第463話◆食べられる鎧と食べられない鎧

「ドリーさん達のパーティーは後どのくらい残れそうな感じですか?」

「そうだなぁ……物資が尽きるまでか、グランとアベルが荷物を持ちきれなくなるまでと言いたいところだが、この階層は食料にも困らないし、グランがいればポーションも補充できるし、装備の修理もできる、調査ばかりだと荷物もあまり増えないとなると帰るタイミングを見失いそうだな」


 そろそろベッドが恋しくなってきたので、恐ろしいことを言わないでくれ。

 収納に海水でも詰め込んで容量を圧迫しておくか?

 ここんとこ度々収納がいっぱいになったせいで、少し容量も増えているのだよなぁ。すごく嬉しいことではあるがそろそろお家も恋しい。


 山のように作った夕食は見事に食べ尽くされ、後片付けをしてのんびりとした時間。

 今日の市街地探索で手に入れた古代のワインを味見しながら、職員さんを交えてだらだらと話している。

 食材ダンションに到着してすでに二週間が過ぎており、テントで寝袋生活は飽きて来た。

 ねぇ、どうせ毎日同じ場所にテントを張っているし、まだしばらく滞在するならここに小屋を建ててベッドとか作ったらダメ? 他のパーティーも少ないし?

 やっぱダメだよね? セーフティーエリアは物の劣化は遅いけれど、それでも少しずつダンジョンに分解されるもんな。

 あ? そういう問題じゃない? セーフティーエリアに私物を置きっぱなしはダメ?

 そっか、言われてみたら小屋は私物だよね。亀島にあった祠は何だかんだで快適だったなぁ。


「そうだねぇ、調査隊も到着してることだし、区切りがいいところで俺達は撤退でいいんじゃない?」

「だな。グランとカリュオンが発見者ということで、あくまで協力者であって調査隊ではないからな。目安として来週の週末あたりに引き上げるか」

 後一週間は滞在するつもりなんだ……。

 何だかんだで遭難したり調査でうろうろしたりで、もとからある十五階層の海そのものはあまり満喫できていない。

 またどっかで休みの日を挟むと思うし、その時はのんびり海を満喫しよう。


「ところでグランは何を作ってるの?」

 ドリーと職員さんの話を聞いているとアベルに尋ねられ、ちびちびと酒を飲みながら動かしていた手を止めた。

 だらだらとする時間でも何もしないのはもったいない気がして、簡単に作れる小物を作っていた。

「海岸で集めた貝殻をアクセサリーにしようと思ってたけど、欠けていたり色や形が微妙だったりであまり綺麗じゃないのもあるから、それを別の物にしようかなって? これなんか何となく拾って来たけど大きすぎてアクセサリーには不向きだし?」

「なるほどー、って何を書き込んでるのその文字は……」

 付与用のペンで手のひらサイズの巻き貝に、カリカリと神代文字を書き込んでいる俺の手元を見たアベルが、もごもごと口ごもった。

 大丈夫、知らない人が見ても神代文字だから何て書いてあるかなんてばれない。


「へー、語学が苦手なグランがいつの間に神代文字なんて覚えたの? なるほど爆発系の付与ね。だったらここはこの文字を混ぜる方が効果が上がるわよ。グランが使ってる文字にこの辺の文字を合わせると属性を指定した爆発になるわ」

 アベルに続いて俺の手元を覗き込むシルエット。俺の知らない文字をさらさらと紙に書いてヒュッと机の上をすべらしてこちらによこした。

 そっか、シルエットは歴史好きだし、付与や魔術にも詳しいから神代語も習得しているのか。

 これはとっても助かるな。これを参考に貝殻爆弾の種類が増やせそうだ。

 

「まぁた、そうやって爆発物を作ってー。今日のあの変な斧も何? あのサイズでバッ……でっかい魔物が仰け反るって何やったの?」

 アベル、口からバハムートの頭が出そうになったぞ。ひっこめておけ。

 酒を飲みながらの雑談はついポロリがあるので危ない。

「アレはガーゴイルの破片の再利用? 強い衝撃を与えると雷撃が発生する仕組みになっていた。なかなか質のいい素材のガーゴイルだったからつい? で、こっちは貝殻は巻き貝だから、爆発系の付与をした後で中にニトロラゴラの粉末でも詰めておこうかなって? アクセサリーには大きすぎるけど、投げるのにはちょうどいいし、巻き貝だから火薬も詰めれるだろ?」

「そんなものを酒飲みながらセーフティーエリアで作らないで!」

「ニトロラゴラを詰めるのは安全なとこでやるから安心しろ」

 アベルは心配性だなぁ。

 まだ文字を書き込んでいる段階で付与はしていないし、ニトロラゴラも詰めていないから爆発はしないから。

 付与まで終わらせても火薬を詰めなければ、ちょっとポンッてなるだけだから大丈夫、大丈夫。


「む? また爆発物か? グランは爆発物が好きだな。今日バハムートに投げていたあの斧はなかなか面白かったな。小さいわりに俺のところまで電撃が飛んできた上に、リヴィダスの防御魔法の上からでも少し痺れたからな」

 っちょ!? ドリーーーー!!!

