第469話◆漆黒の玉座

 扉が開くと豪華な装飾が施された壁に囲まれた広々とした空間が広がった。

 足元には金の縁取りのある赤いカーペットがまっすぐと空間の奥へと伸びており、その先には光沢のある黒の大きな玉座。

 あらかじめ聞いていた通り、玉座の主は不在。

 しかし玉座に向かうカーペットの左右には、先ほどのインペリアルドラゴンと同じくらいのサイズの石像が等間隔で並んでいる。

 その姿は竜人や獣人、中には鳥の頭のものもある。

 うわ……これ全部ゴーレムかガーゴイルだよな……。


 ターンッ!!


 これ全部動き出したらやべーよなーって思っていたら、アベルとシルエットが魔法で石像を壊し始めた。

 容赦ない。あ、カメ君まで水鉄砲を撃ち始めた。

 動き出したら強そうな気がするけれど動く前に片っ端から遠距離攻撃で壊されている。

 安全で楽な倒し方だし、ゴーレムやガーゴイルの正しい攻略方法なのだが、レンジ弱者の俺は何もせず見ているだけである。


「入り口の竜兵は王の間の守護者らしく強敵ですが、中にいるゴーレムは王の間にいる兵にしては物足りない強さで少し不気味なんですよね。といってもとくに変わったことはないですけど」

 言われてみれば玉座の間で王を最も近くで守っている兵にしては少し物足りなさがある。

「王が古代竜ってなら、守護兵なんて飾りじゃね?」

 カリュオンがド正論を言っている。

 王が古代竜というのなら、王こそ最強だった可能性が高い。そんな王を守る兵なんてほぼ飾りだよなぁ。

 入り口にいたインペリアルドラゴンは、守護者というよりも王に余計な者を近付けないのが役目か?

 あ~、そんなことを思っているうちに二人と一匹によって石像がどんどん壊れていく~。

 はー、石像の破片回収して爆発するトマホーク量産しよ。




「カーーッカッカッカッ!」

 石像が全て粉砕され、カメ君が俺の肩の上で後ろ足で立ち上がり高笑いのような鳴き方をしている。

「カメ君、お疲れさん。石像もいなくなったし、隠し部屋や通路がないか調べてみるかなぁ」

「カカッ!」

 カメ君にご褒美のリンゴを渡しながら広々した玉座の間を見回した。


 やや縦長の広い部屋。

 天井も非常に高く、豪華なシャンデリア型の照明魔道具が等間隔にぶらさがり、広い空間を明るく照らしている。

 黒みの強い灰色の壁と床、床の中央にはまっすぐと玉座へと伸びる赤いカーペット。

 黒に近い灰色を基調とした空間だが、施されている装飾は金や銀で明るい照明に照らされ暗い印象は全くない。

 壁と床の色が黒に近い色のため、多く使われている金銀の装飾がギラギラとして嫌みに感じることはなく、上品で落ち着いた、そして威厳を感じる空間となっている。

 まさしく王の空間といった場所である。

 その空間の真ん中に伸びる赤いカーペット、その先には階段状になっており、その上から黒く大きな玉座がこちらを見下ろしている。

 主不在の玉座が近寄りがたい空気を醸し出している。


 黒に金銀の装飾、その中を走る赤いカーペット、艶のある黒い玉座。

 控えめに言ってものすごくかっこいい!!

