第464話◆賢い竜

「インペリアルドラゴン――見た目的にも名前的に城主の親衛隊みたいなものか。属性は闇と炎、鱗は黒いけど火竜系かな? グランが言ってたこの城の主の特徴と被るね」

 アベルがすぐさま鑑定して、その特徴を伝える。

「ええ、重要な施設だと思われる場所はこいつらと同じ二足歩行の竜が入り口を守っていることが多いのです。どれも色は黒ですがほぼ火竜ですね。その特徴がグランさんの言っていた古代竜の話と一致するので、ボスが古代竜の可能性が捨てきれないんですよ」

「話している場合じゃないわよ、もう向こうは動いてるわ」

 俺達の存在に気付いたインペリアルドラゴンは、俺達が話している間にこちらに向かって動き始めていた。


 太く逞しい後ろ足を持つ二足歩行のドラゴン。

 二足歩行のドラゴンは前足が退化して小さめな種が多いのだが、こいつは前足もムキムキとしており、その右手には手元に鍔のある非常に長い円錐型の槍、左手には長い長方形の盾が握られている。

 そして体には肩と胸と太ももを守る金属鎧を付けており、ドラゴンというかドラゴニュートと呼ばれる竜人系の種族を連想させられる。

 しかしその体格は俺がしっているドラゴンニュートより遙かに大きく、現在は折り畳まれているが背中には一対の翼があり、頭から尻尾まで入れると五メートルはあり、体高も三メートルを超えている。


 竜だと思えば小型だが、ドラゴニュートだと思うとでかいな!?

 でかくてリーチが長いのに武器持ち! しかも槍!! 持ち主の体格に合わせて五メートル越えの槍、やばっ!!

 その体格と速度にものをいわせ、突進攻撃をされるとやばいやつだ。

 俺はロングソードがメイン武器なので、槍の間合いで打ち合いになると不利だ。

 どうにか懐に入りたいが、盾まで装備している。面倒くさい奴だな!?

 そして、武器や防具を装備しているということは、それを使いこなすだけの知能があるということだ。


 こちらに向かって走って来るインペリアルドラゴンに対し、カリュオンがいつもの大盾ではなく腕と胴が隠れる程度で下側が尖った盾、カイトシールドをマジックバッグから取り出して構えた。

 一発が大きな攻撃を防ぐための盾ではなく、細かい攻撃を受け流すための対人用の盾だ。


 槍を脇に抱えるように構え、こちらに突進してくるインペリアルドラゴン二匹。

 それを迎え撃つようにドリーとカリュオンが前に出た。

 ドリー達の少し後ろに俺とリヴィダス、一番後ろにアベルとシルエット、このいつもの陣形に加え職員さんが俺とリヴィダスの少し後ろに控えている。

「気を付けて下さい、こいつら知能が高くて装甲が薄い者を狙ってきますよ」

 職員さんがそう言った直後。


 ピョーーン。


 跳んだーーー!!

 強靱な後ろ足で床を蹴って二匹が大きく跳躍して、ドリーとカリュオンの頭上を越えていった。

 まずい、この中で装甲が薄いのはアベルとシルエットだ。

 知能の高い魔物の中には、しぶとい前衛を避けて沈めやすい後衛を狙ってくる奴もいる。

 重さの面や魔力の上昇効果の関係でローブ系を好む魔法職はそういう相手に狙われやすい。

 アベルやシルエットの身に着けている装備は一見ペラペラのローブに見えるのだが、高級素材に防御系の付与がガッツリされており、防具に色々と攻撃系の細工を仕込んでいる俺よりも防御面では優れている。


 しかし、インペリアルドラゴンのあの体格からあの大きな槍で突き刺されるとやばい。普通に死ねる。

 狙われたのが俺じゃなくて良かったと思いつつ、インペリアルドラゴンが着地しそうな場所から着地後踏み込みそうな場所に、昨日作った貝殻のマキビシをばら撒いた。

 昨夜暇潰しに作っていた貝殻マキビシ。小さな巻き貝の中に氷属性の魔石を砕いたものを詰め込んで凍結系の付与がしてある。何かあった時の足止め用と思って作っておいてよかった。


