第480話◆晩餐会の後、それから
「ジュストです。綺麗なカメさん、よろしくね」
「カッカッカッ!」
ソファーの上で横向きにジュストが正座して、そのすぐ前にはカメ君。
ジュストが正座の姿勢で指先を軽く前についてカメ君に向かってペコリと頭を下げると、カメ君がそれに右の前足を上げて応え、正座をしているジュストの膝をポンポンと叩いた。
なんだこのメルヘンな光景!?
「なぁにが"素直な良い子は俺様の弟子にしてやるカメ~"だ。ジュストはもう俺の弟子なの!!」
相変わらずアベルがカメ君と張り合っているが、いつからジュストはアベルの弟子になったんだ?
ジュストは俺の弟子だ!!
「ぬ? ジュストはうちの訓練校で学んでるから立派なオルタの民だ。つまり俺の弟子みたいなもんだ」
熊はだまらっしゃい! うちの可愛いジュストを筋肉族にしてたまるか!! というかなんでドリーが俺達の部屋にいるんだ!?
あれ? ジュスト、少しガッチリして背も伸びた? 成長期だもんな、体動かして飯をしっかり食っているとどんどん伸びるよな。
……大丈夫だ、俺のほうがまだ高い。
「あらあら、ジュストはヒーラーだから私の弟子よ?」
「あら、じゃあ調合や魔術はアタシが教えてあげようかしら?」
お姉様勢にもすっかり可愛がられているなぁ……。
「ん? じゃあなんだ? 俺は効率的な敵の纏め方を教えてやろう」
カリュオンそれはただのトレインでは?
やめろー、ジュストは俺の可愛い後輩なんだー!!
って、みんなで集まって夜食を摘まみながら飲み倒す体勢!?!?!?
晩餐の席ではカーラ様と爪やネイルチップを利用した付与や武器の話ですっかり盛り上がってしまい、ジュストとはあまり話せなかった。
席も離れていたし、ドリーのお姉様もいたし、周囲には使用人さん達がズラッと並んでいて、出てくる料理も高級レストラン、まさにお貴族様の晩餐といった雰囲気でジュストと身内会話で盛り上がれるような雰囲気ではなかった。
少し緊張しつつも、料理は美味しかったしカーラ様とはつい浪漫武器の話で盛り上がってしまった。
俺がカーラ様と話している間、ドリーが時々浪漫たっぷりのアイデアにダメ出しをしていた他、俺の隣アベルとカメ君は相変わらず仲良しだし、カリュオンはひたすら食っているし、ジュストはお姉様二人に可愛がられていて、概ね平和な晩餐だった。
えぇ~、爪に付けたネイルチップがシューッて伸びる武器とか、ネイルチップから透明で強度のある糸がピューッて出てキュッと首を絞める武器とかかっこよくない?
え? ダメ? いいけれど、警備上の都合と試作品の試運転に付き合ってくれるサンドバッグの問題を解決しないといけない? ああ、結構必殺力高い武器だもんね。うん、俺もサンドバッグ役は嫌だな。
そんなわけでゴージャスな料理は非常に美味しかったのだが、少し緊張していたのとジュストと全く話せなかったのとで、俺達の部屋で夜食会の流れに。
二次会っていうか元々ジュストも俺達と同じ部屋に泊まるようにお願いして、その後一緒に夜食を摘まみながら暫く会っていなかった間の話をしようと思ったのだ。
使用人さんに差し入れを渡して、ジュストを俺達と同じ部屋にしてもらっていたら、ドリーがやって来た。
あ、そういえば報告書まだ残っていたよね。
宝箱についての状況と気付きを教えたら報告書は書いてくれる? その間に夜食をごっそり作れ?
やったー! 報告書よりも料理のほうがいいもんねー! ありがとう、ドリー!!
で、報告書をドリーに押しつけて俺が夜食を作る話をしていたら酒好きのリヴィダスが釣れた。
そうなるとシルエットだけのけ者にするわけにはいかないのでシルエットももちろん誘って、結局全員集合である。
さすが、お貴族様のゲストハウス!!
俺達が泊まる寝室が四つある客間には、めちゃくちゃ広いリビングがあって、目隠しされた場所にはキッチンもある。
ソファーを隅っこに追いやって、ローテーブルの周りに座り込み夜食会の開始である。
「おい、グラン、宝箱を連続の予兆というか、宝箱を釣り上げるきっかけみたいなのはなかったか?」
出来上がった料理をトレーに並べて持っていくと、俺の代わりに報告書を書いているドリーに尋ねられた。
「いや? 普通にでかい魚が釣れたか、釣り針が岩とか海藻に引っかかったかなーみたいな手応え? 無理に引っ張ったら糸が切れそうというか竿が折れそうみたいな? まぁ、実際重さは結構あったしな」
「ふむぅ……、やはり偶然か? まぁ二回だからなんともいえないな。しかし、これまで宝箱が釣れるという報告は――いや、そもそもあそこまでいって釣りをするAランク冒険者がまずいない」
いますよー! いるいるー! ここにいますよーーーー!!
