第459話◆市街地探索
一日ゆっくりと休んでリフレッシュした翌日からは再び海底都市の調査に参加。
休日の前は城の中心部から外れた場所が担当だった。つまり物置とか使用人の作業場とか居住区とか。
超高価なものは見つからなかったが、ちょいちょい当時の武器や防具、便利そうな生活魔道具を見つけた。
そして休息日を挟んで今日からは調査隊の第二隊も到着して、俺達のパーティーは市街地の担当になった。
担当場所は、昨日の夕飯の時に職員さんとした打ち合わせに従って、城から少し離れた商店街付近。ズィムリア時代の店が並んでおり非常に探究心をくすぐられる区画だ。
職員さんは城へ行っている調査隊に同行しているので、今日はパーティーメンバーだけでの行動だ。
やー、今日は羽が伸ばせそうだなぁ。
やましいことはないけど、やっぱ職員さんと一緒だと緊張するしぃ?
悪いことをするつもりはないが、やっぱこう気の知れたメンバーだけだと気が楽だなーみたいな?
職員さんがいなくても真面目に張り切って調査しちゃうぞー!!
つい先日まで海に沈んでいた市街地には住民の気配はなく、あるのは魔物の気配ばかりで廃墟状態である。
海底から水が引いて数日が過ぎても住人が現れることもなく、町には水のない場所でも活動ができる海洋性の甲殻類や頭足類がウロウロとしている。
だいたいBランク前後のやつらばかりで、どいつもこいつも問題なく食える系だ。
城の方はゴーレムやガーゴイルの類の他には竜系の魔物が多いようだった。
ゴーレムやガーゴイルが質の良い鉱石を使っていることが多く、調合用の触媒に向いている。
鉱石なんか食えないよなぁと思ったら、鑑定すると食べることのできる鉱石が混ざっていた。
へ、へ~、石って食べられるんだ……。ああ、薬用? 妊婦さん向け? 持って帰ってちゃんと調べてみよ。
そして竜系。始祖竜という背中に小さな翼を持つ小型の四足歩行の竜をよく見かけた。
これといって特化した属性はなくあまり強くないのだが、どの属性もまんべんなく使いこなす竜。なんだか少し親近感を覚える。
竜よりトカゲにちかい姿だが、一応竜種で古代竜以外の竜や亜竜のほとんどはこの始祖竜から進化したのではないかとも言われている。
ちっこいやつは一メートル足らずでわりと可愛いんだよね。めっちゃ肉食系だから油断するとガブッといかれるけど。
なお、食べるところは少ないが肉は美味しい。
「ここは小物系魔道具の店かなぁ? よっと、罠の解除完了!!」
市街地の建物に付けられている罠の仕組みはだいたい覚えたので、解除はすっかり慣れてきてパパッと見つけてササッと解除。
解除した罠を建物から取り外すと罠はパラパラと風化するように光の粒になって消えていく。
罠というか防犯用の魔道具にちかく、発動しても殺傷能力はなく大きな音が出たり、雷撃や麻痺系の罠が発動したりするくらいだ。
その威力はあまり強くなく、Aランクの冒険者が付けるような装備なら、ほとんどダメージもなく、雷撃や麻痺で動けなくなるほどではない。全く対策をしていない者やペラペラの装備の者だとしばらく動けなくなりそうかなという具合だ。
電撃や麻痺よりも大きな音が出る方が厄介で、この音に反応して魔物が寄ってくる。
といってもカニとかエビとかアンモナイトみたいなのがほとんどなので、倒して夕飯のおかずである。
だいたいドアのあたりに設置されているので、建物に入る前にそれ見つけて解除している。
「今日のグランは生き生きしているなぁ。家捜しは楽しいかぁ? あー、楽しいよなぁ!?」
バケツの言うことを全く否定できない。合法家捜しめちゃくちゃ楽しい。
そう、ここは住人のいない町。ダンジョンが作り出した抜け殻の市街地。
つまり建物の中をいくら荒らしても犯罪ではないのだ!! どうせダンジョンだから時間が経てば復元されるしな!!
そして家捜しをすればたまにお宝も出てくる。
今のとこ、細々したものばかりで高額なものはまだ見つかっていないが、古代都市の家屋の中を家捜しし放題って最高に夢が溢れているじゃないか!!
「めっちゃ楽しいよなああ!? しかもここは看板のマークからして魔道具屋だ、夢が溢れるううううう!!」
魔道具屋っぽい看板がかかっている建物の入り口にしかけられていた罠を解除して扉をバーンッと勢いよく開けると、建物の中に設置されていた照明が自動的に点いた。
古代の魔道具屋だなんて夢しかない。
「夢が溢れるのはわかるけど、調査だからね! 武器屋や防具屋や薬屋でも同じことを言ってたよね!? 一つの場所にあまり時間をかけすぎたらダメなの!」
う、つい夢を追いすぎて調査中なのを忘れてしまうところだった。
いや、さっきから何度も忘れている。そしてアベルにちょいちょいお小言をもらっている。
だってー、タンスとか壺とかタルの中漁ると何か隠されてそうじゃん?
