第474話◆閑話:黄金の棺

 棺は遺体を入れるもの。


 ううん、遺体とは限らない。


 カタチのあるものとは限らないね。


 じゃあ、何が入ってるんだろうね。




 黄金の棺――それが俺のギフトの名前。




 ギフトそれは神が与えた祝福ともいわれ、ギフトを持っている者は才能に恵まれるという。

 ギフトは誰でも持っているわけではなく、持っている者の方が珍しい。

 ランクの高い冒険者は仕事柄ギフト持ちが集まりやすく、俺の周りにもギフト持ちが多いせいで感覚がおかしくなりそう、というか四つもギフトを持っている変人がいるから、本来なら非常に珍しい二つのギフトを持っている俺もたいしたことがない気がしてくる。


 俺の持っているギフトは"黄金の棺"と"森羅万象"というギフト

 黄金の棺は基本の六属性――火水風土光闇属性に強い適性と魔力の扱いに関するギフトだ。

 全基本属性の適性と魔力の扱いをスムーズにするギフトのように見えるが、正しくは魔力の隷属である。

 全ての基本属性に適性があり、尚且つその扱いをスムーズにするだけでも恐ろしく便利で強力なギフトだが、実際はそれ以上である。


 魔力の隷属――まるで手足を動かすかのように魔力を扱うことができるという意味だ。

 通常、魔法を使う時にはそのイメージを魔力で具現化する。炎を出したかったら火が燃えるイメージ。水を出したかったら水が流れるイメージ。

 それが魔法だ。

 魔力の隷属というのは、それが不要なのだ。

 例えば手を動かしたいと思う時、わざわざ頭の中で手を動かすイメージはしない。そうイメージなんかいらない、自分が魔力を扱いたいと思ったように魔力を扱えるのだ。

 無論大きな魔力を動かすには少し時間がかかる。これは重い物を持ち上げようとすると力が必要なのと同じようなものだ。

 簡単なもの、慣れているものなら指先一つ……いや、その気になればそんなものも必要ない。

 魔力は俺の体の一部のようなものなのだ。


 この黄金の棺は森羅万象と強く影響し合っており、森羅万象の影響下の魔法も黄金の棺の恩恵を受ける。

 つまり森羅万象の影響下にある時間魔法と空間魔法にも適性があるということだ。


 森羅万象――こちらは時と空間そして知識に関するギフトだ。究理眼もこの森羅万象のギフトの産物である。

 時間魔法と空間魔法の適性と共に、記憶力や理解力への恩恵。そしてその影響か好奇心の制御がどうも苦手である。

 まぁ、この森羅万象のおかげで記憶力が飛び抜けて良く、語学で苦労したことがないのは非常にありがたいと思っている。


 その反面、記憶力が良いということは余計なことも覚えてしまうということだ。しかもギフトの影響で好奇心がすぐにぴょんぴょんしてしまう。

 うっかり他人に興味を示してしまうと、それで知り得たことが記憶の中に残ってしまう。

 どうでもいいような情報ならまだいい、知りたくない事情や感情なんか知ってしまった日には自分の心理状態に影響してくるから面倒くさい。

 面倒くさすぎるから関わりを持つのは、信用できる身近な人達だけで充分だよ。


 この二つのギフトのおかげで俺は今まで生き残り、魔導士としてAランクの冒険者にまで上り詰めた。

 それにこのギフトがなかったらグランとも出会えなかっただろうし、出会っても仲良くなれなかったかもしれないから、自分のギフトにはすごく感謝しているよ。

 ううん、グランだったらギフトがなくても俺と仲良くしてくれていたかもしれないな。

 でも、ギフトがなかったら一緒に冒険者をやるのは無理だったな。魔法がなかったら俺には何もないから。



 ねぇ、その魔法、本当に俺の力?



 ギフトがなくても俺は魔導士になれていた?



 自信ないな。



 ねぇ、黄金の棺って何?



 棺ってことは中身もあるよね?



 棺の中身って何だろうね。



 全ての魔力を隷属するような存在。



 基本属性も時も空間も知識も全て。



 でも、このギフトが助けてくれて俺は何度も生き延びたし、大切なものを助けることもできた。



 嫌なあの女からも、危険な冒険者生活も。



 そして昨日も棺の中身が助けてくれたのはすぐに気付いた。



 俺には扱えない規模の魔法だったから。



 その影響かな? 少し魔力が増えたみたいで具合が悪くなっちゃったけれど、ありがとう、すごく感謝してる。



 ここ最近ずっとそわそわしたのは俺の感情じゃなくて君の感情だってわかったから。



 何も言わない君だけど、なんとなく君のそわそわの原因がわかったから。



 王に相応しいワインを置いておいたよ。



 だけど棺の中からずっと覗かれていると不安になる。



 ねぇ、外に出たくないの?



 君が外に出たら俺はどうなるの?



 魔法が使えなくなるのかな? それとも君が俺になるのかな?



 知ってる、君ならいつでもそれができることを。



 でも君はずっとそこから見ているだけ。



 それでいいの?



 ううん、それで満足してくれなきゃ俺が困るな。



 棺の中で正体を隠して静かに見ているだけの君。



 危ない時だけこっそりと助けてくれる君。



 知ってるよ、君は俺が俺であることを望んでいることを。


 

 でも君は俺をたくさん助けてくれているからね、俺も君の望むことをたくさんしてあげる。



 ただ楽しく、平和に毎日を過ごすこと。



 今は毎日がすごく楽しいね。



 そうそう生意気なカメが増えちゃったね。ホント、グランってばあんなのを釣り上げてくるからビックリだよ。



 そのうち蹴飛ばしちゃおっかって思っていたけれど、今回はカメにも助けられたし蹴飛ばすのは勘弁してあげよっか。



 黒い王様を牽制してくれたから元の場所に戻ってくれたし、玉座を元に戻して新たに封をするのも手伝ってくれて、話も合わせてくれたからね。



 君はあれでよかったのかな?



 アレは本物じゃないから、よかったのかな? それに、ここならまた来られるし?



 そうだね、あそこは後でこっそり誰も入れないように封印しておく? だったら少しだけ力を貸してね?



 あ、グランの声がする。様子を見に来たのかな?



 ずっと正体がわからなかった棺の中身。



 だけど君も俺も望むものは同じ、ただ平穏で平和な日常。



 


 










※明日はお休みさせていただきます。木曜日から再開予定です。

本作のスピンオフというか、設定解説用の話の投稿を始めました。

【転生したら器用貧乏な勇者だったので世界感をゆっくり解説してみた】

たいした内容もなく不定期更新予定のただの世界感や素材の設定のまとめだけですが、興味がございましたらよろしくお願いします。

読まなくても本編になんの影響もありません!!

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