第567話◆武器選びは慎重に
「今は魔法中心で戦ってるって言ってたよな?」
冒険者ギルドを出て、城塞都市オルタ・クルイローの道を歩きながらキルシェに尋ねた。
「はい、一応ナイフも持ってますがどこを狙えばいいかよくわかりませんし、ナイフで攻撃するには近寄らないといけないから怖くてつい魔法に」
以前ネライダ湖でリュフシーという水棲植物系の魔物と戦った時に、少しだけキルシェが戦っているところを見たことがあるが魔法で戦っていた記憶が残っている。
あの時は相手が湖の中にいる水棲の魔物だったので、遠距離攻撃が楽というのもあっただろうが、そうでなくとも魔法中心のスタイルのようだ。
「魔法が使えるならそれでいい。キルシェの場合、武器を使った戦い方はギルドの講習で習ったくらいだろ? 魔物や動物は小さくても意外としぶといし、攻撃をすれば反撃もしてくる。訓練をしていない武器、しかも小型の武器では倒しきれなくて危険だから、魔法が使えるならそちらを中心でいい」
野生の動物や魔物はたとえ小型のものでも、全く鍛えていない人間よりも高い身体能力を持っているものが多い。彼らが強いというか、戦うことのできない人間が弱いのだ。
人間には体を守る毛皮がない。獲物を切り裂く爪も、肉を食いちぎる牙も、俊敏に動き高く跳び上がり、高いところからの落下に耐えられる身体も。
体を鍛えていなければ、身体能力を上げるスキルが使えなければ、あるいは自分を強化する魔法が使えなければ人間は決して強い生き物ではないのだ。
戦闘に向いたスキルやギフトを持っていたとしても、それを使いこなせなければ、持っているだけでは意味がない。
武器を使えば確かに強くなるし、防具を身に着ければ攻撃は防ぎやすくなる。しかし武器は使いこなせなければたいしたことはないし、防具では防ぎきれない攻撃は防ぎきれる攻撃より圧倒的に多い。
ほとんどの人間は鍛えなければ、そして学ばなければ強くはないのだ。
キルシェは三姉妹とすっかり仲良くなって三姉妹に魔法を習っているようで、そのおかげでランク相応の魔物を倒すことはあまり問題ないと思える。
しかし武器は武器を扱うための体と技術も必要だ。体は身体強化で補えても武器の技術は練習をするしかない。
ギルドの基礎講習でも武器の扱いは習うが基礎の基礎だけで、普通は更に専門的な武器講習に参加したり、先輩冒険者とパーティーを組んだり、弱い魔物と戦いながら上達するものだ。
ピエモンの冒険者ギルドなぁ……地元の兼業のおっさんばっかりであんまあてにならないな。いや、おっさんにキルシェは任せたくないな。
武器の講習はギルド長がバルダーナならしっかりやっていそうだなぁ。いや、うっかりバルダーナに変な入れ知恵をされてキルシェが爆弾娘になっては困る。
キルシェの場合、魔法中心で戦っているため、武器の扱いはあまり慣れていないのだろう。俺としては怪我をするよりそちらの方がいいと思う。
まぁ、武器は俺が教えるって約束しているし、キルシェに合いそうな武器をじっくりと考えよう。
「はい、でもやっぱり僕は魔力があまり多くないので魔法ばかりだとすぐ疲れちゃうので、武器も扱えるようになりたいんですよね」
「そうだな、魔法が効きにくい相手もいるからな。キルシェは今まで武器はほとんど使ったことがないんだよな。その辺も踏まえてキルシェの体型や体力も考えて相性の良さそうな武器を探そうか」
キルシェの体型からして扱いやすいのは小型武器だろうが、小型の武器で魔物を仕留めるのはそれなりの技術が必要とされる。
魔物も野生動物もしぶとい。熟練の冒険者でも小型の武器を使って一発で仕留めるのは難しい。そもそも小型の武器だと急所まで刃が届かないことだって少なくない。
そして仕留め損なえば反撃を食らうし、手負いの魔物や獣は非常に危険である。
できれば近づかずに倒せる弓系の武器を勧めたいところだが、素速い相手に弓だけで立ち回りは難しい。俺も弓は使うが近接武器との併用である。
武器と一口にいっても色々あり、取り扱っている武器も店によって傾向がある。大きな商会なら種類は豊富だが、工房と別になっていることが多く、その場ですぐに細かい要望に応えてもらえない時もある。
個人経営の工房と商店が一緒になっているようなところは、種類は少ないがその場で細かい調整までしてくれるところが多い。ただし職人の腕次第なので当たり外れも大きい。