「相変わらず細かいことにこだわる男ね。未踏の市街地エリアなんだから、何が出るか楽しみに決まってるじゃない。しかも魔道具だなんて、今の時代にないものもあるかもしれないわよ」
さっすがシルエット、よくわかっている。
「シルエットがそうやってすぐグランを甘やかすからー……あっ! もう家捜しを始めてる!!」
うむ、お小言は手を動かしながらでも聞ける。
「まぁ、魔道具屋なら仕方ないな。調査も兼ねて時間をかけすぎない程度にほどほどに探ってみよう」
「そうね、何か歴史的な遺物があるかもしれないし、これは調査ね」
リーダーとお母さんの許可が下りたぞー、ひゃっほーーーー!!
「グラン、見て見て。これグランが作ってたセファ焼き機に似てるよ、見た感じ調理器具っぽいよ」
「ほんとだ、こっちはプレートだけかー。あ、消えちゃった」
アベルが指差した魔道具は俺がついこの間作ったセファ焼き機に似たものがあった。
思わず手に取るとパァンと弾けるように具現化が解け光の粉になって消えた。先日の図書室の本や先ほどの罠と同じ現象だ。
先日の図書館の本もそうだが、この階層にあるものは魔物や自然物、建築物を除いて、手に取るとこのように具現化が解けて消えてしまうものが多い。
最初のうちはブチブチと言っていたアベルも、結局楽しそうに家捜しをしている。魔道具は楽しいもんな。
すぐに消えたからよく観察できなかったけれどセファ焼き機と似たものか。ズィムリア魔法国にもセファ焼きみたいな食文化があったのかな?
プレートだけだったからコンロの上に載せて使うのか、それともプレートそのものに加熱系の付与がしてあるのか。でも剥き出しの金属プレートをそのまま加熱するとあぶないよな?
くそぉ、どういう仕組みだったのか見てみたかった。
「こっちのは箱みたいなのは、植物や生き物の死体を土に変えるものみたいね。土属性の付与かしら? あまり大きなものは時間と魔力がかかるみたいだから、せいぜい家庭で出る生ゴミを土にするくらいしら? ……スライムでいいわね。あ、消えちゃった」
シルエットは少し大きめのゴミ箱のような魔道具を見つけ、それを鑑定しながらいじり回していたようだが、試しに魔物の肉を入れて動かしてみてしばらくしたところで魔道具が消えてしまい、中に入れた魔物の肉とそれが変化した土がバサリと床に落ちた。
なるほど、家庭用のゴミ処理機かなぁ。確かにスライムでいいな。スライム便利! 優秀! 神様!!
「一般家庭用向けの魔道具屋のようだな。ぬお!? 何だこの白い煙は!?」
「ハハハ、よくわからないものを迂闊に起動させるから。それはただの湯気じゃないかな? 湯気が出る魔道具なんて何に使うのかな?」
ドリーとカリュオンが見ているのは湯気が出る魔道具――加湿器っぽい? 水の魔石と火の魔石を利用したものだろうか? ズィムリア魔法国は乾燥した気候だったのかな? それとも乾燥する季節があったのかな? あー、消えちゃった。
手に取らなくても起動させると具現化を維持できなくなるのか、少し動いたところで魔道具は消えていく。
「く、何これ! 狩猟本能をくすぐられるわね!!」
ブーンという音とリヴィダスの苛立った声が聞こえてきたのでそちらを振り返ると、紐の先端にフワフワの鳥の羽のようなものが付いて、それが不規則にひょいひょいと動くようになっている魔道具が天井からぶら下がっており、リヴィダスが目を丸くしながらそれを掴もうと手を伸ばしている。
しかしフワフワした羽はまるで生き物のようにリヴィダスの手の隙間をくぐり抜けていく。
お母さん、たぶんそれ自動猫じゃらし。
あれ? その魔道具もしかして消えない? お持ち帰りできる? うん、持って帰ろうね? それはお母さんが引き取っていいからね。
俺達冒険者が使うようなものは置いていない生活魔道具屋だが、なんだか少し懐かしさを感じるものが多い。
動かしたり手に取ったりすると消えてしまうため詳しいことはよくわからないが、こうして見て少し触れるだけでも新しいアイデアの元になる。
この店に置かれているものを見ていると帰ったら作りたいものがどんどん思い浮かぶな。
帰ったら生活魔道具を色々試作してみたくなったな。
そして少し懐かしさのある魔道具達がすぐに消えていく様子を見ていると、何ともいえない儚さと淋しさを感じた。
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