第566話◆オルタ・クルイロー冒険者ギルド前

「グランの知り合いには珍しい可愛い女の子ね」

 お母さん? 珍しいってどういうこと!?


「俺の予想では将来は美人になると思うぜ?」

 さすがカリュオン、よくわかっているな。キルシェはボーイッシュなのでわかりづらいが綺麗系の顔立ちだからな。


「ふむ、グランに迷惑はかけられてないか?」

 ドリーは俺を何だと思っているのだ。いつまでも子供扱いをしないでくれ。


「噂のキルシェちゃんね。これは想像以上に宝石の原石だわ」

 シルエット、その噂について詳しく。宝石の原石なのはとてもわかるというか、王都で磨きまくられてマジ宝石だったので、セキュリティレベルを上げないとまずい。


「君達みたいなむっさい人達が囲むから、キルシェちゃんがドン引きしてるよ」

 頭のてっぺんに寝癖が残るアベルが、常識的なことを言っている。そうそう、そこでキルシェを囲んでいるお前らは、常識アベル以下だぞ!!


「みっみみみみ、みなさんのランクの高い冒険者の方ででででで、ちょっと緊張して……」

 さぁキルシェ、そんなむさ苦しい奴らからは離れて、爽やかな俺のところにおいで。




 我が家を出発後、ピエモンを経由してキルシェを拾い、オルタ・クルイローへ。

 全てアベルの転移魔法タクシー頼りである。ありがとう、アベル!! お礼にニンジンケーキを焼いてやるぞ!!

 で、待ち合わせ場所のオルタ・クルイローの冒険者ギルド前に直接転移したものだから、すでに待ち合わせ場所に来ていたドリー達にキルシェが囲まれることになった。

 キエエエエエエエエ! お前らと違ってキルシェは人畜無害で純粋な冒険者なの! ゴリラが感染するから近寄るんじゃねえ!


「ほら、キルシェがびっくりしてるだろ。集合したなら仕事いけ仕事! 散れっ! 散れっ!」

 キルシェを囲むゴリラ達の輪に手を突っ込んで、離れるように促す。

 まったく、暑苦しい。そこだけなんだか気温が上がっている気がするじゃないか。


「じゃあ俺達は買い物をして、ちょっと冒険者ギルドで依頼もしてくるから、また夕方にな」

「うん、夕方にギルドに迎えに来るから変な騒ぎ起こさないでね」

 アベルが困った顔でこちらを見ているが、俺が何をやったというのだ……ああ、やったわ。つい最近王都でキルシェとはぐれたわ。

「お、おう。今日は前回の反省を生かして気を引き締めていくから安心しろ」

 つい先日にあんなことがあったので今日は気を引き締めて……いやこの間の今日でそうそう変なトラブルには巻き込まれないダロー。

「それじゃ、また後でね。キルシェちゃん、グランが変なことをしないようにちゃんと見張っておいてね」

「は、はい! がんばります!」

 おいいいい! アベル、俺に失礼だぞー! キルシェもそこで返事をするんじゃありません!

 苦情を言おうと思ったら転移魔法でさっさと飛んでいきやがった。


「おのれアベル、俺を何だと思っているんだ」

「すみません、僕が王都で迷子になったばっかりに」

「ぬあ、あの時は俺が離れちまったから、キルシェが悪いんじゃない。そもそも俺を信用しないアベルが悪い。そうだ、アベルが悪いんだー」

 そうだ、だいたいアベルが悪い。イケメン有罪。

「グエェ?」

「ギョヘェ?」

 出発しようと思ったら、オルタ・クルイローで冒険者ギルドの依頼を受けるために連れて来たワンダーラプター一号と三号が俺の顔を見て首を傾げた。

 おい、お前ら! その飼い主に対してその態度どうかと思うぞ!

 帰ったら鍛え直しかな? 今日は留守番の二号は関係ないがお前ら三匹はセットだから連帯責任だな! 今更気付いて反省した顔をしても容赦しねーぞ!

