震だ!!」

 魔法で雨を降らせ消火作業に必死になっているアベルとカリュオンを後ろから応援だけしていると、地鳴りのような音がして地面が揺れ始めたと思ったら、地面から立ちのぼるように強力な土の魔力が吹き出し、地面にひび割れが走り始めた。


 ま、まさか、マグネティモス!?

 ペトレ・レオン・ハマダの地下にマグネティモスがいるのなら、ここでシュペルノーヴァに貰った武器の炎で大炎上を巻き起こしたからそれに反応したか?


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


 相変わらず魔法による地震が続く。

 いや、違う。

 強力な魔力ではあるが、古代竜のような次元の違う魔力ではない。


 昨日会ったシュペルノーヴァや、先日暗い闇の中で目があっただけのマグネティモスと比べれば、足元どころかつま先にも及ばない程度の魔力。

 確かにそれなりの強敵かもしれないが、俺達ならおそらく何とでもなる範囲。

 その正体は――。


「でかい魔物が地面の中にいる! いったん離れるぞ!!」


 消火作業中のアベルとカリュオンに撤退を促し、身体強化を発動して地面を蹴る。

 俺に続いてカリュオンが身体強化を発動して下がる気配、最初に下がった俺をターゲットにしてアベルが転移を発動する魔力、その両方を感じながら揺れの中心部から離れ振り返ると、土の魔力によってひび割れた地面が高範囲にボッコリと大きくもりあがった。

 その範囲内には大炎上中の乾燥した植物やタンブルウィードもあり、地面と一緒に持ち上げられ噴火するように宙へと弾きとばされて、バラバラになりながらも炎は消えることなく周囲に降り注いだ。

 シュペルノーヴァに貰った装備のおかげか、降り注いでくる炎は少しチリチリするくらいで強い熱さを感じず、俺達を傷つけるようなことはなかった。


 俺達は平気なのだが、周りの乾燥した植物はそんなことはない。

 げえええええええええ!! 更に燃え広がるのではーーーーー!?

 しかも、地面からでかい奴が出てきたーーーーーー!!


「うっわ、更に引火した! しかも出てきたの、アイツじゃん!」

「うっひょー、更にひでーことになったなぁ。それでもあんま熱く感じないのはシュペルノーヴァに貰った武器のおかげかぁ?」

「ぬあー、以前アベルと二人がかりで倒した奴よりもでけー。しかも周囲の炎をどうにかしつつこいつもなんとかしないといけないのか……」

 ちょぉぉぉぉっと、荒野に大放火をしてしまった場所が彼の縄張りだったようだ。


 大炎上中の地面を粉砕しながら地中から現れたそれは、以前俺とアベルの二人で俺だけがボロボロになりながら倒した巨大亀の魔物――ランドタートルだった。


 しかもあの時よりも更に大きな個体。

 そうだよなぁ、以前ピエモンの近くに落ちていたランドタートルって、ロック鳥が上空から落としていったものだったみたいだしなぁ。

 成体ならゆうに百メートルを超えるロック鳥なら、ピエモンとペトレ・レオン・ハマダの間に横たわる高い山脈も軽ぅーく飛び越えてしまう。

 そりゃあもぉ、巨大亀を掴んでいたとしても軽々と。

 そう考えるとあの時のロック鳥がランドタートルを拾った場所がおそらく、このペトレ・レオン・ハマダである。

 ランドタートルの生息場所は荒野。

 ペトレ・レオン・ハマダならランドタートルくらいその辺に埋まっていてもおかしくないですよねーーーー!!

 ていうかめっちゃ足元に埋まってたーーーー!!

 もしかして地面の中でお休みのところに大放火して、大騒ぎしちゃってました!?


 ランドタートルは基本的に大人しい類いの魔物で、こちらから手を出さなければ積極的には攻撃してくることはないのだが、手を出したつもりはなくてもこの大炎上!! 荒野の大火災!!

 もうこれ、こっちから攻撃しちゃった判定ですよねーーーー!?

 荒野の放火魔はあそこのモヤシとバケツの二人でぇす!!

 あ、ダメ? 俺もお仲間判定?


 地面を割り周囲の炎を吹き飛ばしながらその姿全てを現した巨大ランドタートルが、空へ向かって咆吼を上げ周囲の空気をビリビリと震わせた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る