第577話◆俺に優しい習慣
「明日からは暫く王都方面の仕事になりそうだから弁当はなしで」
「了解ー、カリュオンも?」
「んあー、俺もその仕事行かなきゃいけないやつ? ぶっちゃけ俺いらなくない? 俺はあればあるだけ食うから、弁当はいつでも大歓迎だぜ」
「ダメー、カリュオンは意外と勘もいいし、博識だからタンクの仕事がなくてもいなくちゃダメー」
「カメ君はカレンダーに亀マークがあるから、明日は弁当の日かな?」
「カメッ!」
「アベルとカリュオンも弁当がいる日は、カメ君みたいにカレンダーに書いておいてくれ」
「うん、次からはそうするよ」
「じゃあ俺は毎日弁当マークを付けておくか」
「わたくし達も森に行く日はお弁当が欲しいですわね」
「そうね、森に行くのは私達のお仕事だしね」
「グラン一人でたくさん作るのは大変そうだから私達も手伝いましょう」
「ぬ? それなら私も毎日弁当を貰ってもいいのでは?」
「ぬあ!? 弁当が必要な日はカレンダーに書くことにしよう。全員の予定は覚えきれないからな。書き忘れたら弁当なしになるから、書き忘れないようにな」
夕食の席、アベル達の明日の予定を確認していると、三姉妹とラトまで乗っかってきた。
一つ作るのも、全員分作るのもたいして変わらない気がするが、誰が必要かはメモをしていないと忘れてしまう。
って、カリュオンはマジで毎日弁当がいるのか!? ラトまで何を言ってるんだ!!
三姉妹は毎日ではないみたいだし、弁当作りを手伝ってくれる気もあるみたいだし、なにより可愛いから許せるし、毎日弁当とおやつを用意しちゃう。
うんうん、カメ君がカレンダーに亀マークを書き始めたのが切っ掛けで、俺に優しい習慣ができそうでよかったよ。
ちなみに俺は、明日はパッセロ商店に行く日だな。今週は昨日までに商品を作っておいたから余裕だぞぉ。
ばたばたとオルタ・クルイローからピエモンに戻りキルシェを送り届けてから帰宅。そして飯。
今までより一人多い我が家。
いや、ジュストがいた時と変わらないのだが、カリュオンはヒョロッとでかくてうるさいし、大飯食らいなので一人でジュスト三人分の賑やかさと飯の量である。
もしかしたら休暇中にジュストが帰ってくるかもしれないし、部屋は足りても風呂とトイレは増やした方がいいな。今まででさえトイレで本を読んでいたらアベルに怒られたし。
「それでさ、さっきは有耶無耶にされたけど、昼間キルシェちゃんと二人で依頼に行ってた時に、人に言えないようなことしてないよね?」
「ブホォッ! 言い方ぁ!!」
オルタ・クルイローで合流した時にはぐらかしたので何かしら聞かれると思ったのだが、言い方が酷くて吹き出しそうになった。
「あのボーイッシュな可愛子ちゃんかぁ。人に言えないようなことをやってたのかぁ?」
アベルは深い意味はなさそうだったが、カリュオンは明らかに冷やかしにきている。
「何もやましいことはしてないよ。さっき言った通りちょっと妖精と遭遇して、その後ドラグリフが飛んで来たから倒しただけ! ちょっとナナシを使っただけ! 以上!!」
ちょっと変な妖精に触りかけて、なんか変な羽を貰ったけれど大丈夫。あれはやばそうだから収納の中にしまっておこう。
ちなみにあの鷹がくれた羽の、俺が引き取った二枚のうちの一枚だけが艶が消えて色がくすんで劣化していた。
突然現れたドラグリフはあの羽の仕業だった可能性が高い。劣化していたということはあの羽の効果が発動すると、羽は消耗していくのだろう。
鑑定するとまだ効果は残っていたが、何度か使っているうちに消えてしまうと思われる。
失せ物どころか欲しいと思ったものが見つかるというとんでも効果の羽のようだが、安全とはいい難い形でその効果が現れるのはさすが妖精が残していったものだ。
無意識に変なものを呼び寄せることになると危険だし、効果自体は非常に強力なのでここぞという時のために残しておく方がいいだろう。
一枚はアベルにあげるつもりだったが危険な方向に効果が出る可能性もあるので、渡すのはやめることにした。
もちろんキルシェに渡した分もよく考えて使うようにと念を押しておいた。キルシェが収納持ちでよかったな。
キルシェならきっとここぞという時に上手く使うことができるだろう。