「それじゃ俺達も行くか。まずは目の前にある冒険者ギルドで依頼を受けておこう」

「はいー、ほえええ……オルタ・クルイローの冒険者ギルドも大きいー」



 ワンダーラプター達を冒険者ギルドの騎獣置き場に繋いで、今日の昼間だけで終わりそうな依頼をいくつか受けた。

 キルシェは日頃はあまり町から離れるような依頼は受けていなかったようだが、今日は俺と一緒なので少々町から離れて魔物と遭遇しそうな場所の依頼を受けても平気だ。

 冒険者ギルドの依頼は自分のランクの一つ上まで受けることができる。

 しかしそれは過去の実績に基づいて受けられるかどうかを職員が判断するため、受けることが可能だといっても絶対に受けられるわけでもないし、高いランクの依頼を何個も受けようとするとだいたい断られる。

 それは高いランクの依頼ほど危険が多く冒険者の安全のためでもあり、依頼は失敗するとペナルティと違約金が発生するので無謀な依頼を無計画に受けて冒険者が困らないようにするためでもある。

 もちろん冒険者が依頼を失敗すればギルドの信用にも関わるので、ランクより上の依頼を受ける時の審査は厳しい。

 ただしパーティーを組んでいる場合はメンバーのランクも考慮されるため、メンバーのランクが高ければ審査は少し緩くなる。

 それでも受けられる依頼の範囲は本人のランクの一つ上までという条件は変わることはない。


 俺が一緒に行動するということでキルシェはDランクの依頼を二つ受け、俺もAランク……の依頼は近場になかったので、近場のBランクの依頼を受けておいた。

 オルタ・クルイローのような大きな町の冒険者ギルドでは、ピエモンと違ってランクの高い冒険者が集まるので、報酬の良い高ランクの依頼を受ける者が多い。

 代わりにランクはそこそこ高いが、町から近い場所だったり難度が低めだったりでやや報酬が低いものが残りやすい。こういう依頼はランクの低い者が一つ上のランクの依頼を受ける時向けの依頼だ。

 それでもあまり割の良くない仕事は残るもんで、不人気の採取系依頼が残っていたのでそれをいくつか受けておいた。


 高ランクの冒険者は採取より討伐系が得意な者の方が多い。採取系の冒険者のボリュームゾーンはDからCである。

 俺のようにBランク以上になっても採取系の依頼が好きというのはわりと珍しい。採取高ランク冒険者は珍しいのだが、たまに見かけるとだいたいものすごくオタク気質というか採取ガチ勢で、冒険者稼業で採取としているというか採取のために冒険者をしているという者が多い。

 つまり変人が多いのだ。俺のような人畜無害な凡人は非常に珍しい。

 そして採取系の高ランク依頼が余りやすいのは、ある程度素材に関する知識がないと正しく指定の素材を集められないからだ。

 そっくりな別物を採取してしまったり、採取部位を間違えたり、採取後の保管方法がまずかったりと採取系の依頼は知識がないと失敗しやすい。

 そんな理由でランクの高い採取依頼は残りやすいのだ。

 ははは、残っている採取系依頼はインテリ冒険者の俺が、パパパっとやってやるぞぉ!



 冒険者ギルドで依頼を受けた後は、キルシェの装備を探しにまずは武器屋へ。

 王都で武器屋も見て来ればよかったなと思ったが、バタバタしていたから仕方がないな。

 俺が作ってもいいのだが、素人が作った癖のあるものより、プロの職人が作ったスタンダードなものから使い慣れて、それから自分に合わせて調整していく方がいいだろう。

 それに東の防衛の要オルタ・クルイローなら腕の良い職人も多そうだし、実用性とコスト重視の装備を中心に取り扱っていそうだ。

 任せろ、先輩冒険者の俺がキルシェに合う武器を選んでやるぞぉ!





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