第696話◆カリュオン、怒られる
「やれそうなら解決して、無理ならチラ見してさっさと帰るつもりだったんだけどなぁ。これはどうしたものか……といっても、倒すしかなさそうだなぁ」
「うわぁ……これはレッサーが付いていない系のアースドラゴン君では……」
「カァ?」
押し寄せるレッサーアースドラゴンを張り倒しながら進んだ先――このまま進めば転移魔法陣という場所まで来た時に目に入った、レッサーアースドラゴンよりはるかに大きな岩石竜に息を飲んだ。
デカ岩石竜の見た目はレッサーアースドラゴンをゴージャスにした感じ。大きさは倍以上。
レッサーアースドラゴンが小さなもので体長五メートル、大きなものでも十メートルなのに対し、こいつは二十メートルを超えていそうだ。
四足歩行のトカゲタイプなので体高はそこまで高くないが、それでも五メートル近くあるだろうか。
その表皮の質感、その体型から、なんとなく石作りの建物を連想する。
この石作り平屋建てみたいな体型の岩石竜君は、間違いなくレッサーの付いていない、ただのアースドラゴンだーーーーーーーー!!
カメ君は不思議そうに首を傾げているけれど、こいつはAランクでも上の方の亜竜だぞーー!!
こいつがレッサーアースドラゴンを怯えさせた真の主?
いいや、違う。
こいつもレッサーアースドラゴンと同じく、真の主の魔力から生まれた奴だ。
主の魔力が漏れている場所に近付いたから、こういうデカイ奴も出てきたのだろう。
何故そうだと思ったかというと、アースドラゴンの足元に見える細い割れ目から、シューシューと濃い土属性の魔力が霧のようになって吹き出している。
あれはレッサーアースドラゴンの記憶で見えた小さな割れ目か?
俺が見た記憶ではもっと小さかった気がする。魔力を吹き出しながら広がっているのか?
となると、あの割れ目がもっと広がり吹き出す魔力の勢いが増す可能性もある。
吹き出しているあまりに濃い魔力がある程度溜まると、地面がそれを吸い込みボコリと盛り上がって岩石系の魔物が生えてくる。
魔力が多く集まる場所ほど強そうな魔物が、その中でもとくに魔力の量が多い場所からはレッサーアースドラゴンが生えてきている。
今のところ魔物が生まれるペースはそれほど速いわけではなく、大型のものほど生まれる確率は低そうだが、吹き出す魔力の量が増え魔物が発生する速度が上がれば、いずれこの階層から魔物が溢れ上の階層へ向かうだろう。
魔物だけではない、この濃い魔力が上の階層まで広がっていけば、そこでも魔物が生成され始めることが予想される。
なるほど、土竜の眠りが浅くなって発生する魔力が増え、外に溢れ始めるとこのように魔物が継続的に発生するようになり、土竜の寝返りとよばれるスタンピードに至るというわけか。
「あの吹き出している魔力が、グランの言っていた真の主の魔力ってことか。なるほど……これは確かに俺達とは格の違う奴がいそうだな。さすが、大荒野ペトレ・レオン・ハマダに存在する全てのダンジョンの主といったところか。全てのダンジョンの主というか、ペトレ・レオン・ハマダのダンジョンが見えないところで繋がっている一つのダンジョンということなのだろうな。ま、考えたところでとりあえずこいつをどうにかしないと先に進めないな」
簡潔に答えを出して盾を構え、アースドラゴンの前に立つカリュオン。
アースドラゴンは俺達に気付き、俺達をターゲットに決めたようにこちらに体を向けている。
この大きさ、すぐに逃げ出しても攻撃をされそうだし、逃げてもしつこく追いかけてきそうな雰囲気である。
そうなるとまたトレインの開始で、近くで生まれているレッサーアースドラゴンも混ざりそうだなぁ……さすがにそれは厳しいな。
この状況から安全に逃げるのも、ここを突破するのも、どちらにせよこいつと一戦交えなければいけないということだ。
逃げ出して背中から襲われるよりも、倒せるなら倒してしまった方がいい。
そして倒せば、さすがにこのサイズの生物ならすぐに再発生はないと思われるので、帰還用の魔法陣まで辿り付けるはずだ。
「ああ、こいつをどうにかするのが最優先だな。それとあの土属性の魔力、あれをどうにかしないと次々に魔物が発生して土竜の寝返りになっちまうな。どうにかって俺とカリュオンではできることはなさそうだから、主にさっさと安眠してもらうようにお祈りくらいしか思いつかないけど」
主のもとへ行って主を倒す、これはそこまで行く方法があるのか不明。
これだけのダンジョンと魔力を作り出す存在となると、俺とカリュオンの手に負えるものではない。
俺達にできるのは立ち塞がるアースドラゴンを倒してダンジョンから脱出してこの状況をギルドに伝えること。
あとはこのまま寝直してくれて、土竜の寝返りが収束に向かってくれることを祈るくらいだ。
そして、複数のダンジョンの主なるもの。
大昔からそこに存在し、ダンジョンやそこに棲む者を作り出している存在。
それほどまでに大きな存在。明らかに普通ではない存在。おそらく人にはどうしようもない存在。
この世界には、人知を超える存在が当たり前のようにいるのだ。そしてそれは、俺達の近い場所にも。
普通探しのダンジョン探索が、普通とは真逆のものを引き当ててしまったようだ。
「カッ!」
カリュオンの斜め後ろ辺りに位置取りをしながらナナシを構えると、カメ君が俺の髪の毛をチョイチョイと引っ張った。
どうしたのかとそちらを見ると、自分と吹き出す魔力を交互に指差し何かを訴えている。
やばい、カメ語通訳者のアベルがいない。アベルがいないと不便だな。
あの吹き出す魔力を何とかしてくれると言っているのだろうか?
