第511話◆保護者は俺!!!!!

 キルシェの拾ったシュペルノーヴァの鱗を、ピエモン冒険者ギルド長のバルダーナのところに直接持ち込んだのだが、何かブツブツと呟きながらものすごく困った顔をされた。

 さすがはギルド長というべきか、キルシェが鱗を取り出すなりものすごく引き攣った顔になり、その鱗の正体をすぐに見抜いた。もちろんピエモン上空を飛び越えていったレッドドラゴンが実はシュペルノーヴァだったことにも気付いていた。

 やっぱ冒険者ギルド長ともなるとそれくらい気付くのか……恐るべし冒険者ギルド長。


 で、ものすごーく困った顔でしばらく悩みまくった後、冒険者ギルド経由より大きな町で直接オークションに出した方がいいと言われた。

 ギルド経由になると手数料が売り上げから割合で引かれる。そのため金額が大きいものは手数料がすごいことになるので、直接オークションに出す方がいいだろうと言われたのだ。

 え? ギルド長、そこはギルドの売り上げになるから黙って引き受けてもよかったんじゃないの? もしかして、俺達のことを考えて直接オークションに出すことを勧めてくれた? 

 すごくありがたいけれど、よかったのかな?


 え? 地方のオークションより大きな町のオークションの方が絶対高くなるから? アベルを買収してでもそっちに行った方が絶対お得?

 そっかー、アベルとキルシェがいいならそうする? え? だったら王都のオークションに行こう? ちょうど明日は神の日で休日だからでっかいオークションがある? 二人の間の話し合いがものすごくあっさり終わっていたけれど、どんな取り引きをしたの? 内容が俺には聞こえなかったんだけど? え? 秘密? ソンナー。

 ていうか大きなオークションっていきなりいって参加できるものなの? アベルが何とかしてくれる? 今からピョーンと王都まで行って、主催にお願いしてくる? へ~、主催さんと知り合い? お貴族様パワーかな!? 怖いから聞かないでおこっ!




 そんなわけで親切なギルド長の勧めで、翌日の朝から大きな町――王都ロンブスブルクへとやって来た。

 オークションは夕方開始で、終了時間が遅くなりそうなので今日は王都に一泊する予定だ。


 年頃の女の子が男二人と王都に一泊とか大丈夫? パッセロさんの許可が下りないんじゃ? オークションならアベルに任せてもいいんじゃないかな?

 と思ったのだが、キルシェは王都の商店やオークションを見てみたいらしく一緒に行きたいと希望した。やはり商人としては大きな町の大きな店や、大規模なオークション、そして流行の最先端には興味があるのだろう。王都に行くならできればゆっくり王都を案内してあげたい。

 俺も一緒にパッセロさんにお願いしたし、宿泊先もアベルの親戚にあたるお貴族様のお屋敷とのことなので、パッセロさんも許可してくれた。

 絶対に王都で変な虫が付かないようにします!! 変な虫は全部叩き潰します!! 責任持って無事におうちにお返し致します!!

 張り切って宣言すると、グラン君とアベル君なら安心して任せられるという信用のお言葉も頂いた。日頃の行いかな!?


 オークションは夕方からなのだが、入り口の検問で時間を食われるのを避けるために、まだ人の少ない朝早くに王都に来たので商店は開店前、しかも今日は神の日で市場やお役所は休みで普段よりはかなり人通りが少ない。

 それでもピエモンよりは圧倒的に人が多く、町の規模も桁違いで、キルシェは初めて見る王都に圧倒されながらも、キョロキョロと周囲の様子を見て感嘆の声を上げている。

「カッ!? カカーッ!!」

 そして俺の肩の上ではカメ君がキルシェと同じようにキョロキョロと周囲を見回している。こんなに人間がたくさんいるところに来たのは初めてなのかな?