俺が王都でよくお世話になっていたドワーフ鍛冶職人ウーモの店はこのタイプだ。
冒険者達が好んで使うのは金属製の武器で、これは鍛冶屋系の武器屋が取り扱っている。
安くはないが、現実的な価格でそれなりの強さのものを手軽に買えるため、近接系冒険者のほとんどは金属製の武器を使っている。
難点といえば重いこと。大型のものは当然、小型でも材質によってはそれなりに重く、扱いには慣れが必要になってくる。
そして金属は魔力と相性が悪いものが多く、使用者の魔法の威力が下がりやすい。安価な金属素材はとくにその傾向が強い、つまり魔法と併用するタイプの攻撃スタイルとは若干相性が悪いのだ。
もちろん魔力と相性のいい金属もあるが、手頃な価格のものは強度が低く武器や防具に向かないものがほとんどで、強度も魔力との相性もとなるとかなりお高い素材となってしまう。
そういう理由で魔法中心のスタイルの者は金属系の装備はあまり使わない。
金属系以外の武器だと樹木素材系の木工武器もよく使われる。
とくに弓は金属中心より樹木素材中心のものを好む者が多い。
基本的に金属より軽量で扱いやすく、威力重視だと大型になりやすい弓も木製なら金属のそれよりかなり軽い。
ただやはり木製武器は金属よりも耐久性が低く、劣化も早い。また樹木素材の武器は斬ることには向かず、刺すにしても切っ先の劣化が金属より早いので、鈍器系の武器が中心になる。
その欠点をカバーするためにベースは樹木素材で、負荷の掛かりやすい部分や刃や切っ先を金属にしたものも多い。俺も弓は木と金属の混合製品が、ほどよく取り回しがよく耐久性もあって好みである。
金属主体の武器より威力や耐久は低めだが、重量は軽めなので機動力重視の者や非力な種族や女性に好まれる。
そんな樹木系装備の最大の強みは値段のわりに魔力と相性が非常に良いことで、魔法を強化するための杖や法具、魔法と併用を目的した武器は木工系の武器がお手頃価格で手に入れやすい。
……魔法が使えない俺には縁のない武器だけどな!!
金属や木以外にも魔物の素材を使った武器もある。これはマジでピンキリ。
そして値段相応。安いものもあるがだいたい微妙。同じ値段で金属や木工武器を買った方がいい。
高いものは上を見ればきりがない。値段も強さも。ランクの高い魔物ほど加工できる者の数も少ないので、素材費と工賃を合わせてすごい値段になる。
魔物素材系の武器の特徴として、素材になった魔物の性質により特殊な効果があるものが多い。単純な打撃威力だけなら金属武器の方が高かったりするが、この特殊な効果次第では物理的な攻撃力が微妙でも非常に強力な武器に化けることもある。
そして付与との相性がいいものが多く、付与を駆使することで素材の能力を更に引き出すことができて、非常に夢がある。
だが、値段相応である。大事なことなので。
高い装備品を買うことができない時期に、倒した魔物の素材で武器を自作して武器を買う金が貯まるまでの繋ぎにするには丁度良くはある。
実際俺も冒険者になる前、なった直後の現金を持っていなかった時期は倒した魔物の牙や爪、骨を加工して武器にしていた。
あとはダンジョンや遺跡からの出土品。
特殊な素材、よくわからない素材の武器。
これもピンキリでだいたい値段相応なのだが、たまに掘り出し物があり非常に浪漫が溢れている。
これは古物屋やそういう武器専門店に行けば買える。ギルドのジャンクショップにもたまにあるが、こちらはだいたいガラクタである。
店で買おうと思うと性能はハッキリと保証されているものは高い。そして、見た目がそれっぽいだけのガラクタを押し売りされやすい。
鑑定スキルやものを見る目に自信がない限りあまりお勧めできない。しかし捨て値で売られているものから掘り出し物を見つけ出す楽しみはある。というかすごく楽しい。それだけのために古物屋やジャンクショップに行ってしまう。
だがこの手の武器で気を付けなければならないのが呪いだ。
時折呪いの掛かった装備があり、酷いものだと触っただけで呪われてしまう。
装備品に限らずダンジョン内の罠や、魔物からも呪いを受ける可能性はあるので、冒険者をやるなら呪い対策はしっかりしておかなければならない。
まぁ呪い対策をしていても勝手についてくる装備もいるけれど。呪いではないかもしれないけれど。
うるせぇぞ、ナナシ! テメーだよテメー! ベルトでカタカタアピールしても用事がなければ使ってやらないからな!!
