第439話◆ご心配をおかけ致しました!!

「もー、交代の時間になっても戻って来ないと思ったら、マジックバッグの反応は海の沖の方だし、明け方に海上で大規模な魔力のぶつかり合いしてる気配はするし、海水は突然水位が下がり始めるし、変な道はできるしでめちゃくちゃ心配したんだからね!」

 やべー、アベルの怒りゲージが最大値を振り切っている。

 やはりあの怪獣大決戦の気配は陸地までとどいていたか。あの規模なら仕方ないよなぁ。鮫顔君が海水を吸い込んだ影響も陸地まで出ていたようだ。

 しかし言い訳のしようもないし、ダンジョン内で長い期間行方がわからなくなっていたのに、元の階層に戻ってくるなりすぐに駆けつけて来てくれたのは、申し訳ないと思いつつ、ありがたいし嬉しかった。

 すぐに駆けつけて来たのは、ストーカー機能付きマジックバッグのおかげかな!? 珍しくちゃんと役に立ったな!! 付いててよかった迷子探索機能!!

 いや、遭難しただけであって迷子ではないけれど。

 そしてバハムートを倒してくれてありがとう!!


「アベル、グラン達を見つけて先行したのはわかるが、よくわからない場所で先走り過ぎるな。グラン、カリュオン、無事でよかった。とりあえず戻ってこの状況の報告を頼む」

 アベルに遅れてドリーがドスドスと走って来た。

 アベルが一人で先行していたということは、この道ができた後マジックバッグの反応に気付いて、転移魔法のワープを駆使してここまできたのだろう。

 目視できるものをターゲットにしてその場所に移動できるワープ系の空間魔法は、魔力消費は多めだが移動能力に非常に優れており、アベルのような魔力お化けなら連続して使うこともでき、走って移動するよりもずっと速い。

 ただ、先のわからない場所で普段は後衛の魔導士のアベルが一人で先行すると、パーティーリーダーのドリーが心配するのは仕方がない。

 それも俺達が行方不明になったのが原因なのだが。

 ホント、ご心配かけてすみませんでしたああああああ!!


「はー、ホント無事でよかったわ。夜釣りに行って行方不明になったグランのマジックバッグの反応が、海の上って言うからすごく心配したのよ。あら? グランちょっと雰囲気かわった?」

「心配したけど、ただでは帰ってこないのはさすがグランとカリュオンね。先の方に町みたいなのが見えるけど、あそこにいたの? 確かになんか少し行方不明前と雰囲気が違うわね? 本物? ああ前髪が水分でぺったりして長く見えるのね」

 ドリーに少し遅れてリヴィダスとシルエットも追いついて来た。

 雰囲気が違って見えるのは半月間孤島生活をして髪の毛が少し伸びたり、食生活豊かな場所でノンビリしすぎて少し体重が増えていたりするからかもしれない。さすが女性陣はこまかいところに気付くな。バケツはバケツだから気付かれなかったようだ。


 俺達が来た方には遠目に城下町が見える。

 あそこから来たけれどあそこにいたわけじゃないんだよなぁ、どう説明しよう。

 素直にありのまま話すかー。怪獣対戦を信じてもらえるかなぁ?

 いや、海の中にやべー巨大生物がいることが知れると大騒ぎになりそうだな。

 でも鮫顔君はいい奴だから。こちらから手を出さなければ無意味に攻撃はしてこないと思うし、上手く説明できるように頑張ろう。


「ちょっとちょっとちょっとおおおおおお!! ドリーさんアベルさん!! 未調査の場所に猛ダッシュで突っ込むのはやめてくださいよおおおおお!! 突然出現した区画はまず冒険者ギルドの管理下で調査するのが規則でしょおおおおお!!」

 その後ろから冒険者ギルドの職員のパーティーもやって来た。

 あの人達、まだいたのか……。

「パーティーメンバーの救出のためだし? 新区画の出現時は人命優先で現地の判断で動いても問題ないよね? 何か苦情があるなら俺の実家の方に書簡を出しといてー、後で確認して返事でも始末書でも書くからー」

 アベル達は職員さんを振り切って来たのか。ホントお騒がせしました!!

「く……、アベルさん、それはズルくないですか!?」

「ははは、使えるものはなんでも使うのが冒険者だよ」

 アベルの笑顔がドス黒いが、その矛先が俺じゃないからいいや。


「ところで、グランさんとカリュオンさんでしたよね。これはどういう状況でしょう? 昨夜二人で釣りに行ったまま行方不明になったと聞きましたが?」


 まるで海難事故みたいな報告だな? ん? んん?


