第568話◆穀潰し剣と目利き店主
古物屋に入ってみたもののさすがにそんな都合のいいことがあるわけではなく、今のとこ値段相当のものしか目に付かない。
キルシェのギフトを考慮してみたのだが、やはりこういうのは欲に身を任せた行動をすると恩恵がないのかもしれない。いや、キルシェの意志ではなく俺の発案だったからか?
まぁこういう店の店員は鑑定スキルを持っているので、そう簡単には掘り出し物は並ばない。
時々鑑定結果を偽装しているようなものがあり、そういうものが極稀に鑑定でも見落とされてジャンクコーナーに並んでいることがあるのだ。
よく見れば不自然な部分があることが多く、鑑定スキルばかりに頼っていると自分の目で確かめることを忘れ見落としやすい。
丁寧に偽装されていると熟練の鑑定士でも見落としやすく、そういうものを見つけた時はとても楽しい。これがあるからジャンク品漁りはやめられないんだよなぁ。
鑑定スキルは、魔力を使い対象物の持っている情報を読み取るスキルだ。物が持っている記憶を読み取るというイメージだろうか。
それは自分の鑑定スキルだけではなく、知識や他のスキルにも依存している。
物の記憶を読み取れても、自分にそれを理解する知識がなければ詳細まではわからない。俺の場合だと食材や薬草関係はとくに詳しくわかる。
その気になれば魔力を消費することでより詳細な鑑定をすることもできるが、その場合も知識や他のスキルに依存するので、やはり己を磨くこと学ぶことを忘れてはいけない。
そして鑑定を阻害するのが鑑定阻害や偽装の効果である。
だいたいは後付けの付与で付けられているものが多いが、特殊な素材または事情で鑑定そのものを弾く、もしくは鑑定結果が正しく見えないものも少なくない。
後者のようなものは強力な効果のあるものが多いが、それと同時に曰く付きのものも多いので注意をしなければならない。
そういったものを見抜くために、回避するために、便利すぎる鑑定スキルに頼りすぎてはいけない。
「残念、掘り出し物はなさそうだなぁ」
ジャンクコーナーを漁ってみたが怪しい鑑定結果のものは見つからなかった。ここの店主は良い目と鑑定を持っていそうだ。
「そりゃ、そういうものを見落としていたら商人としての信用にも関わりますからね」
「そうだなぁ、王都が胡散臭い鑑定ガバガバの店が多すぎるだけなんだよなぁ」
確かにキルシェの言う通りである。
王都にいた頃に古物屋で掘り出し物を見つけることはあったが、単にものが多い王都という理由だけではなく、適当なものを高額で売りつけるインチキ業者も多かったからだ。
そういうとこって、ガラクタを高額品に偽装する鑑定も付けていることもあるから悪質なんだよなぁ。
だがインチキ業者だから店主の鑑定も微妙で、鑑定偽装が見抜けず掘り出し物がジャンクの中に紛れ込んでいることもちょいちょいある。
まぁ、そういう店ってたいていあまり長続きしないですぐ消えて、また別の似たような胡散臭い店が生えてくるんだよなぁ。
キルシェの言う通り、そういうものを見落とし続け逆に偽装までしていたら、店の儲けは減るし信用もなくなるだけだから当たり前である。
「どうだい、掘り出し物は見つかったかい?」
キルシェと話しながらジャンク品の入った箱を漁っていると後ろから、ガッチリした体型の壮年の男性――この店の主らしき男に声をかけられた。
「んあ、どれも値段相応のものばかりだったよ。良い目を持っているな」
肩をすくめながら答える。
はー、残念残念。結構長い時間居座っていたし、適当に何か使えそうなものを買って帰るかなぁ。
「はっは、オルタ・クルイローはダンジョンも多いし、国の中央部、北東部、南東部に加えシランドルからのものが集まるからな、真面目にやってりゃ目は良くなるんだよ。それに辺境伯様のとこや近所の貴族様もちょいちょい買い物にくるからな、小細工をしない目の確かな店が多いんだよ。なんなら兄ちゃんが腰に付けてる妙な魔剣も見えてるぜ」
辺境伯様の一族かぁ……。俺が知っているのはドリーとカーラ様だけだけれど、うっかり鑑定阻害で詐欺なんてやっているのがバレると物理的に潰されそうだな。
それにしてもベルトに張り付いて一体化しているナナシにも気付いたようで、どうやらここの店主は相当な目利きらしい。
その視線に気付いてナナシがカタカタと揺れたのが伝わってきた。
「ああ、妙な魔剣でなぁ、使いにくくて仕方ないよ。持ち主認定されてなかったら、売り飛ばしてやった……ってうるせぇ、カタカタ動くんじゃねえ! ベルトがズレるだろ!!」
「ははは、随分気に入られているみたいだなぁ。おっかない剣だけど悪い剣じゃないみたいだぜ。詳しくはわかんねーけど、本来の姿は別にありそうだな」
本来の姿というと俺の魔力をチューチューした時に変化した透明な刃の剣か?
