第481話◆ジュストの話を聞こうの会

「へぇ~、そのローブってそんな効果だったんだ。見た感じだと物理と魔法に軽減効果が付いてて、細かい攻撃は勝手に無効化してくれる感じのだと思ってたよ。その手の防具は魔法職向けではよくあるんだよ。でもその耐性を超える攻撃には自動でカウンターが出るのはすごいね。俺の究理眼でもそれは見えなかったよ。この"シンデモイノチアリマスヨウニ"ってやつがその効果かな?」

「そんな効果だとかなり魔力を使うから装備の劣化速度も速そうだけど、周囲から魔力を吸い寄せてるのね、さすが沌属性の付与だわ……周囲の魔力は自分のものといった感じかしら。一気に消耗しなければローブの魔力は徐々に回復していくようね。ということは魔力が切れるとただのローブになりそうだから、過信は禁物ねぇ。ふふふ、沌属性の装備を着けて平気な顔をしてるなんて、貴方見込みがあるわね」

 魔法使い二人がジュストを挟んで、そのローブを興味深そうに覗き込んでいる。

 そう、以前妖精の地図のダンジョンで手に入れた厨二病ローブだ。

 久しぶりに会うジュストの話を聞こうの会は、かっこいいローブの話で盛り上がっている。


 俺達と一緒に行動していた頃、ジュストは基本的に後衛で敵の攻撃に晒されることはほとんどなかったため、そのローブの効果を知ることはなかった。

 ジュストが訓練校に入った後、模擬戦中にこの効果が発覚したそうだ。

 耐性を超える攻撃を受けると、ローブからドラゴンゾンビが出てきて相手を攻撃したとかなんとか。

 ああ……そういえばドラゴンゾンビの魔石とか入れたな。自然発生のゾンビだったから闇属性の魔石ではあったが、やはりゾンビ故に沌属性も含んでいたのかもしれない。

 そうだよな、あのローブめっちゃ沌属性だったもんな。


 俺は沌属性の適性がないどころか相性が悪いから、沌系の装備は強力なものになると装備するとむずむずするというか痒くなるので、沌属性の装備はそっと収納の片隅にしまってある。

 そんな沌属性の装備をジュストは普通に着けているところを見ると、沌とは相性が悪くないのだろう。

 で、問題のそのローブ、強すぎて実戦系の授業で禁止になったそうだ。

 そりゃそうだろうなぁ、細かい攻撃は耐性で防いで、それを超える攻撃はカウンターが発動するなんて、対人模擬でも対魔物の実習でも訓練にならないな。

 強すぎる防具に頼りすぎて回避が疎かになってしまうと、その防具を失った時に困るのはジュストだ。

 強い装備で身を固め安全を確保するのは大事だ、だがそれで自身の鍛錬を怠り弱点を増やしてしまったら意味がない。


「なな、ジュスト。ちょっとだけ思いっきり殴ってみていい? そのドラゴンゾンビを見てみたい」

 おいこらカリュオン!! ちょっとだけなのか思い切りなのかはっきりしろ!!

「室内はやめろ。室内で暴れると怒られる。やるなら明日の朝の鍛錬の時だ」

 理由はともかく、ドリーが止めてくれて一安心と思ったら結局やる気か!?

 って、鍛錬に休みなし!? もしかして俺も強制参加!? 

「いやいや、危ないからやめたほうがいいんじゃないか?」

 ジュストを殴るなんてとんでもない。

「んー? でも自分の持ち物の性能はちゃんと知っておいたほうが有効な使い方もできるし、詳しい検証をしてないなら一回ちゃんと検証をしてみるべきじゃないかな?」

 アベルがもっともらしいことを言っているが、お前はローブの効果に興味があるだけだろ!?

「そうですね。効果が発覚してからは実戦系の授業では使えなくて、冒険者ギルドの依頼でもドラゴンゾンビが出てくるようなことはないので、僕も効果をちゃんと把握しておきたいです。明日の朝できるならよろしくお願いします」

 相変わらず素直な良い子のジュストだが、カリュオンが全力で殴ってドラゴンゾンビが出てきて大混乱する未来しか見えないぞ!?


「ところでそのローブが使えない授業で装備に困ってないか?」

 困っているようなら先生に怒られない程度の装備を、再会記念にパパッと作ってやるか。

「ええ、時々日曜……神の日に冒険者ギルドで仕事をして、お金にも少し余裕ができたので授業用にローブを買って付与の練習も兼ねて自分で改造しました」

「お、自分で自分の装備を弄るようなったかー。自分の装備を自分のためだけに調整するのは楽しいよなー」

「はい! 寮で同じ部屋の友達とも一緒にやってます!」

 友達もできたのか、よかったよかった。

 獣人差別が少ないユーラティアだがそれでも全くないわけではない。獣人の見た目で苦労をするのではないかと心配していたが、ジュストは俺が思っているより随分逞しく生きているようで安心した。


「ジュスト、大丈夫ー? いじめられてない? 嫌がらせとかされてない? もしそんなことがあったらその子の家名を教えてね」

 アベル、家名を聞いて何をする気だ。

 しかしうちのジュストをいじめる奴は許せないな。いじめ対策はしておかないとな。

「もし何かあった時に反撃ができて、大事にならない程度の護身用アクセサリーとかポーションをパパッと作っておくかー。ついでに授業用のローブに新しい隠し武器でも仕込むか?」

