第462話◆夕食は豪華に

「今日は随分豪勢ですねぇ。カメ君の前は山盛りになってますが、そんなに食べるんですか?」

「カッ!!」


 今日大活躍だったカメ君の前には、カメ君の好物が山のように並んでいる。カメ君は顔を汚しながらそれらをせっせと食べている。

 カリュオンも胃袋マジックバッグだが、カメ君もそれ以上である。どう考えてもカメ君より料理のほうが体積が多い。

 今日の夕飯はこれまで作った料理でカメ君の反応がよかったものを中心に、あれこれ並べていたら品数が増えて妙に豪勢になってしまった。

 しかし今日は高級魚が手に入ったからこれくらい豪勢でもいいのだ。


 カメ君はおそらくカレーがお気に入り。

 亀島でカレーを食べて以来、カレーを出すと尻尾がブンブンするのだ。カメ君は気付いているか微妙だけれど尻尾に感情が出るのだよね。

 今日セーフティーエリアに戻ってからカレーを作る時間はなかったので、以前に作って半端に残っている分を再利用したカレーコロッケ。

 ふかして潰したパタ芋にカレーを混ぜてころもを付けて揚げるだけで、さっくさくカレーコロッケである。

 コロッケは手でそのまま掴んで食べられるので、残った分は明日の弁当にしてもいいかなぁ? 残りそうにないかな?


 それから昨日カメ君が夢中で食べていたバハムートのパスタ。

 昨日はトマトソースだったが、今日はシンプルにエリヤ油とピリ辛系香辛料とニンニクで味付け。

 バハムート以外にもクラーケンやセファラポッド、貝、エビが入った、シーフードたっぷりパスタだ。

 歩けば海の食材が手に入るこの階層は最高すぎる。


 そしてシーサーペントの干物を使ったトマトリゾット。

 日当たりの良い海沿いで潮風にさらされたシーサーペントの干物は、カラッカラになって海がギュッと濃縮されたような深い味わいだ。

 ぶっちゃけそのまま手で千切りながら食べても美味しいのだが、今日は塩抜きついでに水で戻してリゾットにした。

 シーサーペントといえば、フライも好評だったのでフライも作ってある。


 カメ君は海産物は何でも好きなようだが、それ以外だと竜系の肉が好きなようだ。

 大丈夫? 共食いじゃない? 亀だからセーフ?

 今日はレッサーレッドドラゴンの胃袋を一口サイズに切って塩胡椒で軽く味付けして、小麦粉を卵と冷水で溶いたころもを付けて揚げてみた。

 レッサーレッドドラゴンの胃袋の肉は白っぽく、コリコリとした食感である。

 一応調合素材ではあるが、胃袋は効果の高い部位ではないので美味しく頂いてしまっていいと思う。

 小麦粉を溶きすぎてあまってしまったので、セファラポッドも揚げてしまおう。美味しいよね、タコの天ぷら。

 ……揚げ物が増えたな? 冒険者の活動は体力勝負だからこのくらい揚げ物があっても問題ないな!!


 あとはなんとなく手に取って食べるように、ペースト状にしたバハムートとおろしニンニクとバターを混ぜたソースを塗って焼いたパン。

 それから海底都市をうろちょろしていたカニっぽい魔物の身を使ったクラムチャウダー風のスープ。

 そうそう、カメ君はフルーツも好きだからな、デザートにフルーツも用意した。


 なんて、あれこれ用意したら皿が増えまくってすごく豪華に見える食卓になってしまった。

 今日は家捜しは楽しかったし、カメ君のおかげで海の幸はいっぱいだし、美味しいものを腹一杯食べるのだ!!



 市街地の調査が終わった後のカメ君救出劇で二十メートル級のバハムート二匹と十メートル弱のシーサーペント四匹他、小型のクラーケンやらセファラポッド諸々を手に入れた。

 これはカメ君救出活動のついでである。

 バハムートはここで解体すると色々とまずそうなので、どこか別の町の冒険者ギルドで解体場を借りてこっそりとやって、その後メンバーで山分け予定だ。

 さすがにバハムート十匹は冗談なので、とりあえず先日のと合わせて三匹もあれば充分である。

 いやー、カメ君のおかげでホックホクである。




「君、またうちでご飯を食べてる。特定の冒険者とばかり付き合うのはまずいんじゃないのー?」

「いえいえ、お隣さんですし、僕は城のほうの調査隊に入っていましたし、市街地の調査の報告も聞きたいですからね。今日もありがとうございます、セファラポッドの揚げ物美味しいです。それで、今日の報告書ですが、何ですかこの"不測の事態発生により、調査終了後調査担当区画を離脱後対処完了"って?」

