第454話◆おかえり
「……グラン! グラン! 起きて! なんでこんなところで寝てるの!? グランッ!!」
「……ふえぇ?」
あ――……えーと……メイドちゃんの話を聞いていると途中からなんか眠くなってきて、カメ君とメイドちゃんが話していたような、そんなことはなかったような――……。
あるぇ? アベルの声がするなぁ?
――ん? アベル?
アッ! アーーーーーーーーッ!! 寝てたっ!!!
「フォッ!? アベル!? え? 戻って来た? おかえり!? あれ? メイドちゃんは? いない? あ、日記帳――もない!?」
「ファ~……」
アベルの声が聞こえて、ぼーっとしていた頭がだんだんスッキリとしてきて、我に返るとソファーの上で横になって寝ていた。やべ、めっちゃよだれが垂れている。
横でカメ君の欠伸も聞こえたので一緒に寝ていたのか!?
ガバッと起き上がると、俺が転がっていたソファーからローテーブルを挟んだ位置にアベルがおり、テーブルに手をついてこちらを覗き込んでいる。
周囲を見回すと、アベル以外のメンバーも全員揃っている。そして困惑顔。
そりゃダンジョンで呑気に寝ていたからな。すみません、安全な場所とはいえ、少し緩んでいました。
パーティーのメンバーはビブリオツアーから全員無事戻って来たようだが、居眠りする前まで一緒にいたうさぎ耳のメイドガーゴイルちゃんの姿はなく、テーブルの上に置いていた日記もなくなっていた。
「メイドちゃん? グランはなんかスケベな夢でも見てたのかなぁ?」
うるせぇぞ、カリュオン。絶対領域うさぎ耳のメイドちゃんは可愛かったけれど、決して俺のストライクゾーンというわけでは……魅惑の絶対領域メイド服はすごく心にバッキュンバッキュンきたけど!!
「こんなとこで寝られるなんて、グランさんはなかなか肝が据わってますねぇ……」
あ、これは活動中に気が緩んだわけではなく、ご飯を食べたら眠くなっただけで、それからここが安全と聞いて最終的に気が緩んで。
決して素行評価にマイナスを付けられるような居眠りではありません!!
「それで日記帳って俺が手に取ったらビブリオが出てきた日記?」
「ああ、そうだよ。休憩するためにここに来る時に一緒に持って来たはずなんだけど、誰か回収した?」
「してないよ? 俺達が戻ってきたのは引き込まれた場所で、グランの姿がないからマジックバッグを頼りに探してここにきたけど、日記帳はなかったし、爆睡してるグランとちびっ子しかいなかったよ」
ビブリオに本に引き込まれたら、引き込まれた場所に出る。覚えた。
アベル達が戻って来たタイミングでメイドちゃんは日記を持って帰って行ったのかな?
そうだよなぁ、俺が居眠りをしていたらアベル達が戻って来た時に、すぐそばにガーゴイルがいたら攻撃しそうだしな。
「とりあえず、みんな無事に戻って来てよかった」
「うん、グランも何かあったみたいではあるけど、居眠りするくらい平和だったみたいでよかったよ」
ぐぬぬぬぬぬ……だってこのソファーフカフカで気持ちいいんだもん。
「それで本の中はどうだったんだ?」
置いて行かれたのでうさ耳ちゃんに出会えたのだが、また本の中に行けなかったことには変わりない。
「ズィムリア魔法国戦乱期の人の日記だったよ。ちょっと長引いてお腹が空いたけど、歴史書にも載ってないことを見ることができて、新発見だらけで楽しかったよ」
「そうそう! あたし達が知らないことがたくさん見れてすごく楽しかったわ!」
歴史好きのアベルとシルエットは、その余韻を思いだしているのか楽しそうな表情になっている。
「あの日記が回収できたら歴史的資料になったと思うのですが、なくなったみたいですねぇ。ビブリオが持っていったのでしょうか?」
職員さんの言葉で俺も大事なことを思いだした。
「あーーーーっ!! そう! そうだ! 俺もすごいこと聞いたんだった! 歴史的大発見!!」
そうだ、ラグナロック! ズィムリア魔法国の王!!
