第473話◆魔力に優しい料理
「あー、つらいー、これは肉をたくさん食べないと治らないかもー。昼ご飯は肉だよ肉ー、野菜はダメー」
「まだまだ余裕がありそうだな。体調を崩してるのに消化悪いものばっか食べたら気持ち悪くなるだろう。昼は消化のいいものだ」
「これはちょっと疲れが出ただけだよー、肉を食べれば治る気がするー」
「カー……」
「ほら、カメ君も呆れてるぞ?」
「"貧弱な銀色は野菜でも食べるカメー"って、相変わらず感じの悪いカメだね!! 体調が戻ったら絶対にお仕置きしてやる!!」
「熱が出てる時に鑑定なんか使うと、更に悪化するぞー。いつかの俺みたいになー」
昨日海底城の玉座の間で色々あって戻った後、アベルが体調を崩してしまった。
アベルだけではない、ドリーとリヴィダスも昨日セーフティーエリアに戻った後くらいから体調不良を訴え、一晩明けても治らず今日は一日休んで体調を整えることにした。
中でも一番酷いのがアベル、ドリーとリヴィダスは微熱程度だがアベルは少し熱が高く起き上がるのがやっとのようだ。そのくせ食欲だけはある。
職員さんも同様に微熱があるみたいで今日はお休みするそうだ。
昨夜から体調を崩し見張り役も休んで寝込んでいるアベルは、朝食の時も体調が悪そうだったので看病ついでに時々様子を見に来ているのだが、口だけは達者で意外と元気にも見える。
「ドリーとリヴィダスとあの職員は強い魔力に当たったみたいな症状ねぇ。アタシも少し気だるいし、やっぱり昨日のグランが言ってたように近くで強力な時間魔法が発動した可能性が高いわねぇ。アベルはちょっと違うみたいだけど」
「俺とシルエットとグランは魔力抵抗が高いからなー。やっぱあの下にいたってことかなー? アベルも魔力抵抗は高いはずだけどどうしたんだー?」
シルエットとカリュオンも俺と一緒にアベルの様子を見に来ている。
ドリーは体が大きいのでいつも一人で専用のテントで寝ている。リヴィダスは女性なので女性用のテント。
この二人の様子も見て、その後職員さんのお見舞いにも行ってこよう。そもそも俺が余計なことをしたのが原因かもしれないし。
俺が原因かもしれないが、このことであそこの地下にヤベーのがいることはみんな感じ取ったようだ。
ドリーとリヴィダスと職員さんは強い魔力に当てられた時の症状。実力の確かな彼らが魔力に当てられるとは相当なことだ。
そしてアベル、俺達の中ではズバ抜けて魔力が多く最も魔力抵抗が高いアベルの症状が一番酷い。
「俺は――、インペリアルドラゴンと戦った時に無計画に魔法を使いすぎたからね。魔力が減って抵抗も下がってたんだよ」
「アンタの症状は魔力に当てられたのじゃなくて魔力痛でしょ? 魔力に当てられただけにしては熱が高いし、体内の魔力も乱れ方も強い魔力に当てられて萎縮してるというより、この行き場を持て余している感じは魔力痛の特徴よ。ほら、魔力の乱れを整えるお茶を飲みなさい」
さすがシルエット、薬学と同じくらい魔法医学方面には詳しい。
「最近毎日リュウノコシカケ茶を飲んだから魔力が増えたのかなー? それで古代竜の魔力にも当てられたー? くそぉ、ついてないなー……にがっ! やっぱりシルエットのお茶はにがっ!」
文句を言いながらもやはり辛いのか、アベルはシルエットの出した薬湯を素直に飲んでいる。
魔力痛、それは魔力が急激に増えた時に発生する痛みで高熱を伴うこともある。成長期の子供の成長痛みたいなものだ。
アベルのような魔法お化けでも魔力痛が出るほど魔力が増えることがあるのか?