「カメェ? カー、カカカッカァー」
俺とドリーが話しているのを聞いてカメ君が前足をブンブン振り始めた。
「ん? 物知りカメ君、もしかしてあの釣り竿を知ってるのカメ?」
「カッカッカッ!」
俺が尋ねるとウンウン頷くカメ君。
「"釣り運が良くなる海エルフの釣り竿カメ"? へー、普通の高級釣り竿にしか見えないけどそんな効果があるんだー。じゃあ、運が良くなって宝箱が釣れたってこと?」
すっかり便利な通訳眼と化している究理眼。ちなみにジュストの自動翻訳は言語のみらしいのでカメ語は言語ではないようでダメだった。
「そういえば海エルフは釣りの効率を上げるために、釣り竿に運が良くなるおまじないをするとか、幸運上げのため聖属性の素材を使うとか聞いたことがあるな」
「カカッ!!」
カメ君が頷いているということは正解かー。
「へー、確かに聖属性の材木と水属性の金属でできてるね。運が良くなる釣り竿かー、でも二連続で空間魔法のギミックがかかってるなんて、これはグランの運が悪いだけかな? 釣り上げる時に運を使い果たしたのかな?」
「カァ~」
アベルが俺に失礼なことを言っているし、カメ君は頷いているし酷いな!?
「でもカメ君のところにいく地図を釣り上げたからカメ君に会えたし? シロクマの箱はたくさん氷属性の装備をばら撒いていったし?」
そう、カメ君と会えたのはこの釣り竿のおかげだったのかもしれない。
そしてシロクマ君がばら撒いていった装備。
氷に対する耐性が非常に高く、防具系は寒冷地での活動では非常に有用な装備だった。ひんやりする系の装飾品は暑い場所や暑い季節にすごく役に立ちそう。
また氷属性の大型ダガーを残していっていて、これは寒さに弱い昆虫や爬虫類相手に使える。
ダガーは他に扱える人がいないので俺が引き取ることになって、他のメンバーは防具や装飾品を分け合うことになった。
大型のダガーだから、今腰にぶら下げているアダマンタイトのショートソードの代わりに腰に下げようかな?
いや、腰に氷はひんやりしすぎそうだな? それに属性が偏っていると使いにくいし、普段使いはアダマンタイトが便利だな。シロクマダガー君は収納で待機しておいてもらおう。
「ふむ、宝箱はグランの釣り竿のせい……っと。亀島の報告書はカリュオンがやっていたな」
「おう、完璧! 封印されていたクーランマラン様は海に帰っていきましたとさ、めでたしめでたし!!」
カリュオンが報告書をやってくれたのかー、これはありがたい。ってまさかめでたしめでたしとか書いていないよな!?
「カッカッカッ」
カメ君、頷いているけれど納得したの!? あの鮫顔君お知り合いだよね?
「グランとカリュオンの話だと古代竜の模擬体っぽいし? でも手を出さなかったら攻撃されなかったんだよね? だったらもし海でそれらしき巨大生物や、正体不明の島を目撃したら近寄らないように徹底すればよくない?」
「カッ!」
アベルにしては楽観的なことを言っているが、これにもカメ君は納得?
「しかしもし見かけた場合、こちらから攻撃しないように徹底するしかないよな」
何だかんだと報告書を纏めても、鮫顔君は次元が違いすぎて対策もくそもない。ただ敵対しないことを強く周知させることしかできない。
城の地下の黒竜様もそうだけれど、どちらも本気を出せば十五階層が吹き飛んでしまいそうだ。
うっかりあの古代竜二隻が出会って、海獣大戦争が始まらないことを祈ろう。
「ふむ、報告書はこれでいいか。宝箱も亀島もクーランマランの模擬体も、現状はこちらからどうすることもできないしな。よし、久しぶりの周囲に気を遣わなくていい場所で、ゆっくりと酒を飲むとするか」
いや、辺境伯様の屋敷とかってわりと気を使うけど?
ダンジョンのような危険はないけれど、別の意味で気を使うけど? 高そうなキッチンをお借りするのもちょっとドキドキだったけど?
「よぉし、それじゃあまずはちょっと背が伸びたジュストの話でも聞こうぜ? ガッコウでなにか面白いことはあったかー?」
お、カリュオンいいこと言った! 俺もジュストの話が聞きたい!!
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