第453話◆それでも続いていくもの
「ここは坊ちゃんと主様が壮大な親子げんかをされた時に、ほとんど壊れてしまいましたね。その結果坊ちゃんが勝ちまして、ズィムリアは新しい歴史を刻み始めたのです。あの時はそりゃあもう大変でしたよ。お友達の人間? 勇者? そうそう、お客様のように真っ赤な髪の方でしたね。しばらく家出をされた後、一緒に戻って来たかと思うと、お友達とご一緒に城の中を制圧されて、その勢いで城を吹き飛ばしての大親子げんか。あ、これは誰も手出しのなしのガチタイマンでしたね。海は荒れるわ火山は噴火するわでほんと大変でした。勇者様のご協力で城の者も町の住人も無事避難しましたが、あまりのひどさに南にお住まいのシュペルノーヴァ様が怒鳴り込んで来られました。近くにお住まいでしたテムペスト様も後でやってこられて、森に被害があったとかなんだとか、そりゃあもうネチネチと大変でした」
いやいや、さらっと親子げんかにしているけれど、これ歴史的に非常に重要な話だよな!?
っていうか古代竜の親子げんかやばっ!! そこにさらに別の古代竜が怒鳴り込んでくるのもやばっ!! 古代王国時代スケールでかすぎてやばっ!
話を聞く限りだとズィムリア魔法国って古代竜に縁のある国というか、古代竜が支配していた国だったのか。
古代竜を信仰していて、種族による階級社会の頂点は竜だったというのは何となく知っていたが、信仰対象ではなく古代竜が支配者の国かよ!!
そりゃ、わけのわからないすごい魔道具やら、高位過ぎて使いこなせる者がほとんどいない魔法が記された魔導書がでてくるわけだよ!!
やべぇ、お茶飲みながらものすごくすごい話を聞いているよな!?
「ここは、その坊ちゃんがちょっとグレて家出中の時期の城ですね。この後戻って来て壮大な親子げんかの末、この城は崩壊します」
いや、少し先の記憶まで持っているからって、そんな物語のネタバレみたいにさらっと城が崩壊すると言わないで欲しい。
それと、そんな親子げんか親子げんか連呼されて坊ちゃん坊ちゃんって言われると、伝説の古代竜のイメージがぶち壊れる。
あ、そっかー、古代竜もグレるのかー。
皇帝竜ラグナロック――その強さは古代竜の中でもトップクラスと言われ、その気になればこの世界を一日とかけず蹂躙してしまう程だという。
それが坊ちゃん、親子げんかで城崩壊。
なんだろう、このすごく俗っぽい感じ。イメージ壊れるうううう。
いやいやいやいや、親子げんかでこの巨大な城崩壊って絶対やばいやつ。やっぱ古代竜はスケールが違うな。
つい先日、クーランマランかその模擬体らしきものの圧倒的強さを目の当たりにした。
俺達が巻き込まれないように加減してくれているように見えたアレでも、人間がどうこうできるレベルの強さではなかった。
アレより強いのかな? クーランマランとラグナロック、どちらが強いんだろう? やっぱ伝説の皇帝竜ラグナロックかな?
つべたっ! カメ君なんで今俺に水鉄砲を撃ったの!? やっぱクーランマランの関係者だから?
そうだね! クーランマランサマサイキョー! ひやっ! なんで水鉄砲を撃つの!?
「ところで坊ちゃんは家出中って言ってたよな? ということはこの城の主は坊ちゃんのお父さん? 主様って人?」
お茶を飲みながら古代の大国の話を聞いていたが、その話を聞くにつれものすごく嫌な予感がし始めた。
「はい。この城は坊ちゃんのお父様が治められていた時期のものでございます。坊ちゃんと世代交代をする前、内乱と権力争いが激しかった時期ですね」
うわぁ……、嫌な予感が的中しそう。
「もしかしなくても、その主様って古代竜ですよねー?」
「はい!」
やっぱりいいいいいいい!!
俺の予感ではこのフロアのボスはこの城の主!! 坊ちゃんのお父様!! こっこっこっっこっ古代竜ううううううううう!!!
やべー、これは職員さんが戻ってきたら絶対報告しねーと、つついたパーティーだけではなくて下手したらこのエリア全体が吹き飛ぶかもしれない。
もし海に帰って行った鮫顔君と怪獣大戦争になんなった日には、冗談抜きで十五階層は消し飛んでしまいそう。
いや、鮫顔君がラグナロックのパパンという可能性は?
