第741話◆周囲に迷惑のかからない場所
火属性の魔法は初歩的な魔法でも攻撃に向いているものが多いのだが、火であるが故に攻撃対象を燃やしてしまうため素材がダメになりやすいうえに、当然のように周囲のものにも燃え移るし、閉所で大きな炎を使えば自分達も巻き込まれてしまう危険がある。
前世のゲームっていう仮想の遊びではよく火属性の高火力攻撃魔法があったが、現実では超巨大炎魔法なんて使える場所はほとんどない。
使いやすそうで実は非常に使いにくい魔法、それが火魔法。その中でも炎や爆発を伴うものは威力は高くともトップクラスに使いにくい。
アベルは水属性魔法の上位である氷魔法をよく使っている印象があるが、アベル曰く実は水属性よりも火属性の方が適性は高いらしい。
氷魔法は吹雪を起こしたり、凍らせたりするような使い方だけではなく、氷の塊をぶつける、鋭く尖った氷で突き刺すといった物理ダメージを狙うこともでき、魔法に対する耐性が高い奴にも効きやすいから氷属性を使うことが必然的に多くなるらしい。
しかもぶつけたり突き刺したりだと周囲への影響も少なく、あまり大がかりな魔法でもないので素速くだせて魔力も消費も少ない優れものである。
でも指パッチンで大量の氷をピュンピュン飛ばすのは魔力お化けのアベルだからできることだと思うけど。
ま、俺は魔法すら使えないんだけどね!!
そんな使えるところが限られている火魔法。
ぶっぱするなら燃えるものがなくて、できれば広い場所。あと、人を巻き込まない場所。
それで選んだのが先日訪れたペトレ・レオン・ハマダのCランクのダンジョン。
え? マジでそこでやんの? ペトレ・レオン・ハマダのダンジョンは奥で繋がっていて、その大元の主はマグネティモスって話をダンジョンから帰った時にしたじゃん。
そのマグネティモスのお膝元のダンジョンでシュペルノーヴァの武器を試して大丈夫? 大丈夫なわけないと俺は思うんだけど!?
といっても他にちょうどよさそうな場所はパッと思いつかないからなぁ。
上の方の階層なら大丈夫か?
でもあそこのダンジョンは最下層以外は洞窟状の階層だから、あまり大規模な火魔法を使うと危ないんだよなぁ。
などと、やや不安をかかえながらペトレ・レオン・ハマダのCランクダンジョンを訪れたのだが……。
「ああ、そうか。俺達は休みだったけど、調査は続いてるし。ダンジョンの様子が変わったならスタートダッシュの金儲けに期待してやってくる奴もいるよなぁ」
「どうりで、珍しくこのダンジョンの入り口に警備がいると思ったよ。これは奥の階層も人がいそうだねぇ」
「人がいるならこのかっこいい棍棒を振り回すのは無理かー? 火属性だから地震はないだろうけど、武器の名前的に溶岩が湧いてきてもおかしくないからなぁ?」
ダンジョンに入ってあまり奥まで進まぬうちに複数の冒険者パーティーを見かけ、一度足を止めアベルとカリュオンと顔を見合わせた。
いつもなら無人のダンジョン入り口に警備員がいて、中の魔物に変化があったので注意するように声をかけられたので、先日の土竜の寝返り未遂の影響だろうなと思って中に入ったのだが、思ったよりもその影響は大きかったようだ。
見かけたパーティー以外にも人の気配があり、誰かが通った痕跡がまだ消えずあちこちに残っている。
「うーん、最下層まで洞窟階層ばっかりだし、人も多そうだから火魔法を試すのは厳しいかな。どれだけ威力が上がるかわからないし、最大出力を確認できなかったら意味ないし」
アベルが残念そうにため息をついた。
「最下層の荒野なら火魔法を使えそうだけど、カメッ子の雨で草原になっちまったからなぁ。あれって、グラン達が翌日調査に行った時も草原のままだったんだよな? じゃあまだ草原のままだよなぁ。マグネティモスさんが目を覚まして草原を気に入ったならそのままにしてそうだし、あそこでシュペルノーヴァのモルゲンステルンで地面を割ったり、アベルの火魔法で草原を焼け野原にしたりしたら怒られそうなきがするな。なんつってもシュペルノーヴァの武器だし」
俺もカリュオンの意見に同意だ。
普通の武器で暴れ回るのならマグネティモスさんには痛くも痒くもないだろうが、シュペルノーヴァの武器で暴れ回ったら威力もやばそうだし、何よりその魔力の由来に反応されて何が起こるかわからない。
俺もここで試し撃ちはやめた方がいいと思うなぁ。
どの程度威力が出るか確認するためなので全力で試し撃ちをするし、想定外のことが起こっても周りに被害なく済む場所がいい。
うーん、 だったらどこがいいかなぁ。
「あ、いいこと思いついた。きっとあそこなら大丈夫」
アベルが何かを思いついたようなのだが、その笑顔に何か少し嫌な予感を覚えたが他に案は思いつかないし、アベルの思いついたところに行くことになった。
「あっはっはっーーーー!! ここなら人はいなさそうだし、最大火力の火魔法を撃ち放題だよ!! って、うわああああああああああ!! めっちゃ火魔法が強化されて制御できないいいいいいいい!! あああああああああー、燃え広がっちゃったーーーーーー!!」
「うおおおおおお……確かに荒野のど真ん中なら人はいないかもしれないけど、荒野だから乾燥していて乾燥に強い植物は生えているし、荒野にはタンブルウィードが転がってるからそいつらはよく燃えるんだよなあああああああ!!!」
「何だ、野焼きかぁ? カメッ子がいないから消火が大変そうだなぁ。どうせ人のいない荒野のど真ん中だし、これだけ大騒ぎすれば魔物も寄ってきそうだから、俺も魔物除けを兼ねて一発ぶちかますかー?」
ああー、ここなら大丈夫だと思っていたが目の前が火の海だー!
