第697話◆走る石造り平屋建て

「なんてかっこよく言ってみたけど、メイジなしヒーラーなしは少ししんどそうだな」

「A+くらいかぁ? アースドラゴンなら竜の鱗よりも柔らけーし、飛ばねーしSまではいってないだろー」

 俺がぼやくと、カリュオンが大盾を構えそれを中心に大きな光の盾を展開しながら答えた。

 そうだな確かにカリュオンの言う通り岩石の鱗だから、同じランク程度の竜種よりは柔らかいし、翼がなく飛び回ることはないのでレンジ弱者の俺達には優しいドラゴンである。

 レンジ弱者の俺達には優しくはあるが、岩石でできた鱗に包まれた巨大な体で走り回るそれは、まるで走り回る石作りの平屋建て!! 突進する家屋みたいなもの!!

 絶対にアレに体当たりされたくねぇなぁ。


 レッサーアースドラゴンの攻撃は主に突進や踏み潰しなど物理攻撃に加え土魔法。地震も土魔法の一つである。

 使ってくる土魔法には地震以外にも、地面から土の柱や壁が生えたり岩が飛んで来たりと、ドラゴンらしく魔法も多彩である。

 で、レッサーの付いていないアースドラゴン君はレッサー君の上位種になるので、当然レッサー君より強く、魔法も多彩だと思われる。

 思われるっていうのは、レッサーではないアースドラゴンと少数で戦うのは初めてだから。

 以前戦った時はドリー達と袋叩きにしたからそんなに強く感じなかったけれど、カリュオンと二人で向かい合うとやっぱAランクでも上の方になるドラゴンは強そうだなぁ。

 水系の魔法にとくに弱いから、魔法使いがいるとすごく楽な相手なのだ。

 以前戦った時はアベルとシルエットがバッシャンバッシャン水をぶっかけて、柔らかくなったところを袋叩きにして、俺は回収係。

 今日は脳筋二人だから正面から殴り合うのは少ししんどそうだな。

 ……でも素材が美味そうだなぁ。


 そう、素材!! レッサーアースドラゴンラッシュで収納の空きが不安になってきたが、こいつも収納に突っ込んで持って帰るぞ!!

 よっしゃ、やる気出てきたーーーーー!!

 でかい相手に気圧されていたけれど、すっげーやる気出て来た!!

 レッサー君もただのアースドラゴン君も、表面は岩石の鱗だけれど中身はちゃんと肉だからな。

 倒して帰って、美味しく頂いちゃう!!


「カリュオン、水魔法を使うのはきついよな?」

 カリュオンはハイエルフの血を引いているため、専門職ほどではないにしろ魔法も得意だ。

 しかもハイエルフなので水属性の適性も高い。

 ただ防御特化したギフトの燃費が非常に悪いため、攻撃魔法に魔力を割く余裕があまりないらしい。

 相手が強ければ強いほど、こちらの旗色が悪い時ほど魔力は防御のために使うことになるからだ。


「だな、あのサイズとなると半端な水魔法は意味がないな。攻撃もエグそうだし、それを受け止めることが優先だな。幸いアースドラゴンは動きは遅めで大振りな技が多い、大技を止めるとでかい隙ができるはずだからそこから切り返しだな。グランはなんかおもしろアイテムでもあんのか?」

「うーん、あるっちゃあるんだけど……やれるだけやってみるかー」

 あるっちゃあるんだけど、メイルシュトロック。もしくはそのまんま津波。

 やだ、メイルシュトロックは手持ちがあまりないからできれば使いたくない。

 それにメイルシュトロックなんかぶん投げたら津波が起こるし?

 収納の中に入っている水や海水も纏めて放出してもだいたい津波だし?

 津波が起こると危ないよな? ダンジョンだからまぁいいか!?


「おおっと、のんびり作戦会議なんかやってる暇はないな。とりあえず困ったら因果応砲を溜めてぶっ放せばいいか」

「うへぇ……爆弾をぶつけて、挑発もした後だったな。どうせなら因果応砲をしっかり溜めて撃とうぜ。突っ込んできた雑魚の処理は俺がやる、カリュオンは防御に徹してくれ」

 のんびり作戦会議をしている暇なんてなかった。

 そしてこれといった作戦もなかった。

 困った時の因果応砲!! タンクらしからぬ超火力技!!