「ところで坊ちゃんのお父様って鮫の顔で体が亀だったりする? ひやっ!!」
「カーーーーッ!!」
カメ君からまた水鉄砲が飛んできた。しかも先ほどより高威力。
「鮫顔の亀といいますとクーランマラン様ですね。違いますよー。主様は真っ黒い純血系の古代竜でございます」
「ケッ!」
うげえええええええええ!! 黒ってブラックドラゴンか!? 酸か!! いやいやいやいや、これ絶対無理だろ?
あ、クーランマラン様、勝手に勘違いしてすみませんでした。
もしかして未婚? 彼女すらいなかったりする? 俺と同じ? なんかすごく親近感が湧いてきたぞ!!
え? 何? ふおっ!? カメ君、なんで跳び蹴りなんかするの!? 何が気にいらなかったの!? ぐえ! 殴らないで!?
「主様には会わないようにしないとやばそうだ」
絶対に会ってはいけない。
「うーん、主様はいらっしゃいますが城の地下で深い眠りについておられ、その入り口は固く閉ざされておりますので、城に来られた方が主様と会われるようなことはないと思います。もしかすると主様もまた、坊ちゃんをお待ちになっているのかもしれません。主様もまたもうこの世にはおられない方なので、ダンジョンが作り出した存在ですから。万が一、目覚められても全盛期ほどではないと思われますのでご安心ください」
いやいやいやいや、それ基準は何? 古代竜基準だよね!?
うむ、触らぬ神に祟りなしだ。
「そうですね、せっかくなので万が一の場合の助言を致しますと、主様は黒竜の姿をされておりますが、実は火竜です。そして、主様は古代竜。古代竜たる者、自分より格下の者に本気を出した時点で負けだとよくおっしゃられてました。もし出会うことがあってもおそらく手加減をしてくださるはずです」
いやいやいやいや、そのアドバイスは嬉しいけれど、役に立つ日がこないといいなぁ!?
え? 手加減してくれるの? やったーー! 勝てるかな!? いやいや、無理だろ!? 会わないようにしとこ。
城の地下ね。絶対行かないし、冒険者ギルドにも行かないように伝えておくよ!!
「坊ちゃんは古代竜で私達よりずっと長い時間を生きる方ですからね。しかしいくら長い時間を持っているとはいえ、変わることのない強者が頂点に立ち続けるのは良くないとおっしゃってました。水の流れない場所は淀み濁っていくように、いつまでも治め続けるわけにはいかないと。いつかこの国は自分の手を離れ、そこに暮らす者達の手で新たな歴史を紡いでいく。たとえ国が滅びてもそこに生きている者があればその営みは続いていく――あらあら、お疲れになられてたのですね」
弁当を食べてのんびりおやつを摘まみつつ温かいお茶を飲んでいたら少し眠くなってきた。
確かに亀島から戻って来た時が徹夜だったせいで体内時計が少しおかしくなっている。そして歴史の話とか興味はあるのだが、やはり座って聞いていると眠くなってしまう。
やばい、こんなとこで寝るのはまずい。ちょっと!? 睡魔君!? やめて! そんな全力で攻撃しないで!!
もちろん睡眠系のデバフ対策はしているので、これは外部的な作用ではなく本当に俺が眠いだけだ。
「カー……」
カメ君の呆れたため息まで聞こえてきた。
「うふふ、大丈夫ですよ。坊ちゃんは争い事は嫌いな平和主義ですから、ここは本当に安全ですのでご安心ください」
「ケッ」
「あらあら、クーランマラン様がむかし坊ちゃんに蹴飛ばされたというのは、おイタをしたからでは?」
「カーーーーーッ!!」
「ええ、坊ちゃんは本当は誰とも争いたくなかったんですよ、主様とも――人間とも――」
「フンッ」
「うふふ、もし坊ちゃんとお会いされることがございましたら、仲良くして差し上げてください。生まれのせいで少々愛想は悪くて、自分からお友達を作るのは苦手な方ですが、ただの"ツンデレ"という性格なだけですから」
「ケーーッ!」
「そうですね、私の機能が終わった後のことはわかりませんが、坊ちゃんは役目が終わったらただの人として暮らしてみたいとおっしゃってましたからね。今でもどこかで人間の中で暮らしてらっしゃるかもしれませんね――」
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