ここはペトレ・レオン・ハマダの奥地のどこか。
先日、土竜の寝返り未遂の調査でペトレ・レオン・ハマダの奥地にある高ランクのダンジョンに行ったアベルが、その付近で何かに使うかもしれないからと転移魔法のマーキングをしていたらしい。
いつも俺の何かに使うかもに呆れているくせに、自分だってやっているじゃないか。
場所を取らないかもしれないけれど、そのマーキングした場所を覚えていないと意味がないからあちこちマーキングしても忘れるだろ!?
え? 忘れない? 記憶力がいいから?
カーーーーーッ! これだからチート級の記憶力で魔法も語学も、鼻くそをほじりながらでも余裕でやってのけそうなイケメンはよぉ!!
アベルがマーキングした場所から、念のため更に人の来なさそうな場所まで移動してここなら大丈夫だとシュペルノーヴァに貰った装備の検証を開始。
で、思いっきり火魔法を撃っても大丈夫だろうと、アベルがインフィニット・スターとかいうかっこいい杖で大火力の火魔法をぶっぱしたら、周囲の細かい植物に加え荒野によく転がっているタンブルウィードが転がってきて、それらに引火して大炎上。
タンブルウィードとは荒野に棲息する、枯れ木が集まって丸く絡まり合ったような姿をした植物系の魔物。
一見枯れた低木が風に吹かれて飛ばされて転がっているうちに、他の枯れた植物がくっ付いて更に転がっているうちにどんどん大きく丸くなったようなものに見え、実際そうやって大きくなったものなのだが、その中心にあるのは枯れ木ではなく枯れ木に似た魔物である。
カラッカラに乾燥した枯れ木が風に吹かれてコロコロと転がってくるように近寄ってきて、獲物の近くまで来たら枯れ木のような姿の中に隠された鋭い牙のある口でガブッといかれる。
自然界、ダンジョン問わず荒野によくいる魔物で、知らなければ風と共に近づいてきてガブッといかれることもあるのだが、そもそも風に吹かれて転がる程軽いので風魔法で風を起こしてやれば別方向に転がっていってしまうし、カラカラに乾いた枯れ木の魔物なので非常によく燃える。
そんなタンブルウィードがアベルが放った火魔法の中にシューッと吸い込まれるように転がって突っ込んで、野焼きの拡大に一役買ってしまった。
なんか前にも全く同じようなことがあったようなぁ……王都近くのダンジョンの荒野エリアで。
あの時よりも更に大炎上しているなぁ。
雨のほとんど降らない乾燥した荒野。
いやー、シュペルノーヴァのくれた杖を使った火魔法とか関係なしによく燃えるんだろうなぁ。
そして予想通りあの凄そうな杖は火魔法を強烈に強化したようで、それは魔法の天才児アベルですら魔法を制御できないことになっている。
まぁ、古代竜シュペルノーヴァのくれた杖だもんなぁ、人間の力の遥か上のものだよなぁ。
だからカリュオンもそのかっこいいトゲトゲ棍棒で余計なことはすんなよ! いいか!? 絶対に!! 絶対にだぞ!!!
「まぁ、燃え上がっちまったもんはしょうがねーな。ここまでなったら俺もいっとくかー、ハイエルフの古いことわざで”目には目を、火には火を”っていうもんなぁ?」
いわない! そんなことわざなんて知らない! 多分ハイエルフだけ!!
前世に似たようなことわざはあったけれど多分全然違う!!
むしろハイエルフって火はあんま好きじゃないだろ!!
ああー、カリュオンが赤黒ツートンカラーのかっこいいモルゲンステルンを大きく振りかぶってーーーー!!
こ、これはいつもの土魔法と鈍器の叩きつけを合わせた地面を揺らす技だーーーー!!!
ドーンッ!!
鈍器と土魔法、そこにシュペルノーヴァの炎の力が加わって、揺れた地面が割れそこから火柱が上がった。
なんだ火柱か……カリュオンが貰った鈍器はヴォルケニック・スターという名前だから溶岩が吹き出して、アベルの火に溶岩を注ぐ結果になるかとびびり散らしていたがそうならなかっただけましか~。
いやいやいやいや、溶岩よりはましだけれど、ましなわけないだろ!!
どうしようこれ、ペトレ・レオン・ハマダ大炎上だよ!!!
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