 攻撃を受ければ受けるほど威力が高くなる因果応砲を、アースドラゴンにぶつけるのが正解だろう。

 必殺技のない俺はサポートに回る。


 超簡単な作戦を立て終わった直後、こちらに向かってきた魔物達がカリュオンの出した光の盾に激突する轟音が響いた。

 まずは動きの速い小型の奴ら、それに遅れて中型の奴ら。そして最後尾にアースドラゴン。

 もともとあまり素速くはなく、大きくなるほど動きが遅くなる傾向があるのは岩石系の魔物の特徴である。


 突っ込んで来る場所が、挑発効果のある雄叫びを放ったカリュオン一点という状況により、先頭で突っ込んで来た小型の奴が盾に受け止められて止まったところに、後からきたそれよりでかい奴が突っ込んで前にいる奴を粉砕するという、俺達に都合の良い玉突き事故が発生している。

 その小っこいのを粉砕した奴らも遅れてくる更に大きな魔物に蹴散らされる。

 蹴散らされても生き残り、フラフラと光の盾の後ろに回り込もうとする奴、カリュオンの挑発シャウトの効果に釣られず直接盾の後ろにやって来る奴を処理するのが今の俺の役目。


 だが、最後に突っ込んで来た石作り平屋建て……じゃなくて、アースドラゴンの突進と、それを受け止めたカリュオンの盾がぶつかり合った衝撃で発生した魔力風により周囲の魔物が吹き飛ばされ、そのほとんどが砕け散った。

 平屋建て君の突進もやばかったけれど、カリュオンはやっぱすげーな。

 そして突っ込んできたアースドラゴンとカリュオンがそのまま力比べになっている。

 カリュオンは防御もすげーけどパワーもすげーな。


 そんな尋常ならざるカリュオンの防御もパワーも、魔力の消費が非常に激しいと聞いている。

 ここまでの連戦を考えると、カリュオンのパワーもそう長くは持たないはずだ。

 おそらく威力のある因果応砲を撃てるのは後一回くらいだろう。

 だから次の因果応砲で決まるように俺がアシストをする。


 カリュオンの盾の後ろから前へ飛び出し、ピョーンと跳んでアースドラゴンの背中へ着地をする。

 そしてそこから身体強化最大にして、更に上に跳ぶ。


「くらえ! ゲリラ津波!!」

 

 アースドラゴンの背中から上へ跳び上がった先で、収納の中から海水の塊をアースドラゴンに向けて落とした。

 アースドラゴンの弱点は水。水を被れば、岩石の鱗の強度が下がる。

 防御が下がれば因果応砲の威力も上がる。

 バッサーーーーーーーッ!!


 といくつもりだったのだが……あれ?


 俺の放った海水の塊は落下することなく、アースドラゴンの後方へと吸い寄せられていった。

 海水を落とした後の俺の体もそれに引っ張られる。


 重力弾か!?


 そうだよな、重力系の魔法も土属性なんだよなああああ!!

 引っ張られる方向を振り返ると、黒い魔力の塊が俺が出した海水と俺の体を吸い寄せていた。

 引っ張られた水は重力弾の周りに集まり大きな水の塊になっている。

 あそこに引っ張られたら、自分の出した海水で溺れそう。やだ……かっこわるっ!


「ナナシ! 左手のワイヤーに取り憑いてアースドラゴンの首に巻き付け!! そしてそのまま俺を引っ張れ!!」

 左手の防具に仕込んでワイヤーにナナシを取り憑かせ発射し、アースドラゴンの首へと巻き付ける。


 下を見れば、地面に転がる砂や石の動きで重力弾の効果範囲はわかる。 

 その範囲は俺がいた場所がギリギリ入るくらいのようだ。

 重力系の魔法は魔力消費が激しいから、最低限の範囲で出すという知能と技術が裏目に出たな。

 おかげでカリュオンは重力弾の範囲外、俺もナナシの力を借りてその範囲外に脱出。


 あ、カメ君は――離れているから大丈夫そうか。

 割れ目に頭を突っ込んで何かしているな。

 ピロピロと尻尾が揺れているのがとても可愛い。

 何をしているのだろう。


 ナナシワイヤーをアースドラゴンの首に巻き付けて重力弾の効果範囲を抜けながら、身体強化状態の体で耳を澄ませてみた。



「カメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメ」



 え? 何それ!? 何のカメ語!? 呪詛っぽくも聞こえるけど大丈夫なのそれ!?



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