第458話◆冒険者の特権
「城の方に入った調査隊が立派な玉座のある大きな広間を見つけたんですよ」
「ついに見つけたんだ。ボスっぽいのはいたの? ていうか君、またうちでご飯を食べてる」
「ボスはいませんでした。あ、いつもお世話になります、相変わらずご飯美味しいです。どうですかグランさん、オルタ・ポタニコの冒険者ギルドの厨房で働きませんか?」
「厨房は楽しそうだけど、俺には買ったばかりのマイホームがピエモンにあるから」
「そーだよ、このダンジョンから帰ったらグランは俺と一緒に商会をやるんだから!」
「え? 何それ、聞いてない!! 報告連絡相談はちゃんとしろ!!」
「うん、忘れてたし秘密にしてたから話してない。帰ったらゆっくり話すね。それより見つかった広間にボスがいなかったってことは、グランが言ってた意思疎通のできるガーゴイルに聞いた話の通りという可能性が高くなってきたね。今日はバハムート料理だから、いつもより高いよ。わかってるね?」
「バハムート料理ですかー。そうですね、明日のドリーさん達の担当は市街地の商店が多かった区画なんてどうでしょう? そうそう、発見した城の王の間のような場所には大型のゴーレムが数体いたもののボスというには物足りない強さでして、やはりボスはグランさんの言っていた古代竜の模擬体の可能性が出てきましたね」
「む、市街地の商業区画か、何か珍しい魔道具が眠っているかもしれないな、明日はそこの調査に向かうか。グランの聞いたボスというのは、城の地下に眠っている古代竜ってやつか」
「ええ、そのことも含めて地下に大きな空間がありそうな場所の捜索もしているのですが、今のところ至って普通の地下室はありましたが、巨大な生物が眠ってそうな空間はまだ見つかってないですね。もちろん発見しても触らないように指示は徹底しています」
少しエキサイティングなスパーリングに巻き込まれたが、だいたいのんびりと過ごした休息日。
夕食は収納スキルごり押しで作ったバハムートのオイル漬け。
バハムートの肉を薄くスライスして塩漬けにした後、エリヤ油に漬けたものだ。
あってよかった収納スキルの時間加速機能。
そしてすっかり馴染んでいる職員さんも一緒である。
今日は高級食材なので少しお高いです。賄賂ではなく夕飯ですが、少しお高いです。
なるほど、明日は市街地の商業区画の調査か。住民の気配もなかったし人のいない市街地を家捜し……調査し放題だな!!
そして俺達が休日を満喫している間、城の調査を行っていた調査隊が玉座の間を見つけたようだ。
しかし、その主は不在。
メイドちゃんが嘘を言っているようには思えなかったし、やはりこの階層のボスは城の地下で眠っていると俺は思っている。
うむ、地下にそれっぽい空間を見つけても絶対に触ってはいけない。
メイドちゃん曰く、全盛期ほどの強さでなくて手加減をしてくれるとしても、次元の違う存在であることには違いない。
蟻とドラゴンが戦って、ドラゴンが手加減していたとしても蟻がドラゴンに勝てるかっつーのって話。
そのままラグナロックパパの眠る地下への入り口が見つからないことを祈ろう。見つかってもどうか開きませんように。
平和が一番!!
「はーーー、おいしっ! 本来なら上流貴族しか食べられないようなものも、現地で食べられるのは冒険者の特権よねぇ。バハムートの調理方法を知っているなんて、さすがグランだわ」
「それもこれも料理ができるグランがパーティーにいるおかげだわ。野菜より肉のほうが好きだけど、このバハムートの肉をペースト状にしたソースを付けて食べる野菜なら全然ありだわ」
リヴィダスとシルエットが食べているのは、蒸した野菜。それにペースト状にしたバハムートのオイル漬けにおろしニンニクとマヨネーズを加えたソースを付けて食べているのだ。
ちなみにマヨネーズを入れずニンニクとバハムートペーストを混ぜただけのソースもあり、こちらはカリカリに焼いたパンに付けて食べると最高に美味しい。
「くそ、野菜が美味しく感じる! くやしっ!」
「む、これはワインが欲しくなるな。少しくらいなら問題ないか」
「お? いっちゃう? 今日は休息日だし? ちょっとくらいいいよな?」
あ、ドリーがワインを出してきて、カリュオンも便乗をはじめたぞ。
アベルは珍しく野菜を嫌がらず普通に食べている。明日は雪でも降るのではなかろうか。
「野菜ばっかり食べてると体に悪そうだから、パスタおかわりちょうだい!」
アベルが意味のわからないことを言い始めたぞ!?
アベルは、野菜は体に悪くないからもっと食え。
「僕もパスタのおかわりください」
職員さんまで便乗してきた。
サービスする代わりに、美味しい場所の調査の担当にしてもらおう。ついでに素材の買い取り価格も少し上げてくれないかなぁ?
色々売りつけすぎたせいで、手に入りやすいものはだんだん買い取り価格が下がってきているのだよね。
アベルと職員さんがおかわりを要求したのは、バハムートのトマトソースパスタ。
小さく刻んだバハムートのオイル漬けをトマトソースと一緒にパスタと絡めたもの。
少しほろ苦いバハムートのオイル漬けは、トマトソースを合わせると上に振り掛けた粉チーズの味と相まってまろやかになり、ほんのちょっぴり後味の残るバハムートの風味がアクセントになって、トマトソースパスタという庶民料理がいっきに上品な大人の味になる。
「フッファァァ……」
カメ君もトマトソースパスタが気にいったのか、面白いため息をつきながら顔中トマトソースまみれでパスタを食べている。
後で顔を洗ってあげないとな。
バハムートなんて本来なら俺のような庶民が食べられるようなものではない。
冒険者をやっていたって、Sランクの深海魚であるバハムートに遭遇することなんてまずない。
もしもの時のためにバハムート料理のレシピを覚えておいてよかった。
これぞ、備えあれば憂いなし。
「あー、バハムートあと十匹くらい欲しいなぁ」
「カメッ!?」
カメ君がパッと顔を上げてこちらを見た。
「カメ君はちっこいから、バハムート釣りなんて危ないことはしちゃだめだよー。パクッとされたらいけないからな」
「カァ?」
不思議そうに首を傾げているが、先日カリュオンと二人の時に遭遇して酷い目に遭ったばかりだ。
バハムートは欲しいが、あんな危ないやつを釣るためにカメ君に餌役をお願いするのは心が痛む。
「ちょっとちょっとちょっと!? バハムート十匹とか勘弁して下さいよ!! 相場ぶち壊す気ですか!? ただでさえものすごい肉と魚の量なのに!! もちろんあれば買い取りますけど!! あ、このオイル漬けの状態で売ってもらってもいいですよ」
そっか、あまり多すぎると貴重な高級魚としての価値が下がりそうだな。つまりたくさん狩ったら懐にナイナイしたほうがいいということか。
自家用に一匹くらい欲しいよなぁ。
十匹とは言わないので、一人一匹くらいでいいのでバハムートが欲しい。
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