第461話◆海の底で
水路にポチャンして泳いで……いや、流されていくカメ君を追って海の方へ。
町の中から外へと流れ出した水路は吸い込まれるように海の壁へと合流している。
流されていくカメ君を追って壁状になっている海の途切れ目が近付いてきたところで、カメ君が水中に潜ってしまい姿が見えなくなった。
カメ君は大丈夫だろうか?
俺達のいる海の割れ目の部分は日が差し込んでいる間は明るいが、海の中は途切れて壁になっている場所から奥へ行くほど光はなくなり、暗くて俺の目ではほとんど何も見えなくなる。
必死に目を凝らすが広く暗い海の底にカメ君の姿を見つけられない。
水の中はただでさえ生き物の気配がわかりにくい、深い水の底ならなおさら。
不気味ささえ感じる暗い海底を海の途切れ目から見つめながら、なかなか戻って来ないカメ君を心配する。
暗い海の奥に更に黒い影がゆらゆらと揺れているように見える。
それはただの水の揺らめきか、それとも海の生物か。
海の奥に広がる黒い闇は海水の動きでゆらゆらとして、巨大な生き物のようにも見える。
いやいや、あんなでかい生き物いてたまるか。
……鮫顔君はでかかったな。
姿の見えないカメ君を探して海の中に視線を走らせていると、海の闇の中に激しく動く濃い影があることに気付いた。
濃い影は俺達の場所からまだ離れており、そして海が広すぎてそこに広がる闇もまた広範囲のためにその対比で濃い影が小さく見えるが、おそらくはある程度の大きさのある魔物だ。
あれ? 影は一つだけじゃない? 二つでもない?
「ねぇ、グラン。俺、今すっごく嫌な予感がしてるんだけど?」
「わかる、昔アベルとペアで王都のダンジョンに行ってた頃、アベルの姿が見えない時と同じような感じ?」
「さぁ? それは身に覚えがないね」
嘘つけ!
アベルはすっとぼけているがこれは似ている……すごく似ているぞおおおおお!!
アベルが大トレインをしてくる時に!!
「おーおーおー、カメッ子は随分張り切ったなぁ」
カリュオンが背中に担いでいた盾を下ろして臨戦態勢に入った。
「あらあら、小さくて可愛い子だと思ったら意外とヤンチャなのね。グラン、帰ったらちゃんと教えてあげるのよ?」
お母さんのあらあらは何故かちょっと怖い。
あ、強化魔法ありがとうございます。がんばります。
カメ君にはトレインはほどほどにするようにちゃんと言っておきます。
「ふむぅ……、これはまずそうなのが近付いて来ているみたいだな。あの子亀はパーティーメンバーとしても働いているからな。となるとメンバーを助けるためには敵を殲滅するのは当然だよなぁ」
ドリーが理由を付けるとだいたい正しい気がするからな!! カメ君は調査の手伝いもしてくれて、パーティーの一員みたいなもんだしな!!
「調査ばっかりでちょっと退屈してたのよねぇ。久しぶりにがんばっちゃおうかしら?」
や、昨日めっちゃバケツを燃やしていなかった? あれ手加減していたの? スパーはノーカン?
相変わらず謎の多いシルエットの胸の谷間からは、どんどん魔物の骨が出てくる。それ地面にばら撒いてどうするの?
うわああああああああ!! 巨大な竜型スケルトンだーーーー!!
五メートルはあるだろうか? ドラゴンの上半身の形をした巨大スケルトンが海から少し離れた地面に生えた。
骨の竜は腹から上しかなく足はないので動くことはできないが、するどい牙の生えた口と大きな爪の前足、そして骨の翼で固定砲台として恐ろしい火力が期待できるやつだ。
こちらに向かって来ている黒い影は、近付くにつれその形がだんだんはっきり見えるようになってきた。
その向こうは相変わらず暗く、後続がいるかどうかはわからない。ゆらゆらと水と共に揺らぐ海の闇が見えるだけだ。
「あれ、近寄ってくる前に海に向かって雷魔法を叩き込んだらだめ?」
「カメ君を巻き込むからだめだろ!?」
「あの亀なら大丈夫だと思うけどなぁ。グランはほんとちっこい生き物には無差別にあまいんだからー」
いやいやいやいやいや、いくらカメ君が実はすごいかもしれないっていっても、アベルの本気落雷はやばいと思う。
嬉しそうにニーズヘッグの杖をブンブンしているけれど、カメ君を巻き込んでこんがりさせるなよ!?
「おー、バハムートが一匹見えるぞ!! グランがリクエストしたやつだな!! ちっこめのシーサーペントも見えるなぁ、三匹かぁ? やや小さめで倒しやすそうなのはカメッ子なりの気遣いか?」
カリュオンが前に出ながらドンッと盾を地面についた。
カリュオンは自信満々に盾を構えているが、バハムートもシーサーペントも大きな個体はSランクを超える魔物だ。
その大きさと海上での戦闘を考慮して高めのランク設定になっているが、それがなくても充分強い部類の魔物だ。
俺達のいる位置は海の壁から少し距離のある場所。
海から魔物が飛び出してきても、俺達のところに来るまでの間に攻撃が当てられるだけの距離をとっている。
俺も剣ではなくズラトルクの弓を構えている。
海の生き物には特効効果が付いていないので威力は下がるが、大弓だと重すぎて咄嗟に動けないので取り回しの楽なズラトルクの弓だ。
カメ君が先頭で引っ張っているのだろうか?