「見張りの交代時間になってもグランとカリュオンが戻って来ないとアベルが起こしに来て、マジックバッグの反応が海の沖の方にあると大騒ぎになって、夜通し救出方法を考えて冒険者ギルドにも協力を仰ごうと思っていたところに、早朝になって巨大な魔力の衝突の気配があったと思ったら、海の水が引いて道が現れて大騒ぎだったぞ」


 ドリーが胃の辺りをさすっている、すまん。

 しかし、あれ? あれぇ?


「あっれぇ? 俺達がいなくなったのはいつかなぁ?」

 ポリポリとバケツを掻きながらカリュオン。

「昨夜に決まってるでしょ!」

 色々な感情が交ざりまくってすごく複雑な表情になっているアベル。


 え? 昨夜? ゆうべえええええええええ?


「幻みたいなのはあの島だけじゃなくて、時間もだったみたいだなぁ」


 ポツリと呟いたカリュオンの言葉が妙に耳に残った。


 胸を押さえると、ポケットに入れている時計とカメ君の形をしたアクアマリンがコツンと当たる感覚がした。

 大丈夫、あれは夢でも幻じゃない。







 自分の時計とアベルの時計と並べて時間を確認すると、島にいる間おかしな挙動をしていた時計は正しい時間を指していた。

 俺の時間魔法式の時計なので、時間が正常に流れる場所なら自然と正しい時間を刻む仕組みなので特に不自然なことではない。


 戻りながら行方不明になっていた間のいきさつも話した。

 宝箱を釣り上げて変な地図に吸い込まれたこと。

 しかし、その地図は説明しようと収納から取り出した途端、サラサラと砂のようになって消えた。

 や、違う、分解スキルなんか使ってない!! 証拠隠滅じゃない!! マジで、勝手に崩れたの!!

 ほら! 砂になった後その砂も空気に溶けるように消えただろ!? そんなの分解スキルじゃ無理だからあああ!!

 あぶない、俺が疑われるところだった。


 それから中の島で半月生活していたこと。

 これは妖精の地図っぽい地図だったから、時間魔法がかかっていて時間の流れる速さが違ったのだろうということで納得された。

 時間の速度があの島と外で逆じゃなくてよかった。逆だったらマジで前世の昔話にあった浦島太郎だったよ。こわいこわい。


 シュペルノーヴァとクーランマランのことも話した。

 シュペルノーヴァはルチャルトラの火山で元気に活動期中なのは確認されているし、俺もつい先日実際に近くまで行ってすごくやばそうな魔力を体験してきた。

 そのため、地図の中にいて外まで追っかけて来たのは、カリュオンの推測通りシュペルノーヴァかその眷属を模したものだろうという答えに落ち着きそうだ。


 問題は鮫顔君ことクーランマラン、もしくはその模擬体。

 正直正確な正体はわからない。

 カリュオンが昔読んだ海エルフの本に載っていたクーランマランの挿絵に似ていたからという理由。

 そして地図の名前や像の形状とその属性、強さから推測したもので、目撃者も俺達しかいない。

 しかし、今朝方海上で発生した巨大な魔力のぶつかり合い――俺達の目の前で行われた怪獣大決戦の気配は陸地までとどいていた。

 そのことで海には活発に活動するSランク以上の魔物が複数いると思われ、警戒態勢が取られていたのだ。

 SランクどころかSが三つくらい付きそうなランクだと思う。

 まぁ、片方は消えてしまったし、鮫顔君は暫定SSランクの巨大水棲亜竜種ということで、可能ならクーランマランとの関係を調査することになりそうとのこと。

 ……間違いなく不可能だろうな。


 とりあえず、こちらから手を出さなければ攻撃はされなかったこと、俺達の帰還に協力的で敵対行動は取られなかったことを伝え、目撃しても無駄に刺激しないことを強く勧めておいた。

 ここはAランクの冒険者しか立ち入らないエリアなので、遙かに格上の相手に無意味に手を出す馬鹿はいないはずだ。

 鮫顔君の圧倒的大きさと強さの前に冒険者が敵うはずはない。そんな相手を愚かにもつついた奴らがどうなろうが勝手だが、無駄に刺激して冒険者に敵対心を持たれて、冒険者と争うことになると被害は甚大になることが予測される。

 そうなると冒険者側も本格的に駆除に乗り出すことになって、冒険者、鮫顔君どちらも無事では済まなくなる。

 鮫顔君が冒険者に負けるようなことは想像できないが、それでもできれば冒険者と敵対はしてほしくないと思ってしまう。


 そして最後に海底から出てきた都市のこと。

 これは鮫顔君を亀島から解放した結果なので、俺もカリュオンもさっぱり!!

