第470話◆物欲、古代の王城の床をも穿つ?
「物欲、古代の王城の床をも穿つ――てか?」
うるせぇぞ、カリュオン。
「全然穿ってないよ、全然掘れてないよ。ダメじゃん」
アベルに言われなくてもそんなことわかっているよ!
「ねぇ、リヴィダス。ものは試しだからグランに筋力強化をかけてあげてよ」
「もー、しょうがないわねぇ」
シルエットお姉様とリヴィダスお母さんは優しい。
「まぁ、採掘作業は全身の筋肉が鍛えられるからな」
ドリー、違う、そうじゃない。
「ははは、さすがにそんなんで地下通路とか見つかったら、先の調査隊が泣きますよ~」
オブシダン玉座、持ち帰れるなら泣かせてやろう、調査隊。
「カー……」
や、カメ君、何事もチャレンジ精神が必要なんだ。
うおおおおおおーー! リヴィダスの強化魔法でいける! 今ならいける!! そんな気がする!!
カーーーンッ!!
アダマンタイトのツルハシが硬い床を打ち、ものすごくいい音がした。
「いってえええええええええ!!」
そして俺の手が痺れた。
思わずツルハシを収納に投げ込み玉座のすぐ横で、右の手を抱え込むようにしてしゃがみ込んだ。
床君は無傷!!
自前の身体強化にリヴィダスにもらった筋肉強化も乗って、そしてかったいかったいアダマンタイトのツルハシ。
それでもって全力で床を殴ったが、床君は全くの無傷でその衝撃はツルハシを伝わって俺の手に戻って来た。
痛い。色々なものを受け止めるため、グローブには衝撃吸収効果を付与しているはずなのにすごく痛い。
あーもう! 無理! 敗北!! そうだよ! 俺の負け!! 床君強すぎ!!
しゃがんだついでに床に尻をついて玉座の横に寄りかかった。
くっそぉ、玉座はしっかり床に張り付いているみたいだし、床も意味わからないくらい硬いしこれは持って帰れない……いや、玉座を動かすのは無理か。
「もー、グラン、真面目にやってよー」
「カー……」
床に座り込んで右手をさすっていると、アベルが呆れた顔で上から覗き込んできた。
カメ君もアベルの肩の上から俺を覗き込んでいて、その行動が妙にシンクロして見えた。
なんだ似たもの同士君か!!
「ま、真面目にやってるよ!! だから玉座に何か秘密があるかもしれないだろう!? めちゃくちゃ豪華で意味ありげな玉座だし?」
そうだよ、秘密の通路は玉座の周辺って前世からのお約束なんだよ!!
「確かに黒曜石素材だから魔道具としての何か仕掛けがあってもおかしくないけど、鑑定してもただの黒曜石の玉座だし。付与は座ってる者に対する防御系が付いているくらいだよ」
「カメェ」
アベルの肩でカメ君もウンウンと頷いているということは、カメ君から見てもこれはただの玉座なのかなぁ?
俺の鑑定でももちろんただの玉座である。
おかしいな、俺の欲望と希望がこれはただの玉座ではないと言っているのに。
「ここは広いし妙に強固に作られててボスがいてもおかしくないような部屋で、この玉座もグランの言う通り意味ありげだけどさ、調べても何も出て来ないし、鑑定でも何もないしやっぱただの黒曜石の玉座だよ。持って帰れそうにないのはちょと残念だけど。それよりさ、お腹空いてきたから早く調査に区切りを付けて昼休憩にしたいよ」
ため息をつきながらアベルが玉座の裏側に寄りかかった。
そうだな、腹が減ったな。玉座は諦めきれないが、とりあえず調査を優先しよう。
ズリッ!