大型の魔物の姿ははっきりと見えるようになったが、小さなカメ君の姿は見えない。
俺達を狙っているわけではないが、こちらにまっすぐ向かってくる海の魔物はもうすぐ海の切れ目に達する。
おかしい、やはりその先頭にカメ君の姿は見えない。
カメ君の姿を探しているうちに魔物達は海の切れ目に到達し、先頭のシーサーペントが海から押し出されるように飛び出してきた。
カッ!!
俺がそのシーサーペントに向かって矢を射るより早く、シルエットの巨大骨竜が青白い炎の矢を何本も放ち、それがサクサクと小振りなシーサーペントを串刺しにした。
小振りといってもシーサーペントにしてはの話なので十メートル弱くらい。
あ、これ、また俺回収しかやることがないやつでは。
次に飛び出して来たシーサーペントはカリュオンの盾にぶつかったついでに棍棒で殴られたな……あーあ、リヴィダスまで一緒になって殴っている。
素材が潰れない程度にほどほどにしてね。
三匹目は水から顔を出すなりドリーの斬撃が飛んでいった。
シーサーペントって海上で戦うならSランク以上なのになぁ。
海の上という人間にとって不利で尚且つそのやばい大きさと、船の上から船より大きい魔物を戦うことを想定してのランク付けだと思われるが、足場がしっかりしている場所ならこんなものなのかー。ふーん。
んなわけあるか! 絶対このゴリラども!!
そして、即倒された三匹のシーサーペントに遅れてもう一匹。コイツはここまでの三匹のシーサーペントより大きい。
先日俺とカリュオンが追いかけられたのより一回り大きいバハムートだああああああ!!
そのバハムートが海中から勢いよく顔を出すと同時に、海の切れ目が崩れるように海水が押し寄せきた。
いきなり津波かよおおおおお!!
「カーーーーーメーーーーーッ!!」
その津波に波乗りをするかの如く、押し寄せる海水の上をピューッと滑ってくるカメ君。
最後にその津波から飛び立つようにピョーンとこちらに跳んで俺の肩の上に着地した。
それと同時にカリュオンがパーティー全員を覆うように光の盾を出し津波を受け止めた。カリュオンの出した光の盾にぶつかり勢いを削がれた海水が盾の左右に溢れ地面を流れ広がっていく。
盾から溢れた海水が足元まで流れ込んでくる頃、リヴィダスが防御魔法を発動し金色のヴェールが俺達を包んだ。水属性ではなく雷属性。
防御対象は津波ではなく雷。
あのー、盾から津波の海水で足元が濡れているのですけれど雷魔法使う気ですかね?
カッコイイ杖がめっちゃバチバチ火花散らして準備完了?
リヴィダスの防御魔法があるから大丈夫?
そりゃ靴底に雷耐性を仕込んでおくのは冒険者の嗜みだから、リヴィダスの防御魔法を貫通してきてもこんがりまではいかないと思うけれど、痛いのは嫌なんですけど?
どうせもう俺の仕事はなさそうだし、弓はしまって溢れてきた津波収納しとこ。念のためにニーズヘッグの骨もばら撒いておこうかな?
海水をしまいながらニーズヘッグの骨をぽいぽいと周囲に落としていると、バリバリという轟音が聞こえて来た。
床に落としたニーズヘッグの骨がカタカタと揺れていたが、とりあえず俺達はこんがりしないですんだ。
ぬ? さすがバハムート、雷に弱い海洋性の魔物のくせに、アベルの雷魔法を耐えたぞ!!
おぉっと!? シーサーペントの突進と津波を受け止めて溜まったカリュオンの引我応砲がっ!
ドリーは先ほど斬撃を撃ったばかりだから二発目はまだ出ないか。普通に大剣で殴っているわ。
あ、骨竜からドラゴンパンチが炸裂したわ。バハムートの方がでかいからあんま効いていない?
俺も少し攻撃に参加してみようかな? 新しく開発した武器使って見よかな?
くらえ! サンダートマホーク!!
サンダートマホークとは、エンシェントトレントの枝にガーゴイルの破片を紐で括り付けた石斧に、雷属性の付与をしたものである。
衝撃を与えるとバリバリと雷撃が発生する投擲用の小型斧だ。
バリバリバリバリバリーッ!!
おー、さすが海洋生物の弱点属性。適当に作った小型の斧だが発生した雷撃でバハムートが仰け反ったぞ!!
近くにいたドリーが何事かと一瞬こちらをチラリと見た。
大丈夫でーす! 問題ありませーん! ただの支援系投擲攻撃でーす!
どうせ木の幹と石だけで作った安物だし、いっぱい投げてバハムートの動きを封じちゃお。
ははは、俺がバハムートの動きを封じているうちにドリーの斬撃が溜まったのかなー? とどめの斬撃が炸裂したぞ!
無事バハムート討伐完了!! 今回はちゃんと仕事したぞ! よっし!!
「カカカーーッ!!」
「あ、カメ君!?」
無事に倒されたバハムートを回収しようと思ったらカメ君が海の中へピョーンと。
「ふむー。グラン、ペットの管理はちゃんとしないとだめだぞ? しかしパーティーメンバーのペットが暴走して、魔物を連れてくるようなことがあればその処理をするのは冒険者として当然のことである」
仕方なさそうにそれっぽいことを言っているが、なんだかんだで楽しそうだな!?
だよねーーー!
この後、カメ君がまた大型の海洋性魔物を連れて来た。
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