第598話◆昼食の後は

 行楽弁当の具といえばやっぱりセファラポッドさんウインナーかな?

 それから唐揚げ、卵焼き、トマトベースのタレのかかったミートボール、アスパラベーコン、それから彩りにミニトマトにキュウリにブロッコリー……いつもの弁当とたいしてかわらないな。

 いやいやいやいや、それだけではなくおむすびも作ったし、ちらし寿司も作ってみた。

 おむすびはパンダ柄にしたけれど、そういえば今世ではパンダっぽいものは見たことないな?


 米も海苔も醤油も米酢もオーバロまで行って手に入れたおかげで、前世の記憶にある料理が再現しやすくなった。

 前世の記憶頼りの料理が多いせいで、やはり前世で馴染みのあった食材の方が扱いやすい。

 海の地図ということでバーベキューの準備もしてきたが、早起きをして気合いの入った弁当も作って来たのだ。

 さぁ、昼飯は好きなものを摘まんで食べてくれ。


 午前中は心ゆくまで海を満喫して、ほどよくお腹が減ったタイミングで昼ご飯の時間だ。

 午後からも暫く海でのんびりするつもりなので水着のまま昼ご飯。

 水着でバーベキュー、これぞ海の昼飯といった気分になれる。


「午前中ずっと釣りをしてたのに魚ゼロって逆にすごくない?」

 うるせーぞ、アベル。

「宝箱しか釣れてなかったからなー。まぁ、宝箱から出てきた魔物やミミックは食えるし?」

 そうそう、箱から海産物系の魔物が出てきたから結果オーライ。


 バーベキューの網の上には、カリュオンと三姉妹が遊びながら獲ってきた貝やエビやカニ。そして俺が釣り上げた宝箱から飛び出して来た海洋系の魔物。ついでに時々カメ君が海の中から投げて来た海産物。

 魚は釣れなかったが現地調達の具材はいっぱいだ。


「あ、こら! こっちはタレの付いていない具材用の網! タレは向こうで焼け!」

「グランって普段大雑把なくせに、料理のことになるとすごく細かいよね」

 タレのタップリ付いたクラーケンのゲソを、タレの付いていない具材専用の網の上に載せようとしたアベルをタレ付きの網に誘導する。

 タレ付きの具材は網が汚れるからタレ専用の網で焼くの!

 何のためにバーベキューセットを二つ用意したと思っているのだ!!


 人数が多いので大きめの野営用コンロ二台体制でバーベキューをすることにしたので、タレ用の台とそれ以外用の台に分けたのだ。

 ちゃんと最初に説明したのに、適当に焼こうとするアベルの方が俺よりずっと大雑把だろ!!

 普段はちまちまとしたお小言が多いくせに、どうして肝心な時に大雑把になるんだ。

 無計画にあちこちでタレものを焼く奴はギルティ!! 焼き網があちこちドロドロになるだろ!!


「うおおおい、カリュオン! 脂身の多い肉を真ん中に置くな!」

「んお? 俺なんかまずいことした?」

「脂身の多い肉は焼く時に脂が溶けて網の下に落ちるから、その脂で――うわああああああ、落ちた脂で炭火大炎上だああああ!!」

 アベルに気を取られていたら、網のど真ん中に脂身タップリのサラマンダーのバラ肉を置いているのが見えて、あっと思った時には手遅れだった。

 こいつら野営の時に網で肉を焼くこともよくあるはずなのに、どうしてバーベキューのお作法がなってないんだ!!


「あーーーー、グランーーー! クラーケン焼きのタレが服に散っちゃった!!」

 ああああああー!! ヴェルの白い水着にクラーケンのタレが跳ねたああああ!!

「それくらいなら服の時間を巻き戻せば大丈夫ですわ」

 そこ、浄化じゃなくて時間魔法で解決するんだ。

「でも、またタレが飛び散りそうですからぁ、食べ終わった後に浄化魔法がいいのではぁ?」

 クルちゃん正解!!

 白い服はタレが飛び散るのが怖いけれど、魔法で解決する今世は素晴らしいな!!


