第446話◆古代の城
城門を抜けると正面には段差のように石壁があり、整えられた道がそれを迂回するように左右に分かれている。
向かって左の道に進むとすぐに石壁の上へ向かう階段があり、右へ向かうと塔のような建物がある。
こちらは右へ向かう道より周囲が整えられており、元は植え込みだったような痕跡がありそこには人やドラゴンの彫像が飾られている。近付くと動き出しそうな予感しかしない。
この豪華な感じからして城の中心部に行くには左へ進むのが正解だと思われる。
一方右の道はやや質素で段差の外側を右側に回り込むように道が延びており、その先の塔のような建物は兵舎か役所的なものに見える
どうやら城門の内部は段差によって区画分けをされているようで、城の中心部はこの段差を超えた先のようだ。
区画ごとにごちゃごちゃと建物があり、連絡路でつながっているように見える。防衛を兼ねた構造におそらく増築と改築を重ねた結果だろう。
建物の中はもとより、外も油断すると迷ってしまいそうだ。
そりゃ防衛上、城の入り口が城門を入ってほいほいとまっすぐ到着できる場所のわけないよな。
「左から城の中心部の方へ行く感じかな? 上の区画は庭園っぽい造りになっているね。右は感じからして兵の待機場所でその奥に行くと、城に常駐してる者の居住区みたいなってそう。構造的にはわりとありがちな構造かな? ただこの増築と改築の多そうな城の造りと、やたら迂回路が多くてそこにゴーレムやガーゴイルが設置されまくってるのは魔法国中期の特徴かな。後期はもうちょっとシンプルでゴーレム系より小型の魔道具を使った防衛が多いんだよね。中期まではわりと力押しな感じで、後期はなんというか機能的だけどちょっとこう陰湿な感じ?」
「そうそう、後期の城に仕掛けられているトラップは人の心理を逆手にとったような、初見殺しの罠が多いのよね。致命傷より戦闘能力を無効化するような罠が多くて設計者の性格を垣間見られる気がするわ。トラップとして優秀だけど考えた人は性格が悪そうな罠ばっかりだわ」
「カッカッカッ」
カメ君がアベルとシルエットの話を頷きながら楽しそうに聞いている。
たしかにズィムリア魔法国系の階層はやたらゴーレムやガーゴイルが多く殺意の高い階層と、くっそ面倒くさい罠が連続で仕掛けられているが殺しに来ているというより、行動不能をねらった麻痺や足止め系が多い階層とわりとはっきり分かれているイメージだ。
ボスも前者のほうは常時高火力タイプの力押し系が多いのに対し、後者はネチネチと嫌らしい攻撃で追い込んだ後に高火力攻撃が来ることが多い。
相手をするには後者のほうが俺的には面倒くさいと思ってしまう。
今回は中期の城みたいだから前者――力押しタイプかなぁ?
力押しタイプのほうがやりやすいといってもその火力次第ではある。たまにアホみたいな高火力ボスがいるから、ここはそうではないと思いたい。
「左に進むと城の中心部っぽいですね。途中に庭園っぽいものが見えますから、そこまで進んでみましょうか」
お、少し進むのか?
「了解した。しかし、左側はゴーレムらしき彫像が並んでいるな。アベル、あれらは鑑定できるか?」
「うん、目視範囲の生き物系の彫像は全部ゴーレムとガーゴイルだね」
ガーゴイルもゴーレムの一種だが、ガーゴイルのほうがゴーレムより生き物感がある。
ゴーレムは動く彫像感が強いが、ガーゴイルは動き出すと生き物っぽくなるものも多く、複雑な命令を可能にするため、自分で学び考える能力まで備えている個体もおり動く彫像というか疑似生命体に近い。
先ほどの門番ドラゴンもガーゴイルだった可能性はあるが、アベルの究理眼を弾けるとはランクの高いガーゴイルだったのかもしれない。
カメ君に蹴り一発で粉砕されたけど。
ゴーレムにしろガーゴイルにしろ制作者のセンスや好みが垣間見える。ここにいる、ゴーレムやガーゴイルはあまり癖のない生き物系ばかりだ。
時々いるんだよね制作者の性癖丸出しのガーゴイル。
人間っぽいガーゴイル――綺麗なお姉さんとか可愛い女の子とか幼女だと非常にやりにくくて困る。というかそんなガーゴイル作んな、変態。
イケメンガーゴイル? なんだかぶん殴りたくなってきたなあ!?