「もー、グランが大丈夫って言うならいいけどさ、時々グランの大丈夫は信用できないからね。しかも性悪剣を使ったみたいだし、反動は平気?」
「ああ、今回は相手が言葉を持たない生き物だったから、鳴き声がうるさいだけだったよ」
「それならいいけどー、不可抗力だったみたいだけど変な妖精には気を付けるんだよ」
まだ何か言い足りなさそうな空気を醸し出しながらも、食事に戻るアベル。
相変わらず心配性な奴だが、心配してくれる友人がいるのはありがたいことだ。
「そうですわね。グランはお人好しだからつい困っている者、弱い者に力を貸してしまうみたいですしね」
「そのお節介がグランのいいとこでも悪いとこでもあるのよね」
「でもその小さな恩が巡り巡って返ってくるものですからねぇ。小さな行動がグランの未来に大きな影響があるかもしれませねぇ」
うんうん、俺は常に可愛いものの味方だからな。今日みたいなのを見るとつい助けたくなるんだよ。目玉は可愛くなかったけれど。
少し呆れた顔をしつつも三姉妹達は俺のことをよくわかってくれている。
三姉妹は時々こう、見た目は幼女なのにお姉さんっぽく感じる時があるんだよなぁ。これが実年齢の貫禄ってやつかぁ。
「ふむぅ、目印を付けられたみたいだな」
「カッ! カカッ!!」
「ん? 目印ってこの"明星の恩人"って称号のことか? ってカメ君それ水鉄砲構え? もしかして水をかけて妖精の目印を消そうとしてる!? 消火活動じゃないんだから水はやめるんだ! それに恩人なら悪い称号でもなさそうだし大丈夫そう?」
ラトの言葉にカメ君がこちらを見ながら水鉄砲の構えをしている。
そうだね、カメ君はすごいカメだから称号くらい消せちゃう? でも水鉄砲は冷たいし痛いからちょっと勘弁かな。
それに目印といっても悪い称号でもなさそうだし、大丈夫そう?
水鉄砲は勘弁して欲しいので丁重にお断りをすると、カメ君が残念そうに水鉄砲の構えを解いてくれた。
そんなにこの称号を消したかったの!?
「明星ねぇ……明るい星かぁ、縁起の良さそうな称号だよなぁ。ま、グランのことだから大丈夫じゃね?」
最後はカリュオン。
ものすごく軽く言われたが、なんだかんだでカリュオンが言うと大丈夫そうな気がするし、カリュオンの勘は当たりやすい気がする。
「恩人って称号なら俺がすごく善人っぽく見えるし、このままでいっか」
正真正銘の善人だけどな!
「まぁた、カリュオンもグランもそういう適当なこと言ってぇ~、あっ! 最後のカラアゲ取られた!」
「カーカッカッカッカッ!!」
呆れ顔でこちらを見ながら、大皿の上に残っていた最後の一個のカラアゲにアベルがフォークを刺す前に、カメ君がシュッとそれを取った。
ああ……これはいつものが始まるやつ。
「ちょっと、それ俺が狙ってたカラアゲ! なぁにが"銀髪はトロいカメ~、早い者勝ちカメ~"だ!! ていうか君さ、肉ばっかり食べてるでしょ、ちゃんと野菜も食べなよ!!」
おまいう。
「カラアゲがなければ、ソーセージを食えばいいのになぁ。これはガストリ・マルゴスのシカソーセージか? 食べ慣れてるけどやっぱあそこのソーセージは美味いよなぁ」
アベルがカメ君に気を取られている隙に、ソーセージの皿をカリュオンが駆逐していく。
はやく食べないと肉類がなくなるぞぉ?
「む? お主、エルフのくせに肉ばかり食べすぎでは?」
「いやー、主様もシャモアなのに肉ばかり食べてるよなぁ?」
ああ~、ソーセージの皿が空いたら今度は生ハムの皿でカリュオンとラトがにらみ合いを始めたぞぉ。
お前らみんな肉ばっかり食ってないで野菜食え。
「わたくし達はそろそろデザートを頂きましょうか?」
「そうね、今日のデザートは私達が作ったものだしね」
「カメさんもデザートにしますかぁ?」
「カメッ!」
「俺もデザートにするかな!」
配膳台の上には、三姉妹達が作った季節の果物たっぷりのフルーツポンチがスタンバイしている。
手を挙げてアピールをした後、空いた皿を重ねデザートの皿を置くスペースを確保する。
今日も我が家の晩餐は賑やかだ。
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