「ところで、午前中は遊んですごしたが午後からはどうするつもりだ?」

 人の姿に戻ったラトが、こんがり焼けたミミックの肉をバター醤油でもちゃもちゃと食べながら俺の方を見た。

 ミミックは外見は宝箱のようだが、中身は二枚貝の中身のような本体が入っている。その味と歯ごたえはだいたい貝っぽいので、ミミックは実質二枚貝だと俺は思っている。

 食べごたえのあるサイズにカットしたミミックの肉の上に載せられた溶けたバターと、熱せられた香ばしい醤油の香りが混ざり合って食欲を刺激する。

 今食べているエビ焼きを食べ終わったら、次はバター醤油ミミックを食べよう。

 そうだ、午後はどうするかって話だった。


「そうだなぁ、せっかくの海だしのんびりしたいけどボスを見つけないと帰れないしなぁ」

「妖精の地図って、ボスを倒すか時間切れで外に出られるんだっけ?」

「ボスを倒すというか定められた目標をクリアする事で出口が出現だな。その目標っていうのがボス討伐が多いだけだなぁ」

 さっすがカリュオン、脳筋だけど物知り。アベルの質問にさっくりと答えてくれた。

 ぶっちゃけ俺も妖精の地図のことは、自分が体験したことしかわからない。


「昼飯食った後少しのんびりしたらボスを探すかなぁ……ってボスはどこにいるんだろうなぁ」

 ジャングルや海から魔物の気配はするが、ボスというほど強い気配はしない。

 海の地図だからやっぱ海の中なのかな。だったら面倒くさいからカメ君になんとかしてもらいたいところ。

「ふむぅ、この空間の主らしき気配は海の中からするな」

 さすが番人様、俺にはわからない気配をすでに掴んでいた。


 やはり海の中か。なるほど、海の中なら難易度がSSなのも納得できる。

 しかし俺達にはカメ君がついている。

 お礼はたくさんするからボスは任せていいかな?

「カメェ? カッカッカッ!」

 卵焼きに夢中になっているカメ君の方を見ると、俺の視線に気付き前足を挙げて応えてくれた。

「お礼はカレーコロッケとリンゴとイチジクとモモでいいカメ~だって。その様子だとどんなボスか把握してるの??」

「カカッ!」

「俺様は偉大だからそれくらい余裕カメ~。生意気なカメだけど、海のことなら一番信用できるからね」

「カッ!」

 アベルが究理眼でカメ君の通訳をしてくれるのは非常に便利なのだが、その度に語尾がいちいちカメ~になっているのが面白い。

「じゃあ、帰る時はカメ君にボスを倒してもらおうかー。お礼はカレーコロッケとリンゴとイチジクとモモだね。そうだなー、果物全載せタルトを作ろうか」

「カカカッ!」

 カメ君が得意げに前足を挙げた。

 ボスの対価にしては少ないから、こっそり他にもお礼を用意しておこう。





 昼飯の後は片付けをして、俺は釣りを再開。

 せっかく宝箱が入れ食い状態なので、思う存分釣りまくっておくぞ!

 魔物が飛び出してきたり、ミミックだったりするが、宝箱の中からは宝石類や骨董品や装飾品、武器防具なども出てきて売ればいい儲けになりそうだ。


「グランは釣りに夢中だし、俺達はジャングルの探索にでも行ってみる? せっかくの妖精の地図だし、何かいいものないか探してみようよ」

「お、そうだな。じゃあ着替えてジャングルに行くか」

 アベルとカリュオンはのんびりするのに飽きたようで、ジャングルに興味を示し始めた。

「む? 私も海に飽きて来たし、森の方を見てみるか」

「他所の森を見てみるのもいいですねぇ」

「うちの森に比べると随分ちいさいけどね」

「わたくし達の知らない植物があるかもしれませんし、森を見て回るのも悪くないですわね」

 え? みんなジャングルに行く系?

「カッ!」

「ホッホッホッ!」

 カメ君が海から飛び出して来て毛玉ちゃんの背中に乗ったぞ。

 ええ~、カメ君達も行っちゃうのか~。

 ぼっち釣りは寂しいし、宝箱から魔物が出たら一人で対処しないといけないから面倒くさいな。

「みんな行くなら俺も行こうかなぁ。ジャングルで南国フルーツも欲しいし、次のが釣れたら最後にするよ」

 さすがにジャングルに水着で行くのはやばそうだから着替えないといけないな。

 とりあえずあと一つ宝箱を釣ってからだな。


 あ、そうだ。


 ふと思いついて収納の中から、とあるアイテムを取りだした。

 時鷹の羽。

 先日よくわからない妖精に貰った、失せ物が見つかるというか探し物が見つかる羽の色がくすんでしまっている方だ。

 あの時は効果がよくわからなくて、高そうな素材が欲しいとか思ったせいでドラグリフが来ちまったからな。

 やばそうな羽ではあるが、今が使い時では?

 もう一枚あるし、一枚くらい使っても平気だよね?


 というわけで頼むぜ時鷹の羽君!!

 俺に一攫千金を!

 そうだな……海に眠る財宝をお~くれ!!


 片手で釣り竿を握りながら、もう片方の手で時鷹の羽を持って欲しいものを心に描く。

 海で一攫千金といえば沈没船の中の財宝!!

 この地図の入り口の扉に沈没船が見えたのを思い出しながら羽にお願いをした。

 沈没船に財宝が眠っていてうっかりその財宝が引っかからないかなー?