「だだだだだだ大丈夫です! 授業や訓練は大変ですが、先生も一緒に訓練を受けてる人達も優しくて面白い人ばかりでよくしてもらってます。でも護身用のアクセサリーとかポーションは自分でも作ってみたいと思うので、できれば一緒に作るか作り方のヒントが欲しいです」

 おぉ? ジュストは生産のほうにも興味を示したかー。うむうむ、新たな攻撃手段を考えるのは楽しいからなー。

「よぉし、じゃあ夜食を摘まみながら最近考えたポーションや投擲武器を一緒に作ってみよう!」

「ちょっと、グラン? ダンジョンで使ってたのをジュストに教えないで!! もっとちゃんとテストしてから教えて!! ここで酒を飲みながら爆発系のポーションを作るのもやめて! レシピだけ渡して!! いや、渡すだけじゃなくて安全で正しい作り方までちゃんと教えてあげて!」

「そうだな、危険なポーションはここや寮ではなく、訓練所にある調薬用の施設で安全を確認しながらやるんだ。それと、グランがダンジョンで使っていたアレは実戦ではいいが、模擬で人に使うとまずそうだな……出来上がったものは教官に確認をとってから使うようにしろ。しかしグランの閃光系のポーションは、ダメージなく相手を行動不能にできて非常に使い勝手が良さそうだったな。そちらのほうを対人を考慮に入れて改良をしたらうちの騎士団に売り込めそうだな」

 ぬ? ドリーの話から金のにおいがする。

 極力ダメージなく、それでいて速やかに相手を無力化できる対人ポーションか……面白そうだから少し考えてみよう。

「おう、食材ダンジョンで色々素材が手に入ったからな、暫く家に籠もって装備やポーションの開発に集中しようかな」

「もー、調子に乗って変なもの作らないでよー」

 アベルは相変わらず心配性だなぁ。


「ところでジュスト、お前の入っている寮の管理人から苦情が来てたぞ。一応俺が保護者になってるからな」

「え? すみません。何となく心当たりはあります。部屋に帰った後に色々作っちゃって失敗することもあって……」

 ジュストの耳がシュンと下に下がった。

 そっか、ジュストは学校が終わった後も自分で色々と試しているのか。

 失敗もあるだろうが、幾多の失敗の先に成長と大きな発見があるものだからな。失敗を恐れず頑張って欲しいな。

「うむ、まぁたいしたことではない、寮に戻ってからも自主的に学ぶ姿勢は非常によいことだ。しかし、におい系は少し気を付けたほうがいいな。夜に料理をする時は気を付けろ? 近くの部屋の者も腹が減って気が立ってくる奴もいるからな。それと、ベランダで魚を焼いたり、魔物素材を大量に干したりするのもほどほどにしたほうがいいな? というか魚は周囲の部屋の洗濯物に被害が及ぶからやめろ、ベランダで焼くな、キッチンで焼け。それとグランにもらった調理器具や魔道具は、一度安全な場所で試運転をしてから室内で使うこと。グランもジュストに魔道具を渡す時は使い方を細かく説明すること」

「は、はい、すみません」

「お、おう」

 周囲に迷惑になるようなものを渡した記憶はないのだが……。まぁ、魔道具を渡す時は丁寧に説明するようにしよう。

 そうだ、どこでも綿菓子君をジュスト用に作っているんだった。後で渡しておこう。

 どこでもピッツァ君は少し失敗だったので改良してからだな。


「なんかすごく聞いたことのあるような苦情ばかりだね……」

 アベルが目を細めてこちらを見た。

「炭で焼いた魚は美味いんだよなぁ~」

 俺もジュストくらいの年の頃、似たような苦情を常宿でもらったことがあるな。

 わりと誰もが通る道、駆け出し冒険者あるあるのクレームじゃないかな?

「ははは、ニトロラゴラやスライム系の苦情がないだけグランよりましだなー」

 うるせぇぞ、カリュオン。

「あらぁ~、シランドルから帰ってきてグランに預けていたから、グランの変な癖に影響されちゃったのかしら」

 ちょっとお母さん!?

「いい、ジュスト。そういうのはバレないようにやるのよ? そのための魔法だからね? 魔法を使ってずる賢く上手く世間を渡っていくのよ?」

 シルエット、ジュストにあまり悪いことを教えないでくれ。

「カメーカメー」

「ん? "洗い流して証拠隠滅すれば問題ないカメ"? まぁ汚れたら怒られる前に綺麗にすればいいよね。においや音や煙は他に迷惑にならないように遮断系の魔法を使えばいいよね。うん、日頃から使ってると遮断系の魔法の精度が上がるからね。それは俺の経験が証明してるよ」

 カメ君の洗い流すって汚れのことだよね? 津波で更地にするって意味じゃないよね?

 というかアベルってそんなに遮断系の魔法を使っていたのか。さてはアベルも宿の部屋で内職をしていた系か!?


 ともあれ、ジュストはなんだかんだで楽しくやっているようで安心した。

 そして同時にすっかり俺の手を離れてしまったような気がして寂しさも感じた。



 

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