第441話◆閑話:さよならのその後で

 あの時あのまま別れて、もう会わないつもりだった。

 古代竜の俺と人間の時は違う。人間より長生きのエルフも、俺よりもずっと短い時しか生きられない。

 すぐに消えてしまう者達と仲良くする必要などない。


 奴らを助けたのはあそこを出るため。その時にできた借りを返しただけ。

 偉大なる俺様が小さき者に借りを作ったままだなど、俺の矜持が許さない。

 借りは返した、もう会う必要はない。


 おっと、あの箱庭での飯の礼がまだだったな。

 最後に赤毛が欲しがっていたバハムートを近くまで追い立てておこう。

 小さきやつらに合わせて、小さめのやつにしておいたぞ。感謝するがよい。


 礼も済んだ、自由にもなった。

 とりあえず火竜のおっさんにでも会いに行くか。

 喧嘩は売らない。ちょっと苦情を言いに行くだけだ。

 おっさんの縄張りに海水をぶつけただけで何万年も閉じ込めるとはひどい仕打ちだ。

 時間魔法がかかっていたようなので、箱庭の外は数百年しか過ぎていないようだが、とりあえず文句の一つくらいは言ってやる。

 喧嘩はしない。また閉じ込められるのは御免だ。


 ついでにおっさんの劣化版みたいな火竜にケツを燃やされた文句も言いたい。俺様のおしゃれな尾鰭が焦げてしまったではないか。

 あ、そうそう、ついでのついででむかーしむかーし、おっさんの縄張りに海水をかけた時、小さき者の住み処を巻き込んだことは謝っておこう。

 すぐにいなくなる小さき者とはいえ、自分の庇護する者が理不尽な事情で突然消えるのは気分のいいものではないからな。


 ……別に箱庭に来た二人が突然消えてもなんともないが。

 くだらない理由で危害を加える者がいたら、相応の仕返しくらいはしたくなるな。

 うむ、大切なものを傷つけようとする奴は許せないな。


 ああ、いや、別に奴らが大切というわけではない。

 ほんの一瞬、共に過ごして、飯を分けてもらい、時々共同作業をしただけだ。

 長い時の中、暇を持て余していたから、少し楽しかったがな。

 特におっさんの劣化版を共にボコッたのは楽しかったな。

 赤い奴に目印を渡しておいたから、奴らが消える前に一度くらいは会いに行ってやってもいいな。

 行くとは言ってないが、行ってやってもいい。


 おっと、奴らのことは置いておいて、火竜のおっさんだ。自由になったのだからおっさんに文句を言いに行くのだった。

 たしかおっさんは小さな島でリザードマンに混ざって暮らしていたな。

 昔はそんなのの何が楽しいのかと思っていたが、今思うと暇つぶしとしては悪くはなさそうだな。


 って、ここどこだ?


 海に出たと思ったら、どうも海の一部はあの箱庭から漏れた俺の魔力でできたものだったようだし、そもそも俺が封じられたのは海から遠く離れた山の中だったはずだ。

 ああ、たしか元々でかい木があった場所だったな。

 なのに何故ここに海が? なんだか見覚えのある城もあるし?

 はて? どこで見たのだったかな?

 って、ダンジョンの中かよ!!

 あのおっさんが適当な場所に俺を埋めたから、箱庭が近くにできたダンジョンの中に取り込まれたのか!?

 チクショウめぇ!


 ただのダンジョンなら破壊して……まだあの変な二人組が近くにいるな。ダンジョンを破壊すると巻き込みそうだな。

 まぁ、久しぶりの自由だのんびり歩いて外に出るか。

 む? 体がでかすぎてこのまま海から出ると動きにくいな。しかし人間に化けると他の人間に絡まれそうで面倒くさい。人間社会はしがらみが多く面倒くさいことは俺でも知っている。

 とりあえずすっかり慣れ親しんだ子亀でいいかな。

 む、やはり小さすぎると力が制限されるが、困った時は元に戻ればいいだろう。


 って、げええええええ!! 一つ上の階層は狭い洞窟じゃねーか!!

 狭いからでかくなれないし、水もないし……うげ、なんだあのキモいの。ねーわ、生き物としてねーわ。俺の美しさを見習え。

 は? キモいくせに俺に喧嘩を売ろうってのか?

 いいだろう、買ってやろう。

 む? キモいくせになかなかやるな。小亀の姿ではキツいな。


 ふはははははは、俺が本気を出せばお前らなどプチッと踏み潰して……やべ、狭い洞窟ででかくなろうとしたら詰まったわ……身動きが取れなくなったわ……。とりあえずキモいのは水をかけて流しとこ、じゃあの。


 はー、これだから狭い洞窟は……。小さくなって海の階層に戻るか。

 命拾いしたな、気持ち悪き者どもよ。今日はこのくらいにしておいてやる。

 あ? なんだそこのちっこい毛むくじゃら。可愛いアピールか? 

 いや、普通にキモいだろ? こんなのに魅了されるやつがいるのか? いないだろ? いたら間違いなく変人だな。


 それにしても困ったな。

 ここはダンジョンの奥深くのようだし、あの狭い場所を通って脱出するのは、変な生き物がいて面倒くさそうだ。

 小さい体だと力が発揮できず、大きくなれば身動きが取れなくなる。

 そもそも水のない場所では俺も動きは非常に遅く力も制限される。

 困ったな……。


 ……。


 …………。


 ………………。


 いいことを思いついた。

 あの変人二人にダンジョンの外に連れ出してもらおう。

 うむ、いつでも様子を見に行けるように目印を渡しておいてよかった。

 ははは、偉大な俺は目印さえあれば転移くらいできるからな。

 もうしばらくあいつらの世話になってやるか。

 

 おい、俺様が会いに来たぞ!

 ダンジョンの外に行くぞ!

 おい! 掴むな! 寝るな! 何か食い物も欲しい!

 くそ! 小亀の姿ではヒトの言葉が発音しにくいぞ!

 本来の姿も言葉を話すのには向いていないが。まぁ言葉などなくてもなんとでもなる。

 カーーーーーーーーーーッ!


 というわけで、もうしばらく世話になるぞ。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る