そういえば、俺が冒険者になって間もない頃に、アベルが魔力痛で熱を出したことがあったな。大人になってからは魔力の急激な伸びはなくなったのか、もう随分長い間魔力痛で寝込んでいるのを見ていない。
アベルほどの魔力の持ち主がリュウノコシカケで魔力痛が出るほど魔力が増えるものなのか?
魔力が増える理由。
魔力を大きく消費すれば魔力は増えていくが、増えれば増えるほどその増加量は緩やかになっていく。
魔力を使うほど魔力は増えやすく、限界まで使い切った時はより多く増える傾向がある。
昨日は随分腹を減らしていたみたいだし、本人の言う通りインペリアルドラゴン戦での魔法の使い過ぎが原因なのかな。しかしアベルほどの魔力量となると、魔力を使い切ったとしても魔力熱が出るほど伸びるものなのだろうか。
他にはギフトやスキルの恩恵や変化。外部からの特殊な要因などでも増えることがある。
ギフトやスキルは極稀に上位のギフトに変化することもあると聞く。そういった場合、その保有者の能力も上がるとかなんとか。
俺はその経験をしたことがないのでよくわからない。
アベルのギフトって確か魔力関連のギフトが二つあったよな。どちらもすごく仰々しくてかっこいい名前だったような気がする。
昨日、城の主に何らかの影響を受けたのかな?
現場では何も気付かなかったとみんな言っていたが、やはり強い魔力が作用していたのだろう。
いや、気付かなかったのではなく時間魔法でなかったことにされただけかもしれない。俺だけ記憶が残っているのは、俺中心に時間魔法が作用したからか?
考えてもわからないな。昨日の時間魔法の真実は使用者にしかわからない。
「グランー、あのリオート草の飲み物の粉を枕元に置いておいてー。レモンと蜂蜜の入ってるやつー、喉が渇いた時に水を入れれば飲めるのすごくいい。後、ひんやりする塗り薬も冷たくて気持ちいいー」
そう言うアベルの額にはひんやりする布が張ってある。先日作った風邪を引いた時グッズが役に立ってよかった。
「わかった、ドリーとリヴィダスと職員さんにも渡しておこうかな。また後で様子を見に来るから大人しく寝てるんだよ。カメ君、アベルの看病お願いしてもいい?」
いざとなった時水魔法が得意なカメ君がそばにいると安心だ。
「カメッ!」
「"俺様が看病してるから感謝するカメ~"じゃないよ! アッ、究理眼を使ったら目眩が……」
もー、大人しくしておけばいいのに、どうしてもカメ君に絡みたいようだ。それは元気になってからにしろ。
「君、またうちでご飯を食べてる」
額にひんやり布を貼り付けたままげっそりとした顔でテーブルにつくアベル。
昼飯に起きてきて悪態をつくくらいの元気はあるようで安心。
「ははは、今日はグランさんにお呼ばれしたんですよ。僕がセーフティーエリアに残って報告書を整理しながら連絡係になる代わりに、他の職員が現場に行きましたからね。あ、冷たい軟膏と飲み物ありがとうございます」
アベルほど重症ではないが、やはり額には俺があげた冷たい布を貼り付けて疲れた顔をしている職員さん。
職員さん、具合が悪くて休んでいると思ったら仕事しているのだ。疲れた顔は仕事のせいなのか、具合が悪いせいなのか。
「はー、久しぶりに魔力に当てられちゃったわ。やっぱりあの玉座の間かしら? 現地では何ともなかったのにね」
リヴィダスも少し疲れた顔をしているが、体調不良組の中ではまだ元気な方だ。
「まさか魔力に当てられるとは。セーフティーエリアに戻って緊張の糸が切れたからか急にきたな。俺も少し弛んでいたのかもしらん、鍛え直さないといけないな」
いや、ドリーは普通に魔力が少ないせいで魔力抵抗が低めなだけだよね? 本来なら一番重症になっていそうなのだけれど、わりと元気だよね? 筋肉かな?
それと、治るまで筋トレはやめろ。ひんやり軟膏は筋トレして火照った体を冷やすためのものじゃねえ!!