「ん? 確かに使用者の魔力を吸収して見た目が変わるな――ってこら、お前何で勝手に商品を取ってるんだ!!」
ナナシがシュルリと伸びて、棚にあった棍棒状の木製鈍器を俺の手まで持ってきたので、落として壊されても困るので慌てて受け取った。
「ん? お買い上げか? 毎度ありっ! お買い上げのついでにもうちょっと教えてやろう。その魔剣は使用者の魔力を吸って起動するタイプだな。それが兄ちゃんの言ってる魔力を吸収して変化するってやつだ。その状態で生き物を斬り続けるとおそらく本来の姿になるぞ。お、それもお買い上げか?」
「おいこら、勝手に持って来るんじゃねぇ! この穀潰し魔剣め!」
店主の話に気を取られているとまたナナシがシュルシュルと商品を持ってきた。今度は白い竜革の胸当て。
俺には剣の名前とよくわからない効果名だけが見えるだけだというのに、この店主の鑑定能力は恐ろしく高いようだ。さすが専門職である。
「仕方ないなぁ、もう少しサービスしてやろう。おそらく今の姿は何らかの理由で呪いがかかっている状態、もしくは穢れが溜まっている状態だな。この剣は浄化の力を持っているからその力を使えば徐々に剣自身も浄化されていくって具合だ。完全に浄化されれば本来の姿になりそうだが、どれだけかかるかわからないな。使っていればそのうち? おっ、次は胸当てとお揃いの竜革の肩当てか?」
浄化されて本来の姿になるといっても、こいつで生き物を斬った時の反動はかなり辛いのでできればあまり使いたくない。
うむ、俺の次の主にでも本来の姿を解放してもらってくれ。ってお前、また商品を持って来やがったな!!
「グランさん、その魔剣君が持ってきたの見せてもらっていいですか?」
ナナシが持ってきた武器と防具にキルシェが興味を示した。
「んあ? 防具は竜革だからいいものだが値段もするぞ?」
武器と重要部位の防具なので今のキルシェに必要なものではあるが、竜の革素材なので結構いいお値段だ。しかもこれは光沢のある白なので光属性の竜でそこそこ強い個体のものだと思われる。
まぁ竜革は金属よりずっと軽く、ランクの高い竜革なら下手な金属よりも硬いうえに付与との相性も良い。
武器の方も樹木系の魔物素材で、魔法との相性も良く硬さもそこそこあるので、殴ってよし魔法を使ってよしの武器である。
「お、妙な魔剣もお嬢ちゃんもお目が高いねぇ。そいつらはダンジョンの出土品でズィムリア魔法国系の鈍器と同じ時期の中級光竜の革製防具だな。鈍器の方はハンマー型でそこそこ硬いからそのまま殴れるし、杖のように魔法を強化する効果もあるウォンド系だよ。確か同じダンジョンからの出土品だからもしかしたらセット物かもなぁ。防具の方は同じセットで腰当てとブーツもあるぞ?」
確かに今のキルシェに向いているものだが、ナナシはわかっていて持ってきたのか?
なんかすごく得意そうにカタカタしているな。
「お、お金ならちょっとあるので、サイズが合いそうだったらこれにしようかな。色も可愛いですし……グランさん、どう思います?」
「んあ? 中級の竜革素材なら町や大きな街道周辺に出るような魔物相手には十分かな。ただ全身防具じゃないから防具のない部位は服に付与をしないといけないな。武器は鈍器かー、魔法と併用だったらアリだなぁ」
全身防具だと重さや動きにくさの問題も出てくるので、急所部分だけ硬い防具を着けて、後はしっかりした布の服に防御系の付与をするのが安定かな。光属性なので防御系の付与とは非常に相性が良い。
白い色のデザインも可愛い系、サイズも女性用なのかやや小さめなので、少し調整すればキルシェの体型にピッタリになりそうだ。
勝手に取ってきたくせに腰でドヤカタカタしてんじゃねーぞ。
しかし鈍器。いいのか鈍器で?
確かにキルシェの体型に合うような小型の刃物で急所を狙うのは案外難しいから、鈍器で思いっきりぶん殴る方がいいっちゃいいけれど、鈍器。しかもハンマー型。
キルシェのギフトのことを考えると、俺が口を出しすぎるよりキルシェが気に入っているならそれに従う方がいいな。
フルセットだと結構いいお値段になりそうだが、今のキルシェなら余裕で出せる値段だな。そして性能としてもキルシェの現在の行動範囲、将来行商に出ることを考えても十分な性能である。
しかもこれらなら少々値段はしても、木工製品より圧倒的に強いし長持ちもするから、結果的にお得にはなりそうだ。
それに命に関わるものは、金を出せるならできるだけ良いものを買うに越したことはない。
どっちにしろ店主には魔剣のことを教えてもらったし、何も買わないで店を出にくいしなぁ。
くそぉ、目利きなうえに商売上手さんめ。
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