うむ……、こういう奴もいるから対策をしていても絶対じゃないが、どこで変な呪いを貰うかわからないので呪い対策はしっかりしておこうな。
っと、武器の分類はこんなもんかなぁ。
これに加えて武器の種類は非常に多い。素材と武器種の組み合わせは無限である。
キルシェなら何が似合うかなぁ?
スタンダードに剣? それともリーチの長い槍? 脳死でぶん殴れる鈍器? 遠くから攻撃できる弓?
これらの中でも形状で取り回しは全く違うし、他にも変わった武器が色々あるな。
そうだなぁ、キルシェは体格は小柄で魔法と武器の併用だから木工系がいいかもなぁ。
木工武器なら値段もお手頃だから、ランクの低いうちは木工系武器がいいかもな。軽くて扱いやすいものが多いから、武器に慣れるのにも丁度いい。
お、話していたらそこに木工工房があるぞ。少し覗いてみるかぁ?
木工系の武器屋なら魔法と併用した使い方を想定した武器も多く取り扱っているはずだ。
普通に考えて今のキルシェには木工系の武器一択なんだよな。
―― な の だ が ! !
賢い俺はキルシェのギフトのことも考慮することを忘れない。
キルシェの運の良さを考えると、もしかすると古物屋で掘り出し物が見つかるかもしれない。
や、これは俺が古物屋へ行きたいからではなく、キルシェのギフトを考慮した最高の買い物計画なのだ。
なんと奇遇なことに、木工屋の向かいに古物屋がっ!!
これは運命! きっとキルシェのギフトの賜物! こんな意味ありげにある古物屋に入らないわけにはいかない!!
決して自分が覗きたいからではない、キルシェのことを考えてまずは古物屋からだ。掘り出し物がなかったら木工屋へ行けばいいのだーーー!!
「今のキルシェには木工武器を勧めたいところだが、その前にあっちの古物屋を覗いてみよう。もしかすると掘り出し物があるかもしれないからな」
「古物屋ですか? 中古品とかです?」
「ああ、中古品の他にダンジョンや遺跡からの出土品もあるな。わかりやすい良いものはいい値段だが、たまーに掘り出し物があることもある。キルシェのギフトのことを考えると……な?」
「掘り出し物ですか……それはすごくワクワクしますね。僕のギフトはあまり体感がないというか、先日のオークションで運を使い果たした気しかしないので、流石に今日はもうそんなことは……。あ、でもやっぱり掘り出しは期待しちゃいますよね! 五日市とかでも掘り出し物を探すのは楽しくて好きです!!」
あの時の豪運はおチヨちゃんの影響もあったし、ノーカンでいいと思う。
今日はきっとキルシェの本領が発揮されるはずだー! そして俺もそれにあやかるのだー!!
「よぉし! それじゃあ掘り出し物探しに行くかーーー!!」
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