「ふぉ!?」
それまでどの方向から押しても引いてもビクともしなかった玉座がアベルが寄りかかった途端ズルリと前へ動き、側面に寄りかかっていた俺は背もたれを失いそうになり慌てて体を起こした。
慌てて体を起こしすぐに異変に気付いた。
黒を基調とした空間ではあったが明るさはあった。
しかし体を起こすと周囲が暗い。そして何より先ほどまでそこにいたアベルもカメ君もそして他のメンバーの姿が見えない。
慌てて周囲を見回すと全ての背景が濃い灰色になり、その中で元の位置から少しズレた場所で黒曜石の玉座が黒く輝き浮き上がっていた。
「空間魔法か!?」
うげええええええ!! 俺だけ隔離された!?
何で俺だけ!? アベルもカメ君もすぐ近くにいたのに!!
ていうかやっぱ玉座に仕掛けがあったじゃないか!!
動かしたから空間魔法が発動した?
それまで全く動く気配がなかったのにどうして突然動いた? どうして俺だけ隔離された?
俺は無事だが、他のメンバーは?
いや、それよりまずここを出る方法を探さなければ。
そこで気付く。
恐ろしいほどの魔力と大きな気配。
頭で理解するより早く足が床に縫い付けられたかのように動かなくなった。
本能的恐怖というやつだろうか。
何だこれは?
その魔力の源の方――足元へと視線を向ける……より早く動いた玉座の後ろ、元々玉座があった場所を中心に紫色に光り亀裂のように床に広がった。
そしてその亀裂から床がガラガラと崩れ始め、動く間もなく俺は空中に放り出された。
反射的に左腕の防具に仕込んでいるローパーの触手ワイヤーを壁に向かって発射するが、何故かそこには何もないようにワイヤーの先端は壁の向こうへと飛んでいき、限界距離に達したところでヘロヘロと下に落ちた。
まずい、このまま落ちるしかないのか?
空中に放り出されたものの、その感覚はまるでスローモーションのように感じられた。
しかし不発に終わったワイヤーの次の手段を考える余裕もなく、ただなくなった床の方に視線をやるだけだった。
そして、ソレと目が合った。
割れた床の下は闇。闇だけが広がる広い空間。
その闇の中に蠢く闇よりも更に黒い巨大な生き物。そして赤く光る二つの点――竜の瞳。
闇の底にいる巨大な竜が顔をこちらに向け、空中に投げ出された俺をじっと見ている。
理屈もへったくれもなくその圧倒的魔力と本能的恐怖からソレが古代竜であると悟った。
メイドちゃんの言っていた、この城の主、ラグナロックの父上。
おそらく間違いはないだろう。
わかったところでどうしようもない。俺はただ下に落ちるしかない。
落ちたら助からない気しかしないのに、恐怖らしきものは感じているのに、不思議なくらい頭の中は冷静で時間がゆっくりと過ぎているような気がした。
そんな中、赤い目から目がそらせずにいると、闇の中の黒い竜がグワッと大きな口を開けた。
「――――――――」
竜が俺の知らない言葉を話した気がする。
もちろんその意味などわからず、俺はそのまま闇の中へと落下していく。
え? 俺の落下先その口の中じゃね?
やだーーー! 食べられるより食べる方がいいのーーーーー!!
これは本格的にやばい。しかしどうすることもできない。
落下しながら上を向くと、金色の粉がパラパラと雪のように降ってきた。
よく見ると金色の羽根?
それに気付いた時、突如視界が金色になってグワングワンと揺れ、激しい頭痛で意識が飛びそうになった。
この感覚なんか知っているけれどなんだっけ?
金色の中、意識が飛びそうになったがすぐに視界が戻って来た。
「もー、グラン、真面目にやってよー」
「カー……」
視界が戻って最初に目に飛び込んできたのは上から覗き込んできている呆れ顔のアベルと、アベルとシンクロするように呆れ顔で覗き込むカメ君。
あれ?
そして俺は、床に座り込んで玉座の側面にもたれかかっており、右手がジンジンと痺れている。
あれ?
その痺れが身に覚えありすぎて、その時とは違う意味で右手を抱え込むようにしてさすった。
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