「ここで土竜が寝返ってもカメッ子には関係のない話だろうから、カメッ子に頼りすぎるのは悪いなーって思ってたんだけど……ぬお!? 水鉄砲か?」
カメ君は気まぐれで俺達に付き合ってくれていると思っている。
そして、カメ君に大きすぎる恩を作っても、それを返せるかわからない。
俺達の力でできることは俺達でやりたい。
困ればカメ君が助けてくれるという甘えは持ちたくないから。いつかそれが当たり前に感じられるようになりたくないから。
時間はかかるけれど一度戻ってギルドで応援を頼めば、過去の記録にもあるように土竜の寝返りを迎撃することはでき、カメ君の力に頼らず解決ができるだろう。
カリュオンも同じような考えなのだろう。
その気持ちの一部を口にするとカメ君から強烈な水鉄砲が飛んでバケツに当たり、コーンという音がした。
「カカカッ! カカカカカカカッ!!」
何を言っているかわからないけれど、カメ君を頼ろうとしなかったのがお気に召さなかったのかな?
カメ君に遠慮して頼りすぎないようにと思ったのが、仲間はずれにしたように思われたのかな?
そうだよなぁ……カメ君はすごい亀だけれど、俺達の仲間でもあるんだよな。
そして俺達が思っている以上にカメ君は俺達のことを仲間だと思ってくれていたのだな。
それに気付くと嬉しくなって無意識に口元が緩んだ。
いたっ! いたたたたた!!
なんで、髪の毛を引っ張るの!? もしかしてツンデレ!? カメ君ってツンデレ系カメ!?
えへへへへへ、ありがとう。俺もカメ君のことは仲間だと思っているし、友達だと思っているし、家族だと思っているよ。
いたっ! 髪の毛を引っ張らないで!
じゃあ素直にカメ君に任せることにするよ。
俺達にできる精一杯のことをやる。だけど足りないところはカメ君の力を借りるね?
「このアースドラゴンは俺とカリュオンで何とかするから、あの割れ目から吹き出してる魔力はカメ君に任せていいかい?」
カメ君なら少し威嚇をするだけで、ダンジョンの主を大人しくさせてくれるかもしれない。
「カッ!」
「わりーな、カメッ子。あれは俺達にはどうにもならないから、カメッ子がやってくれるなら頼らせてもらうよ」
「カーーーッ!!」
カメ君からカリュオンにまた強烈な水鉄砲が飛んだ。
カリュオンは空気を読むのが上手くて、何でもそつなくこなすすごい奴に見えていたけれど、意外と空気の読めない面もあったんだな。
謝るんじゃなくて、素直に頼るんだよ。そして感謝するんだよ。
「ありがとう、カメ君。俺達にできないことだから、カメ君に任せるよ。できること、できないこと、パーティーなら役割分担だな」
「カッ!」
カリュオンはタンクの気質だからなのか、俺達よりもずっと長い時間を生きているからなのか、自分が頼られるのは得意でも誰かに頼るのは少し苦手なようだ。
カメ君に水鉄砲を撃たれたのは、変に気を使ってカメ君に頼ろうとしなかったから。
俺もカリュオンも全力で戦う決意をしながら、カメ君の力に頼りすぎるのはよくないとカメ君を頭数に入れていなかったから。
カメ君もパーティーメンバーだもんな、カメ君込みの作戦じゃないといい気はしないよな。
頼りすぎるのはよくないけれど、俺達でどうにもならないことはカメ君にお願いするよ。
「そうだな、カメッ子だけのけ者は悪かった! アースドラゴンと周囲の魔物は俺達でやるから、あっちの本命は任せたぜ!」
そうそう、謝るならそっち。
「カッ!!」
ほら、カメ君もうんうんと頷いてピョーンと俺の肩から飛び降りて、魔力が吹き出している割れ目の方へ亀とは思えない素速さで走っていた。
アースドラゴンと生まれたばかりの魔物達がそれに気付いてカメ君の方に向きを変えようとするが、俺がアースドラゴンの顔面に小さな爆弾ポーションを投げ、カリュオンが挑発効果のある雄叫びを上げる。
「お前の相手はカメ君じゃなくて俺達だ」
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