 カメ君は、昨日はうちにいたので今日はどこかに出かけていくのかなと思ったら、王都に行く俺達について来た。

 検問で何か言われるかなーって思ったけれど、ただの亀だと思われたようで何も言われずに通過。




「じゃあ俺はちょっと実家に行ってくるから、オークションの始まる二時間前――十五時に冒険者ギルド本館前で」

「了解ー、それまでキルシェとブラブラしてるよ」

 少し早めの集合なのは、オークション前に小綺麗な服に着替えるためだ。

 今夜宿泊する予定のアベルの親戚というお貴族様のお屋敷で服を着替えて、馬車で会場に向かうことになっている。

 それまでは自由時間なのでキルシェと一緒に王都観光だ。


「じゃあキルシェちゃん、グランのお守りよろしくね」

 アベルは何を言っているのだ。

「はい、がんばります!!」

 キルシェ!?

「カッ!」

 何でカメ君まで張り切っているの!?

 アベル以外ならこの中で一番王都に詳しいのは俺! 案内役は俺! どう考えても俺が保護者だろ!?

 アッ! 文句を言おうと思ったらもう転移で飛んでいった!! ちくしょうめぇ!!


 ギリギリと歯ぎしりをしながらアベルの消えた空間を睨んだが、そんなことをしても仕方ないし、気を取り直してキルシェとカメ君と王都観光だ。

 歩き出そうとしてふと気付く。

 今はまだ人の少ない時間だが、店が開き始めると人も増える。休日なので大きな広場では催し物が開催されており、その周辺は屋台や露店が多く人でごった返している。

 うっかりはぐれないようにキルシェと手を繋ぐか? いやいや、見た目はボーイッシュで少年っぽいが、年頃の女の子と手を繋ぐのはまずいな?

 しかしはぐれたら見つけるのも大変だし、人混みの中には悪い奴も混ざっているし、うっかり裏路地に入り込めば治安のよくない場所もある。

 やはり手……あ、そうだ!


「カメ君、俺の肩じゃなくてキルシェについていてくれないか?」

「カメェ?」

 収納からキャラメルを取り出してカメ君の前に差し出すと、カメ君がそれを受け取り不思議そうに首を傾げた。

「王都は人が多くて、そのぶん悪い奴も多い。もしうっかりキルシェがはぐれても、カメ君が一緒なら安心だろ?」

「カッ! カカ~!」

 お? 納得してくれたかな?

 カメ君が俺の肩からキルシェの肩にピョーンと移動した。

「わっ! カメさん、よろしくお願いします! はぐれないように気を付けますね」

「おう、もしはぐれた場合は少し周囲を探してみて合流できなかったら、冒険者ギルドの受付ロビー……いや、図書室の方が暇潰しに……やっぱ本館の隣に別館があるから、そこの一階にあるガストリ・マルゴスという食堂があるからそこの中で合流しよう。城下町の中央の大通り沿いに進めばすぐ見つかるが、わからなければ近くの人に聞けば場所はわかるはずだ。冒険者ギルドは大通りを通っていけばすぐわかるから、絶対裏通りには入らないようにな。カメ君ももしもの時はやりすぎない程度に水鉄砲をピューッとしてキルシェを守ってやってくれ」


 受付は変な冒険者に絡まれるかもしれないし変な虫が寄ってくるかもしれない。図書室ーって思ったがキルシェの持っている幸運ギフトのことを考えると、ビブリオ的な意味で嫌な予感しかしない。幸運ギフトも運が良くなるとは言っても考え物である。

 やっぱ、安心で安全なのはガストリ・マルゴスかなぁ。あそこは料理長のマルゴスの見た目が厳ついので、あそこで悪さをする奴はいない。なんならマルゴスは戦う料理長なので、悪さをすると店からポイッとつまみ出されて出入り禁止される。

 冒険者の胃袋を握る冒険者ギルド所属の食堂に出入り禁止とか、冒険者にとって致命的でしかない。

 

 はぐれた時の集合場所も決めた。もしもの時のためにカメ君をキルシェに付けた。これで何かあっても安心だろう。

「カメッ!」

 キルシェの肩の上でカメ君が妙に張り切っているのが少し心配だな……。やりすぎない程度に頼むよ?



 よぉし、それじゃあ楽しい王都観光に出発だーーーー!!




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