あ、あそこにナイスバデーで、コウモリの翼と先が銛のようになった尻尾が生えている女騎士の彫像が!
ガーゴイルっぽいけれど、なかなか美人でおっぱいがでっかいのでやりにくいぞお!? いや、もしかすると話せばわかり合えるガーゴイルかも……。
カーンッ!
アッ! アベルとシルエットが遠くから魔法で彫像を片っ端から破壊し始めた!!
ですよねー、それが安全ですよねー! グッバイ! ナイスバデーなガーゴイルちゃん!!
ところでそこのイケメンガーゴイルぶん殴って来ていいかな? と思ったらすでに壊されていた。相変わらず遠距離攻撃勢の仕事が早すぎる。
お、ドラゴンの彫像が攻撃される前に動き出したぞ。そしてやはり黒い。ブラックドラゴンのガーゴイルかなぁ?
ガーゴイルなら酸はこないかな? いや、用心に越したことはないな。弓で撃ち落としてしまおう。
「カーーーッ!!」
ズラトルクの弓と矢を収納から取り出したところで、カメ君が俺の肩から強烈な水鉄砲を発射して、ブラックドラゴン君を粉砕してしまった。
あ、リヴィダスに強化をもらったし水鉄砲めっちゃ強くなってるのね? え? 少し本気を出しただけ? そっかー、カメ君強いね。
結局ここでも俺はやることがなかったな。
うん、魔石は回収しておくよ。津波すてて余裕あるしガーゴイルとゴーレムの瓦礫も拾って帰ろうかな。ほら、瓦礫は投擲武器になるし?
彫像系以外にも普通に魔物はいるな。出てきたはしからドリーとカリュオンと職員さんが倒してるけど。
カメ君すら戦っているのに俺のやることねーわ……、素材回収しとこ。
「えー、まさかこんなとこに次の階層への入り口ですか……これはちょっと予想外ですねぇ」
「スケルトンが別の空間に突っ込んで行ったから、おそらく次の空間ね」
門から左側へ進み、上の区画へ。
そこは青や紫系の花を中心に植えられた庭園。その真ん中には大きな噴水。噴水の向こうには大きな城の入り口が見えている。
そして噴水の中心部には水のない場所があり、そこに下り階段があった。
あからさまに怪しい階段があるのでシルエットの骨先生を突っ込ませたら、倒されたわけではないのにその先で反応が途切れた。
骨先生はシルエットの魔力の届かない場所、つまりどこか別の空間に行ってしまったようだ。
おそらくは次の階層。俺とカリュオンみたいに変な場所にご招待されたわけではないと思いたい。
噴水の中に入り、飛び散る水しぶきを浴びながらその階段を囲むように覗き込んでいる。
ぶっちゃけ冷たい。ご機嫌なのはカメ君くらいだ。水の苦手なリヴィダスなんか傘を差している。
「ふむ、城は攻略しなくても次の階層へ行けるということか」
「このダンジョンはここまでフロアボスは無理に触らなくてもいい階層ばっかりだから、もしかしたら全部の階層がそうなってるのかもしれないね」
ドリーとアベルが話しているのを聞いて今までの階層のボスを思い出す。そういえばここまでの階層、ボス不在もしくはこちらから触りに行かなければ戦わなくていいやつばかりだったな。
わざわざ会いに行かないと遭遇しない系のボスって、だいたい妙に強かったり変なギミックがあったりで厄介なやつが多いんだよな。
火山階層では本来遭遇しないはずのボスに会って酷い目にあったしな。まぁあれを倒してあれの巣を漁ったからカメ君に出会えたんだけど。
ここの階層も、あの立派な城にふさわしい強力なボスがいるのだろうか?
噴水の向こうに見える青く光る城はただ美しいだけではなく、俺の目にはどこか不気味さと不安を感じるものに見えた。
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