様子を見に行ったらテントの中で腹筋していてびっくりしたよ!! 体調不良の時くらい大人しくしてろ!!
「うわ、ホントにあっさりしてそうなものばっかりだ。強い魔力に当てられて魔力が乱れてるだけで病気じゃないから肉も食べられるのにー」
「このダンジョンで獲った魔物の肉は魔力がたっぷり含まれてるから、もう少し落ち着くまで少し控えめにしとけ」
アベルがあっさりめの昼飯に不満そうだが、魔力が乱れている時に強い魔力を含んだ素材をたくさん口にすると症状が悪化することがある。
「確かに見た目はあっさりめだけど、味付けはしっかりしてて食べた気になるし、食べた後に体がスッキリした気分になるのは魔力を整える効果がある食材が入ってるのかしら?」
すでに食べ始めているシルエットには、魔力に優しいメニューは好感触のようだ。
「これは灰水を使ってしっかり毒抜きをしたコロコニーの葉を、焼いた小魚の身をほぐしたものと一緒にミソで炒めたのものをコメの上に載せて、この干した薬草やシーサーペントの干物から取ったスープをかけて食べてくれ。コロコニーの葉には魔力の乱れを整える効果と一緒に解熱作用があるんだ」
「あー、なるほどコロコニーの葉ね。しっかり毒抜きをしないといけないけど、毒を抜いちゃうと魔力もほとんど抜けちゃうからポーションには向かないのよね。毒を抜いた後も少しだけ解熱効果と魔力の乱れを整える効果は残るから、料理に入れてこういう使い方をするのはいいわね」
「コロコニーって茎は料理に使いますけど葉ってそのまま摂取すると幻覚作用があるやつですね。へー、毒抜きをすれば食べられるんですねぇ。おお、スープをかけると独特の塩っぽい味付けと苦みがこの白い穀物と相性がよくて体調が悪くても食べられますね」
「でこっちが乾燥されたサメのヒレとコッカ・チャボックの溶き卵のスープと同じくコッカ・チャボックの溶き卵をマグカップに入れて蒸したものだ。後でコッカ・チャボックの唐揚げをたくさん作っておくから、元気になったら好きなだけ食えばいい」
コッカ・チャボックはこの食材ダンジョンにいる大型のコカトリスだ。卵は栄養たっぷりだし体力回復効果もあるので、体調不良の時にはちょうどよい。
ランクの高い魔物なので食べ過ぎると逆効果になりそうだから、量はほどほどにだ。
それから同じくコッカ・チャボックの卵を使って作った茶碗蒸し。茶碗がないからマグカップ蒸しだけど。
道中で採ったキノコや薬草、それからコッカ・チャボックのささみが入っている。ささみならあっさりしていて魔力も控えめなのだ。
「ほら、あっさりめのメニューだけど、アベルには特別にリリスさんに貰った桃であっまいあっまいコンポートを作ってあるから、ちゃんと食べたら出すよ。他のみんなは甘さ控えめのループ草のゼリーだ」
ループ草は赤い茎の薬草でこれもまた魔力を整える効果があり、魔力酔いをした時にそのまま囓るだけでも効果がある。
酸味のある味だが、砂糖や蜂蜜と相性の良い爽やかな酸味で、火にかけると自らの水分で溶けるためジャムとして加工しやすい。
そのループ草の茎から作ったゼリーが今日のデザートだ。消化がよくて、魔力にも優しい。
「桃のコンポートも食べるけど、ループ草のゼリーも食べるぅ」
そう言うと思ってアベルの分も作ってある。
お、甘いものに釣られて機嫌は直ったかな? 何だかんだと言いながらガツガツと食べている。
あんまり食べ過ぎると悪化しないか心配である。
体調崩した組のために頑張って作った魔力に優しい系昼飯の後は、シルエット特製の魔力を整える薬湯タイム。
これには全員悶絶していた。
薬湯ってなんであんなに苦いんだろうね?
今回の原因は俺だけれど俺は元気でよかった。
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