 これから調査頑張ってください!!

 ん? 俺とカリュオンは発見者でランクもAだから調査隊に優先して参加できる権利がある?


 そういえばAランクになってから新しいエリアを発見するのは初めてだったのですっかり忘れていた。

 ダンジョンで新しいエリアを発見した場合、速やかに冒険者ギルドに報告をしなければいけない。

 その後、冒険者ギルドとそのダンジョンを管理する地域の領主とで新エリアの調査をすることになっている。

 その際、調査に向いたスキルを持つ高ランクの冒険者が調査隊として招集される。これはだいたいAランク以上の冒険者である。

 どんなランクの低いダンジョンで見つかった新エリアだとしても、そのエリアに強力な敵や罠がある可能性もある。DランクのダンジョンからBランクの新エリアが発見された事例もあり、ダンジョン内で突然見つかった新エリアは発見者でも理由がなければいきなり突っ込まないことを推奨されている。


 未知のエリアの調査は危険が伴うため調査隊には、調査に適した能力を持っており、尚且つ引き際を見極められる熟練者が選ばれる。

 ドリーのパーティーはこのダンジョン調査隊に指名されることの多いパーティーなので、今回は俺とカリュオンが発見したということもあって、ドリーのパーティーが調査隊に指名されそうだ。


 新エリアを発見した者の冒険者ランクが高く、冒険者ギルドが能力が足りていると認めた場合、優先で調査隊に参加する権利がもらえる。

 新エリアは調査済みのエリアよりも危険が多く探索中の事故率は高いため、辞退することも可能である。

 なお調査隊は危険手当もいっぱいつくし、調査の進行度や発見されたものによって報酬がどんどん加算されるため、稼ぎはめちゃくちゃいい。

 ついでに新エリアを発見した場合、報奨金がもらえてギルドの資料に発見者の名前を記される。

 新エリアを発見するのは今回が初めてではないが、ランクの高いダンジョンでの新エリア発見は初めてなので、どんなところかすごく興味がある反面、やっばい魔物や初見殺しの罠がありそうな怖さもある。

 もちろん、参加の権利があるなら少し見てみたいなーという誘惑に勝てる気がしない。





 今回の行方不明事件の報告を帰り道に大雑把にして、戻ったらセーフティエリアで職員さんに渡された紙に先ほどの話を纏めて報告書にする作業。

 ぬわああああああああ、眠くなるうううううう!!

 というか、寝てない!!

 カリュオンは帰り道もそもそとずっと何かを食べていて、セーフティエリアに戻るなり動力が切れたように寝てしまった。

 まぁ、激戦続きだったしな。魔力強化ポーション三本一気飲みは見ているだけでやばそうだったし。

 俺の方はまだ余裕があるし、報告書は任せろ!! 苦手だけれど任せろ!! ドリーが得意そうだから代わりにやってくれないかな!? チラッ!!

 手伝ってやるから重要なところは自分で書け? さっすがドリー!!

 今回の顛末を報告書に纏めたものは、職員パーティーの一人が買い取った物資を持ち帰るついでに、冒険者ギルドに届けてくれるそうだ。

 現地の職員に事情の説明をして報告書も作ったので、ギルドへの詳細報告は帰還後でいいとのこと。


 とりあえず、これで報告の類のやることは終わったかな。

 後は心配かけたパーティーメンバーにちゃんと謝らないとな。

 その前に俺も休憩。

 ドリー達も徹夜で俺達を救出する方法探して駆け回ったようなので、今日は休息日になった。

 ギルド職員のリーダーさんが気を遣って、隣にテントを張って見張りを兼ねてくれると言うので、その言葉に甘えて全員ゆっくり休むことにした。

 お礼に亀島で作ったシーサーペントの干物をあげるので、皆さんで食べてください。


 職員さん達が見張りをしていてくれるなら、亀島で干していた干物も干しちゃおうかな。干物台も何個かは持ち帰ってきたし?

 よし、干しちゃおう。

 テントの回りが干物だらけになったけれど、なんとなくスローライフ臭がして落ち着くな。

 俺が干物を弄っている間に他のメンバーはさっさと休んでしまった。俺達のせいで徹夜になったみたいだし、ホント心配をおかけしました。

 干物を干し終わったら、俺もテントに入って野営用の寝具の上にゴロン。


 ゴチッ!!


 服のフードの中に何か硬いものが入っていて後頭部に当たった。

 ずっとバタバタしていたから、石ころでも入っていたかな?

 肩の上から後ろに手を回しフードの中の硬いものを掴んだ。


「カーーーーーーッ!!!」


 すっかり聞き慣れた空気を吐き出すような鳴き声が聞こえた。




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