「グラン、うるさい。ここはグランが爆睡しても大丈夫なくらい魔物の気配はしないけど、万が一大きな声を出して魔物が来たらどうするの?」
思わず図書館で叫んでしまい、アベルに眉をひそめられた。そしてダンジョンで爆睡事件はしばらく弄られそうな予感。
魔物はいなさそうだけれど、騒ぐとメイドちゃんやビブリオに怒られるかもしれない。
「すまん、つい。そうそう、アベル達を待っている間にガーゴイルのメイドちゃんとお茶してたんだけど」
「ガーゴイル、メイド、お茶……またそういう……」
アベルは呆れた顔をしているがいろいろと重要な情報を教えてもらえたのだ。
魔物だからといって、なんでもかんでも無下にするものではない。
「皇帝竜ラグナロックがズィムリア魔法国の王様で、っていうかズィムリア魔法国が古代竜の統治する国だった? それでこの城はラグナロックの一つ前の王の城らしい。ああああああああ!! そう!! それで多分城のボスはその王だから古代竜っぽい。黒いけど火竜で、あ、でもなんか城の地下で眠っているから会うことはないだろうって? あっても古代竜だから手加減してくれるとか? でも絶対やべーやつだから城の地下を見つけたら立ち入り禁止にしたほうが――」
「ちょっとちょっとちょっと!? 待って待って待って待って下さい! ストップ! ステイ! グランさんその話、ちゃんと整理してゆっくりお願いします!」
寝起きで思考能力が落ちている頭で、思いだしたことをつらつらと並べていたら職員さんからストップがかかった。
「えぇと、皇帝竜ラグナロックっているじゃん? あれがズィムリア魔法国のー」
「いえ、そこじゃなくてこの城の、この階層のボスのところです」
あ、そっち。そうだ、確かに歴史上の発見よりこれからのことのほうが大事だな。
「えっと、城のボスが古代竜の模擬体の可能性があって、黒いけど火竜で、でも今は地下で眠ってて……」
「グラン、その話は戻ってから手伝ってやるから、落ち着いて報告書に纏めよう」
いろいろありすぎて何からどう説明していいか纏まらず適当に話していたら、見かねたのかドリーが報告書に纏めることを提案した。
うん、俺も紙に書きながらのほうが纏めやすいかも。ありがとう、ドリー。
「そうですね、報告書に纏めていただいたほうがわかりやすいですね。ではドリーさんグランさんお願いします。」
しまった、帰ってからの宿題ができてしまった。
「ねぇ、グラン? ラグナロックがどうのって言ってたけど、それって何か証明できる当時の文書とかも一緒にある?」
「え? 文書? 当時のガーゴイルのメイドちゃんが、お茶しながら話してくれた」
「…………」
「…………あ」
しまった。アベルに言われて気づいた。
「ははは、そのうっかりがグランだなー」
カリュオンの脳天気な声でうっかりを再認識した。
「いいのよグラン、面白そうだから形として残ってなくてもあたしはその話が聞きたいわ」
シルエットが優しい。いや、これはラグナロックの話を聞きたいだけだ。
「物的な資料だったら恐ろしい価値になって、グランが大金持ちになれたかもしれないのに残念だったわねぇ」
お母さんごめん、俺うっかりしていたよ。いつか俺が大金持ちになったら、各地の名物食い倒れツアーに招待するね。
そう、メイドちゃんにいろいろと話を聞いたが、その話を裏付けるものは何一つないのだ。
つまりメイドちゃんの話をもとにした、俺の証言を証明できるものがないのだ。
これでは歴史の資料にはならない。うわああああああああああっ!!!
引っ張り出してきた本の中にそれっぽいのはないかな……あとでアベルに鑑定してもらお。
「それでさ、グラン。この空の弁当箱は? 空いた皿は」
あ、しまった。弁当や茶菓子を食べてそのまま居眠りをしてしまった。
アベル達が本の中でお腹を空かせていたと思われる頃、メイドちゃんと楽しくランチタイムだったからな。
「カ~……」
カメ君のため息が聞こえた?
「えっと、弁当食べる?」
そうとしか言いようがなかった。
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