第450話◆こだわりの性能

「図書室での飲食は禁止となっておりますが、こちらの休憩スペースはその限りではございませんので、ご飲食はこちらでお願いいたします。また持ち出し可能な本はご自由に持ち出していただいて結構です。しかし図書室内にはビブリオが多数おりますので、読書や本の持ち出しは自己責任でお願いいたします。万が一ビブリオのお気に入りの本を取ってしまった場合はもしかするとご招待されるかもしれませんねぇ……」

 読書は自己責任。

 持ち出しは許してくれるのかー、って、おい? 意味ありげに微笑むのはやめてくれ! ビブリオは基本無害だよな!? 基本!!

 アベルが手に取った日記帳はビブリオのお気に入りだったのかな?


「おう、わかった。説明感謝する。ところで君、ズィムリア魔法国のガーゴイルだよね? 俺達の時代の言葉も話せるんだ」

 ダンジョンの作り出したものなので、ちぐはぐな部分があってもおかしくないのだが少し気になった。

「はい。人間の言葉も学習済みでございます。お客様のご使用の言葉は、ズィムリアでは人間の平民の間で使われている言語ですね。よって問題ございません」

 ガーゴイル賢いな。

「なるほど。友人達がビブリオに連れて行かれたから戻ってくるまでゆっくりさせてもらうよ」

「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」



 とりあえず腹が減ったので弁当だ弁当。

 収納の中から弁当箱を取り出しパカッと開ける。作って粗熱を取った後に収納に入れたのでほんのりと暖かい。

 他のメンバーの弁当も入っているのだがビブリオに拉致されてしまったのだから仕方ない。

 今日の弁当は全員分俺が持っているが、緊急用の食料が各自持ち歩いているはずなので、ビブリオ組は各自で食ってくれ。

「カッカッ」

 カメ君も背負っていたリュックを下ろしてその中から小さい弁当箱を取り出した。

 小さいといっても俺の弁当箱より小さいだけで、手のひらサイズのカメ君より弁当箱の方が大きい。

 でもカメ君、自分の体より大きい料理もペロッといっちゃうんだよな。どういう仕組みになってんだ?


 俺は箸、カメ君はデザート用の小さなスプーンとフォークを使って弁当を食べる。

 弁当のメインはタルタルソースの載ったシーサーペントのフライ。飾りのようにレタスを敷いて、ミニトマトも添えてある。

 そして卵焼きに、タコさん……いや、セファラポッドさんウインナー。セファさんウインナーはソーセージにただ切り込みを入れただけなので、赤くないのが少し残念だ。

 サラマンダーの挽き肉を一口サイズに丸めた肉だんごに、トマトソースベースのソースをかけたものは俺の自信の品だ。

 それから米を卵形に握り、前世にいたパンダという生き物に似せて海苔を貼り付けたおにぎり。

 我ながら彩りも良く見た目も楽しくなるカラフル弁当である。

 ジュストがうちにいた頃、冒険者ギルドの仕事にいくジュストによく弁当を作っていたので、すっかり弁当作成の腕が上がったのだ。


 まだほんのり暖かいシーサーペントのフライ。収納スキルのおかげで時間が経っても、弁当箱に詰めた時のままでサックサクである。

 レタスも他のおかずの熱で少し温かくなっているが、まだしなしなになっていなくてシャキシャキいける。

 ふかふかで座り心地のいいソファーに、品の良いテーブル。弁当を食べるような場所ではない気もするのだが、ここ以外付近に食事ができそうな場所がない。

 ダンジョンの中なので気にすることではないのだが、ソファーやテーブルの上にフライの衣をボロボロと落としそうでこわい。

 と、思ったら高そうなテーブルの上で弁当箱を広げて、その横に座り込んでカメ君がフライの衣をボロボロと散らかしながら食べている。

 カメ君より弁当箱の方が大きいからそうなるよな。後で綺麗に拭いておこう。





「お食事中失礼いたします。お茶をお持ちいたしましたので、よろしければお召し上がりください」

 弁当を食べていると、先ほどのうさ耳メイドのガーゴイルちゃんがお盆に上品な柄のティーセットを載せてやってきた。

「ありがとう、せっかくだからいただくよ」

「カァ?」

 毒が入っていないとは言えないが、飲む時にカップに触れるので鑑定はできる。

 鑑定が弾かれてもアベルより優秀な鑑定持ちのカメ君がいるので、何かやばいものなら教えてくれると信じている。


「よかったら君も一緒にどうだい? 仲間がビブリオに連れて行かれて弁当が余ってるんだ。なんならお茶菓子もあるぞ?」

 メイドが出してくれたお茶なので気を遣うことでもないのだが、せっかくなので誰もいない図書館にポツンといたこのガーゴイルの少女を誘ってみた。

「お言葉はありがたいのですが、職務中ですので」

「職務中ってことは君の雇い主がいるってことかい?」

 上司にやべー魔物がいるとかだったら、のんびりお茶をしている場合ではない。


「えっと……えっと、主はいますけどいません。主はここには来ません。坊ちゃんもここにはきっと来ません。ここはダンジョンの中ですから」

 ガーゴイルの少女の言っていることはわかりそうでわからないが、主はここには来ないと聞いてそこは安心。

 主とはこの城の主のことだろうか? この城で働いているメイドなら、彼女の主がこの城の主ということで間違っていないだろう。

 そして先ほども出てきた"坊ちゃん"という存在は主とは別の存在なのだろうか?

 少し寂しそうに俯くガーゴイルの少女を、この生き物気配のない図書室の中に一人で帰らせるのは少し気が引けた。


「じゃあ、ちょっとくらいサボってお茶をしても怒られないな? 怒られそうになったら客に誘われたと言えばいい」

 客の話し相手になるものおもてなしの一環、立派な職務の一つである。

「そういうことでしたらお言葉に甘えて」

「おう、じゃあお茶のお礼に弁当な。クッキーもあるぞ?」

 どうせカリュオン用に予備の弁当があるので一つくらい、うさ耳ちゃんに分けても問題ない。

 ってガーゴイルって食べ物を食べられるかな?


 弁当箱とクッキーを盛ったまま収納に入れていた皿を出したところで手が止まった。

「ありがとうございます。大丈夫です、人間の食事を魔力に変換して摂取できる機能がついております」

 うお? 心を読まれた? ってガーゴイルってそんな機能もあるのか。

「心を読んだわけではありませんよ。お客様の表情や行動が私が学習した知識から予測できたのです」

 更に思っていたことを先読みされてしまった。

「へ、へぇ~。ガーゴイルって随分高性能なんだなぁ」

「ええ、私を制作したゴーレム技師は、非常にこだわりを持ってゴーレムを作る技師だったので」

 あ、それなんかわかるわ。見た目からしてすごくこだわりあるのがわかるわ。

 どこの世界にでもいるんだなぁ。うさ耳とか天使の羽とかメイド服とか絶対領域にこだわりがある奴。



「せっかく図書室に来たけど、残念なことに俺はズィムリア魔法国の文字が読めないんだ。だから代わりにお茶をしながら君の話を聞かせてくれないかい?」

 ダンジョンの作り出した存在ならその記憶や知識も仮初めのものだろうが、会話ができる能力があるのなら他愛のない話をすることはできる。

 何かを求めているわけではない、ただの時間つぶし。

 アベル達が帰って来るまでの退屈しのぎに、寂しそうな表情の図書館の番人とティータイムをしてみようと思った。



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