第455話◆歴史を垣間見る

「グランの話と合わせると、あの日記の持ち主のガーランドが皇帝竜ラグナロックでズィムリア魔法国の国王。いや皇帝竜というくらいだから王というか皇帝かな?」


「そうね。確かにズィムリア魔法国は多種族国家だったいう記録もあるし、種族毎に小さな国のような体制になっていて、それを纏め上げていたのがズィムリア魔法国の王と考えるのが自然かしら」


「グランさんの話だと、ズィムリア魔法国の王は古代竜ということでしたよね。ということは、魔法国中期のものであると思われる日記の持ち主のガーランドが、最後の王ガーランドであってもおかしくないですね。これは歴史的大発見ですねぇ。大発見ですが……」


「日記もないしぃ? グランの話を裏付ける物的資料もないしぃ? って、君なんで今日も普通にうちで夕飯を食べてるの?」


「グランが持って帰って来た本は料理の本と調理器具の本と調合と薬草関係の本ばっかりだったわね。さすが食材ダンジョンだわ」


「僕達がビブリオに連れて行かれて見たものも証拠が残ってないですからねぇ。とても惜しいですね。あ、毎度お世話になります、ご飯美味しいです」


「何かちょっとでも物的証拠があれば、歴史的大発見として発表できることだったのになぁ。まったく、職員のくせに賄賂もらいすぎでしょ?」


「でも、ほぼ確定な仮説が立つことになるから新しい歴史書を書けるわね。それに記録がほとんど残ってない古代竜ラグナロックの新しい発見よ、これは本にすれば売れそうよね」


「シルエットさんって執筆活動もされてたんでしたっけ? これはご飯であって賄賂ではありません」


「ええ、冒険者の活動の隙間にちょっとだけね。普段は薬草や調合関連ばかりで、歴史は趣味で資料を集めてるだけだけど、こんな面白そうな話なら本に纏めてみたいわね。知り合いの作家にネタ提供したら、いい感じに小説にしてくれそうねぇ。後でグランからたくさん話を聞かないと」


「えー、夕食の後は俺がグランから話を聞くつもりだからシルエット遠慮してよ。魔法国時代の高性能ガーゴイルの話をもっと聞きたいし? あっ! それ俺が狙ってたクラーケンリング!! 賄賂を食べるなら明日からの調査、美味しいところを回れるように配慮してよね。明日から調査隊が合流するんでしょ?」


「アベルはグランと一緒に住んでるから帰ってからでもいいでしょ? 今日くらいアタシに譲りなさい」


「高性能ガーゴイルですかぁ。僕らが行った時はグランさんとカメ君しかいませんでしたからねぇ。見れなくて残念ですね。ええ、調査隊は先ほど到着しましたね。まぁドリーさんとこは下見で一度入ってるので、入り組んでる倉庫回りに行ってもらいますかねぇ。あ、贔屓をするのはまずいのであくまで役割分担ですから。グランさん的には食材がありそうな場所のほうがいいんですかね?」


「んあ? 俺? そうだなぁ、一日くらいのんびり釣りがしたいなぁ?」


「違う、そうじゃない! あの城と城下町の調査の話だよ! ってグラン、まだ魚を集める気!?」




 アベルとシルエットと職員さんが、今日の大発見であるズィムリア魔法国の歴史の話で大盛り上がりをしているのを、晩飯を食いながらボーッと聞いていたので、自分に話を振られてつい欲望がポロッと口から出てきてしまった。

 え? 食材の話じゃなかったの!?