「グラン、その羽は何?」

 そういえばやばそうな羽だったから結局収納に突っ込んだままにしていたんだった。

「こないだ助けた妖精に貰った羽。ちょっとやばそうな効果の羽だけど、上手く使えば大儲けできそう――あっ!」

「妖精に貰った羽って絶対やばいやつじゃないか! 失せ物が見つかるって見えるけど、妖精的解釈で文字通りじゃない――あっ!」

 妖精に貰った羽と言ったところで、アベルが俺の言葉に被せるように声を荒らげた。


 その言葉の途中で――。


 サラッ。


 手に持っていた羽が砂になって崩れ、海風に吹かれ白い砂浜に散らかって消えた。

 俺の手から羽が消えるとほぼ同時だった。



 グンッ!!



 今までで一番強い引きに、座っていた椅子から前に倒れそうになった。

「よし、きた!!」

 これは間違いなく大物だ。

 今までで一番大きな宝箱にちがいない。


「俺、今すごく嫌な予感がしてるんだけど」

「俺の勘だとその予感は当たる気がするなぁ」

 後ろでアベルのため息と、ドサリと砂地に大きな物を置く音が聞こえた。

 これはカリュオンがマジックバッグから大盾を出した音か?

 ラトやカメ君もいるからでっかい宝箱からでっかい魔物が出ても大丈夫、大丈夫。

「魔物が出た時は頼むぜ!」

 後ろにいる仲間を信用して釣り糸を巻き上げる。


 ピンッ。


 ある程度巻いたところで、それ以上糸が巻けなくなった。

 引っ張ろうとすると折れてしまいそうなほど竿がしなる。

 あれぇ、海底に引っかかったか?

 海底に引っかかっているのならと、クイクイと竿と左右に揺らしてみる。


 グイッ!


 そして急に竿が軽くなり、グンッと引くことができた。

 海の底に引っかかっていたのが外れたかな? それとも糸が切れたか?

 とりあえずそのまま糸を巻き上げる。


「ああ~、糸が切れてる」

 巻き上げると途中で切れて何もかかっていない糸が戻ってきた。

 せっかく引っかかった大物宝箱を逃がしてしまってションボリした気分で糸が切れたと思われる辺りを見ると、海の中で大きな黒い影がユラリと動いた。

 俺達がいる海岸まではまだ少し距離がある海の中に見える大きな……すごく大きな影。

 んん? 大きすぎないか!?!?




 ザバアアアッ!!




 何かおかしいと思った時、海岸から少し離れた場所で海から突き出すようにそれが現れた。


「ちょっとおおおおお!? やっぱ妖精のくれたアイテムなんか碌でもないものじゃないか!!」

 後からアベルの叫ぶ声が聞こえた。

 ホント、全く同意見である。しかし使ってしまったものは仕方がない。

「おっとぉ!? これは思ったよりやべーのが出てきたんじゃね?」

 カリュオンがやべーとか言うとホントにやべー気がするからやめろ。


 最初に海の中から出てきたのは木でできた太い柱のようなもの。

 その柱から海の中へと太いロープが複数伸びている。そして海の中には更に大きな影。

 いや、そのへんそこまで深くないよね?

 俺の想像より深かったとしても、明らかにこの辺りの水深の海に完全に沈むようなサイズではない影だよね?

 あ、ダンジョン? 妖精の地図? 人間の常識で物事を考えたらダメなやつ?


 そう思っているうちに、柱状のものに続いて海の中から大きな影の本体が勢いよく姿を現し、その影響で周囲の海水が海岸に押し寄せてきた。

 うげええええ!! 津波いいいいいい!!

 まずは三姉妹とフローラちゃんを避難させなければ!!

 釣り竿を収納に収め、座っていた椅子を即座に回収して、三姉妹とフローラちゃんの方を振り返る。

 そして彼女達の方へ走り出す。

 その俺とすれ違うように、カメ君が毛玉ちゃんの背中からピョーンと跳んで波打ち際に着地するのが見えた。


「カーーーーッ!!」 

 波打ち際に立ったカメ君が一喝すると、押し寄せてきた海水は海の方へと戻り、姿を現したそれにぶつかって砕け波の中へと消えた。

 ありがとう、カメ君。すごく助かったよ。


 海の中から現れた大きな影の主の正体は――。


「ふむ、この空間の主は大型の船だったか」


 ラトがものすごく落ち着いた口調で言った。

 落ち着いている場合なの!? 大丈夫なの!?


 そう、俺達の前に現れたのは大型の帆船。

 海の中に沈み朽ちかけていたと思われるボロボロの船。


 や、沈没船の宝が欲しいと思ったわけで、沈没船はお呼びでない。

 というか明らかにこの周辺の深さの海に沈んでいるサイズの船じゃないよね!?


 物理法則を無視したサイズのボスが突然出てくるのはやめてくれないかな!?



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