 俺が貝殻マキビシを撒くのとほぼ同時にアベルとシルエットが大きく後ろに下がった。

 相手が体が人間より大きいうえにその体格に合わせた槍を装備しているため、マキビシで足止めをしても広い範囲に攻撃が届くからだ。


 二匹のインペリアルドラゴンが着地したのは、俺が予想してマキビシをばら撒いた場所。

 バリバリと貝殻の割れる音が聞こえて割れた貝から冷気が広がり、周囲の地面と共に靴を履いていないインペリアルドラゴン達の足が踝辺りまで白い氷に覆われた。

 その間にアベルとシルエットはインペリアルドラゴンの攻撃範囲外まで移動をする。

 ドリーとカリュオンもこちらに向かって来ている。

 インペリアルドラゴンを長時間足止めできるほど凍結マキビシの効果は高くないため、すぐに氷を割って動き出すはずだ。

 だがその前に一発。

 ドラゴンは生命力が高く俺の火力では一発で仕留めるのは無理なことはわかっている。

 ならば相手の機動力を落とせる攻撃を。


 あの跳躍力を封じなければ、またアベルとシルエットを狙ってピョーンしてしまう。

 そうなると魔法使い組は攻撃を仕掛けるタイミングが減るし、近接組はインペリアルドラゴンを追い回すことになって効率が悪い。

 そうならないために狙うのは膝の急所。

 二足歩行の生き物なら太もも、膝、踝を狙えば機動力を奪うことができる。

 太ももは金属防具で守られている。踝は位置が低くて狙いにくい。

 人間より大きな二足歩行ドラゴンの膝の位置は、俺の太ももよりも高い位置にある。ちょうど狙いやすい位置。

 そして、足の鋭い爪を活かすためか靴を履いていないインペリアルドラゴンの膝は剥き出しである。

 膝の下を狙いたいところだが、そこは分厚い鱗に覆われている。ならば膝の裏――関節部分。

 着地後、凍結マキビシを踏んだインペリアルドラゴンはアベルとシルエットの方を向いており、俺の立ち位置はその側面になっており膝裏を狙いやすい位置だ。


 ロングソードをかざして自分に近い方のインペリアルドラゴンに狙いを定めると、リヴィダスから身体強化の魔法が飛んできた。

 お母さん、ありがとう! って、え? 防御魔法!?

「カーッ!」

 カメ君が俺の肩の上で威嚇するような声を出しながら、俺の髪の毛をちょいちょいとひっぱった。

 これは何かの警告だろうか?

 何となく嫌な予感がして、少し大きめにインペリアルドラゴンの後ろに回り込んだ。


 ザッ!!


 俺が狙っていたインペリアルドラゴンが脇に挟むように構えていた槍の柄を、振り返ることなく後ろの地面に突き刺した。

 ちょうど膝の後ろの辺り、俺が最初周り込もうとしていた軌道上だ。

 あぶねぇ、最短距離で周り込んでいたら尖った柄の先端が刺さっていたかもしれない。

 くっそ、槍の柄が刺さった位置が俺に近い方の膝の真後ろで、膝が狙いにくくなった。

 こいつ強い上に武器を使いこなす技術もあって思ったより賢いな。無理に踏み込むと返り討ちに遭いそうだ。


 インペリアルドラゴンの足を地面に固定していた氷がパリパリと砕ける音がした。

「グランさーん、多分そいつらグランさんを狙ってますよー!」

 職員さんの声が聞こえた。

「え? マジで!?」

 もしかして俺が一番装甲ペラペラなのバレてる?


 氷が砕け足元が自由になったインペリアルドラゴン君達がクルリとこちらを振り向いた。



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