 今日もまた職員さんが夕食に混ざっている。まぁ、セーフティーエリアではお隣さんだしな。

 あ、報告書、やっぱ突っ込まれたか。調査中の出来事なので書かないわけにはいかないからなぁ。


 アベルの言うようにあまり職員と冒険者が仲良くなりすぎるのは、公平性の面での問題が発生しやすくなるため、お互いの立場をわきまえた付き合い方をしないとならない。

 のだが、明確な線引きもないし、危険な場所で共に行動をしたり、活動する上でのやりとりが多くなったりすると、どうしても仲良くなってしまう。

 まぁ、仲良きことは美しきかな? 不正が行われない程度にほどほどで正しい距離感を持って付き合えば問題がない。

 よってちょっと夕飯を一緒にしながら、あれやこれや現地で効率的に動けるように打ち合わせをするくらいなら問題はない。


「ぬ? ああ、それは調査が終わって戻る直前に少しトラブルがあってなぁ。子亀が水路に流されたのを救出するために、今日の調査対象ではない区画まで移動することになったのだよ。その時に魔物とも遭遇したが、問題なく処理をしておいた」

 さすがドリー、何一つ間違ったことは言っていない。

「あー、市街地から海の方へ流れている水路ですね。大きい水路は水量も多くて流れも速そうでしたね。小さい亀だと落ちたら流されちゃいますよね。無事でよかったですねー」

「カッ!」

 職員さんの言葉にカメ君が得意げに前足を上げて応えた。

 しかし俺にはわかる、その表情はにんまりと悪そうに口の端が上がっている。


「ところで城のほうは何か新しい発見とかは?」

「うーん……ズィムリア中期の魔道具や装飾品は時々見つかりますが、これといって大きな発見もないですね。魔物もよく見かけるのはBくらいですし、宝物庫や主要な部屋のガーディアン系が少し強くてAくらいですかねぇ。城の中はほぼ回ったはずなのですがボスもまだ見つかってませんし、その部屋の入り口すら見つかる気配はないですね。その辺は一度マップを整理して怪しい空間がないか見直す予定です」

 まだボスも、ボスがいる場所に続く入り口も見つかっていないのか。

 このまま見つからないほうがいいというか、うさ耳ちゃんの言う通り眠っているなら、ずっと目覚めないでボス不在の階層にしておいてほしい。


「このまま、ボスが見つからなかったらどうなるのかなぁ? 一応グランの証言で、古代竜の可能性があるボスが地下に眠っている可能性があるみたいだけど。あ、グラン、リゾットおかわり。めんどくさいから上にシーサーペントのフライもトッピングしておいてくれ」

 バケツよ、確かに腹に入れば一緒かもしれないが、その食べ方はどうかと思うんだ。

 今日はシーサーペントを受け止めたり、津波を受け止めたりしたから超絶に腹が減っているのだろう。カリュオンの前の料理がものすごい勢いで消えていっている。


「うーん、そうなると一度ギルドに持ち帰って審議になると思いますが、その証言を聞いたのがグランさんだけでして、しかもあの図書室を調査隊で調べた時はガーゴイルはいなかったんですよねぇ。僕らもあそこでビブリオに連れ去られてますし、もしものことがあると取り返しがつかないので、グランさんの証言を無視することはないと思います。どんなに小さな可能性でも安全にかかわるものですので、きちんと調査して審議します」

 さすが冒険者ギルド。

 可能性が低い裏付けの取れない証言をないがしろにして、後日大きな事故に繋がったという記録は過去にいくつも残っている。

 慎重になりすぎると物事が前にすすまなくなるが、危険が絡む可能性は決して軽く見てはならない。


「その上で何も発見出来ない場合は、制限付きの解放になりますかね。もし地下への入り口や新しい空間を見つけた場合は立ち入らず、即ギルドに報告。場合によっては次の階層へのルートに影響がない城、もしくは城の一部区画への立ち入りは制限といった感じになると思います」

「なるほど、古代竜の可能性があるならこの階層全体の安全にもかかわりそうだしな。グランはどう思う?」

「ほえ?」

 ドリーにいきなり話を振られて、レッサーレッドドラゴンの胃袋の天ぷらをガジガジしていた俺は変な声が出た。

「グランは隠し通路や隠し部屋を見つけるのは得意だろ?」

 得意というか探すのが好きなだけだが。

「そうだなぁ……市街地の地形と城の場所を考えると、城の地下に巨大な生き物が存在する空間があってもおかしくないと思うし、空間魔法の可能性もある。俺とカリュオンが飛ばされた場所は島だと思っていたのが巨大な生物だった。それに城の地下への道が城の中からとは限らない。市街地側からもくまなく探したほうがいいんじゃないかな?」

 あの地形、あの丘の大きさは、城の下に生き物が眠っていると思ってもなんらおかしくない。


「そうですね。市街地も細かく調べたほうがよさそうですね。そうすると十五階層の調査は時間がかかりそうですねぇ。十六階層の調査隊が到着したら、十五と十六同時進行で調査になりそうですし……あー、僕これいつになったら帰れるのかなぁ……」

 最後のほうはなんだか独り言のようにブツブツと言っていてよく聞き取れなかった。


 出張露店で来たはずの職員さんだが、買い取ったものは他の職員さんが持ち帰り初期にいた職員さんの数はどんどん減っている。

 代わりに調査隊と一緒に別の職員さんが補給物資を持って来て、俺達と仲の良い職員さんはずっと居残って現場の指揮をしている状態だ。

 ドリー曰く、この職員さんはオルタ・ポタニコの冒険者ギルドでもそこそこポジションの人らしい。

 中間職ってやつ? 冒険者ギルドの職員さんも大変だなー。



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