 黒い古代竜が主である、黒を基調とした王の間。

 城の主がやべー奴なのはわかっているが、このセンスは俺の好みにド直球である。

「かっこいいなー、しかも城の主も黒い古代竜だろー。黒が好きな竜王様だったのかなぁ? 自分に似合う色を知ってるって感じ?」

「ケッ!」

 あまりに俺の美的感覚にジャストフィットで思わずキョロキョロと見回していたら、カメ君に首筋をペチペチと叩かれた。

「あ、カメ君の甲羅も綺麗だし可愛さなら負けな……つべたっ!!」

「ケーーーッ!!」

 何かがお気に召さなかったようで、カメ君に水鉄砲をピューっとされてしまった。


「うわ、こっちきた! なんで俺!? カリュオンじゃないの?」

「ケッ!」

 そしてカメ君はリンゴを持ったままアベルの肩の上にピョーンしてしまった。

 これにはアベルも驚いているが、カリュオンの肩の上は危険が危ないと亀島にいる頃に学習したのだろう。

 アベルは後衛だから何かあっても安全だし、ローブにはフードが付いているし、素材も布だから背中にも張り付きやすいしな。

 拗ねてしまったカメ君はアベルに任せて、玉座の間の調査に取りかかるとするかな。


「一度目の調査では何も見つかっていない場所ですが安全は完全に確認されていませんので、念のため二人一組で行動してください」

 という職員さんの指示でドリーはリヴィダスとカリュオンはシルエットと俺はカメ君付きアベルと組むことになった。

 調査隊が一度この部屋を調べて何も見つかっていないので、俺達はそれを確認するためそれぞれのペアで担当を決めてそこをくまなく調べるという感じだ。

 俺とカメ君付きアベルのペアは玉座のある広間の奥の方が担当になった。




 探索スキルを使って周囲におかしな空間がないか探ってみたが、それらしい空間はない。

 だよなー、それくらい調査隊でもやっているだろうし、職員さんも探索スキルめちゃくちゃ高そうだし。

 何か怪しいものがあればアベルが究理眼で見つけそうだしな。

 最近やたら弾かれているし、カメ君にも弄ばれている印象のあるアベルの究理眼だが、本来は俺の鑑定なんかよりずっと性能のいい上位鑑定スキルで、こういう未知の場所では非常にありがたい能力なのだ。

 まぁ、アベルが見落としてもカメ君が気付くかもしれない。


「グランの探索スキルでも変な空間は見つけられないんでしょ?」

「ああ、壁も床も分厚いのもあるが、この部屋が強い魔力で守られていて周囲の地形がわかりにくいんだよなぁ。怪しい空間を探るならこの部屋じゃなくて周辺の部屋から探したほうがよさそうだ。そっちも何も見えない感じか?」

 探索スキルで探ってみると強固な箱の中にいる感じで、部屋の外のことが非常に読み取りにくい。

 それでも少し掘り返してどうにかなるくらいの範囲には不自然な空間は見つけられなかった。

「うん、普通の床と壁だね。装飾品も豪華だし玉座もシャンデリアもカーテンも異常なし」

「カー……」

 肩をすくめながら首を左右に振るアベルとシンクロするようにカメ君も後ろ足で立ち上がった姿勢で肩をすくめて首を振る仕草をしている。

 なんだやっぱり仲良し君達か。

 この反応だとカメ君から見ても異常なしかー。


「アベルさんのスキルでも不自然な場所はない感じですか」

「だね。表面上に見えているものにはおかしな箇所はないかな。それにグランも周囲に変な空間はないって言うし、物理的な隠し部屋とか通路の可能性は低そうだね。あるとしたら転移系の仕掛けや空間魔法がかけられた入り口かな。でもそれっぽい魔力は感じないんだよね」

「ええ、その辺は先の調査隊でも確認してそれらしきものは見つけられませんでした。ってグランさん何やってるんですか!?」

 アベルと職員さんが話しているのを聞きながら、俺は一人で引き続き調査をしていたのだが、何故か職員さんに驚かれた。


「え? この玉座、黒曜石だから持ち帰れないかと思って? 違った、床に張り付いてるから、どうにか動かせないかなーって? ああ、えっと、物欲もあるけどこの玉座の下にもしかしたら隠し通路がっ!!」

 そうそう、玉座の下だか裏だかにはやっぱ隠し階段とかありそうだと思うんだよ。

 そう思って調べるついでに玉座を鑑定したら黒曜石! え? でか! このサイズの黒曜石! オブシダン!!

 これを持って帰らないなんてとんでもない!!

 というか調査隊はこれを持って帰ろうと思わなかったのか!? そっちのほうが不思議だよ!!


 そう思ったのだが床にぴったりくっ付いていてびくともしない。小型の鉱石採取の道具で床との境目を叩いてみてもダメ。分解スキルも魔力抵抗が高くて弾かれた。周辺の床も魔力抵抗が高くて分解できなかった。

 うむ、最終手段。かったいかったい鉱石を採掘するためのアダマンタイトのツルハシを取り出して、玉座の周囲をほじくろうとしたら職員さんがこの反応である。

 エッ!? 玉座欲しくないの?


「ああ、そういうことですね。調査隊も持ち帰りを試みたのですが、普通の黒曜石より硬くて割れないし、動かそうとしてもびくともしなくて諦めたんですよ。まぁダンジョンの地形の一部でしたら持ち帰りは無理じゃないですかねぇ」

 ダンジョンの地形の一部なら切り離したら消えたり、そもそも硬すぎて切り離せなかったりで持ち帰りは難しい。

 だからって少しびくともしなかったくらいで諦めんなよぉ! 冒険者なら儲けのためにもっと必死になれよぉ!!

 持ち帰るためだけではなく玉座の下に何かあるかもしれないだろお!!


「椅子の下に隠し通路? 普通に考えて国で一番偉い人が座る場所の下に隠し通路とか危険すぎるでしょ? そこから襲撃や攻撃があったらどうするの?」

 確かにアベルの言う通りだなぁ。

 座っている下から攻撃されたら抵抗のしようがないな。人間基準ならな。

「でも城の主が古代竜なら尻の下からの攻撃にも耐えられそうじゃないか!」

 ここの王様は古代竜だから人間基準で考えてはいけない。

 というわけで試しに掘ってみるんだよおおおおお!!


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