「ドリー……」

「ん? んなっ……しまった」

 アベルからポロリしかけたバハムートはドリーの方から出てきてしまった。

 酒の席ではポロリには気を付けなければいけない。


「んん? バハムート? どういうことです?」


 あーあ、ばれちゃった。

 しかしカメ君救出という正当な理由があるから問題はないかー。


 この後根掘り葉掘り聞かれたので、おつまみとお酒が追加された。








 なんてことがあったせいかどうかはわからないが、翌日の俺達担当は市街地ではなく城になった。

 職員さん同行で。

 だからバハムートはカメ君救出のついでだったんだってば!!


 曰く。

「いえね、昨日のバハムートの件がどうのではなくて、一度調査した場所の再確認作業ですよ。確認作業は最初の調査と同じメンバーだと見落としも出やすいので、別のパーティーで行う規則になってるんですよ。アベルさんの鑑定も頼りになりますし、グランさんも隠し部屋を見つけるのが得意って言うじゃないですか」

 ああ、昨日ドリーが言っていたな。

 そういうのを探すのが好きなだけであって得意なわけではない。


 城の内部の大まかなマッピングはほぼ終わっているようだが、複雑に入り組んだ大きな城のため、未発見の隠し通路や隠し部屋があるだろうということだ。

 調査は複数の冒険者や職員によって念入りに行われるが、調査で見落とすものは少なくなく、新しく見つかった区画は一般開放された後もしばらくの間高めのランクに設定される。

 このダンジョンは発見されてから日の浅いダンジョンだし、ランクも高いため立ち入る冒険者も多くないので、この階層以外にもまだまだ未発見の仕掛けや区画がたくさん残っていそうだ。


 俺達が向かっているのは玉座の間。

 大きくて豪華な玉座が設置されているため、便宜上そう呼ぶことにしたそうだ。

 いかにも城の主が座っていそうな玉座だがそこに主はおらず、入り口にガーディアンと思われる二匹の二足歩行の黒竜、中には玉座を守るように大型のゴーレムが数体いるらしい。


 城の中の通路は侵入者対策なのか非常に入り組んでいる。

 城内の通路は幅が広く天井も高い。こういうところからも、ズィムリア魔法国の国民は人間より体格の良い種族だったことが窺える。

 玉座の間が近付くとさらに通路は広くなり装飾も派手になってくる。

 通路には色々な姿をしたゴーレムやガーゴイルが設置されているが、近付く前にアベルとシルエットによって破壊されている。

 トマホーク素材集めが捗るなぁ。


 ゴーレムやガーゴイル以外にリビングアーマーもいる。

 生きている鎧という名前だが、その正体は中身が空洞の物に寄生するハーミットリーパーという魔物で、とくに鎧を好んで寄生する。

 成長したハーミットリーパーはまるで中に生きた人間が入っているかの如く鎧を操るためリビングアーマーと呼ばれている。

 一つ目に最大五本の触手が生えている魔物だが、最初は小さく触手の数は少ない。成長しつつ自分のサイズに合った宿主に乗り換えていく生き物だ。

 生き物には寄生せず中が空洞の物にしか寄生しないので、生き物に寄生する系の魔物よりは人に優しい生き物である。

 まぁ、肉食なので近付けば襲いかかって来るけれど。


 リビングアーマーの中身はウニョウニョした触手系の魔物だが食べることができ、その食感はコリコリとしており味も癖がなく食べやすい。

 巻き貝の中身みたいな感じかなぁ。そのまま焼いても美味いし、ワイン蒸しにしてもいいし、フライにしてもよく、見た目のわりに人気食材である。

 ちなみに鎧に好んで入るという習性を利用して、リビングアーマーの出没する辺りに食べ頃サイズの鎧を置いておくと、リビングアーマーの中身ホイホイができる。

 一般開放されたらこの城はリビングアーマー漁が流行りそうだなぁ。


 動く鎧の類の魔物は鎧にゴーストや悪霊が取り憑いている系もおり、見た目は同じ動く鎧なのでリビングアーマーとよく間違えられるが、こちらはアンデッドである。

 つまりリビングではなく、ただの動く鎧だ。

 こちらは取り憑いている中身を倒さなければ鎧を壊しても復活するし、その中身は浄化系の攻撃でしか倒せないので面倒くさい。

 中身は実体のないゴーストや悪霊だし、外は金属だしで食べるところがない。

 見た目はハーミットリーパーが寄生しているリビングアーマーとほぼ同じだが、アンデッドの方の動く鎧は食べられないハズレ鎧だ。


 今日の夜はハーミットリーパーの白ワイン蒸しかなぁ?

 網焼きにして酒のアテにしてもいいなぁ。小さく刻んで醤油漬けも悪くない。

 レンジ強者がサクサクと出てくる魔物を倒すのでやることもなく、思考が食べ物の方へ飛んでいきかけた頃、ここまでで最も幅が広く豪華な通路の先に大きな扉が見えた。


「あそこが、玉座の間ですよ」


 職員さんが指差した先には体高三メートルほどの二足歩行の黒い竜が、ビシッと背筋を伸ばし玉座の間を守るように立派な扉の左右に立っていた。


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