 海底城の図書室で無事パーティーメンバーと合流した後、そこで今日の探索は切り上げて帰還。

 帰る前に本の中に行っていた組が昼飯を食っていないというので、図書室のソファーでお弁当タイムになったけど。

 で、お弁当タイムが終わってセーフティーエリアに戻って来て報告書。

 この間、取り残された俺と日記の中に引き込まれた組で、バラけていた間の出来事の報告とそこで得た情報の交換をした。


 俺がうさ耳メイドちゃんに聞いたのは"坊ちゃん"――日記の持ち主であるガーランドという人物の正体。

 アベル達が引き込まれたのはその"坊ちゃん"の日記。

 彼らが日記の中で見たものは、ガーランドという人物の少年期から青年期の記録。日記に記されていたものだろう。


 ズィムリア魔法国中期――人間の数が増え、力を持つ者も現れ始め、ズィムリア魔法国の身分制度に不満を持った人間達が始めた独立運動が激しさを増した時期。

 激化する独立運動は魔法国各地へ広がり、独立運動から支配者の打倒へ、人間を中心とした支配制度へ、人間以外の種族の排除へとだんだんと独立運動が様変わりし、内戦へと発展していった。

 その激しい時代の変化の中で支配階級側の存在であるガーランドが、自分の立場と人間の友人知人の間で苦悩する様子、自分に敵意を抱く人間達とのやりとり、繰り広げられる支配階級の者達の権力争いに巻き込まれ、そして人間への対処で父王とすれ違い、激しい争いの末敗れ、城から出るまで流れを日記の中で見て来たらしい。

 なるほど、これがメイドちゃんの言っていた坊ちゃんの家出事件。

 いや、グレたとかそんな可愛いものじゃないじゃん。めっちゃ内乱の影響じゃん。重っ!!


 そっか、坊ちゃんは人間側についたのかな? いや、後にズィムリア魔法国の王になったのなら、国と人間の間で立ち回っていたのかもしれないな。

 お互いに削り合い、禍根を残し、どちらも滅ぶ結果にならないために。

 メイドちゃんの話によると最終的に城を吹き飛ばす程の大げんかをパパとして、王になったらしいからな。つまり一度敗れた後、リベンジで勝利したのか。

 その後のズィムリア魔法国は俺も知っている、種族による階級制度を廃止した国家になったのだろう。

 この階級制度を廃止し安定した施政は千年程度続いてという説が有力だ。

 その間ずっとガーランドこと皇帝竜ラグナロックが王だったのだろうか。


 うとうとしながら聞いたうさ耳ちゃんの言葉。

 たとえ国が滅びたとしても、そこに生きている者があればその営みは続いていく――。

 彼は、生き物も物もそして国も、いつしか滅ぶことを知って手放したのだろう。

 形有るものが滅ぶのは正しい姿だと。


 いや、国は滅んだのではなく、ラグナロックの手を離れた後も、形を変え、名前を変え続いている。

 だってズィムリア魔法国があった場所には今、俺達の住むユーラティア王国があるから。


 その国が消えても生きている者がいれば営みは続いていく。

 俺達の生活は遙か昔からずっと繋がっているのだ。


 そしてラグナロックはそれをどこからか見守っているのかもしれない。

 そう思うと、少し俗っぽいイメージになってしまった偉大な皇帝竜"坊ちゃん"は、案外近くにいるような気がしてならなくなった。








 明日からは調査隊も入り本格的に元海底区域の調査が始まるため、俺達もしばらくそれに付き合うことになった。

 どさくさに紛れてお宝ザックザクとかならないかな!?

 未踏の地は怖さもあるが、同時に楽しみもある。


 しかし調査に参加することになると、もうしばらく家に戻れない。

 パッセロ商店には多めにポーションを渡しているし、ラトや三姉妹が飢えないように料理の作り置きもたくさん置いてきたので、その辺の心配はない。


 しかし帰るのが遅いと心配するよなぁ?

 装備に覗き見機能が付いているからそれを利用すれば、ラト達に戻るまでもうしばらくかかることを伝えられるかな?

 作業をする時に伝言を書いた紙を肩から見える場所に置いておくか。

 そうだ、そうしよう。

 そしてお土産